すきすきすき、と歌うように囁く。 ねえすき、すきだよドイツ、大好き。世界で一番。他の誰でもなくてドイツが、好きだよ。大好き。だから。 「眉間にしわ寄せてるとこも好きだけど、寝てるときくらいやめたらいいと思うんだー、えい。」 そうっと触れて、ぐにぐにともみほぐしてみる。…悪い夢見てるのかもしれないから、すき、ともう一度囁いて。 だって、仕事の山に埋もれて寝てるんだもん。そりゃあ夢見は悪いでしょう!俺なら仕事っていうオバケに追われる夢見るね、絶対!というか、仕事の途中で寝ちゃうくらい疲れてるんだなー…夢の中でも仕事してるのかな。きっとそうだ。それで、起きてもまだこれだけ、仕事、あって。…そりゃあ疲れちゃうよ。 だったら、同じ夢でも、俺が出てきたらいいのにって思ったから。そうしたらきっと、夢の中の俺は、ドイツを連れ出して遊びにでかけてしまうだろう。そしたら、この眉間のしわも取れてくれるんじゃないかって。 だから。 「すき、すきすき、大好きだよ、ドイツ。愛してる。」 甘く甘く囁いて、幸せな、夢へと誘って。 「ねえ、俺の夢、見てよ。俺と一緒に遊ぼうよ。あ、でも、夢の中の俺で満足しないでね?俺寂しくなっちゃうから。」 今だけ。ドイツ貸し出すからさ、そっちでよろしく、夢の中の俺。 ああ、でも。ふわ、とあくび一つ。 「このまま、寝ちゃえば、ドイツの夢の中、行けるかなー…?」 …それは素敵だ。俺がドイツと遊べなくて寂しいのも、ドイツの悪夢も万事解決。なんて素晴らしい! そう笑って、ソファの上に横になったドイツの上にべったり乗っかって、(固い布団だけど、いいや。ドイツだもん!)ゆっくり、目を閉じた。 しばらくして、すう、と聞こえ出した寝息に、ぱちり、とドイツは目を開けた。 「……まったく…恥ずかしいヤツだ。」 ぼやくその耳は、真っ赤に染まっていて。すきすきと連呼していたのをずっと聞いていたのだから、まあ当たり前なのだろうけれど。 隠し切れない緩む頬に、今は誰も見ていないからいい、ということにして、その蜂蜜色の髪を撫でる。 さらさらと、柔らかい感触。 「んん…ドイツー、あそぼー…。」 「ふ、」 甘い甘い声が、俺の名前を呼ぶ。嬉しそうに。 仕事はまだ残っている。今片付ければ、後でイタリアと過ごす時間が増えるのはわかっている、けれど。 「…仕方ないやつだな。少しだけ、だぞ。」 そう囁いて、ゆっくり、目を閉じた。眉間のしわは、きっと取れているだろう。そうでないといやだとイタリアが言うのだから。 夢の中の俺に、愛しい恋人を取られるわけには、いかないから。 すう、と二人で夢の中。行き先は自由。さあ、どこへ遊びに行こうか? 戻る . 外に出ると、冷たい空気がびゅう、と吹き付けてきて、さむ、と思わず身を縮めた。 ちゃんと厚着して来いよというドイツの忠告を守って大正解。マフラー手袋耳当て、ってやりすぎかなあと思ったけどぜんぜんそんなことなかった!冷たい風が吹き荒れている。 「うー…早く行こう」 律儀な彼は、もうきっと待ち合わせ場所で待っているから。俺が遅刻してくるのはいつものことなんだから、ちょっとくらい遅れてくればいいのにね。言ったら怒られそうだから言わないけど。 十時三十分、約束の時間から三十分遅刻、だ。 ちら、と外を見やる。…風が強い。今日も冷え込みそうだと思いながら、コーヒーを口に運ぶ。 待ち合わせ時間はとっくにすぎている、が…まあイタリアにしてはいつものこと、だ。 さすがに寒いから、待ち合わせ場所がよく見えるカフェで待っている。…へたすると2時間とか待たされるからな。それだけ外、はさすがにつらい。 広場の時計を見れば、長針が9を回ろうとしていて。 …まったく、とため息をついたところで、気づいた。 ぱたぱた走ってくる人影。時計の前で止まって、きょろきょろしているのは。 「…イタリア、」 めずらしい。1時間以内で来るとは。 こっちには全然気づいてないようで、おろおろと周りを見回す彼に携帯で連絡をとろうとして、ふ、と、手を止めた。 このまま連絡しなかったらどうなるだろうか。 あっちへこっちへとぱたぱた走り回って探している姿は、とてもかわいい。 一瞬そんなことを考えている間に、辺りを見回す彼と、ばっちり目があった。 「あ。」 目がこぼれ落ちそうなくらいに見開かれる。 ずるいー!と声を上げてカフェに入る。 窓際の席で苦笑いしながらあったかいコーヒー飲んでるドイツ!もー! 「先帰ったのかと思ったじゃんかー!」 「悪かった。」 席につくと、目の前に置かれるコーヒー。ドイツが頼んで置いてくれたみたい。 手袋をはずして、温かいコップに触れて冷えた手を暖める。 「はー…。」 息をついたら、風でぐしゃぐしゃになっていた髪を、ドイツが指でとかしてくれた。 ありがとう、とお礼を言って、コップを口に運ぶ。あったかさに思わずため息。 そのとき、窓ががたがた、と音をたてた。 「すごい風だね…。」 「そうだな…厚着してきて正解だろう?」 「うん。ありがと、ドイツ。」 そう言って、コーヒーを置く手を、取られた。 いいなあドイツ手あったかい! 「…冷たいな。」 「さすがにこれだけ寒いとねー。ドイツはあったかいなあ…。」 「まあ室内にいたからな。」 答えに、そうだよね、と少しむくれて見せて、外を見る。 今日はお散歩ー、とかいう天気じゃないよねー…。 「何か買って、うちでDVDでも見るか。」 俺の考えが見えてた、みたいなドイツの提案に、大賛成、と笑ってみせる。 「何が見たい?」 「うーん、あ、ほら、昔一緒に見たあれは?」 「あれじゃわからんだろ。」 そう会話をかわしながら、コーヒーを飲み干して、立ち上がる。 覚悟して出た外は、さっきより寒く感じなくなったのは、つないだままの手のおかげかもしれない。 戻る . 眠い。 それだけが頭を支配するのを、なんとか阻止しようとするのに、できなくて。すでに目は閉じて瞬間接着剤でひっついたように動かず、ドイツの体に回していた腕は滑り落ち、かろうじて聴覚、だけが、彼が就寝前の読書をしているのを認識していた。 「…ん?…寝たのか?」 イタリア。 呼ばれて、寝てないよ、そう言おうとするのに口もうまく動かない。 ああ、だめ、負けてしまい、そう。 でも、負けたくない、負けたくないんだ。今日こそ、聞きたい。ドイツがいつも、俺が寝る直前に言う言葉を。 何か言ってるのはわかるけど、内容が全然頭の中に入ってこなくて、いつももどかしくて。 …もしかしたら、それを聞いたら、俺たちの関係は変わってしまうのかもしれない。 けれど。それでも。 聞きたい。その低くて優しい声で何て言っているのか。その答えが、知りたい。 さらさら、と頭を撫でる優しい手。ああ、やめて、本当に眠ってしまいそう! 必死に意識を保とうとするのに、睡魔は、無情にもイタリアを飲み込んで。 すっかり眠ってしまった彼の耳に囁かれた言葉は、部屋の空気を少しだけ揺らして、消えた。 (独→←伊な感じで) 戻る . 「は、あん、」 唇を離すと、つながる糸。甘い。思って唇に舌を這わせる。うん、甘い。クリームの、甘さだ。 「気に入ったか?」 低い声でドイツが尋ねてくる。楽しげに細められた瞳。 「…びっくりした。」 素直に答えると、彼は笑った。 だって、キッチンにいた彼に、後ろから飛びついてTrick or Treat!って叫んだら、いきなり深くてエロいディープキスされるなんて思わないよ! でもこれ、Treatなんだろうな。思って、彼の向こう側をのぞきこむ。彼がかき混ぜているのは、ホイップクリーム!味見してたのかな?何作るんだろう! 「ドイツ!何作るの?」 「シュークリームのつもりだ。」 「わあ!早く食べたいであります、隊長!」 「…おまえが来るのが早すぎるんだ。もう少し後で来れば最初から食べられたものを。」 食べたいなら、準備する時間も考えろ、まったく。呆れた声を聞きながら、だったら、早くきて正解かなあ。と呟く。 「は?」 「だって、シュークリームよりドイツのキスの方がおいしいもん。」 俺お菓子の中で一番好きだよ? にっこり笑ってみせると、かたり、と、クリームをかき混ぜていた手から、泡立て器が離れる。 「ドイツ?」 その手が、俺の肩に添えられて。 「イタリア、Trick or Treat?」 少しだけ、頬がつり上がっている。純粋な少年のような笑み、だったらよかったんだけど、何かを企んでいる、悪い大人の、笑み! こういうときはろくなことがない。誤魔化すように笑うけれど、もう一度繰り返される、問いかけ。 「えっと…お菓子持ってないんだけど…」 「じゃあTrickだな?」 「うぇ、あの、どい、」 「たっぷりかわいがってやる」 覚悟しろよ?イタリア。 にやり、と笑ったドイツの顔に、あ、俺食べられる、と、狼に狙われた羊の気分になった。 戻る |