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じわ、と、イタリアの目に涙がにじんだ
「そんな…」
「いいからさっさと選べ」

冷たく言い放つと、さらにぶわあと目に液体が増えて、ドイツははああああと深くため息をついた。こいつが泣き虫なのは昔からだが…まったく…

「う、うっ…ドイツのばかっ!」
「何でだ」
「選べる訳ないじゃんかっ!」

叫ぶように言われて、だんだんいらいらし
てくる。
「ああそうか両方選ばないんだな!?いらないんだな!?」
「そんなこと一言も言ってない!」
「じゃあさっさと選べ!」

ばん、と机をたたいて怒鳴ると、びく、とおびえた彼の目から、とうとう涙がこぼれ落ちた。

それでなんとか頭が冷えて、ため息をつきながら、その涙を拭ってやる。



「イタリア…今日の菓子はワッフルかシュネッケンかを選べと言っているだけだろう?」
「だってドイツの作るお菓子はみんなおいしいんだもん!」


結局。
いやだいやだりょうほうたべるんだもんどいつどいつおねがい〜とごねるイタリアに、オーストリアやハンガリーも加わって、ドイツの作ったお菓子でいっぱいのお茶会が開かれるのは、あと2時間後のこと。


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「ドイツ〜」
間延びした声に呼ばれて、資料から目を離さないまま何だ、と返事をした。
さきほどまでシエスタをしていたイタリアは、いきなりこの部屋にきて、とくに仕事のじゃまをするわけでもなくわけのわからない歌を歌うわけでもなく、ぼーっと窓枠に腰掛けていた。
最初は何か用でもあるのかと思ってちらちら伺っていたが、眠たそうに目を擦っているのを見る限り、まだ眠くてぼーっとしているだけのようだった。

「空ってなんで青いの?」
「…それは科学的根拠を求めているのか?」

違うとわかっていながら尋ねると、難しい話は嫌〜と返答。
「…どうしていきなりそんなことを聞くんだ?」
「気になったから」
なるほど、至極明解な答えだ。
そうか、と返して、次の資料を手に取る。
少し気にしていた事項の資料だ、と気づいて、姿勢を正して読み進める。
内容を頭にたたき込んでいると、なんだか側頭部に刺さるような視線を感じて。
「…今度は何だ?」
ため息一つ。資料をおいて振り向くと。


琥珀。


「うわっ」

ぶつかりそうなほど近くにイタリアがいて、思わず後退りする。
「な、なんだ?どうかしたのか?」
尋ねるが、返事はなく、ただじーっと見つめてくるばかり。
「…イタリア?」
眉をひそめて呼ぶと、イタリアはなにが楽しいのかヴェ〜と笑った。

「俺空の青も好きだけどドイツの瞳の青のが一番好き!」

「!!?」
ひゅ、と息を飲んで、はぁ、と額に手を当ててため息。
イタリアの愛情表現はいつも直球。
不意打ちされるこっちの身にもなってくれ!
「どうしたの?」
脳天気な声に、なんでもない、と返す。

「ドイツー、ドイツの目はどうして青いの?」
「…おまえが好きだと言ってくれるから、だろ」
小さくつぶやいて、驚いたらしく、大きく開かれた、ドイツが一番好きな色の目の上にキスをした。


ひとみのいろ


(隊長!キスは口の方がいいであります! っ…仕事が終わったらな)


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「ドイツって真面目だよね〜…」
「そうですねえ」
何て言ったって、ドイツさんですから。
笑いながら日本はそうイタリアに返す。
ソファに座る二人の周りに人は少ない。

ドイツ主催のパーティ。まぁ、国際交流のための社交場だが、まぁ、大半の参加者が時間にルーズなのはいつものことで。
今ちょうど開始時間だ。主催者であるドイツ、五分前集合を当然とする日本はまぁいるのは当たり前で、驚くのは遅刻常習犯(しかもかなりタチの悪い)のイタリアが遅刻せずに現れたということだ。

…まぁ、ドイツんちからの方が近いよね〜とドイツの家に泊まったイタリアが、彼に引きずってこられただけなのだが。

「みんな遅いねーもっと早く来ればいいのに」
「……そう、ですね」
おまえが言うな、とは思っても言わないのが日本だった。
イタリアはソファに逆向きに座り、背もたれにだらんと体重をかけて、ヴェ〜とうたう。
視線の先には、来客者たちときっちりと挨拶をするドイツの姿。
「あ、また眉間にしわ。」
イタリアの声に、同じソファに腰掛けた日本が後ろを振り返る。
フランスに絡まれため息をつくドイツの姿に、苦笑。がんばってください、と心の中でエールを送る。
「あんなに気張ってると疲れちゃうのに…」
俺いつももっとリラックスしようよ〜って言ってるのに、とつぶやきながら、目線はドイツから動かない。
小さく微笑んで、ソファに座り直す
「そうですね。…でも、」

ドイツさんが本当にリラックスしてるのって、イタリア君といるときですよね。

言われた言葉に、きょとんと日本を見る。
「ヴェ?そうなの?」
「おや、知らなかったんですか?」
知らない、と首を振り、ドイツの方を見る。
不機嫌そうな表情を、今度はアメリカに向けていて。
「イタリア君と一緒にいるときだけですよ、あの表情をするのは。」
「あの…?」
それって?と聞こうと日本の方を見ようとしたとき、ドイツがこっちを見た。
目があった、その瞬間。


表情が、変わった。
少し驚いたように目を開いて、そのあと、ふわり、と。
優しく、柔らかく、微笑んで。


かあぁっと、顔が熱くなった。
慌ててドイツから目をそらし、ソファの背もたれに顔をつっこむ勢いで隠した。
どうしよう、どきどきする。
こんなの、はじめてだ。

「イタリア君?」
どうかしました?
そう日本に声をかけられても、顔を上げることすらできなかった。


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どいつ、と呼ぶ声が、聞こえた気がした。
ほかでもない、彼の声で。

ふ、と目を開けて、時計を見る。現在時刻は二時。まだ夜明けは遠い真夜中。けれど、見た夢のせいで、しっかりと目が覚めてしまっていた。
…夢、とも呼べないかもしれない。

ただ、呼ばれた。名前を。そんな気がした。それだけ。


ただの夢と割り切って眠ってしまえば、それでいいはずの、些細な事。
なのに、そうできないのは、どうしてだろうか。
気がつくと、ベッドを降り上着を羽織っていた自分がいて、戸惑う。
こんな夜中に、彼の家まで何をしに行くというのだろう?

けれど、いてもたってもいられなかった。この衝動を、鎮めて、もう一度眠りにつくなんて、できるわけがなかった。

だって、あいつが俺を呼んでいるんだ。
助けを求めて、いるんだ。

たすけて、どいつ

頭にあいつの泣き顔が浮かんだら、もう、だめだった。


家を飛び出して、銃弾の雨をかいくぐってスイスの家の前を通り、彼の家へと走る。
らしくない、なんて100も承知。
けれど、そうせずにいられなかった。
家の前で少しためらい、そっと手をかけたドアは、やはり鍵がかかっていない。
「入るぞ、」
聞こえていないことなどわかっているが、そう呟いて、勝手知ったる家の中を歩き、寝室へ。
一応ノックしてから中を覗くと、広いベッドに彼一人。兄は、スペインの家なのだろう。背を向けて、眠る彼にそっと近づく。
起こさないように気を配りながら、彼の顔をのぞき込んで、思わず呆れてしまった。
自分の、勘に。


「イタリア…」
眠りながら泣く、彼の目元を拭う。
すると、ゆっくりと、目が開いて。
「…どいつ?」
寝起きだからか、つたない発音で呼ばれてなんだ、と返事をする。
彼は数度瞬きをして、ぱっちりと目を開いた
「ドイツ?」
「ああ。」
だから、どうした?
そう尋ねると、彼は、うれしそうに、本当にうれしそうに微笑んだ。
そして、ぎゅ、と抱きついてくる。
「ドイツドイツドイツーっ」
「何だ」
「すごいねドイツっ俺夢の中でドイツにあいたいって思ってたの!そしたら目が覚めたらドイツがいてね、すごいびっくりしたの!」
「そうか」
やはり、呼ばれた、と思ったのは間違ってなかったようだ。苦笑して、柔らかい茶髪を梳く。
「そういえば、ドイツ、どうして俺んちにいるの?」
「…それは、」


Weil, du rufst mich!

(っ!!ドイツ大好き〜っ!うわ、こら、イタリア!)


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ドイツよりかっこいい人なんかいない、と、イタリアは思う。
輝く稲穂のような金色の髪、青い夏の空みたいな瞳。
身長は高くて、俺が勢いつけて飛びついても全然よろけたりしないくらい、がっちりしている。
性格だって優しくて、そりゃ怒られたりもよくするけれど、そのあとにすごく、すっごく優しく頭をなでてくれる。

なのに、兄ちゃんをはじめ、みんな全然わかってくれない。じゃがいも野郎とか言うし、あんな奴より俺の方がいいだろ、なんてによによするし…
ドイツはこんなにかっこいいのに…


「ね、ドイツ!」

そう思わない?と見上げると、ドイツは困ったように笑った。
「そう言われてもな…」
「ドイツは嫌じゃないの?」
体を起こすと、俺の体を抱きしめていた腕に引き寄せられた。
さっきより距離が近くなった青くて綺麗な瞳が、優しく細められる。
「別に…」
「そなの?」
何で?と見上げると、思わず見とれてしまうような笑顔!

「おまえがわかっていてくれれば、それでいい。」

そんなセリフに、(滅多にしてくれない)唇にキスまでついてきたら!

「ヴェ〜!!ドイツ大好き愛してる〜!!」
「…俺も、だ」


やっぱり、ドイツは俺の世界一の恋人!!


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