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大好きな匂い。
さらり、と髪を撫でられる、心地良い感覚。
思わず擦り寄ると、その手が頬にすべる。
大きな手。慈しむように、頬を包まれて。
「ん…。」
とろん、とまどろんでいたら、額に感触。キスされた、みたい。
何度も降ってくるそれに、ゆっくりと目を開く。

「…おはよ、カナ。」
低い、優しい声。とろけるような、甘い声。
朝だぞー。と、そう言いながら抱き起こされて、やっと目が覚めてくる。
「…ふらんすさん?」
「おはよ、カナ。」
「おはよーございます…。」
答えて、目をこすっていたら、ほら、と渡された。固い感触は、僕のメガネだ。
かければ、すぐ近くに整った顔。
「起きた?」
「はい。おはようございます。」
「ん。おはよう。」
ちゅ、と両頬にキス。おはようの挨拶を、僕もして。
「朝御飯できてる。食べるだろ?」
「はい!」
フランスさんの料理!久しぶりな気がする。本当にとびきりおいしいから大好きだ。僕の好みわかってくれてるし。
じゃあ、すぐ降りておいで、と言われてはあい、と返事をして。

でも降りてって変だな。寝室とリビングは同じ階なのに。そうぼーっと思いながら、じゃあ先行くから、と歩いていく彼を見送る。
あれ。ドアの脇に絵なんて飾ってあったっけ。それにあの絵。だってどう見ても。
パリの絵だ。
しかも見たことがある。あれ描いてるとこを。たしか、だいぶ前にイタリアさんが、描いてて、フランス兄ちゃんに誕生日プレゼントーって、そう、フランスさんも気に入ったみたいで、寝室に飾って

………あれ?つまりここは…

「…え。え、ええっ!?ふ、フランスさん!?」

大慌てで部屋を飛び出したら、やっぱりそうだ、ここフランスさんち!
「な、何で…!」
昨日は確かにうちで寝たはず、と目をぱちぱちしていたら、階段の下から笑い声が聞こえた。
「ふ、フランスさん!」
「いやー、悪い悪い。あんまりに可愛らしく寝てるもんだから。」
さらってきちゃったvってウィンクされても!
「ちょ、ど、どうするんですか!?今日イギリスさんと会議…!」
「あっはっは。今頃大騒ぎだろうな。」
「笑い事じゃないですよ〜っ!!」
頭を抱えてしゃがみこんだら、とんとん、と階段を登って来る音。
ふわ、と体を抱きしめられる。強く。
「…ごめん。けど、久しぶり、すぎて。」
我慢できなかったんだ。ごめんな。
…そんな風に謝らないでくださいよ、もう…。
「…会いたかったんだ。」
「…僕だって、会いたかったですよ。」
そう、本心を答えたら、うれしそうな顔をしたフランスさんに、唇をふさがれた。


おまけ
じりりりりん
がちゃ
「はい。」
『カナダを出せ。』
「……よくわかったな、イギリス…。」
『おまえが考えそうなことなんか丸わかりだ、馬鹿。ほら、さっさと出せ。』
「やだ。」
『やだじゃねえよ。ガキじゃあるまいしさっさと…』
「嫌だ。」
『………会議が明日になったって伝えとけ。あとカナダに変なことするなよ!』
「…珍しいな。いっつも邪魔してくるのに。」
『カナダのために決まってるだろうが!あいつ最近無理してたから、一日ぐらい休みあった方がいいんだよ。それがおまえのところでっていうのが非常に気に入らないけどな!』
「…そうか。」
『用件はそれだけだ。くれぐれもカナダに変なことするなよ!絶対するなよ!』
ぷつ。つーつー。
「フランスさん?電話、誰からですか?」
「…どっかの過保護なお節介焼きから、かな。」
「?」


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白いシフォンのふわふわした服。明らかに、男物ではない…というか子供用じゃないのかなあこれ…
「かーわーいーいー」
ぎゅーと抱き込まれて、フランスさあん、と困った顔。
仕上げ、と真っ白なヘッドドレスまでつけて、レースの靴下な足先から頭の上まで真っ白!
「なんですかこれ…」
呆れて言ったら、白い日だから。と笑顔。

「……ホワイトデーって、日本さんのとこのバレンタインのお返しの日ですよね…?」
「知ってるよ。」
知っててこれかあ。とため息。強く抱きしめられる。暖かい体。…うれしいけど、自分の姿を考えるとあんまりうれしくない…。

「お返し。ちゃんと考えたんだけど」
けど。何がいいか思いつかなくって。何がいい?そんな苦笑い。え、と考える。
後ろから抱えるように抱き抱えられる。ふわり。鼻をくすぐる甘い香り。
…あ。
「コロン、がいいです。」
「コロン?いいよ。どんなのがいい?」
「フランスさんと、同じの」
俺と?きょとんとした彼にうなずく。

だって、香水があったら、彼がいないときでも一緒にいる気分になれるでしょう?

「…いいよ。でも、カナダのも選ばせてね。」
「え、あ、はい。」
「俺が持っておく用に。」
そう笑われて。はい、とうなずいた。
そうと決まれば、と立ち上がるフランスさん。

「じゃあそのままの格好で行こうか」
「…え。」
「コロンかあ…ちょっとエッチな気分になっちゃうのとか入れてみる?」
「はいっ!?」
あ、やばい。フランスさん目がマジだ。止めないと。とすぐに気づいて、大慌てで手近にあったクッションを顔面にまふっと投げつけた。

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「…ない!」

何でかわからないけど靴がない!
起きてカレンダー見たら今日会議の日だって、大慌てで準備して玄関に飛び出して靴箱を開くと、中身が空っぽだったのだ!
なんで〜とおろおろしていて、とにかく探さなきゃ!とばたばた家中を探してもない!
「何で〜…?」
靴全部をなくすなんてそんなことありえないのに…
遅刻は決定。弱ったなぁと眉を下げてうつむいて、とりあえずもう一回探そう、と顔を上げて。

「見つからない?」
目の前ににこにこ笑った人。
さらりと流れる金髪を、後ろでくくって、手に袋を持ってしゃがんで、膝に頬杖付いたフランスさんの姿!
「ふ、フランスさん!?」
「これ、なーんだ。」
紙袋の中身を見せられて思わずあああ〜!と叫んだ。
「これ、僕の靴!」
「そうだねえ。」
「返してくださいよ!」
「いや」
「っ、だって会議!」
「かいぎ?」
きょとんと言われて、え、だって、とカレンダーを見る。

「……カナ……それだけぽやぽやしてるとお兄さんちょっと心配なんだけど…」
困ったように笑って、紙袋持ったまま日めくりカレンダーの前に立って、ぺり、と1枚めくった。
「今日はここ」
「あれっ!?会議は?」
「2週間後に延期…ってそうか、連絡するの忘れてたのか…というか、昨日何してたの?」
「え。」
昨日…昨日?
「…あっ、熊五郎さんと遊んでたら日が暮れた気が…」
言うとカナらしいなあと笑われた。

「そんなだと、今日が何の日かもわかってないだろ?」
「今日?」
こんこん、とカレンダーを叩かれた。
「7月1日。」
「あっ」
「誕生日おめでとう、カナダ。」
にこ、と言われて、すごくうれしくなった。ありがとうございます!とお礼を言うと、頭を撫でられた。

「誕生日のお祝いにデートにいきませんか?」
「行きます!」
「着替えておいで」
はい!と返事をして、わたわたと走り出した。

戻ってきて、玄関へ向かうと、靴入れの中は相変わらずからっぽで、あ。と思ったら、じゃん、と一足靴を差し出された。
見たことない新しい靴だ。かっこいい。
「誕生日プレゼント」
「あ、ありがとうございます!」
はい、どうぞ、と履かせてもらって、わあ、と自分の足にぴったりなそれを見ていると、手を差し出された。

きょとんと見上げると、優しい笑顔。
「お手をどうぞ?」
言われて、その大きな手に手を乗せる。
料理をする人の、仕事をする人の手だ。ぎゅ、と握りしめる。
「行こうか」
「はい!」
ドアを開ける。太陽の光がまぶしい。
今日もいい天気だ!



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「はああ。」
小さくため息。
明日は誕生日だというのに(いや、だからこそ、か。)がっつり仕事をさせられてしまって、もう日付が変わってしまいそうだ。…いやまだもうちょいあるけど。後15分くらい。
まあ、1、2、と仕事ほっぽり出してカナダのとこ行ってたからっていうのもあるから自業自得といえなくもないのだけれど。7月はいつもこんなだし。
「…でも今年はちょっと多かったかなー…。」
んー、と伸びをして、自宅の鍵を開ける。
そして、靴を脱いで、あれ、と気付いた。
…見覚えのある、というか、つい2週間前まで家にあった、靴が、ある。
その後それの持ち主になった人物を思い浮かべて。
「…へえ。」
何だか、疲れが吹き飛んだ気がした。

リビングに向かう。音を立てないように、やはり電気のついていたそこをのぞきこめば。
「…あら。」
机につっぷして眠る一人の姿。
金髪にくるん、と癖毛の飛び出した、その姿はやっぱりカナダだ。
待ちくたびれて寝ちゃったか。苦笑して、起こそうか、と考えて、やめる。寝かせておこう。…簡単に起きる子じゃないし。
「あーあー…メガネもかけっぱなしでまあ…。」
メガネをそっととり、彼を静かに抱き上げる。
これだけ動かしてもまったく乱れない寝息はさすがだ。
ふふ、と笑って寝室へ歩きだす。

「ん…ふらんす、さん…。」
「何ー?カナダ。」
寝言と知りつつ返事をすれば、んん、と眉が寄って。
とろんとした瞳が、ゆっくりと姿を現した。
「やあ、カナ。」
「…ふらんすさん…?」
そうだよ、と答えて額にキス。すりよってくるのがかわいいなあもう。このままベッドに押し倒しちゃいたいくらいだ。
「ふらんす、さん。」
「なあに?」
「おたんじょうび、おめでとうございます…。」
ぼくケーキつくったんですよ、なんてふにゃりと満面の笑顔を見せられて、思わず唾を飲んだ。

「…カナダ。」
「はい?」
「ベッド、行こうか。」
そう声をかけて、でも、ケーキ、というまだ寝ぼけた声にだって、と声をかける。
「デザートはメインディッシュの後じゃないと。」
めいん?とわかってなさそうな声に、先にオードブルもらってもいーかなーと勝手に判断して、その赤い唇にキスをした。

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(たぶんまた会おうの続き)






フランスさん
甘く呼ぶ声に、弱ったなあと思いながら、なあに、カナ。と笑って見せた。

カナ。そう呼ぶのも久しぶりだ。愛しい、かわいいカナダ。
ずっと忘れられなかった。…置いていってしまって申し訳ないと、その後悔の気持ちと、懐かしい二人の思い出。優しい気持ち。
…自分から会いに行く、勇気はなかった。
泣いてるぞ、と、イギリスに言われたって。
…メモを残していったのだって、そうだ。勇気がなかった。彼に告げる。もう、一緒には暮らせないと。
けれど、二度と会わないつもりは、なかったから。
だから、書いたのだ。また会おう。と。
…彼が会いにきてくれることを期待して。

それに見事に、彼は答えてくれた。ぽやんとした、のんびりした雰囲気は相変わらず。
けれど、予想外な部分も確かに、あった。
例えば、その外見。たしかに昔からかわいかったけれど、ここまで美人になるとは思ってなかった。
例えば、…いや。誤摩化すのはよそう。
ただ。一つだけだ。予想外だった、というか、全然想像もできてなかったできごと、は。

まさか。
「…落ちる、とは思ってなかったなー…。」
「?何ですか?」
ほやん?と首を傾げるカナダに、いや?相変わらずかわいいなあカナは。と思って?と誤摩化す。
そうすれば、子供扱いしないでくださいよ、と、困ったように笑う笑顔。
ほら。また。はまっていくのが、わかる。
「…やー…ほんとに。弱ったな…。」
ぼそり。小さく呟いて。

まさか、その美しい紫と、視線が会った途端に、恋に、落ちるなんて。

恋愛の達人であるお兄さんがまさか…一目惚れ、だなんて。
どきどきと、早打つ心臓の音が、うるさくて、どうしようもないだなんて。

…どうしようか。どう責任とってくれる?
なあ?カナダ。
お兄さんを本気にさせた罪は重いぞー。きょとんとこっちを見てくる目に笑って、唇だけ動かして、そう呟いた。

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