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音楽に合わせて動くと、くす、とイタリアが笑った。
「なんだ。ドイツ上手だよ。」
「そ、そうか?」
ほっとしながら、くる、と回る。

踊ろう、と言い出したのはイタリアだ。苦手だからと断ったのだが、ぐいぐいと手を引かれて中央に連れ出されてしまって。
大丈夫。俺がリードしてあげるから、なんて…俺が言われてはいけないセリフまで言われては、もう腹をくくるしかなくて。
危ういステップを踏んでいたら、上手、と褒められたのだ。

いつもと逆の立場に苦笑すると、なぁに?とイタリアが見上げてきた。
ハンガリーが選んだという黄色のドレスは、ところどころに黒い刺繍が施してあって、ふわふわで可愛らしいのに、思わずどきっとしてしまう色香があった。
髪をくるくると巻いてしまう手腕もさすがだと思う。赤いリボンが、髪に絡むように巻き付けてあって、触ったらダメらしいので触らないが、どういう構造になっているのかちょっと気になった。

「ドイツ?」
首を傾げるイタリアに、はっと我に返って、悪い、と謝る。
「別にいいけど…どうしたの?」
不思議そうな顔をしながら、それでも間違わずにステップを踏むイタリアを見る。それから、少しだけ考えてから、耳元に口を寄せた。
「…おまえに見惚れていた。」
「ヴェっ」
「と、言ったらどうする?」

声を上げかけたところに問いかけると、え、違うの?ええ、あれ?と混乱していて。見ていておもしろかった。
「え、ドイツ、どっち?」
最初よりスムーズに動く足を動かし、少しだけ強くつないだ腕を引く。
答えは、唇を触れさせたイタリアの耳だけに聞こえるように。

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「こう、か?」
「そう。で、次はこう。」
ステップを一つずつ教えてもらいながら、ロマーノは足を運んでいた。

一度も踊ったことがない、と言ったら、あ。そういやそうやなぁ。と納得された。
オーストリアのところにいたときは小さすぎたし、スペインちで舞踏会なんて滅多に開かれなかったし、ついて行くことも少なかった。だから、一応習ったけど、程度で。
だから、向こうにいるのが嫌でバルコニーに逃げてきたのに、スペインは今から教えたるわ、なんて言って。
バルコニーで、こうやってステップを教えてもらっているわけだ。

「…何でそんなうまいんだ」
ぼそ、と文句を呟くと、んー…昔とった杵柄?と苦笑。
「オーストリアと結婚してたときは何かと呼ばれることも多かったからなぁ。」
ふうん。と相づちを打つ。
そのとき、風が吹いた。
赤い生地にに黄色のフリルがあしらわれたドレスや、同じく赤と黄色のコサージュが揺れる。

「よし。そろそろ本番行こか。」
「…は?」
思わず聞き返した。風に紛れての聞き違いだと信じたい。
なのに、スペインはつないだ手を引っ張って中に戻ろうとしていて。
「ちょ…っ!?」
慌てて引き止めるが、大丈夫〜とのんきな声で引きずられる。
「、スペイン!」
「大丈夫やて。…リードしたるから。俺を信じて?」
にこ、と笑って言われた。
…そんな風に言うのは、ずるい。俺がスペインを信じていないわけ、ないのに。
仕方なくうなずくと、ありがと、と額にキス。

「よーし、かわええロマーノ見せびらかしに行こ」
「っ!余計なことすんなこのやろーっ!」

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さすがですね、皆さん。
思いながら眺める。
こういう華やかな場はあまり得意ではない。

ハンガリーさんに楽しそうに着せられたドレスも、あまり。最初、真っ赤なのを持ってこられたので絶対嫌です!と拒否して、今のになった。青色の生地の、あまり華やかでないドレス。右肩のあたりは白くて、左下にいくほど青の濃くなるグラデーション。夜明けのようだ、と思った。綺麗だけれど、私にはもったいない気もする。
髪にさされたかんざしのような赤い髪飾りも、ただ綺麗ですねと言っただけなのだ。じゃこれで、とつけられてしまった。…すごく綺麗だと、イギリスさんや、イタリア君たちは言ってくれたけれど。

居心地悪く足を動かして、ため息。
曲が変わって、ワルツになった。昔、開国したての時に必死になって覚えたな。小さく苦笑。
「に、日本!」
呼ばれて顔を上げると、顔を真っ赤にしたイギリスさんの姿。
「イギリスさん。」
どうかしました、と声をかけると、手を差し出された。
「お、踊らないか!?」

…声ひっくり返ってますよ、イギリスさん。小さく笑いながら、首を横に振った。
「すみません…うまく、踊れないんです。」
「大丈夫だ。俺がリードする!」
うーん…それでもためらっていると、ダメ、か、と落ち込んだ声。
「ダメとかじゃなくて、…イギリスさんだって、上手な人との方が。」
そう言うと、首を横に振られた。上手とか下手とか、そんなのどうだっていい。…よくないと思いますけど。
「どうだっていいんだ。…日本と、踊りたい。」
ほかのやつは嫌だ。日本がいい。

だだをこねる子供のようにも聞こえる声で言われて、頭がくらくらした。うれしい。でもちょっと、恥ずかしい。
ダメか。もう一度聞かれた。差し出されたままの手。
「…物好きですね。」
そっと手を取ると、ぱっとうれしそうに笑った。
「普通だろ。…こんな美人誘わない方がどうかしてる。」
手を引かれて、立ち上がる。どきどきはしてしまうけれどまあ、多少の失敗には目をつむってもらおう。
そう思って、中央へと歩き出した。

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「…意外だな」
カナダがこんなにダンス上手なんて。
「そうですか?」
首を傾げるカナダ。その足取りは軽く、パートナーとしては絶好の相手だった。
けれど、よく考えればカナダは、あのイギリスと一緒にいたのだ。礼儀が正しいのは、まあ普通と言えば普通だった。
「イギリスさんの練習の相手とかよくしましたからね。」
「へえ。」
どうりで女性のステップがうまいわけだ。
思いながら、小さく笑う。

ターンをすると、ふわ、と髪につけられた赤と白のリボンが舞った。
ハンガリーちゃんが渾身の作です!と楽しそうに言った、白地に、青のラインの入ったドレス。かわいらしい、というよりは、大人っぽい。カナダの体に沿うようなドレス。…俺はどうしてもカナダのイメージから、子供っぽい服を着せてしまうが、こんなのも似合うんだな、としみじみ思う。女性の観察眼は侮れない。

「…まだカナダの知らないところがあるなんて思わなかった。」
笑って言うと、ありますよ、当たり前じゃないですか、と笑われた。
「…じゃあ、教えて。知らないところ何てなくなるくらい!」
言って、まずはダンスの腕前を教えて。ちょっとスピード速くするよ、いい?と声をかけた。うなずくのを見てから、くるり、と回り出した。

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はあ、とハンガリーは至福のため息をついた。
「いいわあいいわあ女の子になってもみんな美人で綺麗。ほんと素敵。」
うれしそうな言葉。

最初、彼女が舞踏会をしましょうと言い出したときは、どうなるかと思ったが、問題もなく進んでいる。
…というか、お互いしか見えてないんでしょうね。
恋人達の様子を眺めて苦笑する。一組を除いて、決して上手ではないダンス。
だけれどまあ、幸せそうだからいいのだろう。

「実は、今日のドレス、テーマがあるんですよ?」
「テーマ、ですか?」
首を傾げて、全員を眺める。
「全員赤が入ってますが…それですか?」
「あー…それはたまたまです」
そうですか、と呟いて、また観察するが、何の共通点も見あたらない。

隣を見る。赤いドレスに、白いフリルと刺繍が入っている。…よく似合っている。
「あなたも、ですか?」
「はい?…ああ。そうですよ。テーマに沿った服を選びました。」
「似合ってます」
「あ、ありがとうございます。」
頬を赤らめたハンガリーに笑って、そろそろ答えを教えてください、と言ったら、ダメですよ、そんな簡単な言ってしまったらおもしろくないでしょう?と楽しそうに笑われた。
…気になる。じっと見ても、だーめです!と言われてしまった。
「ダメですか。」
「はい。」
そう言ってから、ハンガリーはぷっと噴き出した。
「そんな顔しないでくださいよ〜」
…どんな顔をしていたんだろう。

くすくす笑うハンガリーに、つられて小さく笑って、ハンガリーの前に立つ。
「オーストリアさん?」
ハンガリーの手を取って、片膝をつく。
「え、えっ、オーストリアさ」
「私と踊っていただけますか、ハンガリー?」
そう尋ねて、手の甲にキス。
耳まで真っ赤になったハンガリーが、可愛らしかった。
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