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「キスして欲しいから、キスしてって言ってるだけだよ?」
特別なことじゃないでしょ?という
…それがすごいと思う。僕にはできない芸当。甘えて、抱きついて、好きって言って。
うらやましい、と思う。僕はできない、し。だって。
それに、怖い。完全に、甘えきって、たよりきって。いつか、『また』捨てられてしまったら。
…信じてはいるんだ。もちろん。愛しているよカナダ。そう伝えてくれる言葉を。
…けれど、どうしても、突然置いていかれたあの記憶が。

「ドイツは俺を裏切ったりしないよ」
そう信じているんだ。知っているんだ。だから。
そう笑った。イタリアさんを、強いなあと思う。信じられる力。想い。
なのに、でもね、と彼は言った。大きな瞳にじっと見られる。

「でも俺は、カナダの方がすごいと思うよ。…俺には、疑いながら愛するなんて、器用なこと出来ないから」
想像できないんだ。ドイツがいない自分なんて。想像することが怖いんだ、彼は笑った。
「だからね、とりあえずひっついとこーって。そうしたら、怖くないでしょ?」
ドイツのそばにいるだけで幸せだし、という彼。そうなんだ、と驚いた。結構なんにも考えてないように見えるのに。

「それに、ハグしてキスして大好きって言うだけが、恋愛表現じゃないと思うよ。」
え、とつぶやくと、そうじゃない?と首を傾げる。ぱさ、と高くくくられた髪が揺れた。
「日本とか兄ちゃんとか、めったにそんなこと言わないけどちゃんと伝わってる人もいるんだし。カナダらしく、が、一番いいんじゃないかなあ。」

初めて、この人が年上だと思えた。


イタリア、と声がした。
ぱああ、と輝いた顔で、ドイツー!と走り出す。
ぎゅーと抱きついて、キスしてー!と言うのが、やっぱりうらやましい。
「イタリア」
そう呼ぶ声が甘いのも。
「何話してたんだ?」
隣からの声に、見上げる。
顔をのぞき込む、フランスさんの姿。
「秘密です」
そう答えて、笑うと、そうかと苦笑された。
そんなフランスさんの手を、こっそりと、そっと、握ってみる。好きです、という気持ちが伝わるように。
すると、彼は、手を持ち上げ、キスをくれた。
「愛してるよ。」
そう、言ってくれた。まるで言葉にしていない気持ちが伝わったかのように!


うれしそうに笑ったカナダは、それを見ていたイタリアがいいなあ、とつぶやいたことを知らない。

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「ねえ兄ちゃん、」
「…なんだよ」
「した?」
「何を」
「スペイン兄ちゃんと、…えっち」
思わず口に含んでいたコーヒーを噴き出した。

「なんてこと聞きやがる馬鹿弟ー!」
「ごめんなさいだって気になったんだもんー!」
げほげほ、とせきをしながら呼吸を整えていると、それで、した?と聞かれた。ええいしつこい!
「し、…てたら悪いのかよ、ちくしょー…」
小さな声で呟く。
「悪くないよ!だって俺だってドイツとしたし」
「あんのジャガイモ野郎!!」
ヴェネチアーノに何してやがる!と思わず立ち上がる。文句言ってくる、と言うと待って、ダメ!と腰にしがみつかれた。
「俺がしてって言ったのー!」
…思わず、止まる。
「…言った、のか」
「…うん。」
初めては、ううんえっちするなら、ドイツが良かったから、ドイツ以外は嫌だったから。
そう、恥ずかしげもなく言う弟が、ちょっとうらやましかった。


「ど、どうだった?」
わくわく。そんな期待を顔ににじませたヴェネチアーノを前に、どうって、と少し顔が赤くなった。
「き、…気持ちよかった、なんか、今までと全然違ってて、」
そう答えると、だよね!違ってたよね!と嬉しそうに言う。
「全然違って感じちゃうのに、ドイツ優しくするから俺焦らされちゃって大変だったもん」
「す、スペインだって、優しかったぞ、」
って何を張り合ってるんだろう。顔を赤くしながら、首を横に振る。
あーもう思い出してしまう!昨日の熱とか快楽とか声とか!
「…意地悪だったけど。」
小さく呟くと、あ、わかるわかる!と声。
「焦らすし、えっちなこと言わせるし」
「そうそう、恥ずかしい格好させるし、やだって言うのに朝まで離さないし、」
「え、」
びっくりした声に、こっちもえ、と言ってしまった。
「…朝まで?」
そう尋ねられ、うなずく。
「…あ、あのさ、何回したの?」
体を乗り出してくるヴェネチアーノに引きながら、お、覚えてない、と小さく呟く。

「最後の方、記憶曖昧で…」
「覚えてるだけでいいから!」
そう言われて、う、とつまりながら、耳貸せ、と寄ってきたきらきらした目のヴェネチアーノの耳に、数字を呟く。
「っえええええ!」
「うるせー!」
顔を赤くしながら、怒鳴る。言うんじゃなかった!
「ほんとに!?」
「う、嘘ついてどーすんだちくしょー!」

そう叫んで、熱くなった耳を塞いで、すごーい!ねー兄ちゃん!と体を揺らすヴェネチアーノの声が聞こえないふりをした。

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あまりに遅いスペインを迎えに、フランスの家へやってきた。…だって。フランスだし。もしものことがあったら、とか。
でも今あいつんちカナダいるはずだしなぁと思いながら、フランスの家の前。
ごく、と唾を飲んで、ピンポン、と、チャイムを、鳴らした!

しばらくどきどきしながら待つと、出てきたのは、見上げないといけない金髪…ではなく。背の高さの同じくらいの金髪。
「あ。ロマーノさん。」
「…カナダ。」
フランスでなかったことに心底ほっとしながら、スペイン来てるか?と尋ねる。
途端にそれが…と言いづらそうな表情をするから、まさか最悪のパターンか、と考えてしまった。

こっちです、と案内されて、奥の部屋へ行く。途中で、声が聞こえてくるのに気がついた。…スペインと、フランス、だ。しかも、両方が声を荒げて怒鳴りあっているようで。
何やってんだあいつら。と思っていると、一際大きい声がした。
『何言うてんねん!ロマーノのがかわええに決まってる!』
『いーや、可愛いカナダだ。悪いがこれは譲らないからな!』
「……何やってるんだ…?あいつら…」
呆れて思わず呟くと、ずっとこの調子なんです、て困り果てた声でカナダが言って。
『ロマーノ!』
『カナダ!』
まだ言い合いの続くドアの前に立って、カナダと顔を見合わせる。
「…どうする?」
「どうしましょう…」
できれば、入りたくない。だって入ったら、確実に巻き込まれる。それは嫌だ。
カナダも同じように思っているらしい。ドアノブにちょっと伸ばしかけた手を、ひっこめて。
もう一度顔を見合わせてどうする?と相談していると、また声が響いてきた。
『ロマーノなんか、えっちのとき恥ずかしがって』

そこまで聞いて、慌ててばんっとドアを開けた。
きょとんとした顔のスペインに近づいて、変なこと話してんじゃねーぞこのちくしょーが!と叫んで頭突きしてやろうとしたが。
ぐい、と肩を引き寄せられた。
「ほら見てみ!こんなに可愛い子おらへんで!」
肩に手を当てられ、フランスの方を向かされた。

目を白黒させていると、フランスに駆け寄ったカナダも、ひょい、とこっちをむかされていて。
「カナダのこの可愛さがわかんないなんて、目、覚めてるか?」
頭にキスを落として甘い笑顔でフランスが言う。
「ふ、フランスさん、」
戸惑うカナダの声。
「何馬鹿なこと言うてんの、こんなかわええロマーノ前に」
さらと髪に触れられる。かわええな、なんてとろけるような笑顔で言うな馬鹿!


それから、髪綺麗やしさらさらやし、いやカナダの方が肌もこんな触り心地よくて、いーや触り心地やったらロマーノの方が
とよくそんなに出てくるなと思うほど言い合いは続いて、それだけならいいのだがなんか言う度にぺたぺた触られて胸の話になった時点で触んな馬鹿!と頭突きをしてやった。カナダの方もフランスさん!と怒って髪を引っ張っていた。

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「わあああ…。」
ドイツも女の子になっちゃった。と思わず呟くと、ドイツはもう疲れた、とばかりに顔を手にうずめた。

朝、起きたら、いつもは(当たり前だけど)ない柔らかい感触がして、目を覚ますと、ドイツが女の子になってて、慌ててドイツを起こした。
ドイツは、悲鳴こそ上げなかったものの、深い深いため息をついて、もう嫌だ、と小さく呟いた。
俺が女の子になっちゃっただけで、だいぶ困ってたのに、さらにそれが自分の身にまでふりかかったら、そりゃあ嫌だろうなあ。思いながら、上から下までながめてみる。

体格は、だいぶ小さくなったみたい。それでも、俺より大きいけど。あと、胸が、おっきい。俺より大きいかもしれない。でも腰や足はスレンダーで、すごい美人。髪の毛かきあげるのが、さまになってて、かっこよかった。白い肌が、すべすべしてそう。

触ってみたいな、と思って、あ。そっか。今両方女の子なんだからいいよね。と気がついた。

「ドイツ!」
「なんだ…うわ!」

ぎゅう、と腰に飛びついてみた。顔にふに、とあたる感触。わはーやっぱり胸大きい!それに、腕は、俺みたいにふにっとしてなくて、筋肉ってかんじ。むきむきじゃないけど。わー、指細い長い!それから、腰が細い!こないだ抱きついた兄ちゃんより細い!あ、ズボンぶかぶかなんだ。ずらしちゃえー、えい。わーわー足綺麗白い!肌触りいい!いいなあいいなあ俺男だったらこんな美人絶対見逃してないのに痛あっ!!

鈍い音がした。イタリアの頭に、ドイツの渾身の肘鉄が入ったのだ。

「おまえは!何をしているんだイタリア!」
「いたい〜!…だ、だって、今二人とも女の子なんだから、触り放題だと思って、だって。」
ぐずぐず鼻をすすりながら言うと、そんなわけあるか!と怒られた。ヴェ〜…。
「…だって。ドイツは俺の体いっぱい触ったじゃんか。」
涙目で見上げると、うっ、とドイツはつまって。
「……ドイツだけずるい。」
じいいと見上げていると、ドイツは顔をひきつらせて、いや、だが、と何か呟いていた。
それでも、ずっと見上げていると、根負けしたみたいで、がっくりと肩を落として、いいぞ、と言った!

「ヴェ!ほんと!?」
「ただし。変なところに触ったら殴るからな。」
覚悟しろよ。と言われて、残念だったけど、殴られるの嫌だから、はあい。と素直に答えた。

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