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なあー、相談乗ってくれへん?
そう言われたのは、脱衣所の中。
まじめそうな顔に、とりあえず服着ろ、とドイツが声をかけた。
「それで、相談って?」
座ったフランスの言葉に、あんな、と声が返る。

「ロマーノが好みすぎて耐えられそうにないんやけどどないしよ?」

がたたん、と音がしてこけたのはドイツ、ぶーっと口に含んでいた水を噴きだしたのはイギリスだった。
「うわ汚!」
「だって、おま、何言い出すんだよスペイン!」
げほがほ言いながら怒鳴るイギリスに、やってーほんまに好みやねんもんーと反論。
「へー…おまえもうちょい年上のお姉様がタイプだと思ってた。」
フランスの声に、ちゃうって、何その先入観、とスペインがフランスを見る。
「俺は、どっちかっていうとかわいいタイプで、スタイルは、まあええほうがうれしいけど、あんまりぼんきゅぼんやないほうがよくて、で、顔がちょい強気で、性格がちょっと意地っ張りだとなおよしっていう。甘やかし甲斐があるから。」
あー。と日本のような声が三つ上がった。
「完全にロマーノだな。」
「そうやねん〜。」
もう最初に会ったときにほんまそのまんまベッドに連れ込みたいくらいでどないしようかと思ったんやって。
頭を抱えたスペインのセリフに、変態、と小さなイギリスの呟きがして。
「何やねん!おまえこそ!」
「な、俺は何にもしてないぞ!?」
声を荒げられて、イギリスは目を瞬いた。
「何もしてない、やないやろ、日本!」
「は?」
いきなりでてきた名前に、イギリスが眉を寄せる。すると、ああ。とフランスが納得したようにうなずいて。
「ああ、日本な。」
「な、なんだよ!」
「あれおまえの趣味丸出しだろ。」
小さくて、守ってあげたくなるくらいかわいらしくて、清楚で可憐。
そう指折り特徴を上げられ、かあ、とイギリスの顔が真っ赤になった。
「ち、ちが。」
「嘘や!」
「嘘だな。」
二人にそろって言われて、イギリスは何も言い返せなくなったらしい。

ざーっとコップに水を入れて一気飲みをしているイギリスをよそに、ターゲットは口出しをしていなかったドイツに移る。
「ドイツの好みは?」
「あ、俺そういう話あんまり聞いたことない!」
「…そう、言われても…。」
そんなことはあまり考えたことがない、という返しに、じゃあ、カナダ、イタリア、ロマーノ、日本の中だったら誰がいい?と言われ、考え込むドイツ。
「…イタリア、だな。」
「…ちなみに、女の子のカナダ、ロマーノ、日本+元のイタリアは?」
「……イタリア。」
出された答えに、フランスは少々げんなりしてあーあーはいはいごちそうさまーと呟いた。
「え?何何?」
わかってなさそうなスペインに、だぁかぁらぁ、とフランスは前置きして。
「イタリアだったら何でもいいってさ!このばかっぷる!」
かっと一瞬でドイツの頭から蒸気が出た。
「おー、熱いなあ。」
「そ、そんなんじゃないぞ!違うからな!」
抗議も受け流されるだけで。
「…そういうフランス、おまえはどうなんだよ。」
「え、俺?」
カナダが好みじゃないなんて言ったらぶん殴るからな、とにらみつけるイギリスにああ、だってお兄さんは世界中の女性が好みだから。女性でなくても、綺麗な人は全員、だけど、という返事。
「ああそうかよ。」
「でもカナダはいいな。あの可愛さは犯罪に近いぞ?」
純粋無垢で、俺色に染め上げたくなる感じ?というセリフに、もういい、とイギリスは背を向けて。

「あーでも、あの4人は全員お兄さん好みに仕立て上げたくなる感じは、ってちょっと待てちょっと待ておまえら!冗談だから嘘だからしないから各自その手に持った凶器を下ろせーっ!!」


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「…ドイツの好きな女の子って、兄ちゃんな気がする。」
脱衣所から出たところで、イタリアの爆弾発言が落ちた。

「…なっ、え、はっ!?」
慌てるロマーノをよそに、足りなすぎる言葉を読んだ日本が、それって、と尋ねる。
「つまり、ドイツさんの好みの女性の外見、というのが、ロマーノくんみたいな人じゃないかっていうことですか?」
こくり、とうなずかれ、そういう意味か、とロマーノも小さく息をつく。
「細身で、スタイルよくて、美人で…。」
「…お前だってスタイルはいいだろ。…胸あるし。」
「あるけど、ドイツのタイプじゃないんだもん!」
膨れるイタリアに、どうしてそう思うんですか、とカナダが声をかける。
「…だって。全然目合わないし、抱きついたりしたら逃げるし…。」
俺、きっと嫌われたんだ。そう、じわ、と涙を浮かべるイタリアに、いやそれは違うと思いますよ、と日本は苦笑した。
「じゃあなんで!?」
「…いや、イタリアくんが元のときと同じように行動するから…。」
「だって好きな人にはハグとかちゅーとかしたいじゃんかあ!」

泣き出しそうなイタリアに、ずい、と迫られて、いやあの、だってほら、ドイツさん女性経験少ないですしね、とたしなめるが、イタリアは聞いていない。
「…わがまま言うなよな。…俺だって、スペインの好みからは程遠いのに…。」
「あ、スペイン兄ちゃん胸大きい方がすきそうだよね。」
「ちょっ!」
「い、イタリアくん!」
日本とカナダが慌ててイタリアの口を塞ごうとするがときすでに遅し。
ロマーノは、一瞬固まって、怒鳴りも暴れもせずに、深い深いため息をついた。
「…え、あれ、あの、ごめん兄ちゃん。」
異様な雰囲気に思わずイタリアが謝るが、別に、と暗い声が返ってきただけだった。

「…でも、気持ちわかります。フランスさんだって…。」
大人な女性の方が好きでしょうし、と小さく呟いたのはカナダだ。日本は、あー。と呟くしかなくて。
「そういう意味で、好みにあってそうなのって、日本さんだけですよね。」
「…え?そ、そんなこと、ないですよ。」
いきなり呼ばれて、ぱちぱちと瞬きすると、だって、清楚で可愛らしくて、と上げられ、まさか!と声を上げた。
「私なんかをかわいいなんて言ったら、世の中の本当に可愛い女性達に失礼ですよ!」
「…いやあの。」
妙な主張にカナダが引く。その隣で、兄ちゃん、ごめんってば!とイタリアがロマーノを揺らしていて。
「……やっぱり、スペインがすきなのは、ヴェネチアーノ、なの、かな…。」
弱気な発言に、そんなことないよ!とイタリアが言うより前に。

「そんなわけないやろーっ!」
がしっと、ロマーノにタックルする勢いで抱きつく人影一つ。
「なっ、は!?」
「俺が好きなのはロマーノに決まってるやろ!こんなに愛してるのに!何でそんなこと言うん!」
ロマーノを抱き寄せてそう言う、特徴ある口調の持ち主は。
「…す、スペイン!?」
「何!?」
「な、なんで、」
ロマーノが目を丸くしていると、廊下の突き当たりから、さらに三人の人影。

「いやー、立ち聞きするつもりはなかったんだけど。」
あんまり悪いと思っていない表情のフランスと、バツの悪そうなドイツ、イギリスの姿。
「な、え、ど、どこから聞いて…!?」
「え、イタリアの爆弾発言から?」
最初からじゃないですか!とカナダが悲鳴のような声を上げる。
「そ。だから、各自言いたいことがたくさんあるわけ。…おいで、カナ。」
「ひゃっ!?」
ひょい、と抱え上げられて、カナダが悲鳴を上げる。それにかまわず、じゃあ、また明日な、とフランスはそのまま部屋の方へと去っていって。
「あっフランスてめえ!」
「はいはい、イギリスくんは彼女の説得の方が先でしょー?大丈夫、何にもしないってーたぶん。」
たぶんって何だ!と怒鳴るが、すでにフランスは遥か先に歩いていってしまった後で。
「俺も、ちょっとじっくり話しあわなあかんな?ロマーノ。」
「や、あの、だって…っま、待てよスペイン!」
ロマーノの腕を引きずるように、スペインも、ずかずかと歩き去って。
残された四人のうち、一番に動いたのは、ドイツだった。
「…イタリア、ちょっと。」
「ヴェ?」
何ーとドイツを追いかけて、イタリアもぱたぱた走っていった。

残された二人は、困ったように視線を合わせる。

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残された二人のうち、イギリスが、あ、あのな、と切り出した。

「はい?」
「…日本は、美人だと、思うぞ。」
四人の中で一番、綺麗、だと思う。
ぼそぼそ、と告げられた日本は、赤くなった。この人は、恥ずかしがりではあるが、あまり嘘は言わないのだ。
そんな、私なんか、と言おうとしたところで、か、勘違いするなよ!といつものセリフが聞こえてきて。
「ベ、別におまえが好みだとか、そう言う訳じゃないんだからな!」

…わかっている。本当のことと、逆のことを言っているのは。
でも、ちょっと困らせたくなって、そうなんですか、と落ち込んでみせた。口元を浴衣で覆って、泣きそうな表情を作る。
すると案の定いやあの、とイギリスは困りだして。
かわいい、と、隠した口元だけで笑って、冗談ですよ、と告げようとしたところで、がば、と抱きしめられた。思ってもみなかった行動に目を見張っていると、頭の上から、上擦った声。

「お、俺は!…その…好みとか、そんなのじゃなくても、日本が、…世界一、綺麗だ、と思う。」
綺麗、というか、美しい、というか、…かわいい、と、いうか。見てるだけで心臓がドキドキ、して。見てられなくなるくらい。
そう、囁かれた。当たっている胸から、どきどきと大きな鼓動が聞こえる。
予想外の反応に、こっちまでかああ、と真っ赤になってしまう。

「…私、なんか、そんな」
「日本が、いいんだ。」
強く抱きしめられて、聞こえる鼓動に負けないくらい強く心臓が高鳴りだして。
「日本、」
顔をのぞき込まれた。赤い顔。エメラルドが、隠れて。近づいてくる顔に、ああ、この人こそ、世界で一番美しいのに、と思いながら、目を閉じた。

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ドイツ、ねえ、どこ行くの、と周りをぱたぱた走るイタリアに、足を止める。
「ドイツ?」
見上げてくる彼女の髪を撫でる。風呂上がりで濡れた髪。少し、心臓が痛い。
「…俺が、その」
「ん?」
「その、おまえを嫌いになるとか、無いからな。」
そう、小さな声で告げると、イタリアはじっと見上げてきた。
「ほんと?」
不安げな声に、小さくうなずく。それから、ハグを避けるのは、その、と言われる前に口に出した。
「その?」
ああ、だから、身を乗り出すな!
「む、胸が、」
「胸?」
「あ、た…るんだ…というか、当たってるんだが…」

逃げ、たいけれど逃げられなくて。きっと逃げたら、また悲しませるだけだと、わかっていたから。
イタリアは、黙って、少しだけ自分の体を見下ろして、体を引いてくれて。
「…嫌い?この体」
す、と胸を押さえたイタリアの頭にぽすと手を乗せて、あー、そうじゃなくて、と視線をそらして呟く。
「慣れて、ないんだ…」
女性の扱いそのものに、だ。
だから、人より激しいイタリアのスキンシップに、過剰反応してしまう。
「だから、嫌いとか、そういう問題じゃなくて。」
「わかった」
そう、力強い声がした。
何だ、と見下ろすと。
「じゃあ、これからはハグじゃなくてキスにするね!」
そうしたら、ドイツも安心でしょ?なんて笑うから、人の話は最後まで聞け、と思わず呟いて、苦笑した。
「そうか」
「うん!」
だから、キスして?
目を閉じるイタリアにキスして、この際だから言ってしまおうと耳元に口を寄せる。

「あと、露出多い服、やめろ」
「…慣れてないから?」
いや、それもあるんだが、むしろ。
他の男に見せたくない、と言ったら、イタリアは思いの外喜んで。ドイツやきもちーと楽しそうに抱きつかれた。
「っだから…!」
「…でも、ドイツだったら、」

全部見てもいいよ、なんてとろけるような笑顔で言われて。卒倒しそうになった。

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いや、なんていうか。
その手並みの速さには感嘆するが、それが自分に降りかかってくるのはちょっと、と思った。

「ま、待て待て待て!スペインっ!」
必死で制止すると、なんとかスペインは止まってくれた。
俺を押し倒して、服を脱がそうとしたところで。
「何でそうなるんだよおまえは!」
「だってロマーノが俺の言葉信じてくれへんのやったら、全身でアピールするしかないやん!」
「言葉の部分無かったろーが!」
「来る途中に散々言うたやんか!」
言われた。ものすごい情熱的な告白の数々を。それをつい思い出してしまって、かああ、と真っ赤になる。
「それやのに何にも言わへんし」
「い、言う隙を与えなかったのはおまえだろーがちくしょーが!」
主張すると、ああ、そうか、とやっとどいてくれた。
ほっとしながら、服の胸元を引き上げて、少し距離を置く。

「なあ、なんで、俺がイタちゃん好きとか言うん?」
真剣に尋ねられて、うろ、と視線を迷わす。
だって。…スペインが、悪いんじゃ、ない。だって、弟じゃなくて俺がいい、なんて言ってくれたのは、スペインが初めてで。それがそのまま、恋になって、今、こうやって、につながってるから、ことあるごとに不安になってしまうのだ。特にこいつ、幼い頃はよくイタちゃんはええなあ発言をしていたから、余計に。

「俺が好きやって、愛してるって言ったのは、他でもないロマーノなんやで。イタちゃんには言ってない。俺の恋人は、世界で一番愛しいのは、ロマーノやからや。」
なあ。信じられへん?そう、尋ねられ、だ、だって、と小さく呟く。
「だって、スペイン、今のあいつみたいの、好きだろ。」
「だから何やねんその先入観!?」
「だっておまえが声かけるのだいたいそういう人じゃねーか!」
言い返すと、あ、言われてみれば。と何かに納得したようだった。…ちくしょー。
「…だから、俺、なんか…。」
胸小さいし。ヴェネチアーノの方がスタイルいいし。と小さく呟いて、自分の体に目を落とす。
あまり大きくない、胸。そっと、手を添えて。

伸びてきた、大きな手。
優しく頬に添えられて、顔を上げさせられた。
唇が、ふさがれる。触れるだけの、キス。

「…スペイン…。」
「ロマーノ。それ以上言うたら、怒るで。」
そう、真剣に言われた。だって、と言い返そうとしたら、またたしなめるように名前を呼ばれて。
「それ以上、俺の恋人けなしたら、いくらロマーノでも許さへんで。」
「…え。」
思わず声を上げると、ふ、とスペインは笑った。優しい笑顔。
「意地っ張りで、素直じゃなくて、口悪くて、でも本当は甘えん坊で、寂しがりやで、愛されたがりで、いろんなことがんばってて、植物育てるのとか、料理が得意で、こんなに可愛くて、世界で一番愛しい、俺の恋人。」
な、ロマーノ。そう呼ばれても、返事なんかできなくて、顔が熱くて。
「俺が好きなのは、今の姿でも、元の姿でも、ロマーノ以外にありえへんねんで。」
わかった?と聞かれて、もう、うなずくしかなかった。

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とすり、とカナダを椅子に座らせる。
「…も…っフランスさんっ!」
ちょっと膨れたカナダの頬に触れる。柔らかい。
「お兄さんの好みが、『大人なお姉さん』だと思ってたの?」
「だって…そうじゃないですか…」
言われて、まあ否定はしないけど。と告げたら、ほらあ!とすねた顔。
「だって、世界中の女性がお兄さんの好みだから。」
美しいセクシーなお姉様から、目の前にいる、可愛らしいお嬢さんまで、ね。
ばっちりウィンクすると、まだ膨れていて。
予想通りの反応に微笑みながら、する、と髪を撫でて、キスを落とす。

「でも、恋人は、他でもない、カナダだろ?」
「え、」
わあ。えって言われた。苦笑して、あ、そうか、え、あの、そりゃあ、そうですけど、と一拍遅れて、だんだん赤くなっていくカナダを楽しんで眺める。
「外見と中身全部合わせて、俺はカナダが大好きなんだよ。」
他でもないカナダが、ね。
そう、頬にキスをすると、あ、ありがとうございます、とはにかむように笑った。

ああもうかわいいなあ。もう大好きだなぁ。なんでこうお兄さんの心をくすぐるんだろう、この子は!
抱きしめて、はあ、とため息。
「俺のことこれだけ虜にできるのは、他にいないよ。」
カナダ、わかった?と尋ねると、はい、と、頬にキスをしてくれた。
「あーもうほんとかわいい…!」
頬をすりつけると、フランスさん髭がいたい、とと小さな悲鳴が上がった。

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