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「はい、これ。」
そう言って渡された服は、フランスやスペインみたいな馬鹿どもと違ってまともで、危うく泣きそうになってしまった。
チェックのベストに、白いシャツに、スカート。ああもう本当にあいつら基準で考えたら日本が天使に思えてくる!

「ありがとう…!」
「はい。あ、お茶の用意をしようと思うんですけど、勝手に台所借りてもいいですか?」
…訂正しよう。日本は神様だ。ああ!

着替えて戻ってくると、温かい紅茶の匂いがしていた。あ、だめだ。もうさっきから涙腺がおかしくなってしまっている。
「あ、サイズ大丈夫だったんですね。」
「ああ。少し大きいくらいだ。」
それでも、問題はなかった。スカートで、足元が多少頼りないが、それはスカートもともとの特徴だから、仕方が無い。
「…似合いますねえ…。」
「…うれしくない感想だな。」

素直に言うと、すみません、と謝られた。さっきの剣幕がうそのような、穏やかな表情。
私が入れたものなので、あまりおいしくないかもしれませんが、と紅茶を差し出された。温かいゆげの上がるそれを受け取って、口に含む。
その温度が、体にしみた。
はあ、と深くため息をつくと、日本がくすくすと笑う。

「そういえば、怒った日本なんて初めて見たな。」
「あー…そうかもしれませんね。」
私も、あそこまで怒鳴ったのは久しぶりです。そう苦笑する日本に、つい三十分ほど前の出来事を思い返してみる。

悪かったのは、何より、俺が何故か女性化してしまったときに居合わせたのが、フランスとスペインだったこと、だろう。あいつら、これはいいネタを見つけたとばかりにからかいやがって、おまけにど変態と罵ってもまったく問題の無いような服ばっか用意してきて、ふざけんな!と怒鳴っても、大きすぎるスーツじゃ身を守るのに心もとなくて。そんなところに、たまたま日本がやってきたのだ。

開口一番何やってるんですかあなたたちは!とフランスとスペインを怒鳴りつけた日本は、女性を不安がらせて何が男ですか、女性を守るのが男の役目でしょう!でもこれイギリ、でももだってもありません!と、気迫で二人を退散させ、少し待っていてください、服を調達してきます、と優しい笑顔で言って、そして帰って来てくれて、今に至る。

二人に怒鳴りつける日本は、本当に格好よかった。日本男児とはこのことか!と、ちょっとどきどきしてしまった。

紅茶を飲んで息を吐くと、いきなり、髪を触られた。
驚いて見上げると、あ、すみません、と日本が笑って。
「髪、邪魔そうだったので。」
「ああ…。」
そう、女性化とともにいきなり長くなってしまった髪は、質まで変わってしまったようで、ストレートでさらさらしていたが、少々邪魔だった。

「もしよろしければ、結いましょうか。」
「…頼んでもいいか?」
「はい!」
楽しそうに日本は、返事をして、荷物の中から櫛をブラシを取り出して、髪を梳き始めた。
「わー…さらさらですね…。」
「…手慣れてるな。」
髪を梳く手つきを指摘すると、ああ、昔、教えてもらったんです、と笑った。
…自分よりずっと長生きしている日本しかしらないことが、あるのは知っているけれど、でも。
「そう、か。」
「昔のことですけどね。」
そう、わかってはいても気にしてしまう自分が嫌で、役に立ったな、と明るい声を出してみる。
「はい。…それにしても、本当に綺麗…。」
絹のようです。キヌ?シルクですよ。ああ。
そんな会話を交わしながら、何だか、どきどきしはじめてしまった。

時々、頭に触れる、日本の指。あまり、髪なんか他人に触らせたことがないから。余計に、気になってしまうのかもしれない。…いや、日本だから、という方が正しいか。
柔らかい指の感触に気をとられていると、できましたよ、と声がした。
「え、あ、」
「はい、鏡。」
…用意周到なことで。
見ると、二つにわけて結われていた。
「一つにすると、背もたれに引っかかりそうだったので。」
ちょっと子供っぽいかな、とおもったんですけど、と苦笑する日本の顔も鏡に映る。
「いや。ありがとう。」
お礼を言って鏡を返す。
「いいえ。気にしないでください。」
日本が柔らかくそう言って。

「…しかしまあテンプレートすぎる委員長タイプ…やはり服のチョイスは間違ってませんでしたね…。」

「何か言ったか?」
小声の呟きが聞き取れなくて振り返ると、いえいえひとりごとです、と微笑んでいた。

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がちゃ、と開けたら、知らない美女がいた。
一瞬固まって、いやいやでもここスペインちだよな俺間違えてないよなと混乱すると、ロマーノや〜。と、知り合いっぽく話しかけられて余計に混乱した。

「え、えと」
とりあえず声かけとくべきか。その前にどこの誰か確かめておくべきだろとか。いろいろぐるぐるしているうちに、俺やで俺ーと笑われた。
…俺?
それから、ちょっと前に自分に降りかかった、迷惑な某海賊紳士のあれを思い出してはっとした。
「スペイン!?」
にこにこ笑って、そーやでーと美女は答えた。


まーまーチョコラーテでも飲んで落ち着きいや。なんて、当事者のはずのスペインの方がよっぽど落ち着いている。
とりあえずチョコラーテ飲んで、いつもの味にほっと息をついた。それから、じっくりと前に座るスペインを見る。

黒に近い色の髪。健康そのものな肌の色。スタイルはいい。足長いし。俺がなったときより、美人だ。
それに、中身がスペインなのに、かなり仕事はできそうだ。スペインなのに。

「美人やろ〜」
楽しそうだ。
「何でおまえはそう驚かないんだよ…」
俺の時もそうだったよな、と呟くと、驚いたで?とほんとかよと疑いたくなるほど脳天気な声。
「でもなあ。ロマのときで、犯人も一週間くらいたったら戻るっていうのもわかったし。まあ、イギリスのやつぼこりに行こうかとは思ったけどな!」
でもこんな機会滅多にないから、楽しんでからにしよーって思って。
楽天的な考え方は、まさしくスペインだと思った。
ため息をついて、勝手にしろよちくしょーと呟く。
ちょっとでも心配した自分が馬鹿みたいに思えてくる。

「何言うてんの。ロマーノにも関係あるで。」
「はぁ!?」
俺を巻き込むなよ、とにらむと、女の子リードすんのは男の役目やろ、と手が伸びてきた。
は?と見返すと、楽しげにに、と笑って。
「女の子に誘わせといて乗ってこーへんなんてイタリア男の名折れやないの?」
「…上等。最高のエスコートしてやるよ、セニョリータ?」
手の甲にキスを落とすと、スペインはきゃーかっこいーとけたけた笑った。

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ローマの町へ来て、昼飯食べるまでは、順調だった。うん。食べるまでは!
問題は、そのあと、立て続けにヴェネチアーノとフランスに会ったこと!

「兄ちゃんいいなぁ、俺もスペイン兄ちゃんとデートする!」
ぎゅう、とイタリアがスペインの手をつかんだ。途端にでれっと笑うスペインに頬がひきつった。
「お!ええで〜イタちゃんやったら大歓迎」
「スペイン!」
怒鳴るが。目の前にフランスが立った。あろうことか、手を取って甲にキス!
「俺が大人のデートを教えてあげようか?」
けれど、すぐにスペインが手を振って離れさせた。
「それはいやー」
「だめだよフランス兄ちゃん、スペイン兄ちゃんとは俺がデートするのー!」
今度は抱きつくヴェネチアーノに、もう我慢の限界で。

「あーもう抱きつくんじゃねーよ馬鹿弟!」
「わー、俺もてもてやね〜」
「というかむしろ全員まとめてお兄さんのとこおいで(はあはあ)」
スペインはのんきに馬鹿なこと言ってるしフランスは両手広げてるし、だーもう!と叫んだ。

「面倒くさい!ヴェネチアーノ!フランス!おまえら帰れ!」
「えー」
「えー」
「えー」
「帰れ!そしてスペインは黙れ!ややこしい!」

何とか二人を帰らせて、イタちゃんはいてもよかったのに〜とか言ってるスペインにじゃあヴェネチアーノのとこ行け馬鹿!あ、嘘嘘、嘘やから機嫌直してロマーノ〜といつもの喧嘩をして、時間を無駄に過ごしてから、やっとデートに戻った。と言っても、もう夕方だ。あと行けるのは1、2カ所だろう。そう思って、行く場所を決めた。

「ロマーノぉ…まだ歩くん〜?」
情けない声に、手を伸ばして、後少しだから、と声をかける。…だいぶ体力が落ちてる。当たり前か。女の子なんだから。
そう思って違和感を感じながら、歩く。
本当に、後少し。狭い、路地裏とも呼べないような壁の間を通り抜け、あの角を曲がれば、ほら…!

一気に視界が開けた。広がる町並み。それを赤く染めて落ちていく夕日。…いいタイミングだ。響き渡る鐘の音!

「見ろ。…これが俺の街だ。」

ちら、と見ると、スペインは言葉を失っているようだった。くす、と笑いながら、景色に目を戻す。この景色が昔から好きだった。一望に『俺』が見渡せるこの場所。…ずっと、スペインを連れてきたいと思っていた。
「…は、すごいな。」
いつもここデート使ってんの?そう聞いてくるから、まさか、と笑った。

「おまえが初めてだよ。…おまえしか連れてくる気なかったし。」

そう言うと、スペインはびっくりした表情になって。
そのうち、顔を手で覆って笑い出した。
「やー…あかんわロマーノ、惚れそう」
「…惚れれば?」
問題ないだろ、と言い返してやると、やな、と笑って、 抱きしめられた。

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金髪美女に押し倒されました。

こういう言い方をするとフランスさんあたりが喜びそうだけど、っていうか押し倒してるのそのフランスさんだし!女の人だけど!
混乱して見上げると、さらりと長い髪が頬に触れた。

「なあ、カナダ。キス、しない?」

紅い紅い唇に指で触れて言われても。
完璧に化粧済みのフランスさんは、ええと、そりゃあとっても美人で大人で、でもなんていうか、押し倒されても反応に困るというか僕にどうしろっていうんですか!!


やってきたカナダに、フランスだと納得させてから、とりあえず押し倒してみた。
おー。慌ててる慌ててる。楽しく思いながら、せっかくだしと着たドレスに深く入ったスリットから足をだし、がっちりとカナダを固定してやる。

「カナダ。」

唇が触れるくらいの距離で名前を呼んで、ぺろ、と唇をなめたら、泣きそうになっていた青い瞳が隠れた。深呼吸一回。
それから、背中に腕がまわって、触れそうで触れなかった唇を重ねられた。
冗談だよ、と離れるつもりだったから、まさかの展開に驚きながら、舌を絡める。残念だけど、まだまだ、カナダにまけるお兄さんじゃない。あ、今はお姉さんか。

そんな馬鹿なことを考えていたら、ぐい、と体を押された。え、と思っている間に体が入れ替えられて、カナダに押し倒されてしまった。
顔の両側に手をついて、唇を離した彼をぽかんと見上げる。
「…これで、満足ですか。」
少しだけ不機嫌そうな声。寄せられた眉。…顔立ちが綺麗なのは昔から知っていたが、なんとまあ、カナダをかっこいいと感じる日が来るとは思わなかった。

「もう、調子に乗るからこうなるんですよ。少しはこりてください。」
ため息をついて言われて、離れていくカナダの手を、つかんだ。…意外と、しっかりしていると感じてしまうのは、やはり性別の差か?
「…何ですか?」
「…ここまでして放置なんて、酷いんじゃない?」
手を力を込めて引っ張って、バランスを崩したカナダを抱き寄せて、胸に顔をしずめさせた。
かああ、とのぞくカナダの耳が真っ赤になる。

してやったり、と思っていたら、今度こそフランスさんいい加減にしてください!と雷が落ちた。

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