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ぱちゃん、と音が鳴った。
ここは、日本にあるとある温泉。
イギリスのせいで、女の子になってしまった伊兄弟、加と日と、各恋人たちでやってきたのだ。
「はー…なんか落ち着く〜…」
溶けそうなイタリアの言葉にくすくす笑いながら、日本はその長い髪を結ってやった。湯船につからないように、だ。
「はい、おわりましたよ」
「ありがと。…はー…女の子って肩こるね〜…」
その言葉に、日本は一瞬固まり、こほん、と咳払い。

「……それは、イタリアくんが、…胸、が、大きいからじゃないですか?」
「え?そう?」
こくん、とうなずいて、こっそり自分の胸を押さえて、ため息。いや、そりゃあ欧米の方々と比べてはゃいけないのはわかっているし、まあ大きくても、着物を着るのが大変そうだからまあいいんだけれど。

「えー?そう?でも兄ちゃんも結構おっきいよねー、えい!」
「おい、こら触るな!」
「うわ!」
イタリアがロマーノにとびかかって、ばしゃん!と水しぶきが立った。
巻き添えを食ったカナダがずぶ濡れになる。

「あ、ごめん!大丈夫!?」
「だ、大丈夫です…」
慌てて、日本が差し出したタオルでカナダの顔を拭っていたイタリアだったが、ふと何かに気づいたのか、手を止めて、カナダの肩に触れた。
「え、白!カナダ白い!すごい肌綺麗!透き通りそう!」
「え、え?」
うわー、すご、きれい、とぺたぺた触ってくるイタリアに、カナダはおろおろと戸惑うしかなくて。

「え、うわあ、ね、胸触っていい?」
「ちょっ…!」
「こら、ヴェネチアーノ!」
「イタリアくん!ふざけすぎです!」
ロマーノと日本の二人がかりで止められて、イタリアはやっとしぶしぶながらも諦めた。

はあ、とため息をついた日本がイタリアから手を離すと、今度はくるり、とイタリアが振り向いて日本の方をみて。
「日本も細くてちっちゃくてかわいいよね〜」
「いや、あの、イタリアくん…?」
伸ばされる手に、つい体を引くと、背中をつ、と撫でられ、悲鳴が上がった。
「あ、す、すみません」
「カナダさん!」
日本がカナダの方を見た瞬間、後ろからイタリアに飛びかかられて。

「わあ!日本柔らかい〜、肌もきめ細かだし…いいなあ…」
「ちよっと、イタリアくん、離し…ってどこ触ってるんですか!」
「ヴェネチアーノ!」
「ひゃんっ、あ…兄ちゃ、くるんはっ、ダメ…っ!」
「やりすぎなんだよおまえは!」
「…っだ、て、だってー!」
「うわ!?」
ざっばーん!
「ぷはっ、ヴェネチアーノ、ちょっと、おまえ、やっ、触るなっ!」
「い、イタリアくん!」
「だって〜…」
「とりあえず危ないですから、ロマーノくん沈みますから!」

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ところ変わって、女湯に隣接する男湯。風呂場に声、というものは反響するもので、女湯の騒動はすべて筒抜けで、気まずい空気が流れていた。
「…あー…突入してー…」
フランスの不穏な言葉に、殺気が三つ。
「しないっつーの…お兄さんだって命は惜しいし…」
はああ、とため息をついて、それにしてもイタリアナイス…と呟いて、フランスは、んー、と伸びをした。

「あ。そういえば、おまえら、あいつらの下着どうした?」
さらっと言われて、がたーん!と音が鳴り、ばっしゃーんと水柱がたった。
足を滑らせこけたのはイギリス、湯船に沈んだのはドイツだった。
「…おまえらは、選んでもらったんだな…」
わかりやすい反応、と半目で見られて、選ぶ方が変だろうが!と声が二つ上がった。
「えー…コーディネートは最後まで完璧に、だろ?」
「ド変態。」
イギリスの一言にも、フランスはまったく気にもとめず、んーと、同じやっぱカナダは淡いピンクのレースだよなぁ、と呟いて、イギリスに頭から水をぶっかけられた。
「っ!イギリス〜!」
咳き込むフランスに、イギリスは変態の趣味にカナダを巻き込むな、と睨みつける。
「何だよ…お前だって日本に着てほしい下着くらいあるだろ?」
濡れた髪をかきあげてフランスが言うと、イギリスはぴたり、と動きを止めて、それからそそそそんなもんない!と動揺しまくって顔を真っ赤にして言う。
どんなのを想像したんだか、このエロ大使様は、とフランスは、呟いて、ドイツは?と、我関せずとばかりに何もしゃべっていなかったドイツに水を向けた。

「な、何が!」
「だから、イタリアに着てほしい下着。」
イタリアは何でも似合うよなあ、とだらしなく笑う顔に、すかーんと桶が命中。
「妙なことを想像するな!」
「想像するのくらいは自由だろ…」
いてえ、と顔を押さえるフランスに、ドイツはもう一つ桶を振りかぶって、わかったしないから!と悲鳴を上げさせた。
「けど、イタちゃんやったら、下着姿くらい毎日見てるんちゃうの?」
そこに鼻歌を歌っていたスペインの爆弾発言で、何、そうなのか!?とドイツに注目が集まった。
困り果てた顔になったドイツは、いや、確かに見てはいるが、と小さく呟く。
「見てるんだな!色は!?」
「白の…ってこんなこと答えさせるな!」
イタリアが布団に潜り込んでくるだけだからな、と怒るドイツに、スペインもそうそう、と笑って。
「ロマーノも下着姿で来るわ。かわええよなあ…」
「そういうスペインは、下着どうした?」
「選んだろか、って言ったらみぞおちに頭突きされた…」
「あー…」
痛そうに顔をゆがめたスペインに、なるほど、と三人が呟いた。

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早朝、ドイツ邸に怒鳴り声が響いた。

「ふざけるなよあいつらーっ!!」

それ自体はいつものこと。だけれど、少しだけ違うのは。
その声が、少し高いことだろう。

「わー…ドイツが女の子になっちゃった…」
イタリアが、ぽかん、と、こっちを見ている。
はああ、と深いため息。つい先日イタリアが元に戻って安堵していたところだというのに…っ!
頭をかく腕がいつもより細い。足も。胴体は、見慣れない膨らみがあって。
…イタリアが起きる度に何か変、と言っていたのがよくわかった。これは、変だ。慣れそうにない。

犯人は分かっていた。わかりやすすぎた。
無駄に枕元に薔薇の花とFとUKの文字の入ったカードが残っていたからだ、というかほかにこんな馬鹿げたことをするやつらはいないからな!くそ、フランスとイギリスめ!

「ああ腹が立つ!…あいつら殴ってくる。」
「え、え!?ちょっと、ドイツ!その格好じゃ外でれないって!」
立ち上がろうとしたら、腰にすがりつかれた。
む、と自分の格好を見下ろす。ぶかぶかのズボン。黒のTシャツは、逆に小さいくらいで。…確かに、外にでる格好ではない。

「店開く時間になったらさ、俺が服買ってくるからさ、イギリスとかフランス兄ちゃんのとこ行くのはそのあとでもいいじゃない?」
「…そうだな。」
スカートなんかはかないからな。わかってるよ、スーツでいいでしょ?…ああ。
そんな会話を交わして、はああ、と深くため息。

そうしたら、よしよし、と頭をなでられた。
なんだ?と視線で問うと、大丈夫だよ、と笑顔で言われた。
「俺だってもとに戻れたんだし。それに、頼りないかもしれないけど、俺ずっと一緒にいるから。もし戻れなくったって、ずっといるから。絶対離れたりしないから。だから、不安にならなくても、平気だよ。」
ね?ドイツ。
笑って言われて、やっと、自分が不安から焦っていたことに気がついた。
思わず笑って、座り込む。
イタリアに指摘されるまで気づけないほど、焦っていたようだ。
「ドイツ?」
どうしたの、と顔をのぞき込んできたイタリアの頭をなでる。
「ヴェ?」
「…ありがとな」
そう言うと、イタリアはにこにこと笑った。


「ねードイツ」
「何だ」
「下着さ、セクシーな赤とか黒とフリルいっぱいの白とどっちが痛ぁ!」
「お、ま、え、は!!」
「ヴェ〜…」

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あはははは!と笑い声が響いた。
「何だいドイツ、その姿!」
「貴様の兄に言え!」
笑いながらのアメリカの言葉にそう返すと、その隣で涙を浮かべながら笑っていたイギリスがばんばんと机を叩き出した。
「あ、あーおかしい!俺、いい仕事した!ドイツがこんな…ぶっ」
ドイツの姿を見て、また笑い出す。

かちんときたドイツが、怒鳴ろうとした瞬間、その手を取られ、触るな!と払い落とす。
「ああ、もうしわけない、美しい人。…もしよろしければこの後俺とデートでもいかがですか?」
口説きだしたのは、によによ笑ったフランスで。スーツもお似合いですが是非とも美しいドレス姿を見てみたいのです、なんて言われていらっとしながらにらみつけると、そんな情熱的に見つめないでください、とふざけた言葉が返ってきた。

あははと笑うイギリス、アメリカ、本気半分くらいで口説いているフランスと、三人に怒鳴りだしそうなドイツの間に、ぱっと茶色い頭が割って入った。
「ダメだよ!」
ドイツを守るように立ったそれは、なんと。
「イタリ、ア?」
「ドイツは今女の子なんだから、優しくしてあげなきゃ!」
ドイツは、いつもなら真っ先に逃げ出すイタリアが、自分の前に立って守ってくれたことに不覚にも感動してしまって。
じん、と震える心を噛みしめていると、うわあかっこわる!へたれで弱いイタリアに守られてやんの!とイギリスの声と、アメリカ、フランスの笑い声がして。

ぷつ、と切れた。


騒がしい一角に近づいてくる影一つ。
「貴様ら、そろそろ会議をはじめ」
「スイス。」
セリフを止められ、スイスが隣を見た。
無表情のドイツは、スイスに手のひらを出して。
「銃を、貸してくれないか。」
「…高いぞ」
「つけておいてくれ。」
その返事に、スイスはため息一つ。そして、いつものように背負っていた銃をドイツに渡し、まだやめてよ、ドイツいじめないでと両手を広げて立っていたイタリアの襟首をつかんで、引きずり出した。
「ヴェっ!?な、何?」
「いいから来い」

ダショーン、と音がした。
弾は、ぴたり、と動きを止めた三人のちょうど真ん中を通り抜け。
がちゃこん、と銃を一度上に向けたドイツは、爽やかににっこりと笑う。
「さあ、選べ。誰が先に地獄へ堕ちたい?」

いや、あの、ドイツさん、ドイツ様、ちょっと、おちつ、安心しろ、すぐには殺さん…じわじわと死の恐怖を味合わせてやる。いや、そ、その、あの、ごめんなさい!申し訳ありませんでした!
そこまで聞いたところで、スイスに引きずられていたイタリアはオーストリアに引き渡され、聞いてはいけません、と耳を塞がれた。

ダショーン、と、また、聞こえた気がした。

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