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夕ご飯を食べた後でつれて来られたのは、遊園地だった。
けれど、誰もいない様子に、え、あの、と引き留めようとすると、ちゃり、と鍵束を出して、ウィンクひとつ。
「か・し・き・り」
「えええええ!?」
声を上げて、ちょっ、そんな!と引き留めようとするのに、まあいいからいいから、と背中を押され、あっと言う間に中へ。

暗い遊園地を、手を引っ張られながら歩く。
「…こう、暗いと…なんか、気味が悪いですね…」
「大丈夫、俺が隣にいるから。」
ぎゅ、と指を絡ませてくれて、でもやっぱり怖くて、その手にきゅう、と抱きついた。
「…うーん…カナ、あたってるんだけど…」
「な、何がですか?」
「あー…気にしないで。」
嬉しいんだけど、と苦笑するフランスさんに、首を傾げていると、あ、ここだ、と立ち止まった。

視線を追って前を見ると、ファンシーなメリーゴーランドがあった。
「…?」
「見てて。」
そう言われて、うん、とうなずくと、フランスさんは指をパチリ、と鳴らして。
その瞬間、メリーゴーランドに電気がつき、回りだした。
驚いて、彼の腕にしがみつく。
「びっくりした?」
「び、びっくりした…」
クスクス笑いながらの声にこくこくとうなずくと、ごめんな、と頭をなでられた。
「ほら、乗ろう?」
「え、でも、」
「せっかくのカナのための貸切だぞ?」
「え!?」
ほーら、と、先にメリーゴーランドの上に立ったフランスさんに腕を引かれ、戸惑いながらも上がる。
きらきら輝くメリーゴーランドの上は、まるでファンタジーの世界のよう。

「せぇ、のっ!」
「ひゃっ!?」
体の浮く感覚にしがみつくと、抱き上げられたまま、馬の上まで、連れて行かれてしまった。
横座りに座らされて、ぱちぱちと瞬く。
「王子様っぽい?」
おどけて顔を覗き込んでくるフランスさんに、やっと事態が飲み込めて。
「…っもう!」
びっくりするじゃないですか!
そう文句を言うと、ごめん、と笑いながら謝られた。
「ほら、動くから、つかまって」
「え、え?」
おろおろしていると、本当に動き出して、きゃあ、と声を上げてしがみついたら、フランスさんがまた笑い出した。
「ははは!予想通りの反応!」
「…っもう!もーっ!フランスさぁん!」
抗議の声をあげると、くすくす笑うフランスさんからは、ごめん、怒らないで、とキスが返ってきた。
「…な?カナ。」
「…もう。」
ずるいですよ、フランスさん!
そんな甘い声で囁かれて、許さない人なんかいるわけないのに!
そう言い返して、頬にキスをすると、カナダかわいい、とぎゅ、と抱きしめられた

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女の子の体、というのは、どうしてこう、違うんだろう。
そう思いながら、鏡を眺める。
自分の体のはずなのに、そう思えない、小さくて柔らかい体。
別にやましくも何ともないはずなのに、どきどきしてしまう。
かわいいな、綺麗だな、カナダ。
…フランスさんも、こっちの方がいいみたい、だし。
そりゃあそうだよなあ。女の子の方がいいだろうなあ。普通そうだ。
…けれど、魔法の時間も後数日。

はあ、とため息をつく。と、外からノックの音がした。
『カナダ?着替え終わった?』
「え、あ、ちょっと待ってください!」
慌てて着替える。
クリーム色のチュニック。かわいらしいそれを、頭からかぶる。フランスさんが、うれしそうに選んでいた、服。
…やっぱり。やっぱり、女の子の方がいいのかな?

「動くなよ。」
そう言われて、はぁい、と返事をする。
さらさらと梳かれる髪。少し引っ張られて、留められる髪飾り。
「かわいいなぁ…」
似合うよ、カナ。楽しそうな声。
…やっぱり、そうなのかな。
「何がそう、なんだ?」
顔をのぞき込まれて、あ、口に出てた、と気がついた。
「なんでも、ないです。」
そう微笑むと、教えて。と額にキスをされた。
「カナダ。」
「…フランスさんは、女の子の方が好きなの、かなって」
僕が女の子になってからの方がうれしそうだし。そうつぶやくと、カナダはどんな姿でも好きだけど?と後ろから抱きしめられた。…そういう問題じゃなくて。

わかってる。女の子になる前でも、誰より優しかった。世界中の誰よりも優しくしてくれた。
…でも、もし戻ったら、女の子の方が良かったな、とかって、ため息つかれたら、どうしたらいいの?

不安になって黙っていると、カナダ、と呼ばれた。見上げると、真剣な瞳。大きな手で顔を撫でられる。
「俺は、男の子の方がうれしいな。」
「え、?」
「女の子のままだと、みんながカナダの魅力に気づいてしまうから」
…そういえば、女の子になってから、忘れられることなくなったよなぁ。ふと思う。
「カナダのかわいさは、俺だけ知ってれば十分だ。」
他の誰も知らなくていい。俺だけのカナダ。抱きしめられた。強い腕。
「だから、早く戻って。…でないと、このまま閉じ込めていたくなる。」
「ふ、らんすさ、」
呼んだら、キスで口を塞がれた。

酸素が足りなくてフランスさんの胸をたたいたら、やっと離してくれた。は、と息を吐いて、酸素を取り込んでいると、でもまあ。せっかくだし、後数日は、この姿でしか出来ないこと堪能しよう。そう、明るい声。
見れば、もう、いつものフランスさんで。

「それでいい?カナダ。」
まだ着せたい服たくさんあるし、なんて、さっき早く戻ってっていった人のセリフじゃない。
苦笑して、変なのじゃなかったらいいですよ、と答えた。
あんなに心に立ちこめていた不安は、驚くほど簡単に消え去っていた。

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