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「あ、あの、フランスさん?」
フランスさんに引きずられるように町を歩く。

イギリスさんに何故か女の子にされて、会うなと言われていたフランスさんにばったりあったのはロンドンの町の中。
そこの美しいお嬢さん、と普通の女の子のように声をかけられて、あの僕、カナダです、とそう告げたら、神業のようなスピードで担ぎ上げられて、ユーロスターに乗せられて気がついたらパリにいた。

そして、今、パリの町中を引きずられて歩いている。
何故かはわからないが、すごく真剣な顔をしたフランスさんは、止まってくれなくて。
困惑しながら、必死についていく。
元々あまり体力のある方ではない僕は、女の子になってよけいに体力が落ちたみたいで、すでに息が上がっていた。

「フランスさん!」
「ここだ。」
フランスさんが、やっと足を止めて、勢いあまってその背中にぶつかる。
そこから覗くと、そこは、僕でもよく名前を聞く服の有名なブランド店で。
「おいで、カナ」
「は、はい…?」
店の中に誘われて、戸惑いながら中へ入った。


そして、マネキン状態に陥った。

やってきた店員さんを帰して、ぱっと服を手に取ったフランスさんは、試着室に僕と一緒に入って、今着ている服(パーカーとジーパン)を脱がし出した!
さすがに腕をつかんで止めると、大丈夫、変なことなんかしないから、と真剣に言われて、…じゃあ、と腕を離した途端に、服を脱がされた(シャツは着てたけど)
そして、さっきとってきた服にフランスさんの手で着替えさせられて。
それが延々繰り返され、今何着目だかもうさっぱりわからなくなったころ、やっと解放された。
「…うん、これが一番似合うな。」
満足そうなフランスさんの顔。

自分の体を見下ろすと、シンプルなデザインのワンピースを着ていた。…最初に着たやつだ。
「あの、これ…」
「ごめんな、カナダ。疲れたろ?」
「…少し。」
正直に答えると、ごめんな、と頭を撫でられた。
「だって、カナダが、こんな綺麗な女の子になっちゃってるなんて!お兄さんの美への欲望がが刺激されたんだ。」
「綺麗、なんてそんな」
そんなわけはない。女の子になったとはいえ、もともとは僕だし。
イギリスさんだって、目を見開いていたし、町の人も振り返ってみてくるから、それくらい不細工なのはわかってる。
なんだかいたたまれなくなってうつむくと、顔を上げさせられた。
すぐ前に。フランスさんの顔。
「美人だよ。とっても綺麗。…俺が今までであった人の中で、カナダが一番綺麗だ。」

優しい声。それがたとえ嘘だとわかっていても、好きな人にほめられることがうれしくないわけがない。
「ありがとう、ございます。嘘でもうれしいです。」
そう笑ってみせると、嘘じゃない、とちょっと怒られた。
「こんなに綺麗なのに…自覚がないのは怖いな…カナダ、知らない男に声をかけられてもついていくなよ?」
「子供じゃないんですから!」
膨れていると、心配だなあ、と呟かれた。
まったくもう、すぐ子供扱いするんだから!
ちょっとすねていると、唇にキス。
「機嫌、なおして?」
こつん、と額を当てて言われたら。
「…はい。」
それ以外言えなくなるのは、いつものこと。

その後、試着した十数着全部買うと言い切ったフランスを、カナダは必死に止めたが、聞いてくれなかった。

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今まであったことのないくらい美しい女性に出会った。

即声をかけると、なんとカナダだった!
「イギリスさんに、女の子にする魔法かけられて…」
その、と呟くカナダから、目が離せない。
美しい。本当に。
伏せ目がちな青紫の瞳も、いつもとかわらないくらいのふわふわな金髪も、言葉を紡ぐ小さく赤い唇も、細くて折れてしまいそうな体も、すべてが好みだった。
惜しむらくは、その服装がパーカーにジーンズなことか。
そう思った瞬間、彼を担ぎ上げていた。
その軽さに驚きながら、さっさと帰路につく。

パリに帰り、顔見知りの服屋に入り、とりあえず目に付いた服をカナダに着せた。
ぬがせようとしたときはさすがにとめられたけれど、カナダにまかせていたら時間がかかりすぎる。
シンプルなデザイン。その方が、カナダの美しさが際立つ。そう判断して、店の中を物色し、似合いそうなものを選んでは着せていく。
けれど、最初に着せたワンピース以上のものはなくて、やっぱりこれか、ともう一度着せた。

「あの、これ…」
困ったように呟くカナダに、そっと髪をなでる。
「ごめんな、カナダ。疲れたろ?」
「…少し。」
やっぱり。謝って、小さく笑ってみせる。
「だって、カナダが、こんな綺麗な女の子になるなんて!お兄さんの美への欲望が刺激されないわけないだろう?」
「綺麗、なんてそんな」
そう呟いてうつむいてしまうカナダの頬に手を当て、目をのぞき込む。
「美人だよ。とっても綺麗。…俺が今までであった人の中で、カナダが一番綺麗だ。」
心の底からそう思っている。
なのに、カナダはあまり信じていないようで。
「ありがとう、ございます。嘘でもうれしいです。」
笑ってそう言われ、嘘じゃない、とちょっと怒った。
「こんなに綺麗なのに…自覚がないのは怖いな…カナダ、知らない男に声をかけられてもついていくなよ?」
本当に心配しているのに、子供じゃないんですから!なんてカナダは拗ねて、ああもう、どうしていちいち可愛いんだろうこの子は、とキスをした。

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朝目が覚めると、なんだかいい匂いが鼻をくすぐった。
なんだ、こんな朝早くから?と思いながらキッチンへ行くと、ぶかぶかのシャツを着、ぶかぶかのズボンをはいて、エプロンをつけた、いつもより小さなカナダの姿。
かわいいけど、服がなぁ、と思いながら見ていると、くる、と振り返ったカナダと目があった。
「おはよ、カナダ」
「あ、おはようございます、フランスさん。」
鈴の鳴るような声が、とても心地いい。

微笑むと、カナダはえへへ、ちょっと早く起きちゃったんで。と笑った。
「すみません、勝手にキッチン使っちゃって」
「いいよ。カナダの作る料理を味わえるなら。」
「そんなも大したものは作れませんよ?」
「カナダが作ってくれただけで、絶品料理だよ。」
椅子に座ってにこにこと、料理をする姿を眺めていると、なんだかもう、ああ、幸せな気分だ。
「ん〜」
「なんですか?」
「いや、新婚ってこういう気分かなって思って。」
かわいい奥さんもらってお兄さん幸せ、と言うと、顔が真っ赤に染まって。
「もう!からかわないでくださいよ!」
「からかってなんかないよ。…俺の愛しい人。」
優しく見ると、カナダは耳まで赤くして、たんたん、と包丁を動かして。

眺めていると、食器棚を見上げて、あ、と困った表情をするので、そんな顔もかわいいなあ、と思いながら立ち上がり、食器棚の前に立ち、どれ?とカナダに声をかける。
「あ、一番上の。青いお皿…」
「これな。はい。」
ありがとうございます、と笑って見上げてくるカナダを間近で見てしまって。
「…カナダ…」
両肩に手をおいて、真剣に顔をのぞき込む。
「は、はい、なんですか?」
「本気でそのままうちに嫁に来る気、ない?」
そう言ったら、残念ながらあと5日で元に戻っちゃうんで、と少しすねた声を出された。
…もちろん、元に戻ったって構わないんだけど、本気の申し込みは、何気に邪魔してくる彼の兄弟やら親代わりやらをどうにかしてから、だ。
だから、誤魔化すように微笑んで、そうかー、じゃあ今だけは俺の奥さんでいて?とつむじにキスを落とした。

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デート、しようか。そう、誘われた。

まずは待ち合わせから、なんて、フランスさんは楽しそうで、フランスさんちのすぐ近くの公園で、待ち合わせをした。
…とはいえ、仕事済ましてから行くから、というフランスさんとは違い、僕はやることもないし。あと、ぼーっとしてると待ち合わせ時間までに場所に行けそうになかったので、先に待ち合わせ場所に行って、借りた本を読んでいることにした。

待ち合わせ場所は、よく行く木陰のベンチ。
座って、本を開くと、読みやすいくらいに光が差していて、かといって暑いわけでもないその場所に、もしかして、僕がこうやって先に来ること見越してたのかな?なんて思う。…ありえない話じゃない。あの人は、結構こういうことに気を使う人だから。
今日の朝も、楽しそうに僕に着せる服を選んでいたのを思い出す。カナダはかわいいから選び甲斐がある、なんて言って。
くす、と笑いながら、貸してもらった恋愛小説をめくる。
シリーズの前の巻がいいところで終わっていたので、続きが気になっていたのだ。

しばらく本を読んでいると、近くで話し声がした気がした。
でも、本の続きの方が気になるし、フランスさんじゃないし、困っているようでもなかったので本を読み進めていると、ぎし、とベンチが揺れた。
きょとん、とあたりを見回すと、隣に座った男の人に、こんにちわ、と声をかけられた。

「こんにちわ。」
「その本、好きなの?」
「はい。前の巻の続きがずっと気になってて。」
にこ、と笑って返すと、その人は、へえ、と言ってから、でも、それ出たの一月前だよ?と首をかしげた。
「もしかして、この辺に住んでる子じゃない?どこから来たの?」
「あ、はい。カナダです。」
「へえ!いいとこだよね!」
自然がいっぱいで、と褒められて、なんだかうれしくなってくる。

「そうなんです!」
「俺一年くらいケベックに住んでたことあるんだ。」
「そうなんですか?」
「ね、おいしいケーキの店知ってるんだけど、食べに行かない?そこで一緒に話そうよ。」
そういわれて、すいません、と謝る。
「今、待ち合わせしてるんで…。」
「ええ、いいんじゃない?放っといて。」

そんなわけにはいかない。
今の自分にとって、フランスさんとの約束を上回るものなんてありえないんだから。
ごめんなさい、と言うのに引いてくれないその人に困っていると、いきなり後ろからぐい、と体を引かれた。
「わわ」
「はー…ごめんなマーティア、遅くなった」

マーティアって誰だろう、と一瞬思いながら見上げると、フランスさんがいた。
「フラ…ンシスさん」
危ない人いる、とぎりぎりで思い出した。
いい子だ、カナ、と小さな声でほめられた。

「じゃあ、行こうか」
「あ、はい。」
もう一度ごめんなさい、と言おうとしたら、もうその人はいなかった。
「あれ?」

「もー…カナダー…心配して早めに来てみたらほんとにナンパにあってるし…」
「え、今の人ナンパだったんですか?」
聞き返すと、深くため息をつかれた。
「ていうかフランスさん、マーティアって…」
「マシューの女性型。今日一日そう呼ぶから。慣れて」
あ、そうなんですか、と返しながら、立ち上がる。
「じゃ、行きますか。」
「そうですね。…どこ行くんですか?」
「秘密ー」
えーとかついてからのお楽しみ、とか笑いながら、歩き出した。

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