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壁に背を押しつけて、は、と息を吐いた。
もう嫌だ帰りたい。
そう思いながら、自分には似合わないとわかっている銃を握り直す。まだ使っては、いない。使いたくもない。けれど、自分の身を守らなくてはならない。
「あーもう…」
散歩をしていただけだ。ふつうに。なのに。
巻き込まれた、のだ。銃弾の飛び交うこの付近はマフィアの巣窟。女の子が入りかけていたのを見つけて、慌てて止めて逃がして。牽制のために向けた銃に、抗争中の敵だと間違われた、らしく。
逃げ足には自信があるけれど、咄嗟に巣窟の中に飛び込んだのは大間違いだった!

…電話はしてある。アイツに。助けに来い馬鹿って。場所だけ告げて。…後ろで銃弾飛び交ってるのは、たぶんわかってる。すぐ行く。真剣な声がそう告げて。

「…早く来いよ…」
小さくぼやいて、近づいてくる足音に気付いて、ぎく、と固まった。
曲がり角から、一瞬のぞく、と、そこには三人の銃を持った男の姿!ぎょっとして頭を戻す。逃げよう。一瞬で思うが、逆の方からも足音!どうする。考えるけれど、焦って。どうする。無理だ。だって他に逃げ場所は。
怖い。銃を握る手が、震えて。

不意に、がんどっごん、と音がした。悲鳴っぽいのも。
何だ?と思ってもう一度、のぞく。

ぞっと、した。
そこにいたのは、スペイン、だ。…そのはずだ。
なのに、笑うその表情は、スペインのものとは思えなくて、酷く、楽しそうで。
足元に倒れ込む三人。…強いのは、知ってたはずだけれど、でも、こんなのは。

思わず一歩引くと、かたんと音が鳴った。小石を蹴り飛ばしたらしい。やば、と焦るとこっちを見る、いつもより暗い暗いオリーブ!
「…ロマーノ、」
名前を呼ぶ声と同時に、怖いその空気が霧散した。
駆け寄ってくる彼の顔は、もうよく知るそれで。
「大丈夫か?遅くなってごめんな。」
「…スペイン、」
「ん?」
「…さっき、」
言おうとした時、いたぞ!と言う声が後ろから聞こえた。やばい、そうだ挟まれてたんだ!
「走るで!」
振り向こうとした俺の腕を掴んで、スペインが走り出す。もつれそうな足を動かして、走って。
状況はさっきと変わらないはずなのに、もう大丈夫だと思えた。スペインと一緒なら、大丈夫だ。そう思えた。



「ロマーノ、腕あげて」
しゅるしゅる、と巻かれていく包帯。消毒液がしみて痛い!と声を上げるとごめんごめん、とスペインは苦笑。
「大した怪我やなくてよかったわ」
「当たり前だ。逃げんのには自信あるんだからな!」
胸を張ると、威張れることちゃうで、と呆れられて。
…本当に。あの銃弾の雨の中、かすり傷のみな自分の運には呆れるけれど。
「おまえは、怪我してないのか?」
「ん?んー…今は?」
なんだそりゃ。と眉をひそめると、いやー明日とか筋肉痛来そうで。だって!
「あんな暴れたん久しぶりやから…ロマーノは俺置いて逃げてくし。」
「おまえが遅いんだろーが。年取ったなあ。」
「ちょ、ちが、違う!!絶対違う!まだまだ現役やもん俺!」
言い合って、ばれないようにこっそりため息。

…よかった。二人とも無事で。
迷うことなくこいつの携帯に電話した後、後悔したんだ。こいつを巻き込んでよかったのか、もしも、って。だから。
こいつが来ないって可能性は考えていなかった。だって来る。絶対来る。それは太陽が東から上るのと同じくらい当たり前のこと。

…本気、出したスペインはちょっと怖かったけど。俺が知らないこいつもいるんだな、とか思ったけど。それより何より。


どちらかがいなくなる、のが怖かった。


視線を手当てを続ける手元に落とす。大きな、温かい手。よく見ると傷だらけなのは、…俺を守るため、だけではないのはわかっているけれど。いつも、守ってくれていた、手だ。
思っていると、その手が伸びてきた。ぎゅう、と抱きしめられる。
「よかった…ロマーノが無事で…」
痛いくらいのそれに、けれどそう言う声が少し震えていたから、何も言わずにその背に手を回した。

「…今日泊まってく?」
「…どっかの馬鹿が筋肉痛で動けなくなるらしいからな。」
言ってやると、平気やもん!たぶん、と顔があがる。
「ああ。そうか。筋肉痛来るのは明後日か。」
「ロマーノ!!」
俺そこまでいってない!とわめく馬鹿に小さく笑って、恥ずかしかったけれど、ありがとうのキスを、頬にした。
それだけで表情が輝くスペインがあまりに単純で、思わず噴き出した。


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カナメ様からのリクエストで「マフィンの抗争に巻き込まれたロマと助けに来た黒親分降臨中の西」でした

こんな感じでしょうか…?あんまり甘々な感じにはなりませんでしたが…

こんなですが、少しでも気に入っていただけたら嬉しいです
ありがとうございました!