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こいつは嫌いだ。好きか嫌いかで言うと、とかそんな生易しいものではなく、大嫌い、だ。
けど、こいつぐらいしかいないの、知ってるから。…くそ。

「ふうううん。それでお兄さん頼ってきたってわけだあ。」
楽しそうな言葉に、別に頼ってなんかいねーよ!と怒鳴る。
そうだ、別に頼っているわけではない。
ただ、そう、ただ、パブでたまたま会ったから。意見を聞いてやらんこともないと思っただけ、で。

「そうだねえ。恋人がそっけない理由…普通に考えたら、気持ちが冷めた、とかも浮かぶけど、日本だろう?じゃあ、それはありえない、と。」
「当たり前だ!」
あってたまるか!と怒鳴ると、おまえ…まさか日本にもそんな態度とってないだろうな。って呆れた目。取るか!おまえだからこうなだけだ!
「うーん…心当たりは?他になんか気になったこととか。」
「…あったらおまえなんかに言うか。」
「だろうね。」
んー。じゃあ時期的なものか、もしくはー…。
考えるそいつをちら、と見ながら、思い返してみる。

庭を見に来ないか、と日本を誘ったのに、断られた。映画も、お花見も。
デートしよう、と率直に言っても、だめ。仕事が立て込んでて…すみませんって。
でも、そんな忙しそうでもないのは一目瞭然で。
じゃあ。何でそんなに…?

「…あ。」
「何だ!?」
フランスが上げやがった声に、がばっとそっちを見ると、おお怖。なんてふざけやがるから、さっさと言え!と怒鳴る。
「そうかっかするなよ。お兄さんは相談に乗ってやってるんだからな?」
「ぐ…。……で。何だよ?」
冷静に聞くと、日本、咳してた。って一言。
「は?」
「ちょっと風邪っぽいって言ってたぞ。」
…だから、どうした。というかそういうときってむしろ、一緒にいたいと思うものなんじゃないのか。何で断る………あ。

「日本は優しいから、ねえ。」
おまえにうつしたらいけないと思ったんじゃないのー?
そういう声はもう、聞こえなくて。
がたん、と立ち上がる。行かないと。

そう思って、走り出しかけて、まだお礼を言ってないことに気づいた。
…言いたくない、けど、世話になったことは、残念ながら事実、だし!
「…っ!ほら!おごってやるからありがたく思え!」
財布を取り出し、金を置いていく。多少いい酒買って帰っても、いい額を。
この店に、カナダの好きなワインが置いてあるのは知ってるから。

それだけ置いて、もうフランスなんかのことは忘れて走り出した。
一人で家にいるだろう、日本のもとへ。








あいつとは気が合わない。まっったく合わない。これはもう生まれたときからそうだからきっと仕方がない。
けれど、今回ばかりは仕方がない。心底嫌だけれど。あーあ…


「馬鹿かてめえは!」
殴られた。こんのヤンキーは…!にらみあげると、憤怒の表情は変わらず。
「カナダが『どれ』が原因で怒ってるのかわからないっつーのはどういう状況だ!」
「だからそういう状況だって…」
「っ、たく…」
だからこいつはやめとけって言ったのに、カナダのやつ…だそうだ。
…まあ、そう言われても仕方ないか。泣かせちゃった、し。

『僕がどうして怒ってるのか、あなたにはどうせわからないんでしょう!』
声が、耳によみがえる。

カナダのことはそこそこちゃんと見てるから、なにが気に入らなかったのか、はだいたい知ってる。デートの待ち合わせ前に女性口説いてたのとか、イタリアにうちにおいでって誘ったとか。そういう話をすると、きゅ、と拳が握られるのを知っている。耐えるように。
カナダはよく我慢する。我慢して、そのままその感情を沈めてしまうのだ。迷惑がかかるからって。

「じゃあ、原因、それじゃないと思うぞ。」
言われた声に顔を上げる。
「カナダが我慢しようって思ったなら、それのことでは怒らない。知ってるだろ?あいつ頑固なんだ。」
…そうだ。彼は自分で決めたことを曲げないんだ。わかっている。素直だけれどとても、意志は強い子なのだ。
「…ほかに原因があるって?」
うなずかれ、考える。
何だろう。考えながら、あごに手をやって。

「?おまえ、それどうした?」
声に、ん?と首を傾げると、指さされたのは手の甲で。そこには包帯が巻かれている。
「ああ、これか。…こないだカナダが階段から落ちて、な。」
咄嗟に腕を伸ばして助けたときに、階段の角で切ったのだ。
「ひどいのか?」
「どうってことないさ。カナダが傷つくのに比べたら。」
そう言ったら、なんか半目でじっと見られた。

「何。」
「おまえ…それ、カナダに言わなかっただろうな?」
「…言ったかも。」
「……その後じゃないのか?カナダ怒ったの。」
「あ。」
そういえばそうだ。
けど、それでどうして怒るんだ?
助けただけなのに。
首を傾げていると、だからわかってないって言われるんだろおまえは。ったくしょうのないやつだな…と呆れた顔。
…いらっとするが、何も言わないでおく。ここでなんか言い返したら、喧嘩に陥るだけだ。
それが得策ではないことくらい、わかっている。こいつよりお兄さんの方が大人なんだよ。まったく。

「おまえが、カナダにそう言われたらどう思うか考えろって言ってんだよ!」
…そう言われたらって。
『どうってことないさ。カナダが傷つくのに比べたら。』
あ。

「…自分より恋人が大事なのは、あいつだって一緒だろ。」
それが自分のせいで怪我してそんなこと言われたら、そりゃ怒ってもおかしくない。しかもおまえ今の調子じゃ、一回目じゃないだろ?
言われて、ため息。…くそう、よりによってイギリスの野郎に思い知らされるとは…。

「まったく…屈辱だ。」
「はっ。ばーか。」
鼻で笑われた。それにかちん、と来ながら、けれど、助かったのは仕方の無い事実なので、とっておきの情報を披露することに、する。
「…日本。」
「んあ?」
「最近、お菓子の作り方習いに来てるんだけど。」
「は!?」
「紅茶に合うお茶菓子が作りたいんだってよ?」
さあて。誰のため、かなあ?

わざとらしく言ってやれば、わかりやすく緩む表情。笑って、とりあえずカナダにごめんなさいを言うために携帯を取り出した。








「イギリスさんとフランスさんって、結構よく二人でしゃべってますよね。」
「そうですねえ。」

答えながら、お茶を口に運ぶ。
目の前には、金髪の彼。…イギリスさんより、フランスさんの色に似ているかもしれないとはよく思う。言わないけれど。
言ったら機嫌を損ねてしまうだろう。兄弟のようですね、なんて。
未だに子供扱いされるのを気にしている彼だから。

「半分以上喧嘩してますけどね。」
「ねー。でも、たまに二人で静かに並んでお酒飲んだり。」
「してますねえ。」
見かけることがあるのは、カナダさんも同じようだ。
「やっぱり仲いいんじゃないかと思うんですけどね?」
「喧嘩するほど仲がいいとも、いいますからねえ。」

好きの反対は嫌い、じゃない。無関心、のはずだから。
喧嘩がふっかけたくなる、というのはきっと、相手のことを認めているから。
けれどそれを言うことなんか、一生ないのだろうけれど。

「結局、素直じゃないんですよ、二人とも。」
しみじみと言えば、そうですよねえ。とカナダさんも笑った。
「でも、そんなところがかわいいって思ってるんじゃないですか?日本さん。」
「そのセリフ、そっくりそのままお返ししますよ?カナダさん。」
言い返して、同時に噴き出して。

「今日ももしかすると、二人でいるかもしれませんね。」
「恋人に振られて、男二人で、ですか?」
笑い合って、ちら、と隣を見る。
カナダさんと一緒に買いにいった、イギリスさんへのプレゼント。…これを恋人と買いにいくわけには、いかないから。

「…今から探しにいってみましょうか。」
「いいですね。あ、腕組んでいきませんか?きっとおもしろい反応しますよ!」
「ふふ、人が悪いですねえ。」
くすくすくす。
意外と仲のいい二人の恋人達の会話もつゆ知らず、今日もどこかで大喧嘩が繰り広げられている…のかもしれない。



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ひなせきゆ様からのリクエストで「英と仏の仲が良いんだか悪いんだかな喧嘩友達な話」でした

仲良し、というかなんというかな感じで…いかがでしょうか?
嫁二人も仲良しなのが好きなのでついとりいれてしまいましたが…

こんなですが、少しでも気に入っていただけるとうれしいです
ありがとうございました!