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※人名呼びがありますのでご注意ください









「今日の映画は面白かったな。」
「ええ。期待以上でした。」
話しながら歩く、春の街。どこかそわそわしているのか季節のせいか、それとも。
…私の気分の問題、か。

なんとなく、だけれど落ち着かない。理由はわかってる。服、だ。
新調した、スプリングコート。…桜色の。

珍しいね、とエリが目を丸くしていた。わかってる。こんな色の服滅多に買わないし着ない。
なのにどうしてこれを買ってしまったかというと。
イギリスさんに、隣にいる彼に言われたからだ。
『きっと似合う。…だってこれ、おまえんとこの春の色だ。』
優しくほほえんでそんな風に言われたら、もう!

「菊?」
「何でもないです。…これからどうします?」
そうだなあ。考え込む彼を見る。
お返しに、と私が選んだ濃緑のジャケットは、よく似合っていて、でもなんとなく、私が選んだっていう事実が恥ずかしくて。

目を閉じてふる、と首を横に振って、余計な考えを追い払っていたら、いつのまにか隣からイギリスさんがいなくなっていた。
「アーサーさん?」
振り返ると、じっと何かを見ている彼。立ち止まっている彼のところまで戻って、その視線の先を見る。

…ああ。
思わずため息。綺麗だ。
辺り一面の桜色。
桜並木が、一斉に花を咲かせている。

「…少し、散歩して帰ろうか。」
「賛成です。」
笑った彼にそう答えて歩き出す。
自然と、どちらからともなく伸びる手。指を絡めて、繋いで。

まわりをはらはらと、桜が舞う。
この時間が、ほんの少しでもいいから長く続けばいいのに、と思った。



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「わああ…!」
見てくださいフランシスさん!くじら!
楽しそうな声にうなずいて、後ろ姿を眺める。

黄色のキャミソールに涼しげなカーディガン。大きな帽子が飛びそうなのを片手で押さえて、それでもその光景の方が気になるらしく、目をきらきらさせているのがとてもかわいらしい。
カナダは自然が好きだ。街にいるよりずっと、海や山にいた方がきらきらした笑顔になる。
ちょっと休暇とって、クルーズ、なんて。…ベタすぎるかなあと思ったんだけど、あんなうれしそうな笑顔を見たら、そんな心配ふっとんだ。

カナダを甘やかすのは、たまらない。
俺のコーディネートした服着て、髪もメイクもばっちり俺がして。そのうえ俺がセッティングしたデートコースで彼女がにこにこ笑顔になっているのを見るのは、最上の喜びだ。

「フランシスさん。」
こっち来てください!子供みたいにはしゃいで手招きされて、ゆっくり歩く。きっと、子供達をつれて来ても同じ反応をするだろう。
なんだかんだ言って彼女たちは、カナダにそっくりだから。
普段着ないロングTシャツにジーンズ、なんてラフな格好は、カナダが選んだけれど、動きやすくていいな。
そんなことを考えていると、波の向こうでばしゃん!とクジラの尾びれが跳ねた。
とたんに上がる歓声。
かわいらしい声に、笑う。

隣にならべば、すごいですね!とはしゃいだ声で、満面の笑顔!
かっわいいなあ…。たまらない。
「気に入った?」
「とっても!」
ありがとうございます、フランシスさん。そう言って、彼女は、また手招き。

「ん?」
なあに、と顔を寄せると、ちゅ、と頬にバードキス。
「!」
「素敵な旦那様にお礼です。」
にっこり。
その顔に思わず赤くなった顔を、手で覆ってため息。まったく。彼女には敵わない。



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そわそわと隣を歩く彼に、落ち着きませんか?と尋ねる。
「…少し。」
「着慣れない服ってなんとなく、落ち着きませんよね。」
すみません。といいながら顔が緩むのは止められない。
オーストリアさんにパーカーと、その上からジャケットを着せたのは私。
だって似合うって思ったんだもん!
髪もちょっと、ぐしゃってさせておいたら本当に!似合ってて!
いつものかっこうも当たり前にかっこいいんだけど、こういう格好も着こなせるのって本当に素敵!さすがオーストリアさん!

「…楽しいですか?」
「とっても!」
にこ、と笑って返すと、彼は困ったように笑った。なら、いいです。そう言って。
「今日はあなたのための日。ですから。」
〜っ!ああもう本当にかっこいいなあもう!
最近あなたのために何もできていませんから。と子供達を置いてデートを申し出てくれたのは、もちろん彼。
どこへ行きたいですか?なんて甘く言われたらもう悲鳴を上げるしかなかった!

「えへへ、ありがとうございます!」
笑って、とと、と走る。顔が赤くってもう火吹きそう!ちょっとでも冷やさないと本当に彼の隣にいられない!
走ると、帽子が落ちそうになってわわ、と押さえた。
ジャケットとお揃いで、買った帽子。この色がいいです。そう言ったのは、オーストリアさん、で。
そう思うだけでどきどきしてしまう。好きな人に選んでもらった服って、それだけでとってもうれしい!
くる、とその場で回ったら、ぐ、と腕を引っ張られた。
バランスを崩して顔をぶつけてしまうのは、オーストリアさんの胸、で。

「!す、すみません!」
「いえ。」
顔を上げると、…少し、拗ねてる?何で?
ぱちぱち瞬いていたら、腕をまた引かれた。絡められる腕…って、あれ?
腕組みして歩いている状態に、え、え?と思わず声を上げて。

「あまり、一人で行かないでください。」
「は、え?あ、すみません…」
「…せっかくのデートなんですから。」

付け加えられた言葉にかあっと真っ赤になって。
何にも言えなくなってしまったから、きゅう、とその腕にしがみついた。



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ルーイー!と遠くから呼ぶ声に気づいて、顔を上げる。
ああ。うん。やっぱり正解、だ。
自分の選んだ服を着た彼女を見て、そう思う。

白くて少し厚めのダウンコートと、同じいろのもこもこした耳当て。
今日は寒くなるという予報でその上、雪まで降ったから。少しでも暖かい格好をさせなければと思って選んだのだ。
あとはきっと、かわいくて似合う、という予想もあったけれど。それよりまず、ほっとした。

「待った?寒くない?」
「大丈夫だ。」
もともと寒さには耐性があるし、彼女が選んだ紺色のコートは、しっかりしたものだから暖かい。
それと、意外と帽子も防寒効果があるのだということを知った。
「じゃあ、行くか。」
イタリアに声をかけて、歩きだすとあれ、そっちじゃないよー?と不思議そうな声。
わざとらしくため息をついて、眼鏡をあげて振り返る。

「『あの二人』、が、30分程度の遅刻で来ると思うのか?フェリシアーナ。」
「う。……ごめんね…?」
困った笑顔を浮かべる彼女に、もう慣れた。と返して、手を伸ばす。
ぱっと華やぐ表情。ぎゅう、と握りしめられる手は、手袋越しでも暖かい。

「どうせ時間がかかるだろうしな。暖かいところで待とう。」
くすくす。笑い声が聞こえて、どうした?と顔をのぞきこむ。
「ううん。…あったかいとこ入ったら、またルーイなんにも見えなくなるなって思っただけ。」
「…あー。」
そういえば今日は眼鏡だった。…寒いところから暖かいところに入ると一気に曇るからな…まあでも、こんな寒いところにイタリアを長時間待たせておくわけにはいかないし。

「それに。」
「?」
「こうやって手をつないでれば、見えなくても問題ないだろ?」
彼女さえそばにいてくれれば、何にも問題ない。手を引っ張って口元へ持っていくと、みるみるうちにイタリアの頬が真っ赤に染まった。
くく、と笑うと、むう、とふくれるその表情も、とてもかわいい。ああ、やっぱり見えないと困る、か。彼女の表情を見逃すのは癪だ。
思ったけれど、きっとこれ以上言ったら手を離されてしまうので心の中にしまって、話題を変えた。

「何か食べたいものはあるか?」
「ん…甘いのがいいな。クラフティとか、あっ、でもパイもいいな!」
「…だったら、このあいだマリアが言っていた店行ってみるか?」
「あ、新しいとこ?行くー!」
「食べ過ぎるなよ。この後アントーニョ達と食べ放題なんだから。」
「大丈夫!」

雪は降り積もるけれど、二人の心と手は暖かいまま。




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ゆっくり、歩く。わざとだ。もちろん、わざと。待ち合わせの時間はとうに過ぎているけれど、"あいつ"なんか待たせりゃいいし、じゃがいも野郎や弟なんかもっと待たせとけば、いい。
だから。
ゆっくり歩く。今日は雪、だから、歩きずらいっていうのもあるけど。でも。
本当の目的は。

「…ちくしょう、かっこいい…。」
ぼそ、と呟く。
視線の先には、店先でのんびりと空を見上げるスペインの姿。
ロマーノ服選んで〜って言ってきたから。…前からちょっと試してみたかったのを着せてみた。
ワイシャツに、きっちりネクタイをしめさせて、その上から長めのコート。
髪も、寝癖だらけでぐっちゃぐちゃ、じゃなくて、しっかりセットしてぐちゃぐちゃにすれば。
…本当に、見とれるくらいにかっこいい。

周りの女の子たちもひそひそと、声かけるかの相談してるのも知ってる。でも、その左手にはまった指輪にもばっちり気づいているみたいで。
ぼーっと何にも考えずに立ってるだけなのは重々承知なんだけれど、いや、ちょっと寒いから俺が早くくればいいと思ってる、な。きっと。
本当にそれくらいしか考えてないだろうけど、少し物憂い表情に見えるのが。…ずるいよな、スペインのくせに。

ちょっと早起きしてがんばった、ファッションのこだわりはただひとつ。
赤。
ネクタイのその色が映えるように。それだけだ。
どうせあいつが、俺の服選んだらこの赤いコートになるのはわかってたから。
おそろい。…なんてあいつは何があったって気づかないんだろうけど。

スカートもブーツもあらかじめ選択済み。髪型だってきっちり決めてきたけれど、あいつが喜ぶのはきっと、この赤いコートなんだろう。…牛か。あいつは。
じっと見ていたら、やっと視線に気づいたのか、スペインがこっちを見る。
途端に、真剣そうだった表情がでれっと溶けて。
…さっきのかっこいいのもよかったけど、やっぱこっちの方がスペインっぽいな。
思いながら、ふん、と腕組んで、あいつが来るのを待つ。

「ロヴィーナ!うわあああかわえーほんまかわえーな俺の奥さんはー!!」
「〜っ!ぐしゃぐしゃにすんな抱きつくな!うわこら、ちょ、落ち着けちくしょー!」
こうなるのはわかってた。周りの女の子たちがぽかんとしてるのも、知ってる。
けど。
これ俺の。
そう言ってる気分になってちょっとだけ、うれしかったり、する。



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慶野すぐる様からのリクエストで「互いが互いの服装をコーディネートする話」でした

こんな感じでしょうか?甘々らぶらぶな雰囲気が出てるといいなと思います
後勝手に人名呼びを使ってすみません…

こんなですが少しでも気に入っていただけるとうれしいです
ありがとうございました!