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イギリスさんとフランスさんの喧嘩なんて、恒例行事すぎて特にだれも気にしないのがいつものことだ。

「馬鹿だねえ…」
「馬鹿って言う方が馬鹿なんだよバーカ!」
…子供みたいですねぇ…。苦笑しながら見て、お茶を飲む。会議場でも喧嘩してたのに。休憩室でもまだそれは続いている。呆れて皆さんが見ているけれど、それにもきっと気付いていないようだし。内容はもう支離滅裂で、何が原因だったか、なんて二人とももう覚えていないかもしれない。
けれどまあ、いいことなんじゃないかなぁと思う。ちゃんと意見を言える人がいるというのは。
「…少し、うらやましいですかね。」
呟いて笑う。私には難しいことだ。…とても。
目を閉じてため息をひとつ、こと、と湯飲みを置いた。

その瞬間、ぐい、と腕を引かれた。強い力で椅子から引き起こされて何ですか!と声を上げる前に、唇を塞がれた。
「!?」
目の前を横切るのは、金だ。鮮やかな金髪。至近距離にあるのが、目を閉じたイギリスさんの顔だと気づいたのと同時に、舌が潜り込んできた。まずい、と胸を押し返すけれど、その力さえすぐに奪われていく。
イギリスさんの、キスの上手い国ランキング一位、という実力は身を持って、よく知っているのだ!

「ちょ、イ、ギリ、」
必死で逃れようとするけれど、後頭部に手を回されたら、愛してる、だから、なんて低く囁かれたら、もう!
後で覚悟してくださいよ、イギリスさん、と恨み言を心の中で呟いた後は、思考能力さえ奪われて。





フランスさんとイギリスさんの喧嘩、なんてよくあることだ。口喧嘩、までなら誰ももう止めようとしないくらい。
コーヒーを飲みながら何となく二人を眺めて、今日の喧嘩の原因はなんだろう、と耳をすませてみる。
「俺に決まってるだろ!」
「いいや俺だね!」

耳をすませていると、僕の名前とか日本さんの名前が出てきてた。
…どうやら、要約するとどっちがより恋人を愛しているか、らしい…
こっちに飛び火してこないといいなあとこっそり思っていると、イギリスさんがそこまで言うならとか言って、くるりと背中を向けてずかずかと、一人で座ってる日本さんの方行って、って、わ、わ…!
大慌てで下を向く。見ちゃった…いいい一瞬だったけど見ちゃった!キスしてるの!
うつむいて固まって、脳内でわー、わー!とどうしていいのかわからなくてパニックになっていると、視界が暗くなった。
「あれ?」
どうしてだろう、と見上げると、すぐ近くににっこり笑ったフランスさんの顔。
「!!」
慌てて顔を押し返すように手を出して、ちょ、フランス、さ、と声を出す。
「カーナ、」
甘い声。二人きりのときの声に、顔が熱くなるのと同時に慌てて。
「いやあのフランスさん、人前、ですし、」
「カナダ、」
ぐい、とせまられる。手はひょい、と片手で掴まれて、もうこういうとこ無駄に器用ですよね!
「お、落ち着いてくださ、」
「…お兄さんとキスするの、いや?」
「!!」
ぴし、と固まる。まっすぐに見つめてくる青い瞳。いや?優しく、低く、もう一度尋ねられる。…もう、そんな風に言われて嫌なんて言える訳ないって知ってるくせに!!
「…、いや、じゃない、です…。」
そう答えると、うれしそうに笑って、メガネを取られて唇が重なった。
するりと舌が入ってくれば、もう周りのことなんて考えている余裕も消えてしまった。




「ええなあ…」
隣で呟かれた言葉に、即、椅子ごとがったんと離れた。

「あ、逃げた」
「当たり前だちくしょー!俺は嫌だからな」
「ええやんかー」
逃げても追ってくるスペインに、椅子から立ち上がろうとしたら、動きを読まれたのか、肩を押さえられて動けなくなった。
やべ、と血の気が引く。ロマーノ、と呼ばれる。目を見ないように顔を逸らしたら、、両頬を手で包まれた。

無理矢理にまっすぐに戻されて、嫌でも目に入る、瞳の色。
真剣で美しいオリーブに、遅いが目を閉じる。視線だけで俺の心臓を操れるんだからまったくこいつは…無自覚だけどな!

「愛してる、ロマーノ…」
囁かれたら、近づいてくる吐息からも逃れられなくなって。
入り込んでくる舌にちくしょう、と心の中で文句を言って、けれど負けるのは癪なので、自分から首に手を回して舌を絡めた。



「ドイツ、」
「だめだ。」

赤くなった顔で窓の外を見て言うドイツにまだ何も言ってない…と呟くと、ちら、と視線が一瞬だけこっちを見た。
「…どうせ、キスしろ、って言うんだろ」
だめだ、こんな公共の場で、という声に落胆する。
「ヴェー…ダメ…?」
「…ダメだ。」
ダメだって。しゅん。ドイツがこんなとこでちゅーしてくれるような人じゃないっていうのはわかってるけど…

愛されてるっていうのはわかってる。ドイツは恥ずかしがりだから、恋愛表現とか素直にしてくれないのも知ってる。…でもこういうときにそんなに拒否されると、ちょっと自信無くなっちゃうなー…。
しょぼん、としていたら、ちら、とドイツがこっちを見て。

「……あー。」
一回、だけだからな。

「え?」
何?と顔を上げたら、頬を大きな手で包まれた。
優しく唇に触れるのは、やっと歯が当たらないキスができるようになったドイツの唇。びっくりして声を上げかけた口にすべりこんでくる舌に動けなくなって、でも目の前の、真っ赤に染まった顔に少しだけ笑って、その首に手を回し、目を閉じてキスを楽しんだ。




いいなあ。と思ってしまうのはただのわがままだ。
籠の中に入っていた飴の包み紙の両端を引っ張って開け、ぽい、と口の中に放り込む。甘い。
仲がいいのはいいことだというのは知っているけれど。…こういう公共の場でキスっていうのもねえ…。
ドイツは基本ルールは守るけどイタちゃんには甘すぎ。他もみんなそうだけど。
はあ、とため息。…いや、はい。素直に言えば、ちょっとうらやましい。
オーストリアさんは、こういうことする人じゃ、ない、し。というか、二人きりのときでさえ。
考えて深く、ため息。

「飴ですか。」
いきなり声をかけられて、えっ、と言った声がひっくり返った。
振り返ると、そこにいるのはオーストリアさんで、さっきまで考えてたことでちょっと罪悪感が芽生えて、誤魔化すように笑ってみせる。オーストリアさん今なんて言ったっけ。飴?
「私も一ついただけますか?」
「あ、えっと、どうぞ。」
籠を慌てて差し出すと、す、と手が伸びて。
籠を通り越して、顎に、触れて。
「?オーストリアさ、」

名前を呼ぼうとしたその瞬間。

唇を塞がれた。かちり、と鼻にあたる金属が何だかわからなくて硬直する。
そのうちに口の中に何かもぐりこんできて、口の中にあった飴を絡めとって、出て行った。
それと一緒に、金属も離れて、唇も解放されて。

「ごちそうさまです。」
くるりと背を向けたオーストリアさんの後姿を見送ることしかできず。
ええと。鼻にあたってたのオーストリアさんの眼鏡、で、今。…キス、されて、それで、飴、舌で取られた…?
危うく、大声で叫んでしまいそうになってばったりとテーブルにつっぷした。

「〜〜〜っ!!」
口の中に残った人工的な甘さがやけにリアルで、もう恥ずかしくてどうにかなってしまいそうだった。



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あけび様からのリクエストで「各CPそれぞれで、各国の前で堂々とべろちゅー」でした

こんな感じですかね…?各CPの特色が出てたらいいなと思います。

こんなですがすこしでも気に入っていただけるとうれしいです
ありがとうございました!




































































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「ダメだ!カナダをフランスと2人きりなんて」
「だからイギリスさんと日本さんも誘ったんじゃ」
「俺も行くんだぞ!」
「チケット四人分しかないんだってばもう!」
わいわいわい、と言い合う三人を少々白けた目で見て、日本は言った。

「何ですかあれ。」
「ブラコン×2。」
「いつもああなんですか?」
「まー…実は?」
俺もカナダには甘い自覚あるけど、あそこまでじゃあないつもりなんだけどな。呆れたようにフランスさんは肩をすくめて。

出発前にはじまったイギリス、アメリカVSカナダのケンカは、まだまだ終わる気配を見せない。
すでに出発予定時間は回り、チケットが無駄になることは確定。まあもともと貰い物らしいのでそれは仕方ない、で片付けられるのだけれど。
すでにあの言い合いが堂々巡りし始めてから優に30分は経つ。

「…いっそのこと2人で行きます?」
隣を見て言ってみると、フランスさんはとっても魅力的なお誘いなんだけど…と少し困った笑顔。
「あのままカナを置いていくのは…ちょっと、な。」
視線を戻せば、兄2人に詰め寄られるカナダさん。2人はカナダさんに行くなと言っているのだけど、彼もなかなかの頑固者で。なんで2人に決められなきゃいけないんですか!と言い返している。けれど。迫力は2人の方が上。

「…カナダさんすごく困ってますね…」
「うん…助けてやりたいんだけど…『一人で』あの元海賊とやんちゃ坊主相手にするのはちょっと酷、でさ。」
意味ありげに言われ、向けられた視線に瞬いて、気づいてああ。と呟いた。

「『ひとり』でなければいいわけですか。」
「そう。強力な助っ人がいてくれたらなあと。」
「…私でよければ。」
及ばすながらもお手伝いしますよ。にっこり笑うと、そりゃあ心強い。と笑顔で返された。

「ちなみにイギリスの味方しなくていいのかな?イギリスの愛しのハニーは。」
「恋人に挨拶もなしに弟に構いっきりなダーリンにはお灸が必要だと思いませんか?」
にっこり笑顔を作って聞くと、日本怖い…と引きつった笑顔で言われた。


「もう二人とも、いい加減に…!」
耐えきれなくなったのか、カナダが叫んだ瞬間、その首にするりと巻き付く腕。それに後ろに引かれて、わわ、とカナダは声をあげた。

「お兄さん方。」
にこり。笑ったのは、日本、だ。いきなりの乱入者に、イギリスとアメリカは驚いて、かなり近づけていた身を引く。
その隙に、日本はカナダと2人の間に入り込んで、にっこり。
「弟さん、誘拐させてもらいますね?」
「え、」
「は、」
「走りますよ!」
一言だけ告げて走り出す日本に手を引かれ、転びそうになりながらカナダが走る。
二人がはっとしたときには、日本達は玄関へ駆け抜け、外で待っていた車へと飛び乗った後!

その車を運転するのは、もちろんフランスで。
「じゃあなー」
ちゅ、と投げキッス一つして、車が出発した。


「…へ、フランスさん、日本、さん?」
車の中で、ぱちぱちと瞬くカナダは、状況が全く飲み込めないらしい。
「えっど、どういう…?」
「はい、誘拐犯1です」
日本が真面目くさって言えば、運転席から弾ける笑い声。
「あはは!じゃあ俺は誘拐犯2だな!」
「え、ええ、と、」
何と言っていいのかわからないらしいカナダに、日本は微笑んだ。

「ほっときゃいいんですよ、あんな馬鹿兄2人なんか。…それより、私たちと遊びませんか?」
「カナの好きなとこ連れてってあげるよ。」
フランスがバックミラー越しにウィンクしてみせて、付け足す。ぱちん、と眼鏡越しの大きな瞳が一度隠れる。
鮮やかな紫が現れたときには、カナダも共犯者の笑みを浮かべていて。

「そうですねえ…じゃあできるだけ遠くへ!」
「りょーかい!」
逃避行は始まったばかり。


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榊原空樹様からのリクエストで「英と米が加に過保護で、その様子を見た日と仏が呆れる話」でした

なんかとりあえず、みんな仲いいといいよなと書いた話でした…一番不幸なのは英でしょう

こんなですが、少しでも気に入っていただけるとうれしいです

ありがとうございました!