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※独伊と西ロマが一緒の家に住んでるお話です






とんとん、と階段を下りてくる足音に、ちら、と見上げた。ふああ、とあくびをした、焦げ茶色の髪の持ち主。
「おはよう。」
「おはよーさん。朝早いなあ、ドイツは…。」
そういいながら、空けたまな板で、トマトを刻み始める。
「おまえらが遅すぎるんだろう。」
「そ?…まあロマーノは、起きてても降りてこーへんのやけど…。」
メシできへんとなああの子は…。困ったように、それでもうれしそうに笑うスペインに、まったく甘いやつだ、と思う。…人のことを言えないのはわかっているから、言いはしないが。スペインに向けていた視線を目の前の鍋に戻す。…ヴルストがいい感じに煮えてきた。
時間的にそろそろだな、と階段の向こうの廊下に視線を送る。…ほら、どたどたとうるさい足音。
「おはよー!いいにおーい!」
キッチンに飛び込んできたのは、イタリアだ。おはよイタちゃん、今日もかわええなあというスペインの声にスペイン兄ちゃんおはよーとにこにこと笑い、そんなイタリアに、煮えたヴルストを盛った皿を差し出す。
「わはー!これ俺好きー!」
「だろうな。…ほら。コーヒー淹れるから。」
「はーい顔洗ってきまーす!」
皿をテーブルに置いて走っていくイタリアを見送って、苦笑。
「ドイツー、火使ってええ?」
「ああ。こっちは終わった。」
そう言えば、今日もパスタがいいとか言うんやからあの子は、とパスタ鍋を取り出していた。

基本的に、この家では朝食は二種類作る。
俺とイタリアの分と、スペインとロマーノの分。まあ、食文化の違いは仕方ないし、ヴルストがじゃがいもがとロマーノがぶつくさ言うからだ。スペインも、トマト入ってないと食べる気せえへんわー、とか言うし。
だから、自然と、朝は俺とスペインがキッチンに立つことになる。
とは言っても、朝起きる時間自体が違うので、俺が作り終わったころにこうやって、入れ替わるようにスペインが作り出すのだが。

「ドイツー、これもそっち置いて〜」
「ああ。」
トマトオンリーの鮮やかな赤いサラダをテーブルに置けば、よーしロマーノ起こしてこよ、とスペインは一端キッチンを離れ二階へ。
「ドイツ!」
丁度そのとき、顔を洗い終わって、がばり、と後ろから抱き付いてきたイタリアに、おはようのキスーとねだられて、その唇にキスを落とす。
「おはようドイツ。」
「おはようイタリア。」
ヴェーと笑う彼が、実はスペインがキッチンを出て行くのを見計らって帰って来ている、と知ったのは、つい先日のこと。
『だってドイツ、スペイン兄ちゃんいたら恥ずかしがってキスしてくれないでしょ?』
…おっしゃる通り、だ。

スペインとロマーノと一緒のこの暮らしに、不満があるとすれば、まあ2人きりの時間が少なくなるということだろうか。
…でも、少ないその時間を有効利用しようという気になるから、いいかとも思うんだが。ちゅ、ちゅ、とバードキスを繰り返し、とんとん、と降りてくる足音を数えて、後何回できるか、を計算して、小さく笑った。






ふあ、とあくびをひとつ。
昼食も食べて(今日はスペインが作るというからトマトたっぷりのパスタを要求した。)、おなかいっぱいで、ちょうどシエスタの時間だ。
今日はいい天気だから、窓際のベッドも暖かくなっているかもしれない。満腹で、暖かいベッドでシエスタ。最高だ。
頬を緩めて、庭で家庭菜園の世話をしていた手を洗い、リビングの前を横切る。

「ねえードイツドイツー今日は一緒にシエスタしようよー。」
弟の甘ったるい猫なで声に、一気にテンションが下がった。

思わず足が止まる。ちらり、と見やったリビングのソファでは、じゃがいもが座って、ヴェネチアーノを膝に寝転ばせて、いちゃいちゃしていた。見ている俺にはまったく気づいてもいない。
「いや、俺は眠くないからいい。」
「えーやだよードイツも一緒がいいよー。」
甘えるような声。…いや、眠いのか。間延びした声。すこし、あくびにまぎれる。
「…俺はいい。」
「何でー?」
不満そうな声に、じゃがいもは、ヴェネチアーノの頬を撫でた。柔らかい笑み。

「おまえの寝顔を堪能したいから。いい。」
起きるまでそばにいるから。それにわあ!とうれしそうにじゃがいもに抱きつくヴェネチアーノが心底ムカついて、こんなとこでいちゃいちゃすんな!と言いがかりをつけてリビングに怒鳴りこんだ。


ふん、と怒って、ベッドにダイブ。暖かくて柔らかい布団に、包まれる。…だけれど、どこか、寒く感じた。
「あいつらのせいだ。…ちくしょー…。」
リビングなんかでいちゃいちゃいちゃいちゃしやがって。…スペインは、どうしても今日中に仕上げなあかんねん、と部屋にこもったきり出てこないのに。
「…ちくしょー…。」
スペインがそばにいないシエスタは、少し寒い。服を脱ぐ手を、一端止める。

…本当は、誘いにいけたらいい。スペインだって、シエスタはするのだから。弟みたいに。一緒に寝ようと、シエスタしよう、と。そう言えたら。
「…苦労しねーっての…。」
ため息。そして、また服を脱ぐのを再開して、暖かいはずの布団にもぐりこんで。

がちゃん、とドアが開いた。
「うー、疲れたあ!ロマーノ一緒にシエスタせーへん〜?」
「す、スペイン!」
言えなかった言葉をさらっと言って、あわあわしている間にスペインはシャツを脱いで、俺がいるベッドに上がってくる。
「え、あ、な、何だよこのやろー!」
「え?何って。シエスタ。」
何言うてんの、ときょとんとしたスペインに、だからなんで俺の部屋に、と焦って口にしたら、なんかによによされた。
「ロマーノ一人じゃ寝れへんのとちゃうかなーって。」
「こ、子供扱いすんな!」
怒鳴るのに、ええやんええやんほらほらつめてつめて、と布団の中に入ってきやがった。

「それにな、ロマーノぎゅーとしてへんかったら俺が寝れへんから。」
一緒に寝て?ロマーノ。優しい声にそう言われて。
「…仕方ねえな。」
そう呟いたら、ありがとなーとにこにこしたスペインに、抱きしめられた。
「寒くない?」
「全然。」

さっきまで感じていた寒さは、スペインを見た瞬間に吹き飛んでいた。お休みロマーノ。頭を撫でられて、とろん、とまぶたが重くなって。息を吸い込んだら、スペインの匂い。暖かい。そう感じて。
ああそうか。さっきのは寒いんじゃなくて、寂しかったんだと、ようやっとわかった。
けれど伝えるなんてできないから、すり、とその胸に頭を寄せて、目を閉じる。

もう大丈夫。もう寒くない。スペインの太陽みたいな暖かさに包まれたら、いい夢が見れそうだった。








「あ、あれおいしそーう!」
「ええでー俺がかわいいイタちゃんのために買ったろ!」
美人なおねーさーん、このレモンひとつーと声をかけて、にこにこ笑う。

ドイツは、急ぎの仕事だ、夕飯までには帰ると家を出た。これはひょっとしなくてもチャンスか、と買い物に行くという2人についてきた。右にロマーノ左にイタちゃん。ええなあええなあ天国やんなあと頬が緩むのが止まらない。

「他になんか欲しいもんあったら言いや?」
おまけしてもらったレモンを持って、イタちゃんに声をかける。
「んー…俺はいいかなあ…兄ちゃんは?」
「…いらね。」
ぼそ、と呟いたロマーノに首を回せば、不機嫌、と顔に書いてある仏頂面。
「ロマーノ。せっかくの美人が台無しやで?」
ほら笑顔ーと笑ってみせるのに、ふん、と顔をそらして、ずかずかずかと、先に歩いていってしまった。

「なんやー、機嫌悪いなあ…。」
見送って、どないしたんやろ、と首を傾げると、たぶんねえと、イタちゃんが呟いた。
「スペイン兄ちゃんが俺ばっかり構うから、拗ねてるんだと思うよ?」
「そうかなー。そうやとうれしいんやけど。」
言って、眺める。遥か先をずかずかと歩く、後ろ姿も美人な恋人の姿。
その行動の原因が自分だとしたら、それはとてもうれしいことだ。こっちは、ロマーノロマーノロマーノで、がんじがらめに絡め取られているから。少しくらいは、こっちの気分を味わってくれてるといい。

「…スペイン兄ちゃんって、俺のこと構うくせに、本当は兄ちゃんしか見えてないよね。」
ちょっと呆れたようなイタちゃんの言葉に、イタちゃんやってドイツしか見えてへんくせに、と笑った。
「何で兄ちゃんが不機嫌になるってわかってて俺に構うの?」
「そんなん決まってるやん。」
きょとん、として、笑う。これ、ロマーノには秘密やで?そう言っておいて、うなずいたのを見てから、だって、と言った。

「未来の義弟に、俺のこと気に入って欲しいって思うのは当たり前やん?」
「え?…え、もしかして…」
「ま。プロポーズするのはもうちょい先になるかなあと思うんやけど。」
照れくさくなって笑ったら、ぱああ、と顔を輝かせたイタちゃんは。

「………兄ちゃーん!スペイン兄ちゃんがねー!」
「え、ちょ!イタちゃん!秘密って言ったやんか!!」
叫んで走り出したイタちゃんを追いかけて、後ろからロマーノに抱きついたイタちゃんと、抱きつかれてなんなんだと怒るロマーノと、ぎゃいぎゃいと楽しく騒いで、家に帰り着いたのは、かなり遅くなってからだった。








ふにゃん、とスペイン兄ちゃんに抱きつく兄ちゃん、なんて珍しいものを見た。
というか、現在進行形で見てる。目の前で広がる光景が、めったに見れないもので、驚く。

「ロマーノ…飲みすぎやで…。」
「ん、ん…うるせー…。」
すりすりと擦り寄っていく兄ちゃんの顔が真っ赤だ。完璧に飲み過ぎだ。もうぐでんぐでん。
ご飯食べ終わった後、おいしいワインがあるんだーと始まったワインパーティの、序盤から兄ちゃん飛ばしっぱなしで。あんまり強くないくせに、と見ていたら、あれよあれよと酔っ払ってぐでぐでになってしまって。

「スペイン〜…。」
ぐいぐいと腰の辺りに顔を押し付ける兄ちゃん。何〜ロマーノ。甘い声。他の人には向けない、兄ちゃん呼ぶときだけの声。
「キス〜…。」
「はいはい。」
スペイン兄ちゃんが額にちゅ、キスをしたら、そーこーじゃーなーいーとばんばん背中を叩いて。
「もー…だだっ子やねんから…」

ちら、とこっちを見るスペイン兄ちゃん。それから、ぎゅ、と兄ちゃんを抱き寄せて。
わ、わ、キスしちゃう?しちゃう?とどきどきしながら見ていたら、ぱた、と目の前が暗くなった。
「ヴェッ、み、見えな、」
「見るな。」
呆れた声がすぐ近くで聞こえた。それで、目を覆っているのがドイツの手だと知る。

ん、ふぁ、と甘い声が聞こえる。…え、これもしかして兄ちゃん!?
見たい見たい、とぱたぱたと暴れたら、イタリア、暴れるな。と目を覆ってない方の手でがっちり腕を押さえつけられた。
「ん、あぅ…」
「…続きは、部屋でな?」
低い声と共に、ぎし、と音がした。
「ほな俺ら先寝るな〜」
「ああ。おやすみ。」
とんとん、と階段を登って行ってしまう音がして。
やっと、目隠ししてたドイツの手がはずされた。当然ながら、もう兄ちゃんたちはいない。

「むー…ドイツのいじわる。」
ちょっと見たかったのにと言ったら呆れた顔をされた。
「おまえな…。」
「ふーんドイツのばーかばーか。」
ふくれたまま、グラスに残っていたワインを一気に飲み干す。

「…俺なら、見せたくないけどな。」
いきなり言われた言葉にえ?と顔を上げたら、頬に手が触れて、口付けられた。
少し開いていた唇から中に入ってくる舌。ざらり、と舐め上げられて、取り落としそうになったグラスをドイツに奪われる。かと、とグラスがテーブルに置かれた音がしたけど、そっちを見てる余裕なんてなかった。深く絡め取られる舌、立つ水音、感じるアルコール、歯があたって一瞬した血の味、足りなくなる酸素。

「は、あ…。」
やっとのことで解放されて、くて、とドイツの厚い胸板に頭を預けたら、そんな顔、他の誰にも見せたくない、とさっきのスペイン兄ちゃんに負けないくらい甘ったるい声で言われた。
「…ドイツ、」
立てないよう、と甘えるように首に手を回せば、わかった、と軽々とお姫様だっこされた。


続きは、電気を消した寝室の中。



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椋様からのリクエストで「独伊+西ロマがが同じ家に同居してるお話」でした

こ、こんな感じでいかがでしょう…こう4人がそろうとやかましそうです。何か甘甘になってしまいましたが…

こんなですが、少しでも気に入っていただけたらうれしいです。
ありがとうございました!