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あふれる甘い甘い香り。
さすがにここまでとなるとすごいですねえと、ちょっと麻痺してきた嗅覚に広がるチョコレートの香りに苦笑。
明日はバレンタイン。だから。
うちでは女の子から好きな人にチョコレートを送るんですよ、と教えたら、イタリアくんちに、全員集合でチョコレート作り。

五人も集まったのに、一人づつバラバラのものを作っているのがおもしろい。約一名に至っては作ってないし。
「ロマーノくん暇じゃないですか?」
「別に。…日本は?」
「あとは冷やすだけ、ですから。」
毎年やっていれば、少しくらい腕もスピードも上がる。ソファに寝転んだ(もう一度確認するがここはイタリアくんちだ)彼女の向かい側に座る。
集まった五人の中で、俺は作らないからな、とそう言って、本当に作っていない。イタリアくんが用意した、上等なチョコレートは受け取っていたのに。
「本当に作らないんですか?」

彼女みたいな人が、思いを告げるための日だと、思うのだけれど。
彼女は、ちら、とこっちを見て、ふい、と視線を逸らした。
「…できたての方が、うまいかなって…」
何がですか?そう問う前に、フォンダンショコラ。と小さな声。納得する。
中からチョコレートがとろけだすあれは、たしかに、できたての熱いものを食べた方がおいしそうだ。
「勝負は明日、ですか?」
こくんとうなずく彼女に小さく笑う。
「…それに。」
「?」
「チョコレート、の匂いはもううんざり、っていうか…」
呟く声にああ。とうなずく。
「何回もしたんですね。練習。」
かあ、とそっぽを向いた彼女の耳が真っ赤になった。わかりやすいなあと、くすくす笑った。



「カナダのかわいい!」
後ろから飛びつかれてうわあ!と声を上げた。
べしゃり、とチョコをこぼして、す、すみません!と謝る。ここは、後ろから抱きついてきたイタリアさんの家だ。
「わ、ごめん!チョコ大丈夫?」
「あ、はい。」
とりあえずあげる分は無事だ。余ったのどうしようかなあと思っていたときに突撃されたから。
「ごめんね?」
そう謝る彼女のキッチンの方がひどい状況なんだけど…それは気にしないらしい。
「カナダのはハート型なんだね。」
「はい。…溶かして固めただけですけど。」
シンプルだ。…だって凝ったことしたって、フランスさんには敵わないから。
だから、愛情で勝負することにした。
「フランス兄ちゃんはカナダの作ったものなら何でも喜ぶと思うけど」
「喜んでくれますかね?」
うん、とうなずいてくれて、少しほっとした。
「イタリアさんはもうできました?」
「うん。あとは固めるだけ。」
へえ。と呟いて。
そろそろと視線を向けた先には、声をかけづらくて仕方がない一人。
「…真剣ですね。」
「真剣だよね。」
顔を見合わせ、邪魔をしないようにこそこそ話す。
鬼のような、なんて言うと語弊があるかもしれないけど、それくらいに真剣な顔で、チョコレートを溶かしている、ハンガリーさん。
…邪魔したら、怒られそうで、怖い。
「…お菓子、作ってるだけなのにね。」
「そうですね…」
ぴりぴりした空気が、こっちにまで伝わってくる。
「…邪魔しちゃ悪いですし、向こう行きます?」
「だね。」
こそこそ話して、そうっとキッチンから離れた。

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子供達が眠った後で、これはドイツ用!とイタリアがガトーショコラを出してきた。
「どう?どう?」
身を乗り出してくるイタリアに、まだ食べてないから、とたしなめて、一口、食べる。
「…おいしい?」
「美味しい。」

そう答えれば、華やかな笑顔。よかったー!と大げさに喜ぶ彼女の反応。…不味くてもきっと、美味しいと答えるのだけど。…まあイタリアが作る料理がまずかった試しがないが。
もう一口口に運んで、自然に笑みが浮かんだ。おいしい。本当に。

「俺より上手なんじゃないか?」
「そんなことないよ。ドイツのの方がおいしい。」
でも今日はーバレンタインだからー。
そう笑う彼女に、チョコレートを送るのは、日本の風習じゃなかったか?と尋ねる。
「そうだよ〜今年はみんなで作ったんだ!」
そうか。昨日やけに家中甘い匂いだったのはそのせいか。
苦笑して、もう一口。
フォークを離した唇に、ちゅ、とイタリアがキスをしかけてきた。
きょとんと見れば、ドイツ、大好きだよ、と満面の笑顔。
笑って、手を後頭部に回して、引き寄せ、口づけた。


甘い、匂いがする。
「チョコレートの匂いがする…」
そう呟いて肩に鼻を押しつける。…うん。間違いない。イタリアの匂いに混じって、甘い独特の香り。
「ふ、え…?」

荒い息の中で返事をする彼女の首筋を舐めあげる。…チョコレートの味がするわけではない。当たり前か。
でも甘く感じた気がして、何度も舐める。
鎖骨のあたりに舌を這わせると、白い喉が無防備にさらされた。思わず、噛みつきたくなる。

代わりに、繋がっているそこを突き上げると、跳ね上がる声。きつくしめつけられて、思わず、息を吐く。
奥に当てたまま、軽く何度も揺らす。イタリアがそれに弱いと知っていて。
ぼろぼろと涙を流しながら、しがみついてくる彼女が、愛おしくて仕方がない。

「イタリア。」
「あ、あ…!ど、ドイツ…っ!」
潤んだ琥珀が、俺を。…俺だけを映す。

「Ti amo da impazzire.」

小さく囁くと彼女が小さく息を飲んだのがわかった。
同時にきつく締め上げられて、低く声をあげて奥に叩き付けると、一層甲高い声を上げて、イタリアがイったのと同時に、俺も達してしまった。



「…impazzireって、言った。」
「言ったな。」
耳まで真っ赤にしたイタリアが、もごもごと布団の中で逃げるから、笑いながら引き寄せる。
「ふ、ふいうちはずるい!」
やっと布団から顔を出した彼女の額にキスを落として、バレンタインは愛を告げる日だろう、とそう言ってやれば、うーと潤んだ瞳で見上げられた。
「…そんな目で見るな。」

くらくらする。好き過ぎて。もう、何も考えられないくらいに。
「狂いそうなほど愛している。」
そう耳元で、もう一度囁いて、その赤くなった頬にキスを落とした。


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「おおおおー…っ!」
思わず声を上げる。三人分の声がそろった。ロマーノはふふん、と気分よさそうに笑う。
「どうだ!」
「すげーっ!」
「うまそうやなあ!」
「お母さんありがと!」

三人の前には、甘い香りを立て、中からチョコレートが溢れ出すあつあつフォンダンショコラ。
香りと見た目でもうわかる。これは、おいしい。

「熱いうちに食べろ!」
「いただきます!」
三人そろった声。
柔らかい生地にフォークを入れてとろけるチョコを絡めて食べれば、もう絶品で!
「うまい!」
心から言えば、当たり前だちくしょー!と言いながらうれしそうに笑った。



「知ってるで。」

ふと思い出したので、呟いた。
「…え?」
快楽にとろけていた瞳が俺を映す。
乱れた髪を顔からどけて、続ける。
「ロマーノが今日のチョコレートのためにどれだけ練習してたか。」
知ってる。そう囁けば、彼女はかっと真っ赤になった。
「な、な…っ!」
「気づいてへんと思っとった?」
くす、と笑って頬を撫でる。毎晩ベッドを抜け出す妻に気づかないほど鈍感ではない。体に残る、甘い残り香にも。
こっそりのぞいた後ろ姿。懸命に練習している姿を、知っている、から。

「ほんまに、おいしかったで。」

そう告げたら、耳まで赤くなってしまった。かわええ。
体を抱えあげ、向かい合うように座り、さっきまで繋がっていたそこに、また自身をあてがう。
とろけきった体には、もう自重を支える力すら残っていないらしい。ずず、と挿入されていくそれに、は、あん、と甘い吐息が漏れた。

「スペ、イン、」
呼ばれて、首に回される腕。太ももを撫で上げると、ぐちゅり、と締め付けられた。ふ、うん、とかみ殺した声。
「声、聞かせて」
いやいやと首を横に振られてしまった。
ふーん。いつまで保つかな。ばれないように笑って、腰を動かし出す。

「ん……ん、あっ!や、そこ…っ」
「ここやろ?」
弱いところをねらって突き上げれば。
「あああんっ!」
一度声を上げさせてしまえばこっちのもの。我を忘れて甲高い声を上げる彼女を抱き寄せる。

「す、スペイン…っ」
すがりつくように呼ばれて、小さく笑う。怖いのだ、何もわからなくなるのが。そして、怖いときに俺の名前を呼ぶのは幼いときからの癖。
「Sono sempre accanto a te!」
ずっとそばにいるから。そう言えば、ロマーノは、甘えるようにすり寄ってくる。

…こんなかわええ子、手放せる訳ないやんか。そっと思って、もう考えるのはやめて、ロマーノと交わることだけを考えた。

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日本からのプレゼントは、今年も手作りチョコレート、だ。
「ママのチョコは美味しいから大好き!」
エリが言うのは家族全員の意見で、毎日でも食べたい、と言えば、一年に一度だからおいしく感じるんですよ、と苦笑。
一人一箱。綺麗にスカーフでラッピングされたそれを受け取り、代わりに花束を渡す。
自慢の庭から、今年一番の出来だった花を、プリザーブドフラワーにして。毎年そうだ。
なのに今年に限って眉を寄せるからどうした?と首を傾げる。
「…この薔薇の名前。」
キク、って言うんですよね。言われて、視線を逸らした。
品評会に出したら、意外といいとこまでいってしまったこの薔薇には、確かに彼女の名前をつけた。賞をもらったのはいいが、名前のことで日本は真っ赤になるしほかの奴らはからかうしで散々だったのを思い出す。
「…嫌、だったか?」
勝手に名前を借りたのは、すまないと思っているのだけれど。
「いやです。」
そうか…少しへこんでいたら、だって、と小さな声。

「あなたの唯一でいたいと思うのは、いけないことですか?」
菊、は私一人で十分です。なんてはっきり言うから。

かあ、と顔が熱くなった。



「…は、」
「あ…」
体を震わせた日本の頬を撫でる。
奥まで入れて、ゆっくりと息を吐く。
日本と交わるのは、本当に格別だと思う。少しでも長くこの時間を共有していたい気もするし、早く達してしまいたい気持ちもある。
自身にからみついてくるような中は、無自覚だから余計にたちが悪い。

「日本、」
「は…い?」
妖艶な光をたたえた瞳の色に、息を飲む。
「…すきだ。」
ぽつ、と日本語で、そう伝えてみた。
本当は薔薇を渡したときに言うつもりだったのだけれど。
「…え」
すると、見る見るうちにおもしろいくらい真っ赤になってしまって。

「日本?」
「う、あ、そんな、いきなり…」
照れてる。かわいい。何度もう囁いてみる。
「すき、すき、すき、愛してる…」
「や、やだ、あ…」
いやいやと首を振るのがかわいい。
もう一度好きだと囁いて、耳たぶを舐めあげたら、体を捻った。
途端に、きゅう、と中を締め付けられて、息を飲む。
「ふ、あ…」

とろけた表情にぞくん、と背中を何かが走った。
「…日本」
「え、あ、んっ!や、ああっ」
突き上げれば上がる声。額にキスを落として、もう一度だけ愛していると彼女の言葉で囁いたら、その途端に、きつく締め上げられて、達した。



「…愛してる」
「も、やめてくださいよ…!」
じたばたする日本がかわいくて、耳元で何度も囁く。好き、と愛している、を、何度も。
「イギリスさんっ!」
「かーわいい」
「もう、からかわないでください!」
真っ赤な顔で見上げられて、額にキスを落とした。

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好き、と告げられてキスをひとつ。
おお、いつになく積極的、と喜んでいたら、唇に触れる、何かの感触。
「…?」
口移しされたそれは、舌で舐めてみれば、広がる甘み。…チョコレートだ。
チョコを残して顔を離したカナダに、尋ねる。
「…バレンタインチョコ?」
こくん、とうなずく。ちょっと照れてるのが、かわいい。

「ありがとう。こんなにおいしいチョコレートは初めて食べたよ。」
誉めたら、言いすぎです、とはにかんだ笑顔。…かわいい。
はい、と渡された箱には、あと三つチョコが入っていて、ハート型に固められたそれは、実にかわいらしい。
「…かーなだ。」
「はい?」
「もう一個、食べたいなぁ」
カナダの唇を撫でながら言えば、わかったのか、か、と顔が赤く染まった。
「…今日だけですからね。」
「はあい。」
それでも、自分の口にチョコを運ぶカナダがもうかわいくてかわいくて仕方なくて、彼女から仕掛けてくる前に、唇を奪った。


邪魔だ、と思うのは、矛盾してるんだろうな。とそっと笑う。
チョコレートをねだったのは自分のほうだ。だけれど、今はいらないのに、なんて思ってる。
カナダの味を味わいたいのに、残るチョコの味がとても邪魔だ。本当に。
「ふらんす、さん…?」
息を乱したカナダは、ぞくぞくするような色香をまとっている。触っていないところなんて存在しないように、手や舌を這わせた体は、何回抱いても飽きることがない。快楽に震える姿は、ちょっとひどいことしたくなるくらい、かわいい。

髪をなで、唇をまた、ふさぐ。口内に舌をいれて、邪魔なチョコレートを舐め尽くすように這わせれば、びくびく反応する。相変わらず敏感だ。
赤く上気した頬を撫で、ゆっくり離す。つながる銀糸。
「…は…ふら、んすさん…」
「…入れていい?」
囁くように尋ねる。焦点の合わない目に見上げられた。
こくん、とうなずくのを確認するや否や、あてがい、押し入れる。
ひそめられた眉が示すのは、快楽か、痛みか。
「痛い?」
尋ねると、痛くない、という返事。
「気持ちいい?」
「気持ちいい…」

うっとりとした表情が、愛しい。
腰を揺らして、高い声を上げさせる。
もっと聞きたい。もっと泣かせたい。だめだ、好きだ。
「Je t'aime croquer.」
このまま食べてしまいたいくらい愛してる。心の底から呟いて、白い肌に噛みついた。

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一つ口に入れる。…甘く溶ける味に、こっちをはらはらと見ているハンガリーにおいしいですよ、と告げる。つぼみがほころぶような、笑顔。
「よかった…」
そんなに緊張しなくても。彼女の作るものをけなしたことなどないのに。
「子供達の分とは違うんですね。」
甘く、けれどほろ苦いトリュフ。
子供達には、チョコレートのクッキーだったはずだ。
そう言ったら、何故か、笑顔がひきつった。首を傾げると、大人用です、と言われた。なるほど。
「ほら、まだあるんで、食べてください」
勧められて、じゃあもうひとつ、と手を伸ばす。
口に運んで味わっていたら、じいっと見つめてくる視線に気がついた。

「何ですか?」
「い、いいえ…」
なんでも、らしい。ならいいですけど、と呟いて、もう一つ、口に運ぶ。
「ところでハンガリー。」
「は、はい?」
「ブラウスのボタンは、上まで止めなさい。」
「…ちょっと苦しいんで…」
「ダメです」
まったく、と呟いて、つけたす。
「だいたい最近のあなたの服装は露出が多すぎます。」
「は、はい…。」
それから、ああ、あれも、これも、と言いたかったことが沢山出てくる。言いたかったけれど言えなかったこと、だ。ひとつひとつ口にしていけばそれは、つきることがなくて。

ふ、と目を上げる。うつむいたハンガリーの姿。
「聞いていますか?」
「うえ、あ、はい!」
ぱっとあげられた目線が、何故かそらされる。その事実が、なんだか気に入らなくて。
立って(立つときになぜだか少しふらついた)、彼女の前へ行き、うつむいている顔をのぞきこむ。
「えっ、ちょっ、あのっ」

焦ってそんなことを口にする彼女の唇が、あまりに赤くて柔らかそうで、キスしたい、と思ったので、することにした。



「ふあ、あ!」
「愛しています、ハンガリー。」
そう口にするたびに、赤くなる頬がかわいらしくてキスをした。
キスをしたまま、腰を進める。つながった、一番奥。ぴん、と反り返る彼女の背。
「ああっ!」
「あなただけが、特別なんです。」
いつもは言えないことが、どうしてだろう、今日はぽろぽろと口から零れ落ちる。あと、頭が少しぼーっとする。
でも、いい。そんなことどうでもいい。目の前に世界で一番愛しい彼女がいる。顔を真っ赤にして、涙で目をうるませて、秘部は私と繋がったままで。甘い声をその喉から響かせている。
―それ以外に、何を望むことがあるだろう?

「Szeretlek te'ged.」
愛している、そんな言葉じゃ、足りないけれど。
「お、オーストリア、さ、あ、ああっ!」
言葉の途中だったけれど、そろそろ我慢が効かなくなって彼女の体を揺さぶった。

それでも、大好き、というあなたのとぎれとぎれの声は、ちゃんと。聞こえましたよ、ハンガリー。




体を起こすと、頭痛がした。
「…痛…。」
「お、おはよう、ございます。」
声に、視線を向けるとそこには顔を真っ赤にしたハンガリーがいて、おはようございます、と返して、頭を押さえる。痛い。…二日酔いだ。
「…お酒を飲んだ覚えはないんですが…。」
そう呟くと、ぎくん、とハンガリーの肩が揺れたような気がした。

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神月彩都様からのリクエストで『バレンタインで甘甘仲良し夫婦』でした〜え、えっと、どうでしょうか?

旦那のためにがんばる嫁たち、が書けてたらいいな。
ちなみに、墺さん宛てのトリュフにはたっぷり洋酒が混ぜ込んであったり、なかったり。
あと、各英字は、嫁の言語で愛してるです。加は仏語にしてあります。


こんなですが少しでも気に入っていただけたらうれしいです。
ありがとうございました!