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「ママ!」
「母さん。朝だよ」
ゆさゆさ、と肩を揺らされて、ん、と眉を寄せる。そのままゆっくりとまぶたを開けると、きらきら光る2対の瞳。
「おはよう!」
二人の声が一度に聞こえてくる。おはようと答えると、2人が交互にキスしてくれた。

「誕生日おめでとう、ママ!」
「おめでとう。ピクニックの用意出来てるよ!」
「ほんと?じゃあ早く起きなきゃ」
体を起こして、着替えるから先準備しといて、と声をかけた。
ぱたぱたと駆けていく足音を聞きながら、ベッドを降りる。

誕生日に、ピクニックに行くのは、天気がいいときの約束。だって、外でみんなで遊んだ方が楽しいじゃない?
カーテンを開けると、射し込む光。まばゆいばかりの青い空、いい天気!
何着ていこう、とわくわくしながらクローゼットを開けた。

とんとん、と下に降りると、子供たちが荷物を抱えてぱたぱたと走っていった。
「わ、転けないようにね!」
はあい!と元気な2つの返事。
表を覗けば、車が出てる。遠くまで行くのかな?
「おはよう、イタリア。」
後ろからの声に、振り返りながら、笑う。
「おはよう、ドイツ。遠くまで行くの?」
「ああ。ちょっとな。」
そう言う彼も、腕の中に箱を抱えていた。
何それ何それ、と中を覗こうとすると、後でのお楽しみ、だ。といたずらっぽい笑顔。
「はあい。」
じゃあ楽しみにしてる!そう言うと、ああ、とうなずかれた。
それから、箱を棚の上に置いて、手招き。
何?と近づけば、腰に手が回った。
頬に添えられた手。反射的に目を閉じると、降ってくる、口付け。
「誕生日おめでとう、イタリア。」
触れ合いそうな距離で言われた言葉に、ありがと、と笑った。
「もう一回キス〜」
「早く出発しないといけないんだが?」
「えーだって、今のおめでとうのキスでしょう?」
おはようのキスは?首の後ろに手を回せば、まったく、うちの奥さんは。と笑われた。

子供たちには悪いけど、出発はもうちょっとだけ先になりそうだ。

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「イザベル、あのスカート似合うんじゃないか?」
「私はいいんだってば」
「何で?」
隣を歩く彼女を見ると、今日は誰の誕生日?と呆れた声。
「そりゃ俺だけどさ。」
肩をすくめて、町を歩く。
「怖いなあ、帰るの…」
「去年は…家の外がすごかったよね…」
「片づけんの大変だったな…」

こうやって二人で歩くのは、張り切る二人の男達がパーティーの準備をするため、だ。
派手好き、というかお祭り好きの二人の手にかかると、まあすさまじいことになるのは毎年のこと。
たとえば去年は、花で一杯にしたかったらしく、家の外側にまで大量に花だらけ。当日はいいけれど、翌日に掃除するのがまあ大変で。

「その前は、世界一長いチュロスだっけ?」
「あー…あったねー…大変だったね…」
「食べきる人数考えろって話だよな…」
はあ、と二人でため息。
あの二人は放っておくと恐ろしいのだ。
「…今から帰って止める?」
「…ま。いいだろ。」
祝おうとしてくれる気持ちは、とてもよく伝わってくるのだから。
…迷惑も考えて欲しいとは思うけれど。

「…それに、お母さん、お父さんとお兄ちゃんの笑顔に弱いよね。」
「…そうなんだよなあ…」
きらきらとした笑顔。顔はあまり似ていないくせに、笑い方は親子そっくりな二人を見ていると、怒る気も失せて。
「それと、かわいい女の子の笑顔にも弱いぞ?」
言えば、知ってるーと彼女は笑った。

「まったく仕方ない人達だよね」
「ほんとに!」
くすくす、と二人で笑いあって。
「そろそろ帰るか?」
「そうだね。」
ゆっくり、と歩き出す、家への道。


ただいま、と声をかけると。
「おかえり!誕生日、おめでとう!」
二人の、満面の笑顔が、ちょっと怖いけれど、でもやっぱり、嬉しいかった。

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ふふん、と腕を組んで誇らしげに仁王立ちした我が家のシェフは、どう!?すごいでしょう!と言った。
「はい。…本当に!」
そう答えながら、頬についていた粉を拭う。

エリの料理の腕はめきめきと上がってきている。誕生日を迎える度にグレードアップしていくごちそうは、いつも彼女からのプレゼント、だ。

「お誕生日おめでとう、ママ!」
「はい、ありがとうございます。」
「あ。ケイとパパの方見に行った?」
「いいえ、まだですよ。」
部屋にプレゼント仕込むから立ち入り禁止!と言われたから行っていないのだ。
じゃあ、行こう、とエリはエプロンをはずした。
「ご飯もできたし。」
「では、呼びにいきましょうか。」
笑って、早く早くと手を引かれて私の部屋へと向かった。


ドアを開いてまず、一度瞬いて、あ、母さん、と声を上げたケイを抱きしめた。
「うわ!」
「あ!いいなあ!」
「…っありがとうございます…!」

書類と本でもう足の踏み場もなかった部屋が、綺麗に片付いている、上に。
壁際に、ずっと欲しいと思っていた新しい本棚が置かれていた!
溢れていた本を納めても、まだスペースが空いている。これで、買うのをあきらめていたシリーズ全巻が買える…!

「もちろん買ってありますよ。って言ったらどうします?」
告げられた言葉に顔を上げると、イギリスさんが抱えているのはまさにそれで…!
思わず歓声を上げると、喜んでもらえたみたいで何より。とエリが笑った。
「大変だったのよ、ママにばれないように聞き出すの。」
「なかなか全巻揃わないですし…本棚だって」
「そうそう、いいサイズがなくて…ねえパパ?」
「…そうだな。」

少し、低い声に気づいて、彼を見る。…少しふてくされたような表情。まるでやきもちやいてるみたいな…ああ。
自分の状態を思い出して、すぐ原因に気づいた。仕方ない人だなあと思いながら、ケイから手を離して、イギリスさん、と呼ぶ。

「何だ?」
「Thank you,my dearing!」
近づいてきた彼に囁いて、頬に口付ければ、慌てて逸らされる顔の赤いこと!

咳払い一つ。それから、そっぽを向いたまま。
「Happy Birthday,my honey.」
そう言ってくれたから、ありがとうございます、とお礼を言って、子供達と顔を見合わせて笑った。

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「ママ、タルト・ラ フランスはどう?」
「そうだね」
「やっぱりミルフィーユじゃない?」
「んー…」
「あ、ムースもいいかも!」
「それは去年したじゃない。あ、じゃあクレープは?」
「うーん…」
困ってちら、と後ろを振り返ると、苦笑したフランスさんが、こら、お嬢さん方。あんまりお母さん困らせるんじゃないの。と言ってくれた。
「だって、せっかくの誕生日なんだもの、ママが一番好きなもの選べるようにしなきゃ!」
「ならゆっくり選ばせてあげないと。な?」
はあい、と二人の声。


僕の誕生日にこうやって、みんなで買い物に来るようになったのはいつのことだっただろう。
サプライズの時の反応見るのもいいけれど、やっぱりカナダに喜んでほしいから。
そう言われて、フランスさんに作ってもらうお菓子だけは選ばせてもらうことにしている。みんなで材料買いにきて、おいしそうな果物から選んだり、売ってるものから考えたり。
まあ、選ぶのにどうしても時間かかっちゃうんだけど…
「カナは甘いもの大好きだからなあ」
「違うよ?パパ」
リリーがきょとんとして言う。わかってないなぁ。ため息をついたサラの言葉。え、僕もわからないんだけど…甘いもの好きだし…
「え、何で?」
「決まってるじゃない。」
二人は顔を見合わせて、同時に言った。

「ママは、パパが作ったものだから好きなのよ!」
ぱちぱち、と瞬いて、意味を理解して笑った。
「当たってる!」
くすくす笑っていると、ぽん、と肩に乗る手。はあ、とため息が聞こえた。
「まったくもー…そんなに喜ばせないでよ…何でも作って上げたくなるじゃないか!」
「作って上げれば?誕生日なんだもの!」
「私もパパの料理大好きよ!」
くすくす、と笑い声!
「じゃあカナダ、食べたいもの言ってごらん?何でも作って上げるから!」
「やったあ!」
えーと、と考えて、思いつくままに口に出した。


テーブルに並びきらないほど並んでいる料理を見て、言い過ぎたかな?とちょっと後悔。
「でも食べきるだろ?」
「食べる!」
せっかく作ってくれたんだから!と言うと、くす、とキッチンでフランスさんは笑った。
「まだあるのよー、ママ!」
「もうどこ置こうか?」
皿を持ってやってくる子供達にあら、と目を丸くして。
「んー…食べちゃってから置く?」
「そうね!」
「じゃあ食べようよ、ほらパパも!」
「はいはい」
がたがた、と椅子を引いて座ると、三人は顔を見合わせて、せーの、と声をそろえた。
「誕生日おめでとう、ママ!」
家族みんなからの声に、ありがとう、と笑った。

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最後の和音が響く。
「誕生日おめでとう、母さん!」
「おめでとうございます、お母様!」
最後に言ってくれた子供たちに、立ち上がって拍手をした。
こそこそと何かしていたのは知っていたけれど、まさかミニコンサートなんて!

あー苦しかった、と蝶ネクタイをはずすマックスの頭を撫で、恥ずかしげにうつむいてしまったベアトリクスを抱きしめた。
二人の歌はとても綺麗で。すごい練習したんだろうなとか、オーストリアさん厳しいから、とかいろいろ考えているとつい泣きそうになってしまった。
「…もう最高のプレゼントだわ…!」
なんとか涙をこらえてそう言うと、えー、一応プレゼント用意してるんだけど、とマックスが言う。

「あら、本当?」
「はい。お母様に喜んでもらえるよう考えて選んだので、受け取ってもらえると嬉しいです。」
腕の中から見上げてくるベアトリクスに言われて、もちろんよ、と笑った。
「よし、じゃあ取りに行こう、ベアトリクス。ついでに着替えてきていい?肩こりそう」
「まったく…好きになさい。」
オーストリアさんの呆れた声に、やった、ほら置いてくぞ、とマックスは駆け出して。
「待ってください、お兄様!もう…ではお母様、楽しみにしていてくださいね?」
「ええ。」
腕を離すと、ぱたぱたと駆け出すベアトリクスを見送って、立ち上がる。
…大きくなったなあ。当たり前なのだけれど、それが嬉しいようで。寂しいようで。

「ハンガリー。」
呼ばれて、オーストリアさんも伴奏、お疲れさまでした、と言いながら振り返ると、す、と目の前に差し出される封筒。
「誕生日おめでとうございます、これは私からのプレゼントです。」
「あ、ありがとうございます」
受け取って、開けても?と確認する。
うなずかれて、封を切ると、なんだろう…チケット?
「飛行機…?バンクーバー?…これは?」
首を傾げて見上げると、二泊ですが、ホテルも取ってあります、と言われた。
「へ、」
「出発は明日。子供達はドイツとイタリアに預けます。」
「え、えっ!?明日!?」
急な話に瞬くと、仕事の方は大丈夫ですよ、どうにかしましたから、じゃなくて心の準備が!
「…たまには二人きりでどうかと思ったのですが…嫌、ですか?」
「そんなわけないじゃないですか!」
嬉しいです、ありがとうございます。とそう言ったら、彼はほっとしたように微笑んだ。ああもう、その笑顔だけでも最高のプレゼントなのに!


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倉上様からのリクエストで「各家族で嫁の誕生日を祝う話」でした

こんなかんじでしょうか?少しでも仲いい感じとか伝わるといいなと思います。
こんなですが、少しでも気に入っていただけたら嬉しいです。
ありがとうございまありがとうございました!