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「お母さん、」
小さな声で呼ばれて、ん?と視線をやる。もじもじと立つ娘の姿。
「どうした?イザベル」
「…あの、ね、」
小さな声。何か話したそうなその様子に、ちょっと待て、と止める。
「洗い物終わってからでいいか?」
すぐ終わらせるから、と言えば、少しほっとしたようにこくんとうなずいた。

「ん。」
「ありがと。」
レモネードを二人分作って、どうした?と言いながら椅子を引く。
「あの、ね、…男の子に、プレゼントって、何がいいと思う?」
「男にプレゼント?…ルキーノか?」
尋ねると、ふるり、と首を横に振った。
「…ガヴィ」

言われて金髪蒼眼の顔が頭に浮かぶ。
残念なことに父親と瓜二つな彼は、ちょっと苦手だ。容姿が。話してると、根っからのイタリア男だなあとどこか安心するのだけれど…。
ガヴィなら、女の子からもらったものなら何でも大事にしそうだ。
そう言おうとイザベルに視線を戻して、ふとその頬が真っ赤に染まっているのに気がついた。

「…イザベル、もしかしてガヴィのこと好きなのか?」
聞いてみると、さらに顔が赤くなる。
「えとあの、べ、別に好きとかそそそういうんじゃなくて、」
あわあわと言う彼女が、かわいらしくて小さく笑う。
「隠さなくていいのに。」
「…わかん、ないの、まだ、よく。」
好き、なのか、どうか。すっかりうつむいてしまったイザベルの言葉に耳を傾ける。
「好き、っていうか、一緒にいたいなって、…いられたらいいなって。キスとかハグとかしたい、のとはちょっと違ってて、うまく言えないんだけど、その…」
黙ってしまったイザベルが、言葉を考えているのを眺める。かわいい。恋をしてる女の子は特にかわいいと思う。

「…お父さんとお母さん、みたいに、喧嘩しながらもずっと一緒にいられたらなって思うの…」
「…そうか。」
目を細めて、彼女の頭を撫でる。
「プレゼントは?」
「…会う口実になるかなって…」
小さく告げられた真実にくす、と笑って、教えてやる。

「そんなの、」


「えええええ!」
すぐ近くで響いた大声にうるせーよと思わず眉をしかめた。

「…イザベルに…好きな、人…?」
「そうだよ」
「嘘や〜っ!」
ばふんとベッドに倒れ込む馬鹿を呆れた目で見やる。
「おまえな…。」
「いややいやや!イザベルはずっとうちにおるの!」
…駄々っ子か。おまえは。
ため息をついてベッドに座ると、ロマーノは嫌じゃないん?といじけたような声。

「…嫌、ではないかな。」
だって、恋をするのは素敵なことのはずだ。なのに、本人の意思無視して、周りがあーだこーだ言うのは、違う、気がするから。
「最終的に決めるのはイザベルで、俺たちにできることなんてないんだよ。」
そう言って、ベッドにつっぷした背中の上に倒れこむと、ぐえ、重い、って誰が重いんだよ誰が!
「…でも、そうやな。」
自分が好きな気持ちダメって言われたら悲しいよな…ぽつりと呟くスペイン。でもなあああと深く息を吐いてじたばたするから、苦笑した。

「ま、嫁に行くのとかはまだまだ先の話だから、今のうちから覚悟だけしとけ。」
「ううううう…。」
いーざーべーるー…って、まったく…。
苦笑していたら、そういえば、とオリーブの瞳がこっちを見た。

「ロマーノ、イザベルになんてアドバイスしたん?」
「…昔おまえが言ったことだよ。」
え、何ー?と聞いてくるスペインに、うるっせ、と返して目を閉じた。


(素直に会いたいって言ってやるのが一番のプレゼントだよ!)


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「ねえママ、ママはパパに恋したとき、どんな気持ちだった?」
聞かれて、きょとん、と見返した。
前に座ったサラは、視線はまっすぐにカメラに向けたままで。
「どんな…って、そうだなあ…気付いたときには好き、だったからなあ…。」
そう返すと、ふうん、と声。

「…私と一緒か。」
小さく呟かれた言葉に、しばらくまたたいて、その言葉の裏に隠された意味に、気付いた。
「え、あれ、サラ、好きな子いるの?」
「いる。」
答えたサラに、目を丸くする。本人気付いてないかもしれないけど、耳が赤い。視線が少し、うろたえる。照れてる証拠、だ。かわいい。

「へえ…。だあれ?」
笑って尋ねると、しばらくだまったあと、ケイ、と教えてくれた。
ケイ、か。日本さんによく似た、男の子を思い出す。やけに大人びた少年は、身長こそ高くはないが、その毅然とした態度はもう大人のものだ。リリーやマックスとかと、遊んで笑っているときは、年相応に見えるのだけれど。

「…告白は?」
「……できたら苦労しないってば…。」
はあ、と深くため息をついて、カメラを置いて机につっぷしてしまった。
「だってほんとにちっさいころから知ってるのよ…?今更好きとか言えないもん…。」
かわいいなあ。そっと、そう思う。

「そんなことないと思うけど?」
「なんか気分的に!言いづらいの!」
だそうだ。手を伸ばして、頭を撫でる。
「…どうしたら、言いやすくなると思う?」
ちろ、と見上げてくる青い瞳に、小さく苦笑して。


「へえ。サラが?」
「はい。」
そううなずくと、いいねえ。と嬉しそうな顔。…フランスさんはリリーもサラも大好きだから、反対とかするかなって思ったのに。意外。

「嫌じゃないんですか?」
「まさか!恋をするっていうのはいいことだよ。どうしてそれを嫌に思うんだ?」
恋をすると女の子は綺麗になるしね。フランスさんはそう笑った。
「サラもリリーも、たくさん恋を積み重ねればいいんだ。それはとてもいいことだから。学ぶことはたくさんある。」
にこ、と笑顔で言う彼に、ふうん、と呟く。

ぼす、と枕に抱きついてちろ、と見上げる。
「…僕は初恋でしたけど?」
たくさん恋、した方がよかったですか?尋ねると、にっこり笑って抱きしめられた。
「けど、お兄さんに何度も惚れ直してくれだだろう?」
「…、っはい!」

思わずふきだしてうなずくと、笑うなよーと頭をかき回された。きゃあ、と声を上げて、くすくす笑う。フランスさんだって笑ってるくせに!…その顔が好きだから、フランスさんもたくさん恋した?とかは聞かないでおく。きっと、困った顔するだろうから。その表情も、好きだけど。

「ところでカナ、サラになんてアドバイスしたの?」
「…それは。」


(いつかきっと、言わずにいられないときが来るから、焦らないでいけばいいんだよ。)


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ひより様からのリクエストで「家族設定の女の子がママたちに恋愛相談。」でした〜

こんな感じでいかがでしょうか…?父親の反応が正反対っぽい二組、で…

こんなですがすこしでも気に入っていただけるとうれしいです
ありがとうございました!























































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自分を呼ぶ大声が、聞こえたような気がして、ロマーノは口の端をひくつかせた。
「まさか…」
「?ロマーノさん、どうかしました?…あ。」
隣に寄ってきたカナダが突然上げた声に、あ?と彼女の顔を見て、その視線の先を見ると。

「ロマーノー!!」
がっばあ!と抱きついてくるロマーノより大きな体。すりすりと頬摺りされて、こめかみに血管が浮かんだ。
「かっわえええ!」
「…、の、馬鹿スペイン…っ!」
来るなって言ったろーが!!
怒鳴りつけても効果なし。えーやってロマーノの巫女さん姿やで?見に来なあかんやろ!とうれしそうに抱きついたまま。
ぎゃあぎゃあと言い合う二人をぽかんと見ていたカナダの、頭をくしゃくしゃと撫でる手。
カナダが振り返ると、そこには、金髪の恋人の姿。

「フランスさん!」
「よ。大丈夫か?」
「はい。…でもちょっと。」
忙しいです。と困ったように笑ってみせる。まあこの人の山じゃあなあ。フランスも同じように笑って。

年始の神社のお手伝い。れっきとしたバイトだ。
それを引き受けたロマーノ、カナダの二人は、御神酒を配ったり掃除をしたり、を朝からずっとやっているわけで。
ちなみにもちろん、巫女さん姿、で。

「カナダは何着てもかわいいねえ。」
「ありがとうございます。」
「…その服着て帰ったらだめかなあ。」
「え?うーん…ここのだから無理だと思いますけど…」
どうしてですか?と首を傾げるカナダは、そりゃあ、ねえ。とにやにや笑うフランスの言葉の意図をまったく理解できていないようで。

「教えてほしい?」
する、とその手がカナダの腰に回る前に。
「おい、そこの変態!この馬鹿連れてさっさと帰れ!」
こっちはまだ仕事中なんだよ!と抱きついたまま離れないスペインを引き剥がそうと必死なロマーノの声。

「…残念。ほら、スペイン!邪魔だってよ!」
「えー…」
フランスによって引きはがされたスペインはまだ名残惜しそうで。
「じゃあカナ。後で迎えに来るから」
「はい!」
「ロマーノー…」
「とっとと帰れ!…帰ったらあったかいもん食いたい。」
「…了解。用意しとく。」
付け足されたリクエストに、これは帰るしかないなーと、やっとスペインも諦めたようだった。





「イギリスうさぎ!」
「はい、ちょうどいただきます、ありがとうございます〜」
「7、8、9、10、…」
「ほらこれだろ!」
「絵馬ここ置くぞ」

次から次へとやってくる人の数に、イタリアがはああとため息ひとつ。
「目回りそう…」
「大丈夫か?」
ドイツの言葉にへにゃ、と笑う表情にも、元気がない。…相当疲れているらしい。

「はいお疲れ様です〜あ、イタリアくん、私代わります。」
「ごめん日本、お願い…」
ほかの仕事を終わらせてきた日本が、イタリアに代わり接客に入る。

「はい交通安全ですね?後は…破魔矢、ありがとうございます」
てきぱき働く日本をすごいなあと思いながらイタリアが歩いていると、座って御札を数える作業をしていたオーストリアにつまづいて倒れかけた。なれない和服が絡む。
それを、段ボールを置いたところのドイツが受け止めて。

「ごめん、」
「少し外の空気吸った方がよさそうだな。日本、荷物取りに行くついでに少し抜ける」
「了解です!」
返ってきた答えに、イタリアを連れてドイツが出て行く。
少し広くなった空間に、それでも人の列はまだ続いていて。

着慣れない和服に少し動きづらい、と思いながら、イギリスは日本の隣に並び、減っていた交通安全のお守りを補充した。言われてはいないけれど、必要なことをしないと。
「ありがとうございます。」
「いや。あとは?」
「破魔弓取ってもらえます?」
私じゃ届かなくて、という日本に、棚の上にあるそれをとる。
「ん。」
「ありがとうございます。」
にこ、と笑う日本によし、もう少しがんばろう、と元気がわいてきて。

その隣で、おつりを数えていたオーストリアが、振り返らずに手をのばす。
それを確認するまでもなく、そうすることが当たり前のように手を出していたハンガリーの手の中にお金が納められて。
「620です。」
「はい620円のお返しです、ありがとうございます〜。」
会話も最小限、息ぴったりに作業を続ける。

そこにまた、段ボールを抱えたドイツと、復活したらしいイタリアが戻ってきて。
「よし!もうひとがんばり!がんばりますよ!」
「おう!」
声が元気よく、綺麗に揃った。
仕事はもう少し、続きそうだ。

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来栖様のリクエストで「大きな神宮か神社で、嫁ず巫女さん。」でした

なんか騒がしい感じのお話になってしまってすみません…でも書くのはたのしかったです!

こんなですが、少しでも気に入っていただけるとうれしいです!
ありがとうございました!