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日本から来た至急です、という電話に、彼女の家に飛んでいくと、玄関先で同じように呼ばれた、というスペインとはち合わせた。

「何やと思う?」
「さあ…。」
わからん。というのが本心だ。

とにかく、イタリアくんが大変なので来てください。と言われたらそりゃあ仕事そっちのけで飛んでくるしか選択肢はなくて。どうやらスペインも同じ状態らしい。
「とりあえず、行ってみなわからへん、か。」
「そうだな。」
うなずきあって、日本の家の玄関を、開けた。


「ドイツ!」
途端に響く声。明るいそれは、聞き慣れたトーンで…けれど、聞き慣れた声では、なくて。
は?と声を上げる前に、抱きつかれる。勢いがよすぎるから、慌てて足を引いて、体勢を整える。
反射でそれができるくらいに、この感覚は知ってる。
知っている、けれど。

「…な、んだ!?」
「どいつ〜。」
そう言って抱きついてくるのは、どう見ても。どう見ても!
明るい茶色の髪と、琥珀色の瞳。…それは見慣れたイタリアのものでは、なく。

ロマーノ、だ。どう見ても。明らかに!
「な…っろ、ロマーノ!?」
後ろからひっくり返ったスペインの声がする。そりゃあそうだ。俺だって……ん?

「……おまえ…イ、ヴェネチアーノ、か?」
イタリア、と呼びかけて、どちらもそうだと気づいて、彼女の名を呼ぶと、くるる、と俺の愛しいイタリアより少し細い目が丸くなった。

「っ!!日本にほーん!ドイツわかってくれたー!!!」
「ええ。さすがですね。」
「ってかヴェネチアーノ!てめえいつまでじゃがいもにひっついてやがる!」
イタリア?の後ろから現れたのは、日本と、こっちは外見がイタリアで、でもこのセリフから考えるとつまり…


「……つまり、イタリアとイタリア兄の中身が入れ替わった、と?」
「ご理解が早くて助かります。ドイツさん。」
日本は困ったように、けれどどこか機嫌悪そうに笑った。



道でばったり会ったイギリスに、あーもうおまえらはいいよなあ!とか怒鳴っていきなりなんかかけられて、気づいたときには俺が目の前、にいて、それが馬鹿弟だって気づいたときはかなり驚いた。
二人そろってうわあああ!と叫んで。日本の家の近くだったから、日本がすぐ飛んで来て、事態を把握すると同時にスペインとじゃがいも、呼んで。

「すみません。明日までにはもとに戻ると思いますから。」
困ったようにそう言う日本は、けれど口の端がひくついている。
イギリスと大喧嘩したところらしい。まったくあの人は、と低ーい声で呟くのを聞いてしまってちょっと怖い。


それはまあ置いといて。
ちら、と隣を見あげる。にこにこと、まあいらっとするほど上機嫌なスペインの姿!
なあ、なんでそんな機嫌いいんだよ。返答次第じゃ怒るぞ。なあ。
俺が…ヴェネチアーノの姿だから、じゃないだろうな?まさか。
…いやたぶん、そうなんだろうけど。そう思ってため息。
やっぱりスペインは、ヴェネチアーノの方がいいんだ。そうでなきゃ、こんなに機嫌いいもんか!
「ロマーノ」
「何だよ。」
出す声が、いつものそれとは違って。きりりと胸が痛む。
「かわええなあ。」
…きっと違う、とどこかで信じていた心をあっさり打ち砕く、一言。

笑って告げられたその言葉に、迷わず頭突き一発、じゃがいもに擦りよっていた弟の手を強引に引いて歩き出した。

「わ、わわ、兄ちゃん、どこ行くの!?」
「いいから行くぞ!」
行く当てなんかない。けど。
これ以上スペインのそばにいたら、泣いてしまいそうだった。



「で、うち?」
「…ごめんね?ハンガリーさん…」

だってほかに思いつかなかったんだもん。兄ちゃん泣きそうだし、でもうちとか連れてったら怒りそうだし、かといって兄ちゃんち、ってわけにもいかなくて。(だってフランス兄ちゃんち通らないといけないでしょう?)
だから、とハンガリーさんに言えば、まあ妥当ね。って。

「その代わり、ドイツとスペインには連絡するわよ?」
こくんとうなずく俺の隣で、びく、と兄ちゃんが震えた。…そんな泣きそうな顔しなくても、スペイン兄ちゃんは兄ちゃんしか見てないのになあ…。何が原因かはわからないけど、兄ちゃんがこんな顔するのは、愛されてないんじゃないかって不安になったときだけだ。
どうして本人に確認しないんだろうな、いつも。こんなに悲しそうな顔をして、黙ってしまう。…俺すぐ聞きにいっちゃうからなあ…

電話をしていたハンガリーさんが、マグカップを3つ持って帰ってくる。中身はコーヒーだ。ありがと、とお礼を言って受け取る。
兄ちゃんは疲れた、って、客室を借りてひっこんじゃった。…泣いてるかもしれないけど、こうなるともうスペイン兄ちゃんしかどうにかできないもんなあ…
ハンガリーさんと顔を見合わせて苦笑する。


「それにしても、イタちゃんはうれしそうねえ。」
どうかしたの?ハンガリーさんの声に笑ってみせる。
「えへへ、あのね?」
うれしい。すっごくうれしい。だってドイツ、すぐにわかってくれたもん。俺がイタリア=ヴェネチアーノだって!

いつもみたいにドイツに抱きついちゃって、あっどうしよう、と思って、わかんないかなあ、わかんないよなあと思いながら見上げていたんだ。
そうしたら呼ばれた、俺の名前。
わかってくれた!って、それがうれしくてうれしくて仕方がない!

「やっぱりこれって愛かな?」
「愛ね。」
まああいつなら、犬だって猫だって熊だってちょうちょだって、たとえなんだったって中身がイタちゃんならわかっちゃいそうだけど。笑いながら言われて、そっかあ、と思った。
俺もわかるかな?わかるくらいにドイツのこと、好きかな?
考えていると、まぶたが重たくなってきた。あ、シエスタの時間、だ。気づいたとたんにかくん、と眠りに落ちて。



そのシエスタの間に魔法の効力は切れたみたいで、目が覚めるともうすでに、いつもの2人に戻っていたのだけれど。


その魔法が及ぼした効果はまだ、消えなくて。


迎えに来たスペインを見上げる。
帰る帰らないで散々押し問答してドアを開けられた後、だ。

「ロマーノ。」
頬に触れる手。ふい、と視線を、逸らして。
「こっち見て?」
頼み込むような口調。…命令するみたいに言ってくれたら、やだって、つっぱねられるのに。そんな、優しく慈しむようなキス付きで言われたら。
しぶしぶ、視線を戻す。オリーブ。…心配そうなその色に、ちょっと驚いた。怒ってるかと思ったのに。

「また、俺の知らんとこで傷ついとったやろ。」
なあ、ロマーノ。俺アホやから、ロマーノが何考えてるか全部、なんてわかるわけないねんて。だから。
「教えて?なんでそんな、悲しそうな顔すんの?」
「…っ!おまえがっ!」
「俺が?」
…っそんな真剣な顔、すんなこのやろ!…怒鳴れなく、なる。まっすぐな瞳。知ってる、いつもそれが、俺に向けられてるのは。
「…かわいい、なんて言うから…。」
やっぱ、ヴェネチアーノの方がいいんじゃないか、って…。

告げて、きゅ、とスカートの端を握りしめる。
かわいい服とか着てたって、気づかないときはまったく気づかないくせに。
…あいつ絡むとすぐ、かわええとか言う、から。
不安になる。どうしても。こいつがどれだけ俺のこと好きだって思ってくれてるかは知ってても。
視線を下に落とすと、両手が伸びてきた。畑仕事で荒れた、でも温かくて大きな手。
頬を包み込まれる。それにうながされるように彼を伺うと、唇に、キス。

「やって。ロマーノは何でもかわええもん。」
イタちゃん褒めたつもりなんて全然無かったで?ロマーノかわええなあって。それだけ。
優しい声が、瞳が、そう告げる。
「でも、また俺言葉足りへんかってんな。ごめんな?ロマーノ。外身イタちゃんやからかわええなあって思ったわけやなくて、中身がロマーノやから、かわええなあって思ったんやからな?」
「な…っ!」
まっすぐすぎるストレートな言葉は、ものすごい速さで胸を、打って。

「ロマーノ。大好き。」
優しい声と、その言葉と、それと裏腹にしつこくて遠慮がない情熱的なディープキス、に。
…まあ勝てるわけもなく、きれいにノックダウン。ゲームセット、で。

口は忙しいので仕方なく、その背中に手を回して抱きつくことで答えにしておいた。




2人並んで、家へと帰る。隣を歩くイタリアは…うん。やっぱりこの、姿がいい。

「ねえドイツ。」
「なんだ?」
「俺、ドイツの外見がスペイン兄ちゃんだって女の子だって熊さんだってちょうちょだって、たとえなんだったって中身がドイツだってわかってみせるからね!」
…なんの話だ、というかなんでそんな話になったんだか。
がんばるぞー!って何をがんばるんだ。まったく…。
ぱたぱた走る姿を見送って、頭をかいて、ため息ひとつ。
けれどまあ、楽しそうだから、いいか。
ああ、でも。ひとつだけ。

「イタリア。」
呼び止めて、振り返る彼女を抱き寄せる。愛しい、姿。
「ん?」
「俺だって、おまえがどんな姿だったとしてもわかる自信はある、が。」
一番好きなのは、愛しているのは他でもなく。今の、その姿だから。
「だから、イギリスに頼んで、とかで変なことしないでくれよ。」
頼むから。面倒なことを自分から起こしにいかないでくれ。そう言うと、何故か彼女は頬を赤く染めて。

「…ドイツってほんと、自覚なしにジゴロの素質あるよね。」
「?何がだ?」
「ほら自覚ない…もう…。」
「だから何が。」
「…何でもなあい!」
あーもう!とぎゅう、と抱きついて来る体を抱きとめながら、何だろうなあと不思議に思いつつ。


「ドイツ大好き!」
「…俺も、だ。」
まあとりあえず、彼女が幸せそうならそれでいい。


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伊那様からのリクエストで「夫婦喧嘩した英がヤケで伊兄弟の中身⇔.独と西の反応」でした


こんな感じ…ですかね?正反対、を目指してみました…到達できたかはわかりませんが


こんなですが、少しでも気に入っていただけるとうれしいです
ありがとうございました!





























































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「フランスさんの馬鹿、ばあか」
ぼそぼそと呟くカナダに、イギリスは深くため息をついた。
「…やっぱりあんなやつにたくすんじゃなかった!」
「イギリスさん」
今にもフランスに喧嘩売りに行きそうなイギリスを、日本がやれやれとたしなめる。


何かといえば喧嘩のすることの多いイギリスとフランス。かつては喧嘩できれば何でもいい、という感じだった二人だが、最近の原因は、たいがい、カナダ、だった。
イギリスが育てた子供のうち、影の薄い、穏やかでのんびりとしたカナダは、昔からただ一人、しか見えていなくて。その相手であるフランスの方も、カナダに本気なのは見て取れて。
だけれどまあ、愛の国を自称する彼は、結構誰にでも愛情表現をする問題児。それをカナダもわかってはいるのだけれど。

「わかってるのと許容するのは話が別だと思うんですよ!」
「それはそうですね。」
たまりにたまって爆発してしまったカナダがうちにやってきたのは今朝のこと。
それから延々話を聞かされているけれど…聞けば聞くほど、カナダはまっっっっったく悪くないのだということがわかる。
うんうんとうなずいて、ただただ話を聞く。それが昼通り越して夕方まで続いていて。
一定時間おきくらいに、イギリスさんが怒ってフランスさんにケンカ売りに行きそうになって、それをたしなめる、という今日何度目かわからない繰り返しの後で、紅茶入れてくる!と立ち上がったイギリスさんを見送って、でもカナダさん、と呼びかけた。


「あなたは、彼と別れたいんですか?」
はっきり、と聞くと、ふつ、とずっと続いていた『嫌いなところ』を上げる声が、止んだ。
うろ、とさまよう視線。それから、ため息をついて。
「…いいえ。」
諦めたような声。やっぱり。小さく思って、笑う。
「だって好きなんですもん〜…。」
くた、と机の上に伸びてしまう彼女を優しく見つめる。

「…何ででしょうね?」
嫌いなとこは、ほんとにたくさんあるんですよ?でも、どうしても。彼を嫌いにはなれないんですよね…。
僕は、ふらんすさんが、すき。
甘い声がそう告げるのを聞いて、頭を撫でる。細い髪が絡まることなく指の間をすり抜けていく。

「そんなものだと思いますよ。」
私も同じですから。そう告げれば、少し頭が持ち上がって、こっちを見た。笑ってみせる。
「…そうですか。」
「そうですよ。」
「そうですね。…わかんないですねえ、恋愛、なんて。」
「本当に。」
くすくす笑いながら答えると、あーもう、恋愛って惚れた方が負けってほんとですよね!と彼女は起き上がった。

「おや。カナダさんの方が『惚れた方』、なんですか?」
「はい!絶対僕の方がフランスさんのこと好きです。だって、もう、表わせないくらいすっごく好きなんですから!」
きっぱり、言い切るから、小さくそうですか、と呟いて。

「だ、そうですよ?フランスさん。」

彼女の後ろに声をかけた。
少し前から彼女の後ろに立っていたその人の頬が、少し腫れているのは、イギリスさんだろうなあ、きっと。
「、へ?」
ぱちん、と瞬いて、一瞬遅れて振り返ったカナダさんを抱きしめて、彼は小さく、何か言った。
それだけでカナダさんが、泣きそうに微笑んだところを見ると、御し方を知っているというか、なんというか。

その向こうで厳しい顔でフランスさんにらみつけていた彼に、行きましょう、と唇を動かすと、渋い顔で、ちょっとした後でため息をついてうなずいた。


そっと部屋を出て、フランスのやつ…頭下げて来なかったら絶対入れなかったのに、ああもうカナダもなんであいつなんだか、とぶつぶつ言っている彼の顔をのぞきこむ。
「な、何だよ、日本…。」
「…目の前にいる奥さんより、既に結婚した兄弟の方が大事ですか?」
ちょっとすねたように言ってみせると、な、と真っ赤になってしまった。
かわいいなあ、と思って笑うと、む、とした表情の彼に、腕を引かれ、唇を塞がれた。


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さき様からのリクエストで「加が英のところに家出してくる話」でした〜

好きな方が負け、ということで…加は仏は知らないけど仏のこと大好きだと思います。
という感じが伝わるといいなと思ってます。

こんな感じですが、すこしでも気に入っていただけたらうれしいです。
ありがとうございました!