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いつのまにか隣に立っていた男の人に、イタリアはきょとんと首を傾げる。

「やあ!君とっても美人だね。」
その口調に、あ。ナンパ。とすぐに気付いた。もちろん、自分がよく使う言い回しだったから、だ。
聞きなれた自分の家の言葉に、グラッツェ、と答える。
「ん?イタリア出身なの?」
「…まあ。」
というか本人だよーと思いながら言葉を聞く。自分の家の人と話すのは楽しいし、ドイツは仕事の電話入ったみたいだったから、もうちょっと戻ってきそうにないし。

天気の話や、家の話(家の場所はてきとうに誤魔化したけど)をしていると、あ、そうだ、と切り出された。
「この通りもうちょっと行ったとこに、イタリアンのお店できたんだ、知ってる?」
「え、そうなの?」
それは知らない。そういえば、工事してたかも。思い出して瞬く。
「すごくおしゃれで、おいしいんだ。もしよかったら、一緒にどう?」
君みたいな可愛い子と一緒なら、楽しい時間が過ごせると思うんだ。
にこにことして言われた言葉に、苦笑して、首を横に振る。はっきり断らないと、だめなのはわかってる。(だって自分がそうだ。)

「ダメだよ。」
「ダメ?どうしても?」
「うん。だって、君はルーイじゃないもん。ルーイとじゃなきゃ楽しくないから、だからダメ。」
ちなみにルーイっていうのは、お、じゃない私の、大好きな恋人。とにっこり笑って答えると、突然肩を引き寄せられた。

「そういうわけだ。悪いが、彼女には先約がある。」
びっくりして見ると、少し頬を赤くした、ドイツの姿。
「ルーイ、電話終わった?」
「ああ。」
行くぞ、と声をかけられ、はあい。と答えて、喋ってた彼にチャオ、と手を振って歩きだした。

「まったく…ナンパだとわかっていたんだろ?」
ならすぐ離れろ。呆れた声に、いいじゃん。楽しく話せたんだから、と返す。ドイツだってたまに女の子としゃべってるくせに。近所の雑貨屋さんの娘さんとか。あそこのおばあちゃんの代から知り合いなのは知ってるけど。

「…俺とじゃないと、楽しくないんじゃないのか。」
しばらく黙った後で、ドイツがぼそ、とそんな風に言うから、思わず噴き出して、腕をぐい、と引っ張ってちょっとすねたその頬に、キスをした。



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「綺麗なお嬢さん、僕とおしゃべりしませんか?」
そんな風に声をかけられて、ちら、と本から目を上げた。
ちょっと軽そうな知らない男性一人。にこりと笑ったその表情は優しそう、ではあるけれど。
はっきり言って、興味ない。
視線をまた本に落とす。

「今日はいい天気だから、本を読むより、きっとオープンカフェでお茶したら素敵な休日になると思うんだけど。」
そんな風に言う声。向こうのカフェにおいしいケーキがあって、って…まったくもう、放っといてよ、ととぱたん、と本を閉じ、口を開いた。

「クラシックの3Bを全員フルネームで答えよ。」
「、え、」
「歌曲王と呼ばれ、数多くの歌曲を書き残した作曲家の名前は?」
「は?」
「ショパンの『華麗なる大円舞曲』を演奏しなさい。」
「え、えっと…。」

言いよどむ彼を横目で見やって、ため息。
「私を誘うなら、これくらい即答できるようになってから、にしてくれない?」
迷惑、と言わんばかりに言ってやれば、何もいえなくなったのか、どこかへと去っていった。
やれやれ。やっと静かになる、と本にまた、目を落とす。
…静かになるって思ったのに。かつこつ、とまた足音。今度は誰、と思ったら。

「ヨハネス・ブラームス、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン。次は、フランツ・ペーター・シューベルト、ですね。」

すらすら、とさっきの二問の答えを言う声に、ぱっと顔を上げる。
柔らかく微笑んだその姿は、見間違いようもなく。
「ピアノがここにはありませんので、最後の課題は私の家で、で構いませんか?」
「ローデリヒさん!」
人前なのでそっちの名前を呼ぶと、お待たせしてすみませんね、エリザベータ、と言われた。

いえ、と首を横に振る。デートの待ち合わせにうきうきしすぎて2時間も前に到着したのは私の方だ。
「では、まいりましょうか。」
「はい!」
差し出された手をとって、笑って歩き出した。



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ベンチに座って、ぱらりと本を開く。…読みかけの本。もう何度も読み返した本だけれど。待ち合わせにはその方がいい。
会議終わりに、出かけようとイギリスさんと約束したのだけれど。イギリスさんはちょっと話し合いに残らなくてはいけなくなったので、先行っといてくれと言われたのだ。
だからとりあえず、着替えて駅前で待っているのだけれど。

ページをめくる。イギリスさんからいただいたものだ。英語の勉強になるから、って。古い本。何度も辞書片手に挑んで(諦めかけたことも何度もあるけれど。)。
今は、辞書なしでも、というか内容をだいたい覚えている。
それでも、ついつい読み返してしまうのは、…思い出深い本だから、だろうか。
読んでどうしてもわからなくて。どうした?と休憩室で声をかけられ、ここが、と言うと丁寧に説明してくれて。
顔の近さにどきどきして半分くらいしか聞けていなかったというのは、彼には秘密だ。
どんなときも、鞄に入れて手放さなかった本。大事な、思い出だ。

そのとき、ふ、と名前を呼ばれた気がした。ぱっと顔を上げる。

と。知らない男性が目の前にいた。
「…?何かご用ですか…?」
イヤホンをはずして見上げると、いやあの。と口ごもって。
「菊!」
呼ばれて、あ、イギリスさん、と立ち上がる。
何故か遠ざかっていく男性を見送って、イギリスさんを迎える。

「大丈夫か?」
「はい?」
「あれナンパだぞ」
「え。」
言われて瞬く。…もしかしてずっと声かけてきてたのか、も?
「音楽聞いてたから全然気づかなかったです…」
「そうか…」
悪いことしましたかねえ。そんなことないだろ。会話を交わして、歩き出す。

「そういえば、どうして俺が呼んだのわかったんだ?」
すぐ近くにいた男の声さえ聞こえてなかったのに。
言われて、ふ、と浮かんだ理由にかっと頬が熱くなった。
「ななななんとなくですっ」
「そうか?」
首を傾げる彼にそうです!と焦り気味に答えた。

だって。声だってなんだって、逃したくないんですよ、あなたが好きだから。なんて言えるわけがない!



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どういう状況だかさっぱりわからない。
とりあえず、目の前にいるやつらを睨みつけた。

どうやら、誘拐、されたらしい。少し前までスペインといたのに、あいつがまた余計なこと言うから、置いて一人で先歩いているときに腕を引かれて、口に何かあてられ、意識が遠くなって。
気づいたらここにいたわけだけれど。

「何だよ、おまえら。」
尋ねるが答えなし。さっきしゃべっていたのを聞くかぎりでは、どこかの金持ちに身代金要求するらしい。…つまりは間違われたんだろうな。そこの娘さんと。
思いながら、睨みつけながら周りを見回す。
…どこかの倉庫だ。今は使われてないらしく、埃がたまっている。見覚えは、ない。
ランタンだけが暗く室内を照らしている。風が、後ろから吹いて窓を揺らす。…怖い。
睨みつけていないと泣いてしまいそうだ。
腕と足を縛られてしなければ速攻で逃げている、のに。
…早く助けに来いよ、スペインのばかやろー…
祈るようにそう思った時、窓が小さく、鳴った。

「…おまえら、誰と間違ったのか知らねえけど、俺で身代金とるなんて無理だからな。」
はっきりと、そう言ってやる。まっすぐ、リーダー格っぽいやつを見て。
にい、と笑った。
「ていうかおまえらここで終わりだぞ、ちくしょー」
「当たり前やん。俺がこてんぱんにするんやから。」
後ろから響く声。咄嗟に横に転がるとがしゃん!とガラスが突き破られた!
「さあて。」
ぱきり。指を鳴らして入ってくるのは、スペインだ。後ろから聞こえた、ノックと、避けてな、と言う声で俺はわかっていたけれど、犯人達はにわかに慌てだして。
「この落とし前はきっちりつけさしてもらうで。」
スペインは凶悪に笑った。

帰り道。抱き上げられて帰る。
「遅せえよ馬鹿!」
「ごめんな〜怖かったやろ」
「べ、つに怖くなんか…!」
そう言うとそうなん?と首を傾げられた。嘘だよ馬鹿本気で怖かったんだからな!そう怒鳴ろうと口を開きかけて、閉じて、首に回した手の力を強めた。
「ロマーノ?」
「……離すな、ちくしょ…」
少し泣きそうな声が出てしまった。鼻をすすると、ぎゅ、と抱き寄せられた。
「…ごめん。」
小さな声に、馬鹿、と呟いて抱きしめた。

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「ん…」
ぴく、と眉を寄せ、何度か瞬きながら目を開ける。
「…あれ?」
どこだろここ…
周りを見回して、ゆっくり立ち上がる。スカートについた埃をぱたぱたはたく。
…見たことのない部屋だ。どこだろう?
とりあえずドアのノブを回してみる。
…鍵かかってる。

「…?」
あれー?と周りを見回してみると、窓があった。…高いとこらしい。空が見える。
どこなんだろ?窓に寄っていって。
こんこん、と音がした。
「…?」
窓の向こうに、ひらひらと手を振るフランスさんの姿!
「フランスさん!」
窓に近づくけれど、窓も鍵がかかっている。
「…もー…フランスさん、ちょっとどいててください」

避けて避けて、とジェスチャーすると、苦笑しながらどいてくれた。
その間に部屋の中から埋もれた火かき棒を発見してこれがいいかなと窓際に持って行く。
「せー…のっ!!」
窓に向かって振り下ろす。がしゃん!と音がして、狙った古い鍵が壊れた。
緩く開いた窓から、カナ、大丈夫?とフランスさんが手を伸ばしてくれた。
その手を掴んで、よいしょと窓枠を越える。

「怪我は?」
「ないですけど」
「そうか…よかった…」
「あの…ここどこですか?」
聞いてみると、カナ…もしかして自分がさらわれたことに気づいてない?と言われた。
「さらわれた!?」
え、だって、フランスさんとデートしてて、いきなり意識が遠くなって…?
「あれ?」
「わかった?まったく…カナダはのんびりさんだなあ…」
苦笑しながら、横抱きに抱き上げられた。
「わ」
「とりあえず逃げるよ。…ちょっと危ないことするけど大丈夫?」
ベランダの手すりに結ばれたロープを掴んで言うフランスさんにはい!とはっきり答える。
「お。いい返事。」
「フランスさんのこと信じてますから!」
にこ、と笑って言うと、その期待には答えないとな?と言って真剣な表情になった。「しっかり掴まっておいて。」
「はい!」
体を預けて、その首にしっかり抱きつくと、彼はひらりと手すりの外に体を踊らせた。


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華宵様からのリクエストで、「ナンパか誘拐される話。書いてないとこ全般的に」
でした

一組一つが限界でした…全部は書けてないですがすみません…!
裏テーマは女は強いです。

こんなかんじですが少しでも気に入っていただけるとうれしいです。
ありがとうございました!









































































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スペインはヴェネチアーノが好きだ。
会議やパーティーで会えば必ずしゃべりかけに行ってしまう。俺をほっといて。楽しそうに!本当の本当にいつもいつもいつも!

毎回その後は俺が機嫌悪くて、怒鳴ったり喧嘩したり。いい加減俺が怒ってることに気付け馬鹿と毎回思うのだが意味なし!んのKY!
…いい加減諦めるかなんかすりゃいいと自分でも思うのだけれど。
だって、嫌だ。あいつは俺のだ。言わないけど。…言えないけど。あいつだって、俺はロマーノの、やでとか言うくせに。

…それに、ヴェネチアーノにとられるのが、一番怖い。そんなのありえないって知ってるけど。あいつはあいつでじゃがいもに夢中だし……それもそれでむかつくんだけど!


ああもういらいらする、と思いながらヴェネチアーノと話すでれっでれしたスペインの横顔から目を離すと、すぐ近くにじゃがいもの姿を発見した。
その背中見てるだけでだんだん怒りが沸いてきて、その無駄にでかい背中に向かって歩き出した。
「おい、じゃがいも野郎!」
ぎく。と肩が揺れて、振り返る顔の嫌そうなこと!
「何だイタリア兄…」
「おまえが悪い!」
「何がだ何が!」
うるせー!と怒鳴りながら、とにかく朝から起こったこと全部こいつのせいにすることにした。



ぎゃいぎゃい、と大きな声が聞こえてきた。あれ、兄ちゃんの声、と思って見ると、あーまたドイツにつっかかってる!
「もー兄ちゃんったらまた…」
「…ロマーノって、」
ん?と隣を見ると、まっすぐ兄ちゃんの方を見るスペイン兄ちゃんの瞳。

「何?」
「ドイツと一緒にいるとき、いつもあんなん?」
「うん。そーだよ。」
なんか気が合わないみたいなんだよね、と呟く。
俺としては仲良くしてほしいんだけどなあ…。だって兄ちゃんドイツの話するだけで怒るんだもん…

「…あんな真剣な顔、俺あんまり見たことない…」
真剣?なんかちょっと、違う気がする。
「えー、兄ちゃんただ怒ってるだけだと思うよ?」
そうこう言ってる間に、兄ちゃんドイツに殴りかかりに行くし!ああもう女の子なんだから(そうでなくてもだけど)勝てる訳ないのに!

慌てて騒ぎの中心に駆け出して、兄ちゃんの腕を後ろに引きずる。
「兄ちゃんダメだってば!ごめんねドイツ〜」
「離せヴェネチアーノ!」
「もー、仲良くしてよー!」
「うるさい!」
ぐい、とつかんだ腕を振られて、思わず離したら、兄ちゃんがまたドイツの方へ行く前に、俺の後ろから伸びてきた手に、捕まった。

「わ、わ!」
そのまま抱き寄せる腕は、他でもない、スペイン兄ちゃんのもの。
「何だよスペイン!」
後ろから抱きつかれた兄ちゃんが怒鳴るけれど、返事はなく。
「…スペイン?」
妙に思ったのか、兄ちゃんがどうした、と声をかけて。

「…俺のやもん。」
「は?」
「…ロマーノ俺のやもん、ドイツにはやらへんもん!」
「何言って、ちょ、苦し、こら、スペイン!」
ぎゅううと兄ちゃん抱きしめて、肩に顔を埋めてしまったスペイン兄ちゃん。


「どうしたんだろ?」
ねえドイツ、と隣に来たドイツを見上げる。
「…何でもいいが俺を巻き込まないで欲しいんだがな…。」
深くため息をついて、ドイツはくしゃりと俺の頭を撫でた。

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ゆきはら様からのリクエストで「西と伊で仲良いのを見てもやもやして独に絡むロマと、それを見てもやもやする西」でした

西は、自分に向けたことのない顔を独に見せて欲しくないなぁと思ってます。無自覚だけど。そんなかんじで

こんなですが、少しでも気に入っていただけると嬉しいです
ありがとうございました!