※童話パロです。眠れる森の美女です。苦手な方はご注意ください。 その知らせにわあ!と国中が歓喜の喜びに沸きました。 この国に、姫が生まれたのです! この国の王と王妃は、とても賢く良い君主で、仲がよいことでも有名で、そんな二人の子供となれば、皆喜ばないはずもなかったのでした。 すぐに、その姫に名付けの儀式を行うために、善い妖精が集められます。その中には、善い妖精の長であるリラの精、日本の姿がありました。リラの精は、滅多に人間の前に姿を現すことがなかったのですが、この国の王妃とは昔からの知り合いだったので、祝福にやってきたのです。 「おめでとうございます、ハンガリーさん!」 ふわり、と微笑んだリラの精に、ありがとう、日本さん、と王妃は、うれしそうに微笑みます。後ろには、王のオーストリアの姿。おめでとうございます、とリラの精が声をかけると、ありがとうございます、あなたに来ていただけるとは光栄ですよ、と優しく微笑みます。その表情は本当にうれしそうなものでした。 王妃が、大事に抱えている腕の中をのぞきこむと、そこには、すやすやと眠る、可愛らしい、まるで天使のような赤ちゃんが!…この国のお姫様です。その愛らしさは、見た人全てが思わず微笑むほど! 「うわーうわー!かわえええ!」 「……こんなに小さいんだな……。」 「この子は美人になるぞ〜。」 「…わあ、今笑いましたよ!」 楽しげに赤ちゃんをのぞきこむ自分のところの妖精たちに、こらこら、と妖精長が声をかけました。 「自分達が何のために来たか、忘れてはいないでしょうね?」 「はーい。」 返事が揃いました。彼らは、彼女に祝福を授けるためにやってきたのです。 「まず俺やな。俺は、元気な子になりますように!」 「…そう、だな、じゃあ…明るい子になるように。」 「俺は、誰にでも優しい子になるように。」 「僕は、素直な子になりますように。」 四人の妖精がそれぞれ祝福を授けます。きらきらと舞う綺麗な魔法の粉に、姫が瞳を開けて、きゃあ、と笑いました。 「それでは。」 次は私ですね、とリラの精が言いかけたところで、突然、ごお!と風が吹き荒れました。 きゃあ!と上がる悲鳴。うえええ!と姫も泣き出します。動揺の声が上がる中、風はぐるぐると竜巻のように吹いて、突然、止みました。 そこに現れたのは、真っ黒なフードをかぶった人影。 「こーれはこれは国王陛下!ご機嫌うるわしゅう。」 「…イギリス…!」 それは、招かれざる客、悪い妖精イギリスでした! 「みたところ、名付けの儀式のようだが…どうして俺のところには招待状が来なかったんだろうな?」 よく見ると少し目が潤んでいます。…一人仲間はずれにされたことをとても気にしているようです。 「あなたに来られるとやっかいなことをしでかすからですよ、決まっているでしょう!」 なかなか辛辣に言う王です。ぐ、と一瞬つまって、それから、ふん、と悪い妖精はちら、と姫を見て、杖を振り上げます。 「じゃあ、俺からも祝福だ!姫は、20回目の誕生日に自分の指を刺して、死ぬ!」 ごお!と黒い風が吹き荒れて、なんと、姫には呪いがかけられてしまいました! 悲鳴に、あーすっきりした!と悪い妖精は笑って、じゃあな!あーっはははは!と笑いながら、再び強風を吹き荒し、去っていきました。 姫にかけられた呪いに、王妃様は泣き出してしまいました。 「二十歳で死ぬ、なんて…なんてかわいそうな姫…!」 その肩に手をかけて、王もつらい表情をしています。 そんな二人の前に、ふわり、とリラの精が降り立ちました。 「ご安心ください、お二方。…まだ、私の祝福が残っております。」 そう言って、姫に向き直ります。姫の頭を撫でると、泣いていた姫は、ぱちり、とその瞳を開けました。 それを見て、ふ、と彼は杖を振ります。 「彼の力は強すぎて、呪いを完全に取り払うことはできません。が、軽くすることはできます。姫は指を刺すでしょうが、死ぬことはありません。100年間の眠りについたあと、いつか王子様がやってきて、彼の口づけによって目を覚ますでしょう。」 口づけには魔法をとく力がありますから、とそう言いました。きらきら、と舞う粉をつかまえて、姫はうれしそうに笑います。それを見て、王と王妃はほっとため息をつきました。 こうして、姫には5つの祝福と1つの呪いがかけられることになりました。 姫は、イタリア、と名付けられ、すくすくと育ちます。 明るく元気な姫は、国民たちの間でも大人気で、その愛らしさと優しさから、求婚者は後を絶ちません。 少し厳しいけれどよい父である王と、優しい王妃に愛情をたっぷり注がれ、育てられた姫は、今日、二十歳の誕生日を迎えます。 「おはようございます、姫様!」 「お誕生日おめでとうございます!」 「ありがとー!」 ぱたぱた、と王城をかけまわる姫は、みんなの声に答えながら、何かを探しているようでした。 そして、唐突に窓に飛びついて、おーい!と声をはりあげます。 「にほんー!」 呼ばれたのは、庭でお茶を飲んでいたリラの精でした。…彼はもしものことがないように、と王城で成長する姫を見守ってきたのです。 「おはようございます。どうかしましたか?」 「おはよう!あのね、母さまが探してたよ。一緒に行こう!」 「おや、そうなんですか。ありがとうございます。」 二人はならんで歩き出します。姫にとって、物心つくより前からずっと一緒にいたリラの精は、よい友達なのです。 「今日で二十歳だよ〜。」 「そうですね。おめでとうございます。」 「ありがと!…えへへ、誕生日ってうれしいよね。みんながお祝いしてくれるもん!」 にこにことうれしそうな姫は、今日という日がどういう日なのかを知りません。 呪いのことを、王と王妃とリラの精で話し合った結果、伝えない方がいいだろうということになったのです。 「そうですね。…ですが、尖ったものには気をつけてくださいね。怪我をしたら大変ですから。」 「はあい。…でも俺、尖ったものって見たこと無いよ?」 それはそうでしょう。呪いがかかったあの日に、尖ったものは全て王の命令で処分されていました。以来二十年、この国には尖ったものは存在しません。 「用心にこしたことはないですから。」 「はーい。…あっ母さま!」 ぱたぱた、と姫が駆け出しました。がばっと抱きついたのは、彼女の母親、王妃様です。 「日本つれてきたよ!」 「ありがとうイタちゃん。いい子ね。そろそろ着替えていらっしゃい。パーティの準備しなくちゃ。」 「はーい!」 じゃあねーと走っていく姫を見送って、王妃はため息をつきました。 「…今日ですね。」 「今日ね。…ねえ日本さん。…イギリスの、呪いは。」 「…起こさないことを考えて行動はしていますが…強い、ですよ。」 「そう…。」 もう一度ため息をついて、ああダメダメ、笑わなきゃ。あの子の誕生日なんですから!とそう王妃は拳を突き上げた。そういう明るいところが彼女のいいところだなあ、とリラの精は微笑みます。 しかし、見えないところでその表情をふ、と曇らせました。…けれど、ハンガリーさん。彼の呪いは、本当に強力なんですよ。そう、ため息をつきました。 そして、姫の誕生日パーティがはじまりました。 豪勢にはじまったパーティに、うわあ!と姫はうれしそうに笑いました。 なんていったって美しい姫の二十歳の誕生日です。それを王が少しでも手を抜くわけがありません! たくさんの人々が、おめでとうございます、姫、とたくさんのプレゼントを渡します。 姫はありがとう!とうれしそうに全部を受け取ります。中には、隣国の王や、リラの精の親しい妖精たちまでいて、三人がその対応に追われているのにも気付かず、姫はプレゼントの山にきらきらと目を輝かせました。 「おめでとうございます、姫。」 貴族の青年にそう言われて、薔薇を差し出されました。 「わあ、ありがとう!…綺麗だね!」 「そうでしょう。うちの自慢の薔薇です。…それと。」 これを、と差し出されたそれに、何これ?と何の疑いもなく、手を伸ばして。 その手に、ちくり、と。針のような、尖ったそれが刺さりました。 「…ふ、ふふふははは!」 笑い声に、はっと王や王妃が振り返ったときにはもう遅く。 姫は、ふらり、とその場に崩れ落ちてしまいました。 「姫!」 「じゃあ、これで呪いは完成した!」 あはははは!と笑って、貴族の格好をしていたイギリスは、満足げにごう!とその姿を消しました。 崩れ落ちた姫に駆け寄る王と王妃。 慌てて呼吸と脈を確認すれば。…すう、と彼女は穏やかな寝息を立てました。 「…よかった。ちゃんと私の祝福が発動したようですね。」 ほっとそう言ったのは、リラの精。そう、彼の祝福のおかげで、姫は眠っているだけなのです。 「…百年、ですか。」 「ええ。ですから、みなさんにも眠っていただきます。」 彼女が起きたとき、寂しくないように。 そう言って、ふわり、と彼は飛び上がりました。 杖を持ってターンすれば、きらきら輝く魔法の粉が瞬く間にお城中、国中に広がります。 それを吸った人たちは一人残らず、眠ってしまいました。すやすやと寝息だけが聞こえる国で、リラの精はほう、とため息をつきました。 その魔法が解けるのは、百年の後。 …姫が目覚める、そのときです。 次へ 戻る |