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「はいっドイツの分!」
中庭のベンチに座って、当たり前のように渡されたそれに、ちょっと待て、と思わず頭に手を当てた。
作ってきてくれと頼んだ覚えは無い。…作る作らないの話が会話に上ったことも、ない、はずだ。覚えている限りでは。


ではなぜ、こいつのかばんの中から、俺の分の弁当が出てくる?
「だって、ドイツいつも購買でしょ?だったら、俺が作ってこよーと思って。」
今日はねー、パスタとー、ポテトサラダとー。そう言いながら自分の弁当箱を開けるイタリアに、いや、しかし、と呟く。金が浮くのは非常にうれしいけれど。…けれど。他にいろいろ問題がある。

例えば、こんなところを誰かに見られたら、愛妻弁当やらなんやらかんやら言われて、それが例えばフランスとかの耳にでも入ったら、確実にからかわれる。それは避けたい。
後は、普通に食費とかの問題だ。浮いた分、イタリアが払っていることになるわけで。…そういうのは、やっぱりよくないんじゃないか、というか申し訳ない。し。

「…俺の料理、食べたくないの…?」
目をうるませたイタリアに、う。と言葉をつまらせてため息。それでも弁当に手をつけない。

つけたら負ける。絶対負ける。イタリアの作る料理がおいしくなかったことなどなく、それを素直に口に出せば、「やったー!じゃあ明日から作ってくるね!」→断る→泣きそうに「だめ…?」→許可→「やった!ドイツ大好き!」→明日からおそろいのお弁当、となるのが、目に見えている…!

今までの経験からいってほぼ間違いない未来予測を、できるだけ遠ざけようと、せっかくなんだが、イタリア、と言おうと口を開いて。
「あっ、そっか。ごめんねドイツ!」
「は?」
フランス兄ちゃんが言ってたの本当だったんだー、なんて不穏な言葉におい?と声をかけるが、イタリアは聞いておらず、俺の分だという弁当を開いて(中にハートマークのハムの乗ったポテトサラダが見えた気がするが気のせいか!)フォークで一巻きパスタを絡め取って。
ずい、とこっちにむけて突き出して。

「はい、あーん☆」
きらきら笑顔でそう、言われた。


「あーん。」
……いやいやいや落ち着け落ち着けでなければまたあいつらにからかわれたりなんたりいやでもこれはかわいすぎるいやしかしでもけれど…

ちら、と見る。大きく開かれた琥珀。希望と信頼と愛に満ちた、瞳。
こうすれば俺が喜ぶ、とかフランスに吹き込まれたのだろう。…それを微塵にも疑わず、ただただ俺が答えてくれる、と信じているのだ。ただ、純粋に。
…その様子はもう愛らしくて可愛くて愛しくて仕方が無くてもう、ここが俺、もしくはイタリアの部屋だったならば迷わず力一杯抱きしめて、イタリアに痛い痛いとか言われてああすまない、とかいうやりとりをしていることが間違いないほどだ。というかもうここでもいい。抱きしめたい。ここが公共の場(というか外)であるということだけが、かろうじてブレーキをかけているわけで。ああでも可愛い。本当に可愛い。こいつが笑顔でいてくれるためなら俺はなんだってしそうになるんだけれど、明日からからかいまくられる学園生活を送るのは本気で勘弁して欲しい。…だってあいつら本当にしつこいんだ…それに、その矛先がイタリアにまで向かないとは限らない。


「あーんv」
天使のようなそれは、今は、小悪魔の所業にしか見えない。
すまない、今日は食欲がなくて。そんな言い訳を考え付いて、困ったように笑って見せて。
「……食べないの…?」
きゅうん、と落ち込んだ子犬のような表情をされて。

たとえ悪魔であろうと天使であろうと、イタリアが愛しい可愛い恋人であることに、変わりはないのだ。
まあつまりは、そんなかわいいイタリアに、勝てるはずもなく。



結局、根負けしたドイツが、彼の手から弁当の中身を全部食べさせてもらうはめになり(いいから、と断ろうとしたらお願い、とうるうるした瞳で見上げられるのだからまったく…確信犯か、確信犯なのか。)明日は何が食べたい?と目をきらきらさせるイタリアに腕をくいくいと引っ張られる姿は、いつもの風景として、学園の喧騒に溶け込んでいた。

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やーね様からのリクエストで、「学ヘタで、イタちゃん手製のお弁当を二人で食べながらいちゃついてる独伊」でした

お弁当+いちゃつく、で「あーん。」しか浮かばなかったのです…独の葛藤、な感じで

こんなですが、少しでも気に入っていただけたら嬉しいです。
ありがとうございました!










































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ドイツの仕事中にイタリアが突入していくのなんて、よくあることだ。

今日は、犬達をつれてドイツ家の執務室にどっいつー!!あっそぼー!って突入して。
ええいおまえは少しくらい待つということができんのか!!ちょっと待ってろ!と怒鳴られて、部屋から放り出されて。
ドイツの部屋の前の廊下で待てされた犬よろしく(というか犬と一緒に)お座りして待っている今に至るわけで。

「イタリアちゃん!」
声をかけられて、ん?と顔を上げると、楽しそうな笑顔で手を振ってくる人物。
「あー、プロイセンだ。おはよー」
「おはよう!何やってるんだ?」
「うんー、遊びにきたんだけど、ドイツに追い出されちゃってー…。」

待ってるのー、ねー、と隣にお座りした犬の頭を撫で撫でして。
「まったくヴェストのやつ…こんな可愛い子を追い出すなんて…。」
ドアの向こうをにらんで、はあ、とため息。それから、チャンス到来、とにこ、と笑顔になる。イタリアと二人きりなんて滅多にないからだ!
「あんなの待ってないで、俺と遊ぼうぜ!」
「え、でも…。」

俺ドイツ待ってないと…と言うと、どうせ午前中は出てこないぜ?と一言。…それはほぼ間違いないだろう。だって、机の上には例によって書類が山積みだったし…。
「だからさ、仕事終わるまで、さ?」
「…うーん…。」
どうしようかなあ、と困ったように眉を寄せて。

そんなイタリアちゃんもかわいいなあとプロイセンが少々でれっとしていたら、でも、やっぱり俺、と小さくかぶりを振るイタリア。

…ここで最終兵器投入。と、爛々とその紅玉の瞳を輝かせて、イタリアの耳元に口を寄せた。


「俺の部屋来たら、ドイツの丸秘写真あるけど。」
「えっ!!」
ぱあ、と表情が輝いた。単純で純粋で、そんなところも可愛い。

「行く!」
「よし、じゃあ…俺の部屋でいいことして一緒に遊ぼうぜ?」
こっそりと混ぜた意味に気づきもせずに、イタリアはドイツの丸秘写真ってどんなんだろうとわくわくしていて。

じゃあ行こう、と言われたイタリアが立ち上がったとき、くん、と隣でおとなしく座っていた犬が、イタリアの服を引っ張った。
ヴェ?と彼が振り返った瞬間。


ばんっと音を立てて目の前の扉が開いた。もちろん開けたのは、その部屋の主。


「イタリア。」
開いた体勢のまま、目を閉じたドイツに呼ばれて、え、何、とイタリアが首を傾げた。
「そんなところで待ってないで、中で待ってろ」
アスター達連れてきていいから。
そう言われて、ぱあ、と彼の表情が、さっきの比でないくらい、嬉しそうなものに変わった。
「やったーっ!」
イタリアがおいで、とばたばたと犬達と入っていって、来客用のソファに座って犬達と遊びだしたのを確認し、兄を鋭い青い瞳でにらみつける。
おもしろくないのはプロイセンだ。…後少し、だったのに。
「いいだろちょっとくらい」
「だめだ。」
即答に、ちら、と見る。…真剣な瞳。一瞬、イタリアが遊ぶのに夢中になってこっちの会話なんて聞いていないことを確認し、また視線が戻ってくる。
「…イタリアは、何があっても渡さない。」
それと同時にうー、といううなり声。
見下ろすと、イタリアと一緒に部屋に入っていったはずの一匹が、にらみ上げてきて。
「おまえらほんともうそっくり…」
嫌になる。そう呟いて、ため息。
「わかりましたよ〜…ったく…あー一人楽しすぎるぜ〜…」
そう言いながら廊下を歩いていく兄を見送って、というよりは戻ってこないことを確認して、後ろでわああドイツ助けて〜とまた情けない声を上げて騒ぎ出したイタリアに、小さくため息をついて、けれど少し笑って、ドアを閉めた。


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リクエストで、「伊好きの普から伊を守る独」でした

なんか…こう、伊の知らないところで火花が散らされてると萌えます。みたいなお話…のつもりです


こんなですが、少しでも気に入っていただけるとうれしいです
ありがとうございました!