. きらきらきら、鮮やかな、海の名を持つ宝石の色 「?イタリア、それはなんだ?」 「アクアマリンだよ」 宝石。綺麗でしょう?そうだな。 そんな会話を交わしながら、石の中をのぞき込む。きらきらとした光が、まるで海の中にいるみたいな気分にさせる。 「海の力の宿った御守りなんだよ。」 昔、仲のよかった船乗りさんにもらったものだ。これがあれば、何事もなく順調に航海を終えられるのだと。 「そうか。」 「うん。」 輝く光は、まるで。 …まるで、ドイツの瞳のようで。 「ねえ、ドイツ」 なんだ。そう素っ気ない返事が返ってくる。 だけど、俺は知ってるんだ。そんな返事してるけど、資料に目を落としたままだけど、返事をしたからにはちゃんと話を聞いてくれてるって。いつも、まったくおまえはって怒るけど、それは心底俺を心配してくれてるからだって。 誠実で優しいドイツ。そんなところが大好きで。 いつのまに、その好きが、友達の好きから恋人の好きになったんだろう? 気づいたときには、もう、夢中で。 嫌われたくない。よく見られたい。…じたばたして失敗することも多いけど。 でも、そのうちに好きって言わなきゃどうしようもなくなって、好きで好きで仕方なくて。 …もしかしたら、嫌われるかもしれない。それはすごくすごくつらい。だけど、言わなきゃ。そうしないと、前にも後ろにも動けない。そう、思って。 お願いです。俺に、好きって言う勇気をください。 宝石を握りしめて、祈る。 海の力を持つ、石。アクアマリン。 宝石言葉は…勇敢。 「あ、のね、ドイツ。」 「ん?」 勝負は、これから。 小さな鮮やかなグリーン。柔らかい光をもつそれは、美しい宝石。 もらいものだ。小さなエメラルド。幸運を運ぶ石、だと。 『ただでさえ苦労を背負い込む性格してるんですから。御守り代わりに持っておいたらどうですか?』 …余計なお世話だ。まったく…。 けれどまあ、小さいけれどそれは本当に綺麗で。まあ、持っておいても問題はないか。とそう思って。 持っていたからといって何がどう変わるわけでもなく。 またイタリアの突撃をうけて、仕事中だからおとなしくしてろ!と怒鳴って。 ため息一つ。それから、資料に目を通す。 …別に、イタリアが来ることはいやじゃない。むしろ歓迎したい。 なぜなら、俺はあいつが好きだから。 いつから、なんてもう覚えていない。いつのまにか、友人、から、大切な人に昇格していた。 それでも、言う気はなかった。言える訳がなかった。あいつも俺も、男、で。 …それに、あいつは友人としてしか見ていない、だろうし。 だから、突撃してくるあいつをいなして、一緒にいる。それくらいの距離でいいと思う。 …それ以上を望んでしまったら。…どうなってしまうか、わからない。 きら、と光るものが見えた気がして顔を上げる。 イタリアがもつ石に気がついた。 「?イタリア、それはなんだ?」 「アクアマリンだよ」 御守り、なんだと言われて、そうかとつぶやく。 こんな偶然もあるんだな。思って、ポケットの中にいれたエメラルドに触れる。 「ねえ、ドイツ。」 「なんだ。」 素っ気なく返してから、しまった、と思った。 もっと愛想よくできたらと思うが、なかなかうまくいかない。これでは、いつか。 イタリアも、失ってしまうんじゃないだろうか。 自分の想像にぞっとして、首を振る。 ふと見やった先で、彼は、何かを祈っているようだった。 真剣に、熱心に。 イタリア、そう声をかける前に、あのね、ドイツ、と呼びかけられた。 「ん?どうした?」 そう尋ねると、彼は、小さく深呼吸。 「…俺、ドイツが好き。」 「……な、」 「友達として、じゃなくて、…恋愛って意味で、好きなの。」 真剣で、少し泣きそうな瞳でそう言われて。 ……信じて、なかったんだが。 幸運を運ぶ石、か。 「…本当、だったんだな。」 「え?」 何が?と瞬いた、彼のもとへと歩き、な、なに、と少しおびえた愛しい彼を優しく抱きしめた。 そうせずにはいられなかった。 「ふえ、」 「…俺も、好きだ。イタリア。」 耳元でささやいて、え、えっ!?と驚いた声を上げる唇に口づけた。 にほーん!と抱きつかれるのにもようやっと慣れた。 「日本日本日本!」 「はい。おはようございます、イタリアくん。」 そう返すと、今日も満面の笑顔の彼は、俺ねー、やったよ!と嬉しそうに言った。 「何をですか?」 「ドイツに告白!」 目を丸くして、それはがんばりましたね、と頭を撫でる。 じっと、片思いに悩んでいる彼の相談をうけていたから、それがどれだけ一大決心かはわかる。 「それで、結果はどうでした?」 まあきかなくてもわかるんだけれど。 この嬉しそうな顔を見れば! 「ドイツも俺のこと好きだって〜!」 やったあ!という歓声に、苦笑。 だって、周りから見れば、二人が相思相愛なのは丸わかりだから。二人ともお互いしか見えてないくせに、もじもじしてるから。 でもまあ、彼ががんばったのは事実なので、よしよしと頭を撫でる。 「イタリア」 遠くからの声に、あ、ドイツー!とイタリアくんが走り出す。思わず笑う。なんて甘い声で呼ぶんだろう! 抱きついて、危ないだろう、と頭を撫でられてごめん、とイタリアくんが笑って。 心の底から幸せそうな二人に、はてさて、お祝いの品は何にしましょうかと考える。 「そうですねぇ…ダイヤモンド、でも。…ああ、けれど、必要ないですかね。」 わざわざ差し上げなくても、もう持っていらっしゃるようですし。思って、くすくす笑う。 透明な輝きの美しいダイヤモンド。 象徴する言葉は、永遠の絆 戻る ヨクト様からのリクエストで『独伊で宝石にちなんだ話』でした。 こんな感じでしょうか?宝石言葉は好きなので、楽しかったです。独のほうは、一応、五月の誕生石にしてみました。 ちなみに私はペリドットの宝石言葉が好きです。夫婦の幸福。でも独伊じゃあないかなぁと。 こんなですが、少しでも気に入っていただけるとうれしいです。 リクエストありがとうございました! . 8cmって、どれくらいなんだろう? ふと思って、きょろ、とあたりを見回してみた。 見つけたのは、道のふちのなんだろう、ちょっと高くなってるところ。 これ8cmくらいかな、と飛び乗ってみる。 「お、お、お?」 そのまま、周りを見渡してみる。…少し高さが違うだけで、全然視界が、違う。 「へー…ドイツが見てるのってこんな感じなんだ…。」 呟いて、きょろきょろと周りを見回す。 と、細いそこから、足を踏み外して 「わ!」 バランスをくずして、後ろに倒れていく。 あ。なんか世界がゆっくり動いて見える。 そんなことを考えていたら、視界の中に、見慣れた顔を発見した。 目を丸くして、ゆっくり、世界と同じスピードで走ってくるように見える彼が、手を伸ばして。 「……っイタリア!」 声に、世界が元のスピードに戻った。 たくましい腕にぐい、と引き戻されて、ぼす、とぶつかるのは、地面ではなく、ドイツの固い胸板。 「ヴェっ」 「怪我はっ!?」 肩をつかんで顔をのぞき込んでくるドイツの顔がすっごく怖くて大慌てで首を横に振る。 「そうか…」 はあ、と深くため息。 「気をつけてくれ頼むから…」 そう呟かれて、ごめん、と謝る。 わかってる。今のは危なかった。頭を強打していたら、命さえ危なかった。 「…で?何してたんだ?」 おまえの奇行はいつものことだが、なんてひどい… 「…ドイツがいつもどんな世界見てるのかなぁって…」 「は?」 見てみたかったんだ。ドイツの見ている世界を。あの蒼くて綺麗な目には、何が見えてるんだろうって。気になったらいてもたってもいられなくて、今に至る、わけだけど。 ほら、と段差に乗ると、ほら、ドイツと同じ目の高さ。 「ね?」 にこ、と笑ってみせたら、理由はわかった。とあきれた顔。 「が、それで危ないことをするな。」 見ていてはらはらする…そう言われて、ごめんなさい…と謝った。 「それに。」 「ヴェ?」 ひょい、と抱え下ろされた。もう大丈夫なのに…。 「そんなことをしなくても、教えてやる。」 俺が何を見ているのか、くらい。 そう、微笑まれて、つられて笑った。 「うん!」 じゃあ、俺も教えてあげよう。俺が見てる世界。明るい町並みに、まぶしい太陽。色とりどりの花に、きらきら光る噴水。 そして何より、世界中の誰より優しく笑った、ドイツの顔! じゃあ今何が見えるー?と聞いたら、そうだな、と辺りを見回して。 「…ジェラートの屋台」 「えっどこどこどこ」 あっちに、と言われて、食べるー!と駆けだした。 「俺が見ている世界、な。」 ドイツは小さく苦笑して、駆け出したイタリアの後ろ姿を見送る。 「おまえしかいない、…と言ったら、どんな顔をするんだろうな?」 ドイツー。ぶんぶん、と手を振る笑顔のイタリア。はーやーくー!元気な声に、今行く、と答えて歩き出した。 戻る 柳葉陽奈様からのリクエストで、「8センチの身長差のネタで独伊」でした。 縁石って、いうんですかね。道路のふちにあるあれ。8cmよりはもしかしたら低いかもとか思いつつ、なんですが… こんな感じですが、少しでも気に入っていただけたらうれしいです。 ありがとうございました! |