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少しは大人になれと本気で言いたくなった。
連日会議用の資料作りに追われ、その会議はといえばいつもの調子で馬鹿みたいに騒ぐだけで進まず、終わったら終わったで、残務処理に追われ。
やっとのことで家にたどり着いたのは、日付も変わろうかという頃。
イタリアには、先に寝るよう連絡してある。子供たちももう夢の中だろう。
はあ、とため息をついて、玄関のドアを開けようとして。

がちゃん、とドアが勝手に開いた。

「は?」
「お帰りドイツ!」
ドアの隙間から飛び出してきた影に抱きつかれて、とっさにバランスをとる。
えへへ〜ドイツだーとすり寄ってくるのは、ほかでもない愛妻で。
「イタリア…起きてたのか?」
「うん!」
元気のいい返事に、先に寝てろと言っただろう、とため息。
すると、だってーとか言いながら離れたイタリアが、鞄を奪って家の中に入る。
追って入れば、柔らかい笑顔。

「だって、疲れて帰ってくるのに、家の中真っ暗より、電気ついてて温かいご飯の方が嬉しいでしょ?」
だから。待ってようって。

そう言って、ぱたぱた駆け出すこの上なく愛らしい姿に。
…思わず、手を伸ばして、腕の中に抱き込んだ。
「ヴェっ」
声を上げるのも構わず、ただただ抱きしめる。
すがりつくように。
「ドイツ〜…?」
「もう少し。」
もう少しだけ、このまま。そう囁いたら、うん。と何も言わずにいてくれた。

そのあとも放せなくて。
ドイツ〜…料理しづらい…んー…ほらお風呂入らなきゃ…一緒に入るか。ヴェッ!?なんて会話を交わしながら(風呂は一緒には入らなかった。残念。)、やっとのことでベッドに倒れ込んで。まあ、やっとのこと、なのは抱きついたまま離れなかった俺のせい、なんだが。

離せなかった。もう、疲れてくたくたで。そこに優しくなんてされたら、もう。その優しさを、甘さを、手放せるわけがなくて。
イタリアもそれをわかっているみたいで、文句をいうものの、そのままにしておいてくれた。
寝るときだって、いつもならイタリアに腕枕とかして眠るのだけれど。
「今日は俺がしようか。腕枕。」
「…それはいい。」
なかなかしんどいからだ。腕枕というやつは。だけれど、抱きしめる、というよりは抱きつくように、体を寄せる。
見上げないと琥珀が見えない体勢は、珍しいかもしれない。
そう思いながら、肩のあたりに頭をおいて。
さら、と頭に手が触れた。見上げれば、頭を撫でるイタリアの、優しい母の表情。
「…お疲れ様、ドイツ。」
「ん…」
「おやすみ」
「…やす、み…」
優しい声と、甘い香りに、一気に睡魔が襲ってきて。
目を閉じるだけで、もう夢の世界。



朝になってぱちり、と目を開けると、…夢じゃ、なかった。
俺の腕の中で眠る金髪の。ガヴィじゃ、なくて。
「…えへへ」
思わず笑ってしまって、金髪をさらさらと撫でる。
昨日は、ドイツ疲れ切ってるみたいだった。がんばって待っててよかった。だって、こんなに頼るような、甘えるようなドイツを見るのは初めてだ。…うれしい。特別、みたいで。いや、特別なんだけど。俺奥さんだもん、わかってるんだけど、そうじゃなくて。…なんか。俺だけしか見たことない姿って、すごくうれしい。
ドイツはいつも、しっかりしてて頼れるから。だから。
「…あ、朝御飯作らなきゃ。」
そう思って、ベッドから出ようとしたら。
「ん…」
しがみつかれた。強い力で引き戻されて、あわわ、と思う。
「…どこへ行く」
かすれた声。に、ごめん、起こした?と振り返る。
少し寝ぼけたような、とろんとした瞳。
「ごめん、起こした?」
「…行くな」
ぎゅう、と抱きしめられて、でも、朝御飯、と呟いたら、はっきりした声でイタリア?と呼ばれた。
見ると、瞳の色がいつもの色に戻っていた。
「おはよう」
「お、おはよ…」
「どうした?」
「朝御飯…」
作らなきゃ、と言ったら、ああ。と腕を放された。…寝ぼけてた、のかな?
とりあえず服着よう、とベッドから降りると、ぐ、と体を後ろに引かれた。
「ヴェっ」
せっかく起き上がれた体が、またベッドに引きずり戻される。
ちゅ、と唇に触れる、熱。
「ど、ドイツ!?」
「おはようのキス、だ。」
あと、ありがとう、だな。
甘い声でそんなことを言われてかあ、と顔が熱くなった


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おん様からのリクエストで「伊に甘える独」でした〜

お疲れさまです、パパ。な感じで…独は子供達一緒じゃ甘えられないかなあと奥様のみです。
独伊家は就寝時間めちゃ早いと思います。イメージですが。

こんな感じですが、気に入っていただけるとうれしいです
ありがとうございました!




































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「はい、ドーイツ!ヴァレンティーノのプレゼント!」
ばさり、と渡されたそれに、ひく、と頬が引くついた。
どうせ何にも考えてないんだろうなあこいつは!
ぐしゃぐしゃぐしゃと頭をかき混ぜるときゃー何するのー!と悲鳴が上がった。

「…アリガトウ」
「何ー、何ー?」
わたわたと髪を直すイタリアに大きなため息をついて、大きな赤い薔薇の花束を受け取る。
こいつは何も考えていない。知ってる。買い物に行って、綺麗だなあと思ったから買ってきた、その程度だ。知っている。

「あのときだってそうだったよな…」
「ヴェ?」
忘れもしないヴァレンティーノ。あのときも、そう。こいつはあっさりと、薔薇の花束を。
「俺がどれだけ悩んだと…」
「あのときの話?」
うなずけば、だって知らなかったんだもん、ドイツのいえの風習なんて…と膨れた。
「…まあ、勘違いした俺も悪いのかもしれないが…」
「ドイツって信じ込むと周り見えなくなるよねえ…」
呆れた声を上げられて、う、と黙る。

ぱたぱたとコーヒーを入れに行く彼女を見送る。
「…そうは言ったって…な…」
そういえば、どうしてイタリアが俺を好きだと勘違いしたんだろう?男同士なのに。


「…そう考えると、不思議だな…」
「何が?」
「俺の勘違いが。」
そう?と言いながら、コーヒーを持ってきた。ありがとう、と受け取る。

「んー…不思議でもない、のかも」
「は?」
えへへ、と笑顔になった彼女の顔を見上げて、コーヒーを口に運ぶ。
「きっと俺、あのときからドイツが好きだったんだよ。」
大好きだから、赤い薔薇を、無意識に選んだのだと。きっとそれがドイツにも伝わったんだよと。そう華やかに笑うから。
コーヒーを机に置いて、深くため息をつき、ソファの背もたれにぐったり倒れ込む。

「ヴェ?ドイツ〜?」
どうしたの?そう首を傾げる彼女をできるかぎり無表情で人差し指で呼ぶ。
「俺、な、なんか、した…?」
おろおろ、とする彼女に、いいから、と呼ぶ。
それでも来ないイタリアを、じっと見つめて、小さく、囁く。
「キス、したい。」
そう言えば、きょとんとしたあと、えへへーと抱きついてきた。

ふわりと甘い香りを漂わせる髪に顔を埋めて、何度もキスをする。
「イタリア…」
何度も何度も、首や頬や鼻にキスを落とす。
「う、あ!んっ…」
首に抱きついてくる彼女の腰と後頭部に腕を回す。
唇をあわせて、至近距離で目があって、くすくす笑いあった。

昔の自分は知らなかったことだ。これだけで、愛する人が近くにいるだけで、幸せになる。幸せだと思える。この幸せを、知らない。

「イタリア…」
「ドイツ…」
彼女がそばにいる。それだけで、十分すぎるほどに。それどころか、子供達までいる。愛しい人が、三人も。これが、どれだけうれしいことか!
「しあわせ」
そう言って抱きついてくる彼女を抱きしめる。

それから、ソファの後ろに隠した、渡すタイミングを完全に逃した薔薇の花束を、どうやって渡すかと考えを巡らせて、苦笑した。



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陽菜様からのリクエストで、「バレンタインにヴァレンティーノを思い出す独伊」でした〜。こんな感じでどうでしょう?

つまりはラブラブなんだよね、という感じですが…
きっとこの後、悩んでる間に伊が花束に気づきます。

こんなですが少しでも気に入っていただけたらうれしいです

ありがとうございました!





















































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一緒に遊んでいた子供たちが寝静まった後、大人の時間だ、とばかりに誰からともなくワインを開けて、飲み会が始まった。
十人ひとりも欠けずにそろう、ということが結構めずらしいので、会話は久しぶりから始まって、最近の子供たちの様子や国内の話、少々言い合いもありつつ、比較的穏やかに話が進むのは、皆さん親になったから、でしょうかねえとしみじみ日本は思う。

「それでさーマリアったらね?」
「はい。」
楽しげに子供たちの話をするイタリアの聞き役に回っていた日本は小さくうなずく。
彼女の笑顔は、いつも人を幸せにする力を持ってる。…それは、昔から変わらないはずなのだけれど、今の表情に特にそれを思うのは、きっと、彼女が幸せだからだろうと思う。…幸せ、という意味なら、私だって負けてはいないけれど。

アルコールが入って、より楽しそうにへにゃあ、と笑う彼女。…少し飲み過ぎかもしれないですね、と中身のなくなった彼女のグラスに、紫色のそれを注ぐ。…ただのジュースだ。グレープジュース。ノンアルコールの。…あんまり迷惑かけたくないし、と笑ったイギリスさん用に持ってきたものだけれど、今日はもうちょっと用意しておいた方がよかったかもしれない。…皆さんペース早過ぎでしょう…。
ちら、とあたりを見回せば、ざっと数えただけで…すでにワインが7本は空いている。あまり飲めないオーストリアさんや、今日は自重する、と家で宣言していたイギリスさんはほとんど飲んでない。…ということはごく一部の数名がそれこそ浴びるように飲んでいるということで。

…セーブしよう、とこっそり思って、それでねそれでね、と続く彼女の話に、はいはい、とうなずいた。

その瞬間、彼女の体がふわり、と浮いた。

「!」
「わ!」
イタリアが声をあげた。そんな彼女を抱きしめて、膝の上に抱えるように座ったのは。
「…ドイツさん…。」
「ど、ドイツ?」
イタリアの肩に顔を埋めたドイツ。…一体どうしたんだろう?
「ドイツ?どうしたの?」
しっかりと抱きしめられて身動きが取れないイタリアはわたわたと、それでも心配そうな声をあげて。
「…イタリア…。」
低く、囁かれた声に、思わず、日本は硬直した。…なんて声を、出すんだろうこの人は!

イタリアはそれよりも気になったことがあったらしく、一瞬で眉をしかめた。
「うわお酒くさい…ちょっと、誰ドイツにお酒飲ませまくったの!」
見回せば、わざとらしく視線を逸らす一名、ごめんって、と手をあわせる一名。
「もう!フランス兄ちゃん!すぺい、わっ!」
抗議しようとしたイタリアを、軽々と反転させて、抱きしめるドイツ。

「ど…ドイツ?」
「他の男なんか見るな。…おまえは俺だけ見てればいい。」
甘く囁かれた内容に、その言葉を向けられたイタリアはおろか、近くで聞いていた日本まで赤面してしまった。
頬を撫でる長くてごつごつした指に、ど、いつ、とイタリアはおろおろと視線を泳がせた。
「…ああ、お前は本当に、美しいな…。」 Venus、とはおまえのようだったのだろうな。きっと。
吐息とともに言われて、すでにイタリアはぱくぱくと口を開けたり閉めたりするだけで。

「…そんな目で見るな。おまえの琥珀を見ていると、溶けそうだ。」
「え、」
「ああ、けれど溶けてしまったら困るな…おまえ一人なんて、心配で残せない。」
「ちょ、」
「ずっと俺の傍にいろ。…何があっても守る。だから、ずっと。」
「ど、どい、」
「そうだ。俺の名前を呼べ。…他の名前なんて、呼ばなくていいから。」
反論する間もなく囁かれて、本当に首まで真っ赤にした、もう混乱しすぎで泣き出しそうなイタリアの顔を両手で包んで、熱に浮かされた青い瞳で、ドイツは微笑んだ。


「愛している、イタリア…。」
今までの比ではないとびきりの甘い声で囁かれて。
イタリアは、…陥落した。


しん、と静まり返った部屋。いつのまにか、全員が2人に注目していたようで。
ごほん、とオーストリアが咳払い一つ。
「…ドイツ。」
「何だ?」
「イタリアはもうだいぶ酔ってしまったようですし、そろそろ休ませてあげてはどうですか?」
その一言に、ドイツはアルコールのせいでひどく色気を感じる瞳で、腕の中でぐったりしてしまったイタリアを見て、そうだな、と呟いた。
「では、俺たちは先に休む。」
「ええ。…早く出て行ってください。」
小さくオーストリアが呟いた後半は、イタリアを抱き上げて立ち上がったドイツの耳には入らなかったようで。

ばたん、とドアが閉まった音で、だはー、とため息がいくつも漏れた。
「…なん、て、いうか…。」
「…心臓に悪い声してますよね、ドイツさんって…。」
「あのままおっぱじめるかと思った…。」
「イタちゃん大丈夫かしら…。」
思い思いのことを口にして、困ったように笑った。
幾分か空気が軽くなったようにさえ感じる。…どろりと甘い甘い空気をまとった二人が行ってしまったからだろう。

はあ、と日本が額に手をあててため息をつくと、ハンガリーと目が合った。
「ちょっと、びっくりしましたね。」
「ほんと。…ドイツったらほんとにイタちゃん大好きなんだから…。」
「ええ。その代わり、イタリアくんもドイツさん大好き、なんですけどね。」
「それはそれでまったく構わないのですが…こちらにまで迷惑をかけないでもらいたいものです。」
オーストリアの一言に、そうですね、とうなずいた。

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灯葉様からのリクエストで、「全CPでお酒を飲んでいたら、酔った独が伊を攻めだして周りが唖然」でした

全然全CPってほど人がでてませんが…独に甘ったるいセリフを吐かせるのが楽しかったです

こんなですが、少しでも気に入っていただけたらうれしいです。
ありがとうございました!