.

あなたが好きと言うのは簡単で。
その中身はとても複雑だと知っている。

「イギリスさんなんか知りません!」
怒鳴って、走って。ばたん!と部屋に飛び込んで、ああ、馬鹿、と崩れ落ちた。
彼は悪く、ない。全然悪くないのに。
醜い嫉妬。くだらない、取るに足らないこと、で。
ただ、彼が。私といる時間より、仕事の、…女性からの電話を優先した。
それは、私たちの立場から考えれば当たり前のこと。
なのに我慢できなかった。…最近いらいらしてたから?それもあるけど、でも。
そうであっても、してはいけないことをした。
八つ当たり、に近いその感情に、後悔しか浮かばなくて。
去り際の、彼の驚いた顔が目に浮かぶ。…ああ、もう!

頭を抱えてうずくまる。…どうしよう。謝らないと。でも、顔なんて見れない。
だって、心の奥底でくすぶる暗い炎は、まだ消えてない。またひどいことを言ってしまいそうで!

そのままじっとしていたら、ぎ、と廊下のきしむ音。
この家には今。私以外には彼しかいない。はっとして、でもどうしていいかわからなくて。
「…日本?」
障子越しに呼びかけられた。ここ、開けてくれないか。静かな声に、なんでそんな冷静なんですか、とか、言ってしまいそうになって口を押さえる。
だって、私はこんなに苦しくて必死なのに…!どうして?
そう思っていたら、後ろですぱん!と音を立てて障子が開いた。
その大きな音にびくん、と震えるとずかずか入ってくる、彼。
伸びてくる手。触れるそれに思わず、触らないでください!と払いのけてしまった。
はっとして固まると、その隙にまた伸びて来た手が、今度はしっかりと私の背中に回って。

ひょい、と担ぎ上げられて、すとん、とすでにもう用意してあった布団の上に下ろされて。
顔なんて見れない。うつむいて、離して、と弱い声で訴える。
「なあ日本。」
表情の読めない、淡々とした声がする。答えずにいたら、また、なあ。って。
「…やきもち?」
「な…っ!」
思わず伏せていた顔を上げると、思いのほかとても、…とても楽しそうなイギリスさんの顔があって、硬直。
「なあ。やきもちだろ?」
「…別に、」
「日本かわいいな。」
「は、って、え、ちょ…っ!」
ぎゅ、と抱きしめられてばたばた暴れる。けれど、彼の体を押し返すことはできなくて。

「ちょ、イギリスさ…!」
「俺は。…うれしい。我慢されるより、直接言ってくれるほうが、うれしい。」
それが罵倒でも八つ当たりでも、…日本のストレートな感情がわかるのが、うれしい。
言われて、ぱたり、と抵抗をやめた。
…抵抗、できなくなって、しまった。

「日本。」
そう呼ぶ彼の声が、表情が、本当にうれしそうなのに…気づいてしまったから。

「あ、あ…っ!」
顔の横の布団にしがみつくように手を握った。
がくがくと震える足。もう立てなくなりそうだと思うのは何度目、だろう。こっちはそんなに若くないのだから、あまり無茶させないで欲しいのだけれど。

「何考えてる?」
低い声が鼓膜を揺らす。怒ってる、というよりは、楽しんでる、声。びくりと私が震えるのがそんなに楽しいんだろうか。
「…、あなたのことです、と言ったら?」
「ん?」
「あまり無茶させないで欲しいと。」
はっきり本当のことを言うと、ちょっと困った顔。それから、吹っ切れたように笑って。

「無理だ。」
「無理なんですか…。」
「無理。絶対無理。だって、感じてる日本見てるだけで。」
こんなになってしまうくらい、好きなんだ。囁くような声。太股に押し当てられる、熱源に思わず息を飲んで。

「だから、それは諦めてくれ。」
はっきり爽やかに言われても、内容は全然さわやかじゃない。
それでも仕方のない人だなあと思ってしまうのは、それだけ彼のことが好きってことだろうか。

「ただ、酷いことはしないから。だから。…日本はただ、感じてればいい。」
耳たぶにキスをするように言われた。ざわり。熱が走る。
その熱に後押しされるように、布団にしがみついていた手を、そろそろと彼の方に伸ばした。焦らしてる、とかそういうわけではない。体の全身に力を入れるのがとても大変なのだ。

もうすでに2回も達してしまったこの身では。
その手にすぐ気づいた彼が、その手を背中に回してくれた。暖かい体温。しがみつくように彼の体を引き寄せて、重ねる唇。
最初にしかけたのが私でも、すぐに主導権を持っていかれてしまう。
でも、彼のキスは好きだ。とても心地がいい。
うっとり見上げて、イギリスさんのエメラルドを見つめる。
美しい色だ。…深い、色だ。
私なんか飲み込んでしまいそうだと、そう思う。
私の黒い感情なんて飲み込んでしまいそうだと、そう。

「日本。」
呼ばれた名前。少しだけ、腰をあげると、そこに差し込まれる腕。ぐ、と引き寄せられて、入り口に当たる熱。

「…は、」
「欲しい?」
聞かれる言葉。…当たり前なのに、それを私の口から聞きたいのだろう。言葉は、口に出すともっと、強い力を持つから。
でもただ聞かせるのは嫌で、酸素の足りない頭で考える。どうしたらこの余裕ぶったエメラルドに火を、つけられるだろう。
「…もしも、私以外の人が欲しいと言っても、与えるのは私だけ、にしてくれますか?」
まっすぐ見つめていたエメラルドが、丸く見開かれる。どこかで見た表情。

そして。
す、と細められたその瞳が宿す炎は、暗くて、触れるだけで焦げてしまいそう!
「当たり前だ。」
日本だけだ。ずっと。掠れた声がそう告げて、くすぶっていた嫉妬の炎が、やっと完全に姿を変えた。
全身を焼き尽くすような灼熱の、飢餓に。

「欲しい、です。」
言えば、ず、と入ってくる固まり。その質量と熱に、閉じそうになる足を広げる。
もっと、もっと奥まで。一番奥まで。
ぎゅ、としがみついて息を吐く。
「あ、あ…っ」
ぎゅ、と目を閉じる。ずん、と奥まで感じて、深く息を吸って、吐いた。
「…つらいか?」
首を横に振る。ほしい、と、そっちの方が強くて。
言わなくてもそれに気付いて欲しくて、指先に力を込める。
「動くぞ」
ほとんど疑問系でないそれに、ほっと息をついて、こくん、と小さくうなずいた。

ぐ、と奥まで押し込まれる。ぐりぐりと回されたらもう、悲鳴しかでなくて。強く揺らされるより、そっちのほうが弱いの、わかってる、くせに。
「あ、あ!やっ、あ、ああ、ん…っ」
「…嫌、か?」
ささやかれる声。首を横に振る。もっと、吐息に近い声で言えば、小さく笑った雰囲気。

「あ、あ…っいぎ、りすさん…っ!」
「…日本、」
愛してる。あまやかな声に、がくん、と意識ごと。闇の中に落ちた。

でもそれも。彼と一緒なら、怖くない。


戻る


みみ様からのリクエストで「日の嫉妬話でケンカ→甘々」でした


あんまりご希望に沿えてなかったらすみません…
とりあえずらぶらぶな感じになってたらいいなと思います


こんなですが、少しでも気に入っていただけたらうれしいです
ありがとうございました!