ぎし、と壁に押し付けられて、思わず、笑った。 彼がおかしい、と気づいたのは、彼を助け出した後のこと。 別に手助けなんていらないかとは思ったのだけれど、イギリスさんを監禁、なんて暴挙に出たやつらをこてんぱんに伸して、さっさとそこを出て、帰りましょうか、とそう声かけた時のこと。 いきなりぎゅ、と抱きしめられて。その力の強さに思わず瞬いて。 「…イギリス、さん…?」 呼びかけてから気づいた。荒い息。体に触れる体温が、いつもより熱い。…少し様子がおかしい。 「どうかしました?」 冷静に尋ねるけれど、返ってくるのは沈黙ばかり。 しゃべるのもつらいのか、と心配したけれど、でもすぐに、その沈黙が、少し戸惑っているような、ためらっているようなものであることに気づく。 「イギリスさん?」 「…悪い、日本。…ちょっと、興奮してる、みたいだ。」 低く告げられた言葉に、は。と思わず声を出す。 そうしたら、耳に噛みつかれた。ぞくり、と背筋を強ばらせる。吹き込まれる熱い息。その熱はまるで、…最中のようで。 「あ、の、」 「…日本、」 じわり。思わず息を飲む。いつもの、艶やかな声よりもっと、低い声。 「…いいですよ」 ささやく。そんな声しか出せなかった。どきどきする。それでも。 「何するか、わからないぞ」 「かまいません。…ここでは嫌ですけど」 言うと、ぎゅ、と頭を抱き込まれた。悪い。声に、かまいませんよ、と笑う。 「何をされても。…夫婦ですから。」 「…行くぞ」 腕を引く力の強さに少し、鼓動が早くなった。 目に付いたホテルに入って。部屋に入った途端に壁に押しつけられる。噛みつくようなキス。 驚いたけれど、自分から頭を引き寄せる。 ぐ、と肩からずらされる着物。 「帯、外して。」 低い声に、うなずいて、帯に手をかける。その間にもはむはむと耳を甘噛みされて、指先が震える。 しゅる、なんとか解くと、ばさ、と帯が落ちる。 「日本、」 呼ばれて顔を上げると、彼がネクタイを解いて、いた。乱暴に放り投げられるそれを目で追って。 「余所見するな」 抱きつぶすぞ。って、くらりとするような声で言われて、思わず目を閉じた。 「あ、あ、あ…っ!」 ずぶずぶと、溺れていくようだ。意識が。深く、深く。荒波に飲み込まれて、息もできない。 彼は優しくて紳士的な人だから、こんな性急に、乱暴に求められることなんてほとんどない。 けれど、痛みは感じなかった。多少強引でも、手は抜かない、慈しむような愛撫。つらそうに眉を寄せたまま。大丈夫だからと声をかけても決して止めようとはしてくれなかった。 けれど、一度交わってしまえばその、鉄のような自制心も吹き飛んだらしい。 がくがくと揺さぶるように突き入れられる自身。その強い刺激にもう、しがみついて震えるしかなくて。 「あ、んぁ、…っぎりすさ…っ!」 視界が真っ白に染まる。これで何度目かなんてもう覚えてはいない。その上彼はより一層動きを激しくして、その強さにまた体が駆け上っていこうとする。潤んだ視界の端に、着物の鮮やかな赤が映った。炎、そう、炎に包まれているように、体が熱い。燃え尽きてしまいそうだ。 終わらない感覚にただ、翻弄されることしかできない。怖い。 でも、いやも、やめても言わない。受け入れると決めたのは、私だ。 かわりに、その背中に爪をたてた。強く強く。彼の背中には、明日はミミズ腫れができているかもしれないけれど。自業自得、だ。 「んう、あっ!も…っ!」 また、だ。また、意識が飛びそうな感覚。オクターブ高くなる、声。一番高いそこに手をかけた、と思った瞬間。 「っ、日本!」 口付けられた。くちゅりと交わる舌。思わず中を強く締め付けたら、だく、と一番奥に注がれる、感覚。 「…は、」 「ん…っ」 がくん、と力が抜けた腕が、シーツの上に落ちた。 「…日本」 さっきまでよりだいぶ、柔らかくなった声で呼ばれる。目を開けると、瞼の上に降ってくるキス。 「大丈夫、ですか?」 「…それは俺のセリフだ。」 悪い。無茶させた。髪を撫でる優しい手に、ほう、と一息。なんとか、終わったようだ。…少し頭がくらくらする。酸欠、だろうか。とりあえずわかるのは、もう無理。だ。これ以上はできない。 そう考えながら撫でる手を甘受していたら、その手がつつ、と首を辿って胸に降りていく感覚。…ん? 「悪いついでに…もう一回戦。」 つきあってくれ。動かされ、中でぐじゅんと音が、した。 無理!と止める間もなく、ゆっくりとリズムをつけて揺らされたら、敏感になった体が反応しないわけもなく。 「ちょ、ぁっ!あ、んっ、あ、後で、か、くごしてくださいよ…っ!」 にらみつけてそう言うと、彼はわかった、と困ったように笑って、うなずいた。 ああもう、絶対許してなんてやらない! そんな風に思っても、愛してる、囁かれるその声音だけで何も言えなくなってしまうのだけれど。 戻る T様からのリクエストで「マフィアに捕まった英を助けに来た日が英に襲われる」でした こんな感じでしょうか?違ってたらすみません…私にはこれが限界でした… こんなですが、少しでも気に入っていただけたらうれしいです ありがとうございました! . 会議も終わって、今日から三日間、二人とも休日、だ。 こんなこと滅多にないし、ちょっとでもそばにいたいな、なんて。いつも使わせてもらってる部屋に荷物だけ置いて、彼の部屋を目指す。 いつもこのときはどきどき、する。ただノックして声をかけるだけ、なんだけど、それだけ、がもう。 だって、…半分くらい、でそのまま。朝までベッドの上、とか…あああもう思い出したらダメ!ぶんぶんと頭を振って思い出してしまいそうな記憶にふたをする。 けれど今日は、ノックする前に、ドアが少しだけ開いているのに気がついた。 「イギリスさん?」 声をかけながらそっとドアを開けると。 思わず息を飲んだ。 「あ。」 「…っ、すみません!」 ばたん。ドアを閉めて慌てて深呼吸。 息が止まるかと。思った。 だって、あれ、そんな、格好で…! 目を閉じると焼き付いた光景。 海賊時代(と言ってしまっていいのかわからないけれど)の服を着たイギリスさん。 …っめちゃくちゃ格好よかったんですけど…!! 金糸と、エメラルド、に。白い羽根のついた大きな帽子、とか。深い緋色のマント、とか。とても似合って、いて。 見たこと無いかっこよさ、に。ずきゅん、と矢が刺さった。心臓に来た。本当に! 「あー。日本?」 かちゃ。ドアが開く。まだ服を着たままの彼に、ど、どうしたんで、すか。ととりあえずその格好の理由を聞いてみる。 すると、しかめられる眉。 「仮装パーティ。」 「は、い?」 「ほら。アメリカが言ってたろ?」 …ああ。そういえば。会議の時に、一週間後に仮装パーティするって言ってた気がする。 『みんなの昔の格好が見たいんだぞ!』 だったら古い着物でも出して来ますかね。と思ったのが記憶にある。 「…それでその、衣装ですか。」 「ああ。…着れるかな、って。一応な。」 着てみた。らしい。帽子の端を引っ張って、変か?と尋ねてくる彼にぶんぶん、と首を横に振る。 「かっこいいです…!」 「!…っ、そ、そうか…。」 はい、とうなずくと、照れたように頬をかく彼。 その服が少し、違うだけなのに。思わずため息をついてしまうほどかっこいい。不思議、だ。 「日本?」 名前を呼ばれた。それだけでとくん、と心臓が高鳴る。 「は、はい?」 ああしまった。声が上擦った。それで私の様子がおかしいと気づいたのか、彼がどうした?と首を傾げる。ああだめ、本当に直視、できない! 「なんか、顔赤いな…体調悪いのか?」 「い、いえ、だいじょうぶ、です。」 「そうは見えないんだが…。」 そう言いながらぐ、と腰を引かれて。 こつん、と額同士が。触れ合って。 (ーーーー!) 心の中で絶叫していると、やっぱ熱いぞ?と言う彼の、それこそ文字通り目と鼻の先のエメラルドと、目が合って。その瞬間。 「日本。」 低い囁きに、かくん、と腰が抜けたのが、わかった。 「っと……日本、もしかして。」 楽しげな声に気づいていやいやと首を横に振る。でも、その腕の中から抜け出せない、というかもう下半身に力が入らない! 「こういうの、好きか?」 にやり。笑う彼の顔が本当に、心臓がおかしくなってしまいそうなほどかっこよくて。 視線をそらすと、その途端に世界が回って、楽しそうな鼻歌に自分が、横抱きにされて、その進む先になにがあるか、に気づいて真っ赤になった。 下ろされる彼のベッドは別に、初めてじゃない。わかってる。でも、なんだかもう本当に恥ずかしくて! 「い、イギリスさん、まだ、明るい、」 「逃がさねえぞ?」 言われてう。と黙る。困ったように見上げる、悪い笑顔。 「明日は休みだし。」 今日は寝かさなくても大丈夫だろ?って…い、今から徹夜で、ですか…!? 「あ、の、でも、」 「日本。」 名前を呼ばれるともう、何にも言えなくなって。 赤くなったまま押し黙っていると、重なる唇。絡まる舌にただされるがままになっていると、ボタンがどんどん外されていって。 肌にぺたりと手を置いて。…性的でないそれに私だけが、どきどきしている感じがする。 「綺麗だな。」 「そんな、」 「綺麗だ。…奪いたい。」 「!」 「このまま閉じこめておけたらいいのに。」 「…イギリス、さん…」 「…なんてな。」 なんと言ったらいいか困っていると、強く唇をふさがれた。 そのまま、ベッドに深く沈められて。 「あ、や、嫌…っ」 「…うそつき。」 イイ、の間違いだろ?そう囁きながら、ぐ、と足を開かれる。 途端により深くで熱い自身を感じて、背中が反った。 「あ、あ…っ」 「…く、」 名前を呼ばれて、目を開ける。 見えるのは赤、だ。彼は服を脱いでいないから。それがいつもと違って、…ああそうか。私いつもと違う、のに弱いのか。なるほど。 そんなことを考えて現実逃避しなければ、もうすぐにでも達してしまいそうで。 「んあ、やっそこは…っ!」 「ほら。また。」 イイって素直に言えばいいのに。低い声でそんなことを言われて、思わず顔を逸らした。 追うようにのびてくる手。捕まって食べ尽くすようなキス。 酸欠になりそうでなんとかその唇から逃れると、奥までず、と突き上げられて。 「ああっ…!」 いきなりの刺激にびくん、と体が震えた。 駆け上がる感覚に、ぎゅ、と目を閉じる。 「あ、はあ…。」 なんとか息を整えていると、いきなり彼が動きだして。 「や、うそ、まっ…!」 「待てない。…悪い。文句は後でまとめて聞くから。」 それだけ言って、ぐい、と足を肩にかけて、その状態で奥まで入られたら、もう意味の無い声を上げるしかなくて。 「待って、ダメ、それ、は…っああっ!」 「…日本。」 ぐらり。揺らされる。奥に入り込んだそれで、強く。 「イイって、言ってみろ。」 「…っ!んあっ!」 「なあ。」 いやいや、と首を横に振るのに、ぐるりとかきまわされたらまた、すぐに頭が真っ白になってきて。 がくがくと強くされるより、じっくりされるのに弱い。そんなのきっと、彼のほうがよく知ってる、から。 「…日本。」 耳に唇を当てて囁かれたらもう、陥落するしかなくて。 「…っ、き、もちい…、っ!」 「よくできました。」 うきうきとした声が聞こえて、後はもう、何も覚えていられないくらいの激しい快楽の中。 信じられない。本当に信じられない! だって、本当に完徹だったのだ! おかげでもう、下半身の感覚なんてなくて。 「すみませんでした…。」 しょぼんとした声が聞こえるけれど、布団の中からなんて出られるわけがない! だってあんな、…恥ずかしいことまで言わされてやだって言ってるのにその顔そそる、とか言って離してくれないし、それ以外にも体位とか、意地悪な言葉とか態度とか、ああだめだめ思い出したら顔から火吹きそう! 「…あー。日本、…怒ってる、よな…」 けれど、今の彼が心底反省しているのは、声から伝わってきて。 …だれだって、服装を変えたりすると気分が変わるっていうのはあることだ。 例えば私だって、軍服に身を包めば背筋がのびる気がするし、着物だと、少しほっとした気分になれる。 それがただ、あの、服だったから、…気持ちが大きくなってしまったんだろう、し。 それに。…そうか。うん。よし。終わったことは終わったこと。これから、のことを考えよう。うん。 思って、もぞもぞ、と布団の端から顔を出す。 「…年、考えてくださいよ…。」 「…本当に申し訳ないです…。」 正座でうつむいているイギリスさんは、すでにいつもの服に着替えていて。 「何でもするんで本当に許してください。」 きっちり、土下座。それに、少し口元が緩む。 「何でも?」 「何でも!」 「…仕方ないですね。」 困ったように苦笑してみせながら、内心ガッツポーズ。 よし。まずは写真撮ろう写真。思う存分。だって、こんな機会もうない!ああ、他の服も着てもらおう。それで。 頭の中でシミュレートして、布団の中でばれないようににんまり、と笑った。 戻る ハル様からのリクエストで、「とっても海賊な紳士の英日」でした ご本家で出たのでつい…海賊な感じになってますでしょうか? こんなですが、少しでも気に入っていただけるとうれしいです ありがとうございました! |