ママー、と駆けて来たマリアを、着替えてきたイタリア(まだスカートが短いが、袖が長く丈も長い分だけさっきよりましだ。)が抱き上げる。 「ママかわいいー!」 「ありがと、マリア。」 ちゅ、とイタリアがマリアの額にキスをする。…あー。なんというかかんというか、めまいがした。ぐらっときた。 微笑みあう、そっくりな(親子なんだから当たり前)二人は、あー、俺の、世界で一番…いやその、かわいい、な、と思う、顔をしていて、プラスで、イタリアは愛らしいサンタの格好で、マリアは、天使をイメージしましたー!と家でイタリアが言っていたように、本物の天使のようで! 一瞬倒れそうになって、気合でなんとか持ちこたえる。くらくらする。かわいい。スペインがさっきかわえーと大騒ぎしていた気持ちがよくわかる(しないが。)。 「ドイツ?」 どうしたの?と聞かれ、なんとか、なんでもない、と返して。 駆けて来る足音に気づいて振り返ると、ガブリエルがやってきた。 「ガヴィもおいで!」 マリアを片手で抱きなおして、しゃがみこんでガブリエルに手を伸ばすイタリア。え、と戸惑うガブリエルに、ほら、と促して。 …少し前なら、二人抱き上げることもよくしていたのだが。大丈夫か、と不安に思いながら見ていると、抱き上げることはできたけれど、立ち上がるときに 「あわわ、」 ぐらついたイタリアに大慌てで手を伸ばして。 「っ!…イタリア…寿命が縮むからやめてくれ…。」 「ご、ごめん、ありがと、ドイツ…。」 イタリアごと抱き寄せて、事なきを得た。よかった、と心底ため息をついて。 「はー…パパありがと。」 「…ありがとう。」 腕の中から見上げてくる子供達と、愛しいイタリア。 至近距離のそれに、さっきより大きなめまいが、して。意識が、遠のいて。 「わ!」 「えっ!」 「ヴェ!?」 はっと意識を取り戻したのは、三人の頬に口付けて、力いっぱい抱きしめた後だった。 戻る . ぐっすりと眠ってしまったイザベルを抱き上げて、歩く。 「すっっっごい楽しかった!」 対するルキーノはまだ元気だ。毎日あんなならいいのに。と楽しげに笑う彼に、苦笑して。 「毎日は無理やなあ。」 「えー!」 ちぇーとつまらなそうな顔をするルキーノに笑ったスペインが、ロマーノ、と声をかけてくる。 「大丈夫?代わろか?」 手を伸ばして、イザベルを受け取ろうをしてくるから、いや、と首を横に振る。別に、これくらい平気だ。…自分の娘なんだから。 しっかりと抱きかかえ直すと、ん、とイザベルが眉を寄せた。しまった、起こしたか、と思うが、聞こえてくるのは、まだ寝息。大丈夫だったようだ。 ほ、とため息をつく。 「…まま…。」 小さく、本当に小さく呟かれた寝言が、愛しい。彼女は、大人びているけれど。まだ小さいのだ。甘えるときにしか、呼ばない言葉。…もっと、甘えさせてやろう、とそう思う。 背中をぽんぽんと叩いていると、なんだか隣からひそひそ声がした。 「…何だよ?」 ひそひそ話をしている夫と息子を見ると、えー、いや。とスペインが。 「ロマーノって黙ってると聖母みたいやなあって痛あ!」 …黙ってると、は余計だ、ちくしょー。ヒールで思いっきり足の甲を踏んでやった。 声を上げるから、うるさい、イザベルが起きるだろーが。と注意する。 「…そういえば、母さん結局あのドレスもらってきたん?」 「ルキーノ!!」 慌てて名前を呼ぶが、時既に遅し。 「ロマーノの方がうるさいやん〜何々、ルキーノ、あのドレスって、あのサンタの?」 「うん。持って帰ったらーってイタリアさんに言われて。」 「!!秘密だって言ったろーがちくしょー!」 「ロマーノ、イザベル。」 言われて、下からううん、という声が聞こえて、う、と口を閉じる。 その間にも、父子の会話は続いて。 「そうなん?」 「うん。父さんがあまりにも気に入ってたからって。仕方なくだぞちくしょーって。」 「〜〜〜っ!!」 顔が一気に熱くなる。くそう、やっぱり持って帰ったりするんじゃなかった! 振り返ったスペインが、でれっとだらしなく笑う。 「ロマーノv帰ったら、また着てな〜?」 「〜〜っ!」 ぷい、とそっぽを向いて、さっさと帰るぞ!と足を速く進めた。 戻る . 「ふ、ふふふ…ついにこの日が来たようだな…!」 着物の袖をたくしあげて、マックスが笑う。 「それはこっちのセリフやで…!」 にいい、とルキーノは悪く笑って。 「勝負…!」 羽子板構える二人の頭に、かこかこん、と羽根が当たった。 「羽根なしでどうやって羽根突きするのよばぁか!」 エリが呆れ果てた顔でそう言った。 ここは日本宅。みんなそろってやってきて、着物を着せてもらっている。 「ベアトリクスかわいい〜!」 「や、あの、えと…」 リリーに抱きつかれて困り果てているベアトリクスやら、着物を着せてもらっている最中のマリアやイザベルなど、室内でわいわいやっているメンバーはさておいて、庭でメンバーは羽根突きを始めた。 「これ当てるの難しいな…」 「そう?慣れたら平気よ?」 かんかん、と羽子板で羽根を上に跳ね上げながら、マックスがぼやく。 羽子板を肩にあてて、メンバーの中では紅一点のエリが言い。 「勝ったら負けた方の顔に落書きしていいのよ、墨で。」 「それはいいなあ!」 「あら、女の子に恥かかせる気?」 「勝負は勝負だろ?」 にい、と笑われて、勝ったらって言ったでしょう?とエリは強気に笑って。 「あはははははははっ!」 おもろい顔〜!とげたげたルキーノに笑われて、頬を引きつらせたマックスは、ため息をついて。 「…くそう…」 悔しそうに呟いた。 「…次ルキーノよ!」 楽しげな笑みを浮かべたエリに呼ばれて、ほーい、とルキーノが走っていって。 「…負けろ馬鹿…」 ぼそ、と目の周りに黒丸を書いたマックスは呟いた。 目の上に×を書かれたルキーノを見てマックスは腹を抱えて笑った。 「へったくそ!」 「ううう〜…」 「やぁいばあか!」 「うるさい〜…」 くそう〜…!と悔しそうな顔をするルキーノにせいせいしたのか楽しげにマックスは笑った。 「ちょっと男子〜、張り合いないわよ〜?」 つまんなーい、と連勝中のエリに言われて、負け二人は顔を見合わせてため息。 「次は〜?」 「俺だけど。」 目の高さより下から聞こえて、エリはきょとんと下を見て。 「ガブリエル。」 「お手柔らかに。」 自信ないけど。と苦笑してガブリエルは羽子板を受け取った。 「…何であそこで急に羽根が落ちたの…っ!」 「ご、ごめんなさい…」 がっくりとひざを突いたエリにおろおろとガブリエルは言って。 「…仕方ないわ。ほら!」 落書きしなさいよ、と筆を渡されて困った顔をして、ガブリエルは膝を突いたエリの前にしゃがみ込んだ。 「…俺の負けだよ」 「なによ、同情?」 すねた声に、首を横に振る。 「レディにそんな表情をさせるなんて、男の恥だ。…だから俺の負け。」 きょとん、として、それからかああ、と赤くなって、うれしくないわよ馬鹿ー!と叫んでべしゃん、と墨汁を瓶(プラスチック製)ごとガブリエルに放り投げた。 「騒がしいね」 「ほんと。」 庭を見て、マリアとイザベルが呟いた。 ついになっている赤と青の着物。髪をあげた二人は、小さく笑った。 騒がしいのはいつものことだ。全員そろった今は、なおのこと。 「はい、終わり」 「ありがとうございます」 髪をケイに結ってもらったリリーは本当に女の子にしか見えない。ベアトリクスは、小さくため息をついて逃げたが、すでに遅く。かわいい〜と頬ずりしてくるリリーの餌食になっていた。 「袴はけばいいのに。」 「こっちのほうがかわいいの多いから。」 にこにこと言われて、ケイは苦笑。 「あはは!見てみて〜!」 マリアにがばっと抱きついたサラが、デジカメの画面を差し出す。 「うわあ」 「真っ黒…」 見事に黒くなったガブリエル、マックス、ルキーノが写っていた。 「笑えるわ〜これパソコンの壁紙にしといてやろ」 「やめようよ…」 イザベルのあきれた声にマリアはくすくす笑った。 「はいみなさん。これプレゼントです。」 日本にそう渡されて、ベアトリクスはきょとんとした。 小さめのかわいらしい封筒のような袋。 「なんですか?これ」 「お年玉、ですよ」 「お金だー!」 なんでくれるの?とマリアが顔を上げ、そうですねえ、伝統、ですかね。と日本は苦笑した。 「ありがとう」 「ありがとうございます。」 他の子たちは?と日本が尋ねると、全員が外を指さした。 既に羽根突き大会ではなく、人面落書き大会と化している庭にあーあと呟いて。 「これはお年玉より洗顔セットがいりますね…」 呟いてため息をついて、ぱたぱたと走り出した。 戻る |