思わず、ため息をついた。 「ハンガリー…」 「は、はい。」 そう答える彼女は、黒いサンタクロースの服を着ていた。美しい。まあハンガリーならば何を着ていても美しいのだけれど。 問題は、その露出の多さ。 肩は丸出しで、スカートの長さは短く、さらに、短いブーツをはいているため、足もほとんど無防備で。 かける言葉が、何種類が頭の中でぐるぐる回って、混乱する頭を一度落ち着けるために息を吐いて、言葉をひとつ、選んだ。 「はしたないですよ、ハンガリー。」 途端に、笑顔を浮かべたハンガリーに、しまった、言葉の選択を誤った、と気づいた。笑顔になる前に、一瞬泣きそうな表情をしたのに気がついたから。 「そうですよね。すみません。」 着替えてきます、と向こうを向いたハンガリーの腕を引き止める。 「違うんです。…あー、なんといいますか…」 こういうときにかける言葉など、わからない。気の利いた言葉、なんて、残念ながら私の頭の辞書には載っていないのだから。 息をついて、とにかく素直に気持ちを伝えることにする。 「…似合って、います。美しいです。」 「!あ、ありがとうござい、ます…」 「しかし、」 ああ、この、どす黒い気持ちを、なんと言葉にすればいいんだろうか。思って、一番近い言葉を探す。 「…そう、ですね。悔しい、ですかね」 「はい?」 「こんなに美しいあなたの姿が、ほかの男の目に触れるのが。」 告げると、後ろを向いていたハンガリーがばっと振り返った。 顔が赤い。…私もだろうけれど。 「…心の狭い男だと思いますか?」 苦笑して尋ねると、ハンガリーは、顔を赤くしたまま、首を横に振った。 戻る . 控え室にてサンタ服に着替え中の妻達。 「…イタリアくん…」 白いサンタクロース姿の日本は、困ったように眉を寄せた。 「似合わない?」 「似合いますよ。すごく似合います、が。」 確実にドイツさん怒りますよ。そう告げて、もう一度じっくりと見る。 丈の短い上着型のサンタ仕様のそれと、赤いミニスカート。と、ショートブーツ。へそ出しかつ綺麗な足も太股まで見えている。 イタリアくんがちょっと足出してるだけでも嫌そうなドイツさんが怒らないわけがない。 なのに、彼女はえへへーと笑った。怒られるというのに。 「?イタリアくん?」 「それって、それだけ、俺のこと好きってことだよね!」 じゃあ俺怒られたい。なんて、へにゃあと笑うイタリアくんに苦笑。 確かに、ドイツさんが怒るのは独占欲からだろうから、それだけイタリアくんを愛しているということになるのだろうけれど。 …そんなことをしなくても、彼がイタリアくんしか見えてないのなんか、明らかなんですけどねぇ… 「日本は、白サンタ?…でもその上着、ちょっとおっきくない?」 「いいんですよこれで。」 背の低さを最大限利用してやろうと思いまして。と言ったら、なんだ、とロマーノくんも寄ってきて。 やりましょうか?と首を傾げてから、ポケットから道具を出す。 「何それ」 「目薬ですよ。」 目薬をさして、ぶかぶかの袖を引っ張って胸前で手を組んで、ダメ…?と首をかしげて上目遣い。 「!」 「わああ!日本かーわーいーいー!」 ぎゅう、と抱きつかれて苦笑しながら、よし、イタリア姉妹が落ちるならイギリスさんも落ちる、と内心ガッツポーズ。 「それで、イギリスからかうんですか?」 カナダさんの髪を梳きながらハンガリーさんがくすくす笑う。そうですよ、とイタリアくんを離しながら笑い返して。 「だって反応がすごくおもしろいんですよ?」 「小悪魔ですね」 「ありがとうございます」 「ヴェー、今日日本テンション高いね?」 なんかあった?と尋ねられ、ああ、来る途中にちょっと、と笑った。 「ちょっと?」 「秘密です。」 えー教えてよ、という声を聞き流して、そんなことよりロマーノくん。と尋ねる。 「外にでるときは、その上着、置いていってくださいね?」 「うっ…」 本人以外の全員一致で決めたのは、肩が出るタイプのドレス。 もともと、美人だとは思っていた。 けれど、ここまで似合うとは。 くそースペイン絶対うるさいぞ…とか赤くなりながらぶつぶつ言いながら、それでも上着を脱ぐあたり、褒められてまんざらでもないらしい。 「はい、終わり」 「ありがとうございます。」 帽子をかぶったカナダさんは、ノンスリーブのワンピース。赤に、白い肌と金色の髪がよく映える。…こういうとき、欧米の方々はいいなあと思うのだ。 「かわいいですねえ…」 「でもちょっと歩きにくいんですよ…」 厚底がなれないらしい。不安定な彼女の体をとっさに支える。 「すみません…」 「大丈夫よ。フランスなら嬉々として支えてくれるから。」 ハンガリーさんの言葉に小さくうなずく。 そうしたら、ですね、なんて彼女は照れたように微笑んで。 「ハンガリーさんは、その格好でいくの?」 俺その服すきーと笑うイタリアくんの言葉に、彼女を見る。 普段、あまり露出のある服を着ているのをみたことのないハンガリーさんは、ロマーノくんとおそろいの、黒サンタ衣装。 むきだしの肩とか、ミニスカートから出る足とか、ほんとうに真っ白で形がよくて、思わずため息。 「…うーん…やっぱり、着替えようかなぁって…」 「何で!?」 もったいないー!という声に、そうですよ。とうなずく。 「…オーストリアさんに、嫌われたくない、から…」 困ったように笑う彼女に、大丈夫ですよ。と微笑む。 「ありえませんから。もし怒ったりしても、それは確実に独占欲からくるもので、心配をする必要などありません。そして、怒るだけしか、ハンガリーさんを傷つけるだけしかしない場合は私が叩き切りますが、」 「…たたききるって…」 一気にそう言い終わってから少しだけ間を空けて、彼女の目を見る。 「その心配はないでしょう」 「え、」 「そんな男だったら、ハンガリーさんが惚れるわけもありませんから。」 ね?と笑ったら、ハンガリーさんは少し顔を赤くしてうなずいて、イタリアくんがはわー日本おっとこまえーと呟いた。 戻る . 「…ああいうのをばかっぷるっていうんですよ、ってオーストリアさんが言ってた。」 ぼそ、と呟かれたガブリエルのひとことに、ケイは思わず噴き出した。 「ま、間違ってる?」 いきなり笑い出したからか、そんなことを聞いてくる彼に、いいえ、と笑う。 「あってますよ。…合いすぎてます。」 いちゃいちゃと愛を囁きあう(一部やかましいが)両親達を、ちら、と見て、視線をそらす。 あんまり長いことみていたいものでは、ない。(いやまあ仲がいいことはいいこと、なんだが。) 「…ガブリエル、これ、とって。」 後ろを向くイザベルに、え、どれ、と戸惑うガブリエルの代わりに、ちょっと失礼します、とスカーフの結び目をほどく。 「ありがとう。」 「いいえ。…どうするんですか?それ。」 渡すと、彼女は、ため息をひとつ。 「お母さんに巻いて来る。…あのままでなんていれるわけないんだから。」 お父さんもわかってるくせにまったく…と年下とは思えないセリフをつぶやいて、彼女はぱたぱたと両親のもとへ走っていった。キスマーク隠し、だろうか。あ。ロマーノさんが感動してる。 「…仲がいいのは、まあ、いいことなんですけどね…もうちょっとどうにか…。」 小さく呟くと、ガブリエルが大きくうなずいた。 戻る . お父様は仕事のお話、お母様はどこかに行ってしまって、お兄様はルキーノと遊びに行って。ひとりで隅の方に座っていたベアトリクスの前に、ずい、と皿が差し出された。 乗っているのは、スコーンと大福餅。 差し出した腕の先を見上げると、ほら、食べなさいよ、私が作ったんだから不味いわけないんだからね!とちょっと顔を赤くしたエリの姿。 「…ありがとうございます。」 年上の友人のいつもどおりの様子に笑って、いただきます。とスコーンを手にとり、食べる。 「…おいしいです。」 「当たり前よ」 隣に腰掛ける彼女を見上げる。 いつものふたつぐくりではなく、長い金髪を一つにまとめ上げているのが新鮮で、かわいい。…なんて言ったら、また顔を真っ赤にして勘違いしないでよねとか言い出すんだろうけど。 「なによ」 「いいえ。…何でも。」 そう笑って、スコーンを食べる。…おいしい。 最近あったことなんかを話していると、わあ、と一角が騒がしくなった。 見て、それが自分の両親たちであることに気づいて、ため息。 そのため息が隣のエリと同時で、顔を見合わせてくすくす笑った。 「騒がしい人たちね」 「ほんとうに。」 それから、ちら、と視線を戻す。…まるで、この場に二人だけしかいないみたいな雰囲気を出している人たちが、いちにい…五組。 「ここ公共の場だってわかってるんですかね?」 「わかってないんじゃない?まったく…」 あーあ、パパ真っ赤。と呟いて、ため息をついた。 「そのくせ自分が愛されてないとか思ってるのなんて、まったく…」 娘に焼き餅とかやくのよあの人たち、とぼやくエリに、小さくうなずいた。気持ちはよくわかる。 「私の家はよく、お母様がお父様に愛情表現されて困ってますよ」 「わかるわかる!うちも!」 困った人たちよね。とため息をつく彼女に、それでも、嫌いじゃないんでしょう。と微笑む。 「…まあね。」 パパとママは世界一だから!なんて華やかに笑うから、あら、うちだって負けてはいませんよ、とくすくす笑った。 戻る . 「ちょ、シャッターチャンスシャッターチャンス!」 さっき泣いたカラスがなんとやら。どたばたとカメラをとりに駆けて行くサラを見送って、マックスは内心ほっと安堵のため息をついた。泣かせたかと思っていたけれど。大丈夫、みたいだった。怒られ損な気もするが、まあ、いいや。絞められた首が痛い、けど。 「母さんかわえーなあ。」 しみじみと隣でたんこぶ作ってるルキーノが言う。 「うちのママもかわいいよ?」 マリアが笑ってそういう。そりゃあ、姉妹だし。と思いながら。ながめているうちに、母さんを発見。 …あれは、たぶん父さんの第一声はしたないですよ、だな。似合うけど。ああほら、またもめる! ちょっとはらはらしながら、見るが、まあうまくまとまる、以外に落ち着くところがないのがあの人達だから、大丈夫かな。後で父さんからかって遊ぼ。 思いながら笑って、速攻で戻ってきてぱしゃぱしゃ写真撮ってるサラに言う。 「父さんからかう用で母さん単体一枚。」 「はいさ。」 「もー、やめようよそういうの…。」 私よくないと思う、といつもの口調に戻ったリリーに、大丈夫大丈夫、と笑って。 「ああ!イタリアさんもう行っちゃった!?足速いんだからもー…。」 ぶつくさ言いながら写真を撮るサラを、やめとこうってば、と困り果てながら止めるリリーから、また両親の集団に視線を向ける。 …この人たち見てると、恋をするっていうのが、うらやましく思えてはくるんだけど。 「…恋なあ。」 「んん?マックスの口からおもろい単語が出た?今?」 何々好きなやつおるん?と目をきらきらさせる悪友の頭をはたいて、いるか馬鹿、と言い放つ。 「ちぇーつまらん。」 「でも、いつか、ママたちみたいになってみたいな。」 マリアの素直な言葉に、小さくうなずく。 世界で一番、この人が好きだと。そう告げられる人がいたら。その人と、ずっと一緒にいることができたら。…素敵なことだと、思うのだ。 まったく。らしくないな、と苦笑して。 「…サラ?いい加減にしないと僕怒るけど。いい?」 隣から聞こえてきたオクターブ低い声に、とばっちりはごめんだとさっさとマリアを抱えて、ルキーノと逃げ出した。 戻る |