「なぁなぁ!ロマーノ〜!」 「ふざけんなこのど変態っ!!」 服を脱がそうとするスペインを、蹴り飛ばした。 ベッドの向こうに落下したのを見て、はーと息を吐いて、首を振った。頭から猫耳が落ちた。 まったく…子供でもないのになんで仮装しないといけないんだか…いや、まだ!普通なやつならいい。まだ。 だけどこいつが用意しやがったのは、黒い猫耳と(ここまではまだいい)黒い透けたベビードール!で、脱がそうとしやがるから思いっきりみぞおち蹴り飛ばしてやった。 はあぁ、と息を吐くと、ひどいロマーノ…とつぶやきながらスペインが戻ってきた。 「着てくれるくらいええやんか、もー…」 着る、だけ、で済まないから嫌なんだよちくしょーが! 黒い仮装セットをスペインの手の届かないところに投げたら、ああっと声が上がった。 「あー…絶対かわええのに…」 「…どうせ普段の俺はかわいくねーよちくしょー…」 ぼそ、と呟いて顔を背ける。 と、がばっと抱きしめられた。タックルに近いそれを受けきれなくて、ばふ、とベッドに倒れる。 「そんなことない!絶対ないからな!」 「何がだこのやろー!」 ばたばたスペインの下から抜け出そうとするのに抜け出せなくて、くそう、と思っていたら抱きしめられた。 「ロマーノはいっつも世界で一番かわええからな!俺の自慢の奥さんやから!」 まっすぐな言葉に、一瞬息がつまって。 「…そんなこと思う変人おまえくらいだ馬鹿」 「変ちゃうもんロマーノかわええもん〜」 ストレートすぎる言葉は、たまに痛いけれど、うれしいのも事実で。 こっそりとすりよって、スペインの背に手を回した。 …ところで、すべてが終わればいい感じなのに。 「……てめ、何してやがる!」 「何って、脱がしてる」 「脱がしてるじゃねえよこのやろーっ!」 じたばた暴れるが、暴れんといて、と手首を捕らえられて動けなくなった。ロマーノ、静かに呼ばれる名前。したい。なんて、だからストレートすぎるんだよおまえは! 「…くそ…っ」 そんな風に求められて、…嫌なわけが、なくて。 噛みつくようにキスを仕掛けたら、うれしそうに深く口づけられた。 戻る . ぎし、と押し倒した。 「イタリア…」 ばさ、と広がる髪に触れ、優しくキスを落とす。 ふと思いついて、その耳にTrick or Treat?と囁いた。せっかくのハロウィンだ。活用しない手はない。 もちろん、お菓子なんか持ってないという返しを期待して言ったのだが。 イタリアは、ポケットから小さなお菓子の包みを取り出して。 思わず目を閉じ、大きくため息。 いやまぁこいつに空気読めとか無理難題すぎるのはわかってはいるが。わかってはいるが! もう一度ため息をついたところで、くぐもった声で呼ばれた。どもいもつも発音できていないのに、自分の名前だとわかってしまうのは、長年の慣れか。 「なんだ」 目を開けると、口を少し開けたイタリアの姿。…開けている、のではない。何かくわえている。…キャンディ? 「ん。」 あげる、とばかりに口を近づけられ、一瞬固まるが、せっかくの誘いなので、唇を近づけ、イタリアの唇ごともらった。 長く深いキスが終わる頃には、飴は欠片のようになっていて、がり、と噛み砕くとなくなった。 「…甘いな」 「キャンディだもん…」 少し息の上がった彼女にキスをして、抱き寄せた。 「で?今のはおまえごともらったと思っていいのか?」 聞けば、俺はとっくにドイツのだよ、なんてきょとんと言われて、あーもうまったくこいつは! いたずらをしかけたのはこっちだったはずなのに、返り討ちにあってしまったようだ。苦笑して、仕切り直しともう一度唇を重ねた。 戻る . 片づけを終わらせて、ソファーに座る。足にまとわるスカートがなかなかに重い。 「大変なんだなぁ…」 とりあえず、頭につけたフードを外した。黒に、白いレースの縁取り。 フランスさんが作った修道女の衣装は、綺麗なんだけど、サイズも怖いくらいにぴったりなんだけど、ロングスカートなんて着慣れてない僕にはちょっと疲れる服だった。 はあ、と息を吐いていると、足音が聞こえた。眠ってしまった二人を部屋に届けたフランスさんが戻ってきたみたいだ。 「あれ、着替えてこなかったんですか?」 部屋によって来るって言ってたからてっきり着替えてると思ったのに、フランスさんはまだ吸血鬼の格好のままだった。 「んー、ちょっと気が変わった。」 「はい?」 首を傾げると、脱いだフードをもう一回つけられた。 それから、ひょい、と抱え上げられて。 「え、あれ、フランスさん?」 「このままっていうのも背徳的でちょっといいかなぁって思って。」 「は?え、何の話ですか?」 何の話かは分からなかった。けれど、ろくなことじゃない、と長年一緒に暮らしてきた経験が警告する。 ふ、フランスさん、と呼んで見上げると、にや、と楽しそうな笑顔! 「かわいい修道女さんをいただこうかなぁって。吸血鬼らしく。」 さあ、と血の気が引いた。 「ちょっ、ふ、フランスさんっ!?」 「暴れても無駄だって〜」 ぱたん、と寝室のドアが閉まった。 戻る . かさ、と目の前に置かれたそれに、思わず笑ってしまった。 「…何ですか?」 怪訝そうに眉を寄せた彼に、くすくす笑いながら、私達似てるみたいですね、と呟く。 隠していたお皿を取り出せば、彼もわかったのか苦笑した。 朝作って、いつ渡そうかと悩んでいた、オーストリアさんの好きなお菓子。彼の作ったものには負けるけど、そこそこおいしそうなものができたと思う。 そして、悩んでいるうちに夜になって、子供達が寝静まって、今だ!と思ったところで、先を越された。 私の好きなアップルパイ。 「…もう、こんな時間に食べたら太っちゃいますよ。」 「別に食べたくないなら食べなくていいですよ?」 「あ、あーっ!食べますー!」 持って行かれそうになったお皿に手を伸ばすと、笑われた。 「好きですね、これ」 「好きですよ、大好きです」 特にオーストリアさんの作ったものは。 この甘酸っぱい加減がもうたまらないのだ! 「んー!おいしい!」 思わず叫ぶと、苦笑された。それから、私の作ったパウンドケーキを口に運んだ。 「…おいしいです。」 その一言にほっとしながらふと、おかしいことに気づいた。 「…オーストリアさん、それ一口だけもらってもいいですか?」 その違和感を確かめるべくもらい、口に入れる。 途端に間違えたことに気がついた。 オーストリアさんは、実はお酒に弱い。だから、風味付けのブランデーはかなり少なくするのが常なのだが、今日は誤ってたくさんいれてしまったのだ。 もちろん作り直したが、そっちももったいないので焼いた。(入れすぎたと言っても子供達がふつうに食べれるくらいだし。) で、そのときに、間違えないように中に入れるフルーツを変えたのだが。 …結局間違えた…。 舌に残るブランデーの味。やばいなぁ、と彼を見る。 お酒飲むとオーストリアさん説教魔になるからなぁ… どうしよう、と思っていると、急に彼が立ち上がった。 「お、オーストリア、さん?」 呼ぶと、すとん、と隣に座った。 どきどきしていると、さら、と髪をなでられる。 それから、自然に。顔を肩に埋めた! かっちんと固まる 「ああ…甘い香りがしますね。」 「お、オーストリアさん!?」 もうどうしていいかわからなくて叫ぶと、本当に甘いんですかね、と唇を舐められてもう失神しそうになった。 戻る . ああ…これはなかなか… ごくん、と思わず息をのんだ。 ミニスカートの日本なんて滅多に見れるものじゃない。 ハロウィンの仮装、というテーマは、なかなかに日本の心をくすぐったらしい。 「やるなら完璧にしないと!」 と、衣装を作り出した日本は、なかなか納得できないらしく、ついさっきまで、お菓子作りながらたまに奥へ引っ込んで衣装の続きを作っていた。 できた、と着てきた日本はもう! 「きゃああ!ママかわいい!」 エリの一言につきた。 ちょっと若々しくしすぎました?と困ったように笑う日本は、ミニスカートな魔女の格好で、大きな帽子を手で押さえていた。 思わず、くらっとしてしまうほどの、可愛さ。 今は、その格好の上にエプロンつけて料理しているんだから、なんかもう至福だ。後ろ姿にリボンが揺れる。 だらしなく緩んだ頬を、日本が振り返るから慌ててひきしめ、あれ、と首を傾げた。 「それ…」 日本が手に持っていたのは、さっき最後の一個を食べたはずのお菓子。 「イギリスさん用です。」 「え!」 「食べたかったんでしょう?」 そう、さっき、余ったお菓子を食べていたときに、二つ残っていた饅頭をどうするか、と言う話になったのだ。 食べたいと思っているのは三人。だけれど、いいから食べろ、と子供達に譲ったのだ。…お菓子めぐって子供と争うとか、大人げないし。 「いいのか?」 「どうぞ。」 手を伸ばして、食べる。 …甘い。うまい。思わずにやけてしまった。 「おいしいですか?」 「ああ!」 ありがとう、日本、と笑うと、彼女はうれしそうに笑った。 戻る |