.

ロマーノもうほんまかわいくってなぁ!
と、声が続く。しばらく、続く。これで何回目か。
こっそり思って。へえ!と声を上げた隣の兄を見上げる。…馬鹿。話が長引く、のに。
「ロマーノはなあ…」
わかったってば。わかってるってば。お父さんがお母さんにベタぼれなのは、よぉく知ってる。改めて説明していただかなくても、よく。

お酒に酔うと、お父さんはお母さんがどれだけかわいいかをつらつらと話し出す。
驚くのは、何回も何回も聞かされているのに、まだエピソードが出てくること。
一度聞いた話を二度目に聞くことは、ない。
あ、一個だけ例外あるけど。
「ねえ、お父さん。告白の時の話、して。」
何度も聞いた話。だけど、どうしても一番好きで。
「ええよ!」
機嫌よくうなずいたお父さんが、話し出す。いきなりロマーノに好きって言われてん。と次のせりふを当てられるほど何度も聞いた話を聞いていたら、ばん!とドアが開く音。見れば、仁王立ちするお母さんのすがた。
「スペイン!何話してやがるーっ!」
「ロマーノがどれだけかわええかをな、」

そこまで言ったところでお母さんの頭突きが決まり、お父さんがいたあとかいいながらつかまえたー俺のかわええロマーノと抱きしめて、お母さんがわたわたしだすのはいつものこと。…いい加減学習したらいいのに。どっちも。


戻る




































.

最初に気づいたのは、す、と伸ばした手が、空を切ったから。
そのときはたまたまだと思ったのに。
それから一日子供たちと目が合わない。合ってもすぐ逃げられる。お母さん!手伝おうかとか買い物行ってきます!とか。
……嫌われたん、だろうか。子供たちに。
「…ふーん」
興味のなさそうな声に、俺は真剣やねんで!と怒鳴る。
「ロマーノは好かれてるからええけど〜…」
子供たちは本当にロマーノが大好きだ。仕事は手伝うし言うことはよく聞くし。これがお父さんとお母さんの違いだろうか。
くすん、と鼻を鳴らしたら、というかおまえさあ、と呆れた声。
「まだ気づいてないのか」
「え?」
ほら、と突き出されたのは、手鏡。
そこに映る自分の顔……って!
「何やこれ!」
「そんなことすんのうちではただ一人だろ。」


言い終わる前に部屋を飛び出していくスペインを見送って苦笑。
『ルキーノぉっ!!』
『お、お父さ…ぷっ…!』
『あははははっ!やっと気づいた〜』
『おまえ何やねんこれ!』
遠くから響く声。
ルキーノがいらない化粧品貸してとやってきたのはシエスタ前。仕事から帰って来るなりシエスタしだしたスペインに落書きしようというのだ。できあがったのはなかなかの作品で。しかも全然気づかないし。
おかげで笑いをこらえるのが大変だった。子供たちが避けてたのは、顔を見たら笑うからだ。
「…でも、まあ。」
甘受しとけよ、と思う。あんな悪戯しかけるのは、寂しいからだ。仕事ばかりで構ってくれないから。…大好きだから。
俺も昔よくやったよな、と苦笑して、化粧落としを持ってぎゃいぎゃいうるさい子供部屋へ向かった。

戻る