「せんせー、我々選手一同はー」 と声が響く。 たまにはみんなで遊ぼう、とイタリアが言い、では運動会でもします?そう日本が言ったから。今日は全家族総出で運動会だ。 最後までしぶっていたオーストリアやロマーノをどうやってイタリアが説得したのか。わからないが、本当に二十人全員が揃っていて。やっぱり形も大事だろうと、開会式。 「正々堂々ー、……。」 選手宣誓をしていたはずなのだが、唐突に言葉は途切れて。 何だっけ?と首を傾げるルキーノに、隣にいたマリアも首を傾げて。 (視界の端でロマーノが額を押さえてため息をつき、イタリアが心配そうな表情を浮かべたのが見えた。) 「ま、ええか。えっと、全身全霊をかけて楽しむことを誓いまーす!」 うわあ勝手にかなり変えた! でもまあいいか。そんなきっちりやる気もないし。と苦笑して。 そんなこんなで、運動会が始まった。 戻る . プログラム一番・リレー(子供) ぱあん、と弾ける音。 途端に飛び出す人影が、2つ。 「おお、ルキーノ早い!」 「リリーも早いなあ…」 トップを争う二人が、駆けていく。どっちがどちらにしろ、一位二位はほぼ決まったも同然だろう。 そのわずかに後ろに、エリとマリアの姿。まあ年齢から考えてもマリアは不利か。 「ルキーノくんが一位ですかね?」 「まだ決めつけるのは早いと思うよ?」 観客席で、イタリアが笑った。 それはどういう意味ですか?と日本が尋ねる前に。 いきなりマリアが加速を始めた。 エリを追い抜いて、あっと言う間にトップ集団に追いついて、リリーとルキーノを軽々と抜いていく。 ぱあん、とゴールの銃が鳴り。 「いっちばーん!」 満面の笑顔でピースサインのマリアに、小さく誰かがさすがイタリアの娘、と呟いた。 戻る . 「ちょっとしみるからな〜。」 言われて、覚悟した。 傷口に消毒液がしみて痛い。ちょっとどころじゃなく。涙がにじみそうになるけど、必死に堪える。 「イザベル大丈夫?」 ここまで連れてきてくれた、心配そうなマリアの声にうなずいて、だいじょうぶ、と答える。痛いけど、平気。泣かない。だって、もうそんな小さくないもの! だから、転んでも、ちゃんと最後まで走った。遅かったけど。ビリだったけど。足は痛いし、転けたときについた手の平も痛いし、泣きそうだったけど、それでもがんばった。すごくがんばった。今までにしたことないくらい! 消毒をして、絆創膏を貼ったら、よし、終わり、とお父さんが笑った。 「よく最後まで走りきったな。えらいで。」 よしよし、ええ子やな、と頭を撫でられて、せっかく堪えていた涙がこぼれた。 だけど、ほめてもらえたことがうれしくて、ぎゅう、と抱きついたら、甘えたさんやなあと笑われたけど。でも私がんばったんだもん。少しくらい甘えたっていいじゃない。 そう思っていたら、ひょい。と抱き上げられた。 「じゃあ、戻ろか。」 笑顔に、小さくうなずいた。 戻る . プログラム五番 借り物競走(大人) お題の紙をはらりと開いて、日本は小さくため息をついた。 「…まあろくなことは書いてないだろうと思ってましたが…」 作ったのがフランスさんですからねえ。 やはり係り決めをくじにしたのがまずかったか。ちょっと後悔して、それでも周りを見回す。この条件を満たすのは…。 見れば、他の走者も引っ張ってくるのは人ばかり。…借り物って、ふつうものを借りるはずなのに… まあいいか。後で考えよう。そう思って、走り出し、立って見ていたイギリスさんの手を握る。 「え。」 「イギリスさんをお借りします」 「どうぞどうぞ」 いってらっしゃーい、と笑うエリとケイに、どうも、と言って走り出す。 「お、おい、日本!?」 「いーから来てください!」 引きずるように走っていたら、ああもう!と腕を引かれた。 倒れ込む体を、抱き上げられて。 「!」 「つかまってろ。」 小さく言って、ぱっと駆け出せば、ほかの走者を牛蒡抜きして、ゴール目前だったイタリアくんまで追い抜いて一着でゴール。 「おお!」 「イギリスもやるときゃやるなあ!」 ひゅう、とからかうように飛ぶ口笛が、恥ずかしい。 顔を赤くしながら、お、下ろしてください、と呟いて。 やっと地上に足を着いたら、今更顔を赤くしたイギリスさんが、そういえば、と呟いた。 「お題、何だったんだ?」 「………ひみつ、です。」 戻る . 運動会も終わり、みんなでゆっくり帰る途中。 「ベアトリクスかわいい…」 ハンガリーさんの腕の中で眠る姿をのぞきこんだら、疲れちゃったみたい、と優しく微笑まれた。 「リリーは疲れてないんですか?」 オーストリアさんのちょっとしんどそうな声に、はい、と答える。 「山登りで鍛えてますから。」 「…若いですねえ…」 おじいちゃんみたいなことを言うから、オーストリアさんだってまだまだ若いじゃないですか、と笑う。 「同じことパパも言ってましたけど。」 付け足せば、嫌そうな顔。…やっぱりまだ仲悪いのかな? そう思っていたら、名前を呼ばれた。見れば、ああ、しまった。分かれ道だ。 「置いていくよ〜?」 笑いながらのママの声に、今行く!と言って、じゃあ、とオーストリアさん夫婦に声をかける。 「ええ、またね。」 「気をつけて帰りなさい。」 はあい、と返事をして、じゃーなーと手を上げるマックスにハイタッチして、家族の元へと走った。 夕日が綺麗。明日もきっと、いい天気だ。 戻る |