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「絶対私ー!」
「俺だもんー!」
叫んで、にらんだ。自分の幼い頃にそっくりな顔が、にらみ上げてくる。
「俺の方がドイツのこと好き!ずっと好きなんだからね!」
「時間なんて関係ない!私の方がすっごく好きなんだから!」
「そんなことない!俺の方が」
「私だもん!」
堂々巡りの言い合いが何巡目かをはじめて。
うー…、とにらみ合っているときに、玄関の開く音が聞こえた。ドイツとガヴィが帰ってきたみたい。
「ただいま!救急箱と水とタオルをとってくれないか!?」
玄関からのドイツの声に、ヴェ、とびっくりしてから慌てて取りに行く。マリアがボールに水を入れて、イタリアがタオルと、救急箱を用意する。
玄関に走れば、ガヴィが転んだらしい。血のにじむ膝に、痛そう、と顔をしかめる。
てきぱきと消毒して、絆創膏を貼るドイツの手並みにふあー…と呟いて。
「…う。」
眉をしかめても、泣かないガヴィに、よく我慢したな、とドイツが額にキス。
「あ。あー!」
「ずるいー!」
マリアとイタリアに抱きつかれて、なんだどうした、とドイツは困った表情になった。
「俺もー!俺もキスー!」
「私もー!」
「はあ?」
訳が分からない。そう呟きながら、それでも額にキスをしてくれた。
母子は顔を見合わせて、笑って。
「ガヴィも!」
「ね!」
両側からちゅ、とガヴィの頬にキスをしたら、かあ、と赤くなってしまって、くすくす笑った。


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ママの馬鹿、分からず屋!
そう怒鳴って出て行ってしまったサラを見送って、はあ、とため息をつく。
…言い過ぎたかなあ。ちょっと。
サラははっきり物事を言う子だから、ぱん、と言われてかっとなってしまったりするのだ。
落ち着いてくると、上がってくるのは後悔ばかり。
言い過ぎたかなあ。言葉がきつかったかなあ。…このまま口きいてくれなくなったらどうしよう。

机の上につっぷして、ため息。
それでも、謝る気はない。だって、間違っているのはサラだ。だから。
謝ってはいけないだろうと、そう思う。あの子を間違った方向に導かないように。
…こういうときに限ってフランスさんいないんだから…もー…
はあ、とため息をついたら、ぎ、と椅子を引く音がした。
顔を上げると、そっぽを向いたサラの姿。

「…譲る気、ないから。」
私は、写真が好きだし、撮るから。…でも。
「ママの言ってることもわかるから。…気をつける。」
そう言われて、ああ、いい子に育ったな、と小さく笑った。


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ばたん、とドアを閉じて布団の中に潜り込む。
「…お母さんの馬鹿…」
あんな言い方しなくていいじゃない。わかってるのに。ちょっと言ってみただけなのに。
ぐすん、と鼻を鳴らして、頭をシーツに擦り付ける。
…わかってる。言っちゃいけないことだってあるってことは。だからお母さん怒ったんだってことは。
…でもお母さんだってひどいんだもん…
怒っていたお母さんの顔を思い出して、うずくまる。

そのとき、こんこん、とノックの音がした。もぞもぞ、と布団の外にでる。
ふわり、と甘い匂いがした。
「…?」
『あー…イザベル…』
!お母さんだ!
『…さっき、は、悪かった…チュロス、作った。食べないか?』
ぼそぼそ、とした声に、小さく笑う。
ご機嫌の取り方がお父さんと同じ!
ぱたぱたと駆け寄って、ドアを開ける。
「イザベル」
驚いたような表情のお母さんに、まずごめんなさい、と謝る。
「俺も、悪かった。」
頭を撫でられた。抱きつくと、甘い匂い。
「チュロス、食べるか?」
「一緒に食べよう!」
にこ、と笑って見上げると、世界で一番綺麗な微笑みが見えた。


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「ベアトリクス!」

怒鳴りつけた途端に、ああ、やってしまった、と思った。
「…っ」
じわり、とにじむ涙。
ふるふると震えて、それでもき、と見上げてくる彼女は、大人っぽいから、はきはきと意見を述べるから、つい対等に扱ってしまうけれど。まだ小さいのだ。
「ごめんね。」
謝って、抱き寄せる。
「だけど、だめなの。絶対。」
「…どうしてもだめですか?」
「どうしても。」
だから、わかって?そう言ったら、小さくうなずいた。どうしてもだめなら、諦めます。少し残念そうな声に、ごめんねと謝る。

でもだって、カナダのいないフランス家に泊まりなんて許せるわけがない!
「…次は、許してくださいね?」
「…カナダがいてマックス連れて行くなら、まあOKかな…」
なんとかそう返して、この子はうちの天使なんだから絶対守らなきゃ、とぎゅうう、と抱きしめた。

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長い金髪の残像だけ残して、ばたん、とドアが閉まった。

はあ、とため息をついて目を閉じると、机に何かが置かれる音。
目を開けると、お疲れ、と苦笑したイギリスさんがいた。
「ホットミルク。」
目の前に置かれたマグカップは、甘く暖かい湯気を立てていて。
ありがとうございます、とお礼を言ってから、飲む。…甘い。ほっとする甘さだ。
「…言い過ぎましたかねえ…」
向かいの席に座った彼に言ってみると、そんなことないだろ。と返ってきた。
「間違ってるのはあいつだし、それをあいつもわかってる。…ちゃんと叱ってやるのが正しいはずだ。ここで甘やかすのは、それこそ間違ってる。」
ちゃんとそれをできたんだから。大丈夫だ。
強い力を持つ声。そう言われて、心底ほっとした。
「…ありがとうございます。」
さすが二児を育て上げただけはありますね、と言えば、ちょっと困ったように眉を寄せられた。
「…それ誉めてるか?」
「ええ。…本当ですよ?」
こうやって子育てをしてみて、本当にすごいと思うのだ。育った二人は…まあ、まあ性格云々は元々持ってるものがあるからまあ置いておいても、二人ともまっすぐで素直だ。あんな風に育てるのは大変だったろうと思う。

「…大丈夫。日本だってしっかりできてる。」
その証拠に、ほら。
視線で見るように促すから、見れば、薄く開いたドア。
「謝るなら早めにしとけ、エリ。」
イギリスさんの声に、ドアが開いて、ばつの悪そうなエリが現れて。入れ替わりに出て行くイギリスさんを見送って、小さくごめんなさいと呟いたエリの頭を撫でた。

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