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控え室に純白のドレスに身を包んだ二人。
「ねえねえ兄ちゃん、おなか触ってもいい?」
「いいけど…まだわかんねえぞ?」
イタリアがわくわくと言って、ロマーノは困ったように笑った。

「わ…ちょっとおっきくなった?」
「…本当に、ちょっとだけ、な。」
「すごいなあ…この中にいるんだよね…。」
いいなあ、俺もいつか、ドイツと。とうらやましそうに言うイタリアに、ロマーノはむっとしたが何も言わなかった。今日は、何も言わないって決めたのだ。じゃがいもとか。そういう。…名前を呼ぶとか、は、できそうにないけど。ちょっとくらい。悪口言わないくらい。弟の、めでたい日なんだし。俺も、だけど。

「でも、ドイツが避妊してる間はムリだよね…。」
ドイツいいって言ってくれるかな。と不安げに言うから、結婚したら何の問題もないだろ、と言ってやった。…ちゃんと避妊してんだ。えらいな、とか思ってしまったのは、たぶん口にしない方がいいだろう。(こないだまで避妊って言葉すら知らなくて、何だそれって聞いたら、顔を引きつらせたハンガリーがスペイン!!と怒鳴って説教してたし。)

イタリアは、そうだよね、と笑って、ふと鏡の中の自分を見た。
美しい純白のドレスは、ハンガリーさんを交えて兄ちゃんと三人で、ああでもないこうでもないと悩みに悩んで決めたものだ。…ドイツとスペイン兄ちゃんは、もういいだろ、とだいぶ飽きた顔をしていた、けど。
実は、決めたドレスをドイツに見せていない。(というか、途中で急ぎの仕事が入って行ってしまった。)ハンガリーさんやスペイン兄ちゃんは、すごく綺麗だと褒めてくれたけど。…ドイツは、どんな顔をするだろう。

「…ちょっと胸元開きすぎかなあ…。」
小さく呟くと、別にいいだろ。と兄ちゃんの声。
見れば、ふい、と顔をそらして、でも、小さく言う。
「おまえが納得して選んだんだったら、あいつは、別に文句とか。言うやつじゃないだろ。…あと。」
おまえだったら何でもいいって言いそうだ。そう言われて、なんだか、うれしくなった。…兄ちゃんが、ドイツのことわかってくれたみたいで。えへへ、と笑うと、別にあいつのこと認めたわけじゃないからな!と怒られた。


そこに、こんこん、とノックの音。
はあい、とイタリアが返事をすると、開いたドアからスペインが顔を出して。
「…っ!!ロマーノ!!何やねんそのかわいさはああもう反則やでかわえええ!!むっちゃかわええ!!」
と、ロマーノに突撃せん勢いで抱きついてすりよるから、ロマーノにやめろしわがつくだろーがちくしょーが!と蹴り上げられた。

「痛い…お、イタちゃんもすっごい美人やね!…いっそのこと兄弟まとめて俺のとこ来ーへん?」
にこにこ笑って言われて、イタリアが口を開こうとしたとき、す、と目の前が真っ白になった。
ヴェ、と声を上げると、誰がやるか、と低い声。ドイツだ。白いタキシードを着たドイツが、目の前に立って。
「え〜。」
「えーじゃない!…人を思い切り殴っておいてそれはないんじゃないか?」
「あれはロマーノの代わりやから、俺が殴ったことにならへんの!」

結婚する、と報告に行ったときのことだ、と思い出す。
イタリアをもらうぞ、と言ったドイツを、スペイン兄ちゃんが殴り飛ばしたのだ。
それで、びっくりする俺たちの前で、やって女の子に、それも妊婦さんに殴らせるわけにはいかへんやろ?やからロマーノの代わり。と笑ったスペイン兄ちゃんに、むしろそれイタリアの代わりに俺がおまえを殴るべきじゃないのか、とドイツが痛そうに顔をしかめて呟いて。

思い出して笑っていると、ま、ロマーノがおったらええんやけど、とスペイン兄ちゃんがひょい、と兄ちゃんを抱き上げた。
「うわっ。」
「ほな、俺ら先行ってるな〜。」
笑って行ってしまう二人を見送って、ぱたん、とドアが閉まった。

振り返ったドイツに、思わず息を飲んだ。
いつもどおりの髪型。
でも、それに、もう、ああもう、何にも言えない、言葉にできないくらい、白いタキシードがよく似合ってて、もうすっごいかっこいい!まっすぐ見れないくらいかっこいい!
「…イタリア。」
呼ばれて、な、何?と返す。…よく、似合ってる。なんて、ダメ、そんな優しい顔しないで、もう、もー!
一人でばたばたしていると、どうした、と苦笑された。
何とかなんでもないよ、と答えて、ありがと。と褒めてくれたことにお礼を言ったら、ドイツが視線をそらして、こほん。と咳払い。

「…忘れられない、日になりそうだな。」
「…そうだね。」
小さく返事をすると、イタリア、と呼ばれた。頬を包む大きな手。
「…誓いのキスには、まだ早いが。」
キスしたい。いいか。なんて、滅多にないくらいまっすぐに聞かれて、嫌って言うわけないのに。俺だってキスしたいし。
笑って、その唇に、俺の方からキスをした。


「…やっぱ、正解やったな。」
そう言われて、何が。と返すと、結婚式合同にして。という返事。
眉を寄せて、すぐ近くのスペインの顔(だってこいつがまだ抱き上げたままだから)を見ると、ロマーノ、もしばらばらやったら、イタちゃんの結婚式来なかったやろ?と言われた。

…そうかも、しれない。今だって、二人きりにしてくるのが、少し、嫌で。
「せっかくのイタちゃんの晴れ姿なんやから、ちゃんと見届けて欲しかったし。けどつれてくるの大変そうやったから、一緒にしよって。」
自分の結婚式やったら、来なしゃーないやろ?そう笑って言うから。ああ、またこいつは。と思った。また、こいつは、俺の考えもしないところで、俺のために動いてくれていたんだ。

「それに。イタちゃんはドイツのものになってまうけど、代わりに俺がロマーノのものになるんやから、それでええやろ?」
俺じゃ、イタちゃんの代わりにはなれへんけど。と笑うスペインに、ばあか、と口の端を上げて言ってやった。
「おまえは、ずっと前から俺のものだろーが!」
スペインはきょとんとした表情をして、それから噴き出した。
「その通りやな!」
ごめん、ちゅ、と額にキスをくれたから、許してやることにして、首に回した腕に力を入れた。

それから、バージンロードでイタリアが盛大にこけそうになったり、ロマーノが指輪落としそうになったり、誓いのキスで、スペインは延々ロマーノを離そうとしないし、それを見たイタリアがドイツ、俺たちも、ねだって、…後で、気が済むまでしてやるから。なんて甘い会話を交わしていたりして、客達を呆れさせたりしたが、まあ、つつがなく式は終わり。

「…兄ちゃん。」
「ん?」
「俺、今やっと、ハンガリーさんの気持ちがわかった気がする。」
あのとき、ハンガリーさんは、ブーケを二つにわけて、俺と、兄ちゃんの二人に向かって投げてくれた。本当は、正しくないことなんだろうけど、でも。その気持ちが、よくわかる。
「…少しでも、誰かに、この幸せを分けてあげたいって思うから。」
そう、この、今感じている、もう一生の中で一番ってくらいの幸せを、他の人にも味わってほしいから。
だから、ハンガリーさんは、ああしたのだ。
「…俺は、少しでもいっぱいの人に、分けてあげたいんだ。だから。」
「…いいんじゃねーの?どうせブーケは二つあるんだしな。」
言う前に、わかってくれたみたい。小さく笑って、ブーケのリボンに手をかける。
けどなかなかほどけなくて、あれ、と呟いていると、それを取られた。
「…ほら。」
ドイツが解いてくれて、小さいけれど綺麗な花がたくさん現れる。ありがと、とお礼を言って、受けとる。
ロマーノが、ブーケを見ていると、スペインが、中から一本の薔薇のつぼみを抜いて、ロマーノの髪に挿した。
「記念に一本もらっとき。」
「…うん。」
小さくうなずいて、笑う。

そして、せーの!という掛け声とともに、ブーケと、たくさんの花が、空を舞った。
ブーケは、誰かの幸せのきっかけになるように。
花は、たくさんの人に幸せを配るように。

教会の鐘が、遠くまで、のびやかに、美しい音を奏でた。


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父親同士は仲が良くないが、フランス家とオーストリア家の家族間の交流は、そこそこあるほうだ。

特に仲がいいのが、ハンガリーとサラの二人。
今日も、二人で額をつきあわせて密談してはくすくす笑っていた。
けれど、今日はめずらしく、もうひとり、を待っていた。
「遅くなりました。」
二人のいたテーブルの空いていた席に座ったのは、ケイ。
「来た来た」
「おそーい」
「すみません。姉さんをまくのに思いの外時間がかかってしまって。」
ケイが困ったように微笑んで、そんなことよりほら、はじめましょう、というハンガリーの声に、二人はがさがさと鞄を開けた。

「はい、WLA第一回報告会を行いまーす。」
「そんな名前付けたんですか…」
「何の略でしょう」
「世界恋愛委員会、とか、そのへんですか?」
「…ぴんぽん」
「何で〜?」
「これでも英語の国の子供ですから。」
そんな会話を交わしながら、がさがさと何かを机の上に広げる。
広げられたそれは、写真だ。国の面々やその子供たちが写っているが、どちらかというと、親たちの方が多い。

「これ見てください!」
サラが指さすのは、両親のキスシーンの写真。
「え?…んーベストショットではあるけど、あなたのお父さんとお母さんだいたいこんなでしょ?」
「あ、はい。朝の恒例行事です。」
「…朝から濃いキスですね…」
「しょうがないでしょそういう人たちなんだから…ん?なんか違う写真紛れ込んでるけど。」
サラが手にとったのは、着物の女性の写真。金髪のロングヘアを高くまとめた、着物姿の女性。少し恥じらったような表情がなかなか美しく。

「ああ、それ父さんです」
「…ん?」
「え?」

「父さんです。」
「うっそぉ!」
「ほんとにイギリス!?」
「はい。美人でしょう?母さんの力作です。」

ほら、と彼が指す写真には、困った表情の着物美人と、彼?にシャッターを切る楽しげな日本の姿。
はー…すごーい、と二人はそれを見て。
「いります?」
「ちょうだい。」
声はきれいにそろった。

「あ、これかわいーでしょ?」
ハンガリーが指すのは、オーストリアが眠っている写真。
というか、ハンガリーが撮ってきたものは、オーストリアか、マックス、ベアトリクスしか写っていない。

「…」
「…」
「はーい、書記さん」
「何ですか副委員長」
「次から委員長の記録係担当しまーす」
「お願いします」
「ちょ…!待った!お願いだから待って!」
「だって、世界各国の恋愛事情を覗き見しような委員会ですよ?」
「いくら委員長と言えど例外は作りません。」
「う、う〜…じゃ、じゃあ!これでどうだ!」

ばさ、とハンガリーはそれを取り出した。何だか大きくて豪華なアルバムだ。
「何ですかこれ」
「私の秘蔵アルバム。」
そしてばらばらとめくって、あるページ開いた。
「これこれ!」
ばん、と開けたそこには、四枚の写真。
「うわ!」
「え、母さんのも!?」
「どう?イタちゃん、ロマーノくん、カナダくん、日本さんの、超ミニウェディングドレス姿!」
純白の、だけれど明らかに本来のものと用途の違うそれを、恥ずかしそうに身にまとう四人の写真に、おお、と二人は食いついた。

「これあげるから!だから許して!」
ぱん、と手を合わせる。
が。
「でもそれとオーストリアさんとハンガリーさんの観察するしないは話が別よね。」
「むしろ、ハンガリーさんこのドレス持ってるんですよね?」
「あ、じゃあその写真撮影からで。」
「うわーん!」


そんなこんなで世界のどこかで委員会の活動は今日も続く。

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