.

※墺さんが女体化してますのでご注意を




ベアトリクスがそのまま大人になったみたいな。
そんな美人を母さんがうきうきとつれて帰ってきたから、一瞬誰?と聞きそうになったけれど、なんとなく、わかった。
さっきかかってきた、ケイからの『うちの父さんが迷惑かけてごめん』、という電話の意味も。
「…父さん?」
「あら正解。よくわかったわね、マックス。」
「え…えっ、えええ!?お、お父様!?」
ベアトリクスがひっくり返った声を上げる。…当たり前だ。自分の父が、絶世の美女になって帰ってきたら、ふつう驚く。
…ということは自分はふつうじゃないんだろうなあ。なんて悲しい事実を受け止めながら、諦めのため息。
父さんは当然のごとく、不機嫌だった。


さらり、と流れる髪。美しい瞳。…綺麗だなぁとしみじみ思って(でも心底嬉しくない)、小さくため息。
「…何か言いたいことがあるなら言ったらどうですか。」
父さんの、(聞き慣れない高い)声を聞いて、いやあ…と呟く。
「美人だなぁ、と。」
「言っておきますが全く持って嬉しくはないですからね。」
眉をひそめた言葉に、俺だって嬉しくない、とぼやく。
「は?」
「ベアトリクスが大きくなったらそうなるんだろうなぁと…」
悪い虫が山のようにつきそうだ、と…。
呟いたら、ぴしり、と固まっていた。
「…そう、ですか。」
「うん。」
「…頼みますね。」
「わかってる。」
言われなくても、するつもりだし。虫退治。…こんなことしてるからルキーノの馬鹿にシスコンとか言われるんだろうか…
ため息ついた途端に、服探しに行っていたオーストリアさぁんと嬉々として母さんが帰ってきた。


じい、と見つめてみる。
紫の瞳、茶色の長い髪。眼鏡をかけて本に目を落とす姿は、言われてみればお父様にそっくりだけど。だけど!
「…そんなに見られても困るんですが…」
困ったような表情を浮かべられてはっとする。
「ご、ごめんなさい…」
しゅん、としてうつむいたら、立ち上がる気配。
隣に座る衝撃に、ソファが揺れた。
さら、と髪を撫でられる。いつもと同じ感触。
「戸惑うのは当たり前です。私自身も…よく、わかってません。」
困ったように笑うから、顔を上げると、ふわり、と美しい微笑。
「ハンガリーとマックスは楽しそうですが。」
それはもう本当に。
最初はお母様だけだった着せかえに、お兄さまが悪乗りして、今はなんか、昔の服を探しに行っている。ゴージャスなドレスとか、着せたいらしい。…馬鹿。
ため息をついたら、退屈ですか?と顔をのぞき込まれた。あわてて首を横に振る。そうじゃなくて。
なのに、お父様は勘違いしたままで、そうですね…と考え込み始めて。
「では…ピアノを教えてあげましょうか。」
最近してなかったですから、と微笑まれて、はい!と返事をした。
「練習は欠かしてませんか?」
「もちろんです!」


戻ってきたハンガリーとマックスが、二人並んでピアノを弾く愛らしい姿に、カメラいやビデオと大騒ぎするのは、十数分後のこと。



鼻歌が聞こえる。この上なく楽しそうな。
後ろから聞こえるそれに、こっそりとため息。
「気は済みましたか?」
「まぁとりあえずは!」
でもまだまだ着せたい服はあるんですけど。とうきうきしながら髪を梳くハンガリーに、苦笑。

「そういえば、あれからイギリスはどうしたんですか?」
「青筋浮かべて笑顔の日本さんが来たので引き渡しました。その後は知りません。」
…それはまた。まあ、いい気味だとは思うのだけれど。
人に魔法をかけておいて唖然としていた表情を思い出して、肩をすくめる。
と、ぎゅう、と後ろから抱きしめられた。

「は、ハンガリー?」
むふふふとか怪しげな笑い声が聞こえる。…まあいいか。楽しそう、ですし。
「…でもこうしてみると、オーストリアさんが男の人でよかったですよ…」
女の子だったら競争率高すぎて無理ですもん、そうすり寄られて、そうですか?と首を傾げる。
「…でも、それは同感ですね。」
自分が男でよかったとは思いますよ。そう言ったら、何でですか?と言われた。自分の肩に添えられた手を、とる。ハンガリーの、古傷のある手。
…武器を握る人の手だ。
「あなたを守る口実ができますから。」
そう言って、結婚指輪にキスを落としたら、ぼす、と肩に頭が埋められた。

「おっ…オーストリアさぁん…」
情けない声に、くすくす笑う。
「はい」
「…好きです」
「私もですよ。」

戻る