.

入院、になった。
双子ではよくある話なのだ、という。
「不安?」
そう、フランスさんに言われて、少し。と返した。
もしかしたら、おなかを切らなければいけないのかもしれないのだという。
今は、赤ちゃんたちがおとなしいので、その可能性は低めらしいけど。

「大丈夫。カナダの子供なんだから、きっと素直に生まれてくれるよ。」
「…フランスさんの子供だから、素直じゃない可能性もありますよね。」
小さく呟くと、こら、と怒られた。
けれどそれはすぐに苦笑に変わる。
「まあ、そんなこと言えるなら大丈夫だな。」
ちゅ、と額にキス。

「フランスさん、仕事、いいんですか?」
「大丈夫。俺はイギリスとは違って、しっかり育児休暇とってあるから。」
いやそういうことではなくて。というか、国に育児休暇?
なんだか煙にまかれた気がしたが、まあいいか、と諦める。
フランスさんは、僕が知る必要ないと判断したことは何があっても教えてくれないし、それに、彼が大丈夫というなら大丈夫なのだ。

「カナダの仕事も、もちろん大丈夫。だから、出産のことに集中してればいいから」
「はあい。」
「ああでも。」
俺のことは考えてて欲しいな、なんて額にキスされて、思わず笑った。

産声が、2つ。

二人とも無事に生まれましたよ、と言われて、もう本当に泣きそうだった。よかった、二人とも無事で。本当によかった。
一人を、抱かせてもらう。女の子の方だ。もう一人は、男の子だった。フランスさんの腕の中にいる子は。抱き上げるとすぐ泣きやむ、おとなしい子。

「…カナダに似てる」
「そう、ですか?」
まだわからないと思うんだけどな、と腕の中の子を見る。
「似てるよ、二人とも。…そっくりだ。」
よくがんばったな、『ママ』。
フランスさんにそう言われて、はああ、とため息をつく。
生まれたんだ、無事に、生まれたんだ!

「よかった…」
泣きそうになりながら呟くと、キスが降ってきた。
フランスさんのうれしそうな顔を見上げる。目が潤んでる。こんな幸せそうな表情は、初めて見た。

「名前、考えなきゃな」
「そうですね。」
幸せになるように。健やかに育ってくれるように。そう、名前を付けよう、と思った。
「これからよろしくお願いします、『パパ』。」
そう笑ってみせると、彼は幸せそうに目を細めた。

戻る














.

部屋を出ると、廊下でママとサラとあった。また三人そろって寝坊だ。パパはもう起きて、ご飯を作っているみたい。いい匂い!
「おはよう、ママ、サラ。」
「おはよ…」
「おはよう、リリー」
ふああ、とあくびをするママを見て、サラと顔を見合わせる。
「まだ起きてないんだ?」
「うん。でも、仕事がって言ってたから起こさなきゃと思ってさ。」
話している間にも立ったまま船をこぐママの体をサラと二人で支えて、洗面所へ連れて行く。

顔を洗っている間に、二人でパパの手伝いをしにいった。
ちょうどキッチンからお皿を4枚も持ったパパが現れる。
「おはよう、パパ」
「おはよ」
体を屈めるパパの両側に立って両頬に同時にキス。
「おはよう、サラ、リリー。今日も可愛いな。」
うれしそうに笑ったパパからお皿を一枚ずつ受け取って、ママは?洗面所、としゃべりながら朝ご飯の準備。

眠たそうに、でも少しははっきりした声でママがおはよう、と言いながら歩いてきた。サラが、メープルシロップ取りに行こ、と逃げる。私は…バターかな。ぱたぱたとその後を追う。
「おはよう、カナダ。」
「おはようございます、フランスさ、ちょ、もう…!」
「おはようの、キス」
「フランスさん!!んっ…」

聞こえてくる甘い声を聞こえない振りして、サラ今日何して遊ぶの?決めてなーいと会話をする。いつものことだからだ。
「リリーは?」
「ん〜…イザベルのとことか遊びに行こうかなぁ」
「あれ、待って待って、エリんち遊びに来るのいつだっけ?」
「明日」
「あ、そっか。」
よかった、とサラがため息をついたところで、お嬢さん方、ご飯にしよう、と声がかかった。
はぁい、と二人で答えて、取りに来たものを抱えて、歩き出した。


戻る













.

ふ、と見上げると、…やっぱりいた。苦笑しながら、その姿を写真に収める。
シャッター音に、振り向く。

「サラ。」
「また木登り?好きね、高いところ。」
木の上にいるリリーに声をかけ、自分も登る。こんなに、無駄にうまくなってしまったのは、リリーのせいだ。

「今日は男の子っぽいわね。」
服装が。いつもふわふわした服を着ているのは、父さんの趣味だけれど。
「ぽいって…私男なんだよ?」
苦笑する双子の兄に笑う。確かによく似ているけれど、双子と言う割には似ていないんじゃないか、と私は思う。
普段のふわふわした格好じゃあわかりずらいが、こいつは父さん似で、凛とした顔つきをしている。真剣な表情をすれば、それなりにかっこいいのだ。

遠くの景色を見るリリアンに、レンズを向ける。
シャッター音に、また勝手に撮って、と苦笑された。
「私なんか撮って楽しい?」
「綺麗なものは撮っておくべきでしょう?」
ウインクをして、こないだも綺麗なもの見つけたのよ、とデジカメのデータを探す。

後ろからのぞきこんでくるリリーが、あぁ!と声を上げた。
「またこんな写真撮って…お母さん泣くよ?こないだ怒られたとこでしょ」
「いいのよ、許可取ってあるから。…父さんに。」
「もー…二人して…」
「言ったでしょ?綺麗なものは、撮っておくべきなの。」
笑って言えば、彼は困ったように笑った。

戻る
























.

昔から寝坊の多かったカナダの、しみついた癖が、そう簡単に抜けるはずもなく。
放っておくと昼というか下手すると一日寝ているカナダを起こすのは、朝からかなりの重労働だった。

「ねえママ!」
「起きてよ!」
二人がかりで体を揺らすが効果なし。
上に乗ってもまったく効果なし。
二人で耳元で叫んだら、眉をひそめてもぞもぞと布団の中に潜っていってしまった。
「…起きないね…」
「毎朝のことながら、しんどい…」
かれこれ一時間ほど起こしにかかっているリリーとサラは、肩で息をするくらい疲れ果てているのに、当のカナダは、布団に丸まってすやすやと幸せそうに眠っていて。

「…諦める?」
「でも今日会議だよね?」
「……ママいなくても大丈夫な気は、する。」
「まぁそれはそうかもしれないけど、やっぱり出席することに意義があるんじゃない?」
「ないでしょ…」

なかなかに辛辣なことを言いながら、二人は同時に母親を見た。
もぞり、と寝返りを打つ穏やかな寝顔。

「あーあ。カナのやつまだ寝てるのか。」
後ろからの声に振り返る。入り口に、困ったように笑う姿。
「パパ!」
「もー全然起きないの!」
娘たち(?)の声に、はいはい、と笑って、フランスは、カナダの眠るベッドに歩み寄り、腰掛けた。
「…カナダ。」
呼びかけ、顔を耳に触れるくらい近づけて、低い小さな声で何事かをささやき始める。
「…何話してるのかな。」
「さぁ…たぶん教育上よろしくないことだと思うけど」
「ふーん…」
ひそひそ話している間に、カナダは眉をひそめ、フランスが何かまた囁くと、いやいやと首を横に振った。
「カナダ、」
「…かりました、起きます、起きますから…」
ようやっと、カナダの目が開いた。紫がかった青が、眠そうに、どこか不機嫌そうに辺りを見回す。

「おはよう、カナダ」
「…はよー…ございます…」
眠そうに目をこすりながら、それでも起き上がったカナダに、リリーとサラは抱きついて、両頬に同時にキス。
「おはよう、ママ。」
見事なユニゾンに、彼女はおはよう、と笑って、子供達にキスをし返した。
「ママったらお寝坊さん!」
「全然起きないんだもの。疲れちゃった。」
抗議に、ごめんね、と笑ったカナダにキスをして、さあ、ご飯にしようか、とフランスが立ち上がった。
「それが済んだら出かけないとな」
「え、今日何かありましたっけ?」
「世界会議!!」
二人に言われてやっと思い出したらしい。ああっと声を上げた。
「もー…」
「ママったら…」
子供達のため息に、フランスは耐えきれない、とばかりに笑いだし、わ、笑わないでくださいよ、と赤くなったカナダに怒られた。


戻る























.

雨が降って、ピクニックに行けなくなってしまったから。じゃあ、みんなでお菓子でも作ろうか。そう言いだしたのは、ママ。

サラは、たまにパパに教えてもらってるから、料理が上手。でも、私は苦手だからな、と思っていたら、じゃあリリーは僕とやろうか、とママが笑った。
うん、と答えて、最初は、小麦粉をはかるところから。

サラがチョコレート溶かしてる隣で、小麦粉を振るう。結構こぼれているけれど、後で片づければいいよ、とママが言ってくれた。…そう言うママも結構こぼしてるし、いいかな、と笑う。
「甘い方がいい人〜」
パパの声にはあい、と、私とママの二人の声があがる。
「えー、私甘くない方がいい〜」
サラの主張に、じゃあ後で調整できるように控えめにしとこう、とパパは砂糖を計って。
「ただし、カナダとリリーは甘くしすぎないこと」
くぎをさされて、はぁい、とまた返事が重なった。

「私、お菓子ができるの待ってる間って好き。」
甘い匂いが好き、と笑うと、私は嫌い、とサラが顔をしかめた。
「私は食べてるときの方が好きだもん。待ってられないわ!」
「それはまた話が別だよ〜」
私だって食べてる方が好き、と笑うと、ちん、と音がした。
「お待たせ、できたぞ!」
わぁ、と3つ歓声があがった。

あとは、甘い甘いティータイム。


戻る





















.


「お誕生日おめでとう!」

パパ、という声と、フランスさん、という声が重なった。
「ありがとな。」
愛らしい子供たちと愛しい妻に祝われてうれしくないわけもなく。フランスは、頬を緩ませた。
「はいパパ!これ私から。」
リリーが差し出したのは、押し花を使って作られたしおり。子供が作ったと思えない出来映えのそれは、さすが美の国の子供、といったところか。
「ありがとう。」

「これは、私から。」
続いてサラが取り出したのは小さなアルバムだった。
「お宝ショット満載だから!」
ぐ、と親指を突き出すサラに、ぱらり、とめくったフランスはによによと笑って。
「サラ、よくやった。」
「えっへん!」
「何の写真ですか?」
「ヒミツ」
後ろからカナダがのぞき込もうとした途端に閉じたところをみると、カナダの写真のようだ。

「もう…いじわる。まあいいか。ほら、ご飯にしよう?今日は僕がごちそう作ったんだよ!」
わあ!と上がる歓声に、フランスさんのほどおいしくないけどね、て付け足して、そんなことない!と三人から反論をうけて。

「子供達、寝ちゃいました?」
うなずくフランスに、カナダは苦笑した。
「朝からがんばってましたからね。」
疲れたんでしょう。そう言って、食器を片付けていく。
「手伝うよ」
「いいんですよ、今日の主役なんですから。」
座っててください、と言われて苦笑。
じゃあお言葉に甘えて、と椅子を引いて腰掛けた。

「…ものが、よかったですか…?」
「ん?」
何が?と聞かれて、プレゼント、と答える。
「料理とか、じゃなくて、形に残るものの方がよかったのかなって。」
「んー…カナダからなら、何でもうれしいよ。それに。」
わざとらしく切られた言葉に、何ですか?と先を促すと、指先で呼ばれた。
片づけを一端中断して、彼のそばに行く。
「何で、きゃ!」
いきなり腰を引き寄せられて、彼の上に倒れ込む。

「それに、カナダからは、もう大きなものをもらってるし。」
「え、僕なんかあげましたっけ?」
目の前で首を傾げる彼女に、ああ。とフランスはうなずいて。
「『カナダ』、をもらったよ。」
にこ、と笑って告げられた言葉に、カナダは驚いた表情になって、それから、ふふ、と笑って、抱きついた。


戻る