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ぱさ、と腕の中に落ちてきたブーケに、え、と固まった。
「おー…ナイスキャッチ」
隣にいたフランスさんに言われて、はっとした。
「え、これ、だって、…僕がもらっちゃダメなんじゃ」
「そんなことないさ」
そう笑って言われて、あ、そうか今女の子なのかと気づいた。なら、いいか。でも、もらったって、結婚する先なんか。少しだけ考えて、真剣な顔で隣を見上げる。
「…じゃあ、フランスさん。僕のこと、お嫁にもらってくれます?」
なぁんて、冗談ですけど。と笑ってみせると、彼は一瞬固まってから、ふ、と目をそらした。
見つめる先にはイギリスさんがいて、首を傾げた。


がちゃ、と音がして、顔を上げるとフランスさんの姿。
「お帰りなさい。今日はイギリスさ、」
それ以上言う前に、抱きしめられた。
強く腕に抱きすくめられて、目を丸くする。
「フランス、さん?」
小さく呼ぶと、彼はしばらくした後、顔を上げた。
その整った顔が、なんだか、いつもと違って、片頬が赤くなっているように見えて、どうしたんですか、と声をかける。

「ああ…イギリスに殴られた。」
「ちょっ…ええ!?」
何で、と声を上げる。すると彼は、笑った。
「カナダをくださいって言ってきた。」
「えええ!?」
それ、え、なん、と声を失っていたら、カナダが、お嫁にもらってってプロポーズしたんだろ?と笑われた。
すぐに気づく。イギリスさんの結婚式の時だ。
「…そんな…あれは、だって、」
冗談のつもりだった。なんとなく言ってみただけだ。なのに。

こつん、と額をぶつけられる。カナダ。と名前を呼ばれた。美しい、冬の空の色の瞳。
「わかってる。…カナダが冗談のつもりだったってことは。」
けど、それに乗っかってしまわないと、こんなこと言えないんだ。だから、ごめん。
謝られて、でもそれが何のことかわからなくて、困惑してその目を見つめると、優しく細められた。
「もう、式場もドレスも全部準備は完了してる。イギリスの許可もとった。招待状も配布済み。
あとは、花嫁の到着を待つばかり、なんだけど。」

…もう、言葉も出なかった。
カナダ、ごめんな。そう言われた。髪を撫でられる。
「そんなの…答えなんか、決まってるじゃないですか。」
絶対すぎる一択。状況も、…僕の、心だって。最初から。一つしか答えなんか、ないのに!
泣きそうに微笑むと、抱きしめられた。
「俺の、お嫁さんになってくれる?」
「…はい。もちろん!」

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真っ白なドレスは、サイズぴったり。採寸もしてないのに、と呟くと、カナダの体のことは俺が一番よく知ってるさ、なんてったって毎晩触って、なんて自慢しはじめるから、その辺にあった長い布をばふ、とフランスさんの顔に投げつけた。

「…というか、こういうのって、普通係りの人にしてもらうもんじゃ…?」
当たり前のように化粧道具を持ち込んでいるフランスさんに言うと、そんなもったいないことするわけないだろ?と言われた。
「カナダの晴れの舞台なんだから、とびきり可愛らしくしてやらないと。…俺の手で。」
鏡越しに微笑むフランスさんを見て、フランスさんこそ、その舞台のもう一人の主役のはずなんだけど、と思っておかしくなった。

口紅塗っちゃうと誓いのキスまでキスできなくなるから、と言ってさんざん長いこと唇を重ねてもう無理って言ってるのに何度もキスを交わして、もうほんとに、立てなくなって、ちょっとだけ時間を遅らせてもらってはじめた結婚式。
何だかもう胸がいっぱいで、誓います、とそれだけの言葉さえつまって言えなくて、なんとかそれでもしぼりだして、フランスさんにつけてもらった指輪がとても綺麗でもう泣いてしまいそうで、まだ泣くのは早いよ、と彼に囁かれて必死に我慢した。

それから、では誓いのキスを、と言われて、その言葉だけでうわあ…!と思っていると、一瞬、フランスさんが、悪戯っぽい、笑みを、浮かべた気が、した。
ちょっとやな予感。
と思っていたら案の定!
さっき立てなくなったところなのに、また深く口付けられて、今度こそ本当に足腰が立たなくなって、崩れ落ちる前にフランスさんに抱き上げられた!
ひゃ、と掴まると、カナダはお兄さんのだから!なんて自慢げな声がして、ああもうてめえカナダから手を離せちょっとイギリスさん落ち着いて、と声が客席から聞こえた。

抱き上げられたままで(だって本当に立てないんだから仕方ない)、投げたブーケは、集まっていた女の人たちのど真ん中に飛んで、高く跳んだハンガリーさんがキャッチした。
やったあ、とガッツポーズする姿が可愛らしくて、フランスさんと顔を見合わせて笑った。

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大きなベッドに眠る影一つ。
金色の髪を白いシーツの上に散らせて、寝返りを打って、ベッドの端にごろんと転がった。
幸せな夢を見ているのか、楽しそうに笑って、むにゃむにゃと呟いて、もうその先にベッドはないのに寝返りを打とうとして…

「っと。」
落ちる、というその瞬間に、何かにぶつかって、寝返りが不自然な角度で止まった。
「危なかった…」
フランスはほう、とため息をついて、カナダを抱き上げ、真ん中に戻す。
こうやって、カナダがベッドから落ちるのはたびたびあることだった。

朝ご飯ができて、起こしに来ると、落ちるのに間に合うか間に合わないか、くらいだった。少しずつ、回数は減っているけれど。

「ん、んぅ…?」
眠そうな声が上がった。瞼が動く。
「おはよう、カナダ。」
そう声をかけ、額にキスを落とす。
と、眠そうに空の青色の瞳が姿を現した。
「おはよう」
もう一度声をかけると、おはようございます、ととろんとした声が返る。

起きてないな、と苦笑しながらながめていると、焦点のあわない瞳が見上げてきて、ふらんすさん、泊まっていきましたっけ?なんて発音もうまくできていない発言。
思わず吹き出して、そりゃあ、俺のうちだし、と言うと、あれ、僕が泊まったんでしたっけ〜…なんて、まだ寝ぼけてる。

「かーなーだ。」
俺のかわいい奥さん、と声をかけると、やっと目が覚めてきたらしい。バツの悪そうな表情。
「…おはようございます、フランスさん…」
「カナダにとって俺はまだ、恋人なのかな?」
そう言って悲しげにため息をついてみせると、彼女はそうじゃなくて、とおろおろしだした。…かわいい。

「罰として、おはようのキス、カナダからして。」
ん、と唇を近づけると、体を起こした彼女がキスをしてくれた。
そのカナダを、またシーツに沈めて、すっかり朝食が冷えるまで離さなくて、カナダに怒られるのは、結構毎度のこと。
「あ。そういえば、今日ですね。」
「何が?」
甘い香りがあたりを漂う。
朝のことですっかり機嫌を損ねたカナダの要望により、甘い甘いクッキーを作ったのだ。

おいしいです、とうれしそうに言われたら、もういっくらでも作ってあげたくなるし、あげるんだけど。

「いい夫婦の日」
「え?」
「日本さんの家では、そういうらしいですよ?今日が。」
「へえ…」
そうなんだ。そう思いながら、口の端についた粉を手で拭う。
「あ、すみません」
「いや。」
笑って、いい夫婦の日、ねぇ、と小さく呟く。

「…ここでは、毎日だな。」
「え?」
「いつも、いい夫婦、だから。」
俺とカナダが。
そう言って、体を伸ばして頬にキス。
かあ、と真っ赤になってしまうカナダが、もう本当に、どうしようもないくらい愛おしい。
クッキーを取り落とした手に、自分の指を絡める。細い指。守りたくなる、世界で一番愛する人。
「違う?」
首を傾げて優しく尋ねると。
「…違わないです。」
僕の大好きな旦那様。

はにかんだような笑みが、とても可愛らしかったから、頬に手を伸ばして、今度は唇にキスをした。

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最近フランスさんが過保護だ。理由はわかっている。僕が体調をくずしているから、だ。吐き気が治まらない。食欲も失せていて、体調はくずしても食事だけはとれることの多い僕にしたらかなり珍しい。
だから、病院につれていかれて、言われた一言が。

2人で家に帰り着くまで、何もしゃべらなかった。混乱していた。…誰が、何だって?
部屋に入った途端に、フランスさんに引き寄せられた。
「わ、」
「カナダ!」
そのまま子供のように抱き上げられて、ひゃ、と声を上げる。
「やったな!カナダ!」
うれしそうなフランスさんの顔に、やっと夢じゃなかったんだとわかった。

あかちゃんがいるって。僕のおなかに。

「…不安?」
顔に出ていたのだろう。指摘され、小さくうなずく。怖い。当たり前だけど初めての経験だし。…新しい命が、いる、ってことが、大きすぎて。

抱きしめられた。大きくて頼りがいのある腕。
「…産んでくれないか?」
真剣に言われて、うなずく。それは最初からそのつもりだ。
「でも…」
「怖い?」
もう一度うなずいたら、大丈夫、と頭を撫でられた。
「俺が一緒にいるから。一人じゃないから。…な?」
ちら、と見上げる。柔らかい光をたたえた青い瞳。
…彼がいてくれるなら、大丈夫。そう心から思えて、ほう、と息をついて、はい、と答えて、抱きついた。

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