2009.08.22;23.23.03.30 (その2)へ (その7)へ 人為的地球温暖化は“国連気候変動枠組条約で人為的に決めた地球温暖化”<イチオシ IPCC第6次評価報告書 統合報告書 政策決定者向け要約 日本語<New
二酸化炭素は本当に地球温暖化の原因か?
井上雅夫
目次
52. IPCC第6次報告書 統合報告書 政策決定者向け要約 日本語訳
(22.03.21)<New
51. CO2濃度は増加、気候関連死者数は激減 (22.02.22) <オススメ
50. 人為的地球温暖化は“国連気候変動枠組条約で人為的に決めた地球温暖化”(23.01.04; 02.01)<イチオシ
49. 脱炭素キャンペーン番組「1.5℃の約束」の騙しのテクニック(22.10.02; 11.25)<オススメ
48. IPCCはシミュレーションを観測値からわざと外して、欲しい知見をゲット?(22.01.25;14)
47. 石油価格高騰の真犯人は脱炭素だ!(21.11.25;26)
46. ノーベル賞・真鍋淑郎氏の一次元モデル(21.10.21)
45. This is the True Character of Human Caused Global Warming! (21.09.20)
44. これが人為的地球温暖化の正体だ!(21.09.06)
43. IPCC第6次報告書 第1作業部会(自然科学的根拠)政策決定者向け要約 日本語訳(21.08.11)
41.日本が2050年CO2ゼロを目指しても、中国が5年で帳消しに(21.06.01;25)
40. スベンスマルク著「気候変動における太陽の役割」の翻訳(21.05.05)
39.2015年の史上最高の暑さ、CO濃度飛躍的増加、CO排出量横ばいについて江守正多様と議論 (16.05.09)
38.「IPCC第5次報告書 統合報告書 政策決定者向け要約」を翻訳(14.11.03; 21)
 (訳注9)26%削減目標のパブコメ募集に「地球温暖化はエセ科学」と意見提出
(15.06.24; 07.05)
    人為起源地球温暖化はエセ科学

37.NASA発表「地球の深海は温暖化していない」を翻訳(14.10.09)
36.NOAA漁業科学センタ発表「風が(米国)太平洋沿岸の温暖化を説明する」を翻訳(14.09.28; 10.01)
35.地球温暖化の研究に関する驚くべき真実(14.07.28; 2023.02.25)
34.BSフジ「ガリレオX」に「2100年の海面上昇が4m」は虚偽と意見送信(14.06.17)
33.NHK「バークレー白熱教室」に虚偽の温室効果実験では?と意見送信(14.06.05)
32.グリーンピース共同創設者ムーア博士の人為的地球温暖化否定証言 日本語訳(14.03.01)
31.「IPCC第5次報告書 第1作業部会 政策決定者向け要約」の翻訳(13.10.02)
30.温暖化ツイッター小説第13集[特集:2013年の猛暑](13.08.15)<オススメ
29.「ブラックカーボン・対流圏オゾン統合アセスメント」の発表文と要約の翻訳 (11.08.02)
28.温暖化ツイッター小説第12集[特集:IPCCの非科学性](11.04.17)<オススメ
27.温暖化ツイッター小説第11集[特集:放射対流モデル](11.02.07)
26.温暖化ツイッター小説第10集[特集:放射と対流](11.01.05)
25.温暖化ツイッター小説第9集[特集:温暖化説明図の嘘](10.11.30)
    [先生と学くんの温暖化教室]

24.温暖化ツイッター小説第8集[特集:気候変動枠組条約の嘘] (10.10.28)
23.温暖化ツイッター小説第7集[特集:二酸化炭素犯人説の嘘](10.09.25) <オススメ
22.温暖化ツイッター小説第6集[特集:クライメートゲート事件](10.08.10) <オススメ
21.温暖化ツイッター小説第5集[特集:金星探査機あかつき](10.06.28)
20.温暖化ツイッター小説第4集[特集:気温の実測値と予測](10.06.02) <オススメ
19.温暖化ツイッター小説第3集[特集:東京都環境条例] (10.05.10)
18.温暖化ツイッター小説第2集[特集:赤外線の放射吸収] (10.04.15) <オススメ
17.温暖化ツイッター小説第1集 (10.03.22)
16.地球温暖化関連法律集 (10.03.18)
15.「首相官邸」に地球温暖化について意見を送信 (10.01.02)
14.二酸化炭素氏がtwitterで無実を訴えている(09.12.15; 10.03.25)
13.不都合な情報の隠蔽はクライメートゲートだけではない(09.11.30))
12.二酸化炭素に気温を変動させる力は全く無い(09.11.22)
11.IPCC第4次報告書第1作業部会「第6章古気候」の部分翻訳(09.11.14)
10.IPCCは気温上昇が先で二酸化炭素増加は後を認めていた!(09.11.01)
9.IPCC第4次報告書の要約と原本(09.10.24)
8.第3次と第4次報告書の間に過去の気温が大変動していた!(09.10.18)
7.マスキー法の成功体験を地球温暖化へ適用すると大失敗する(09.10.10)
6.二酸化炭素は真犯人?それとも冤罪?(09.10.04)
5.気候モデルによるシミュレーションは予算(税金)の無駄遣い(09.09.24)
4.過去の日本の気温の実測値とシミュレーション結果を対比した図を公表せよ(09.09.05)
3.地球温暖化に最も影響があるのは水蒸気(09.08.29)
2.温室効果ガスの原理と温室の原理は80%相違する(09.08.22)
1.はじめに(09.08.22)



1.はじめに(09.08.22;08.29)

 「温室効果ガスによる地球温暖化は、温室の温度上昇とは原理が異なるのではないか?」

 私が最近ふと感じた疑問である。そこで、大型の書店に温室効果ガスに関する本を買いに行った。環境問題のコーナーへ行ってみて、驚いたのは、二酸化炭素等の温室効果ガスが地球温暖化の原因であるとする二酸化炭素原因説の肯定派による本だけでなく、懐疑派による本も少なくないことである。マスメディアは、温室効果ガスによる地球温暖化は疑問の余地のない真実であるかのように報道しているが、本の世界では、必ずしもそうではない。そこで、肯定派による本と懐疑派による本を1冊ずつ購入した。

 購入した2冊の本を読んでみると、ますます疑問がわいてきたので、図書館でさらに本を探すことにした。天文・気象等の書架と公害・環境の書架に置かれていた肯定派の本と懐疑派の本を何冊か借りた。

 このようにして、私は温暖化について勉強を始めたが、疑問は膨らむばかりである。そこで、勉強を進めながら、私の考えたことを少しずつ書き足していきたいと思う。各項目のタイトルの後の( )内の日付はその項目の公表日であり、「;」の後に記載された日付は更新日です。リンクが張っている部分をクリックすればリンク先に跳ぶことができます。戻るときはブラウザの「←」ボタンをクリックしてください。


2.温室効果ガスの原理と温室の原理は80%相違する(09.08.22; 08.29)

 温室効果ガスによる地球温暖化の原理を、【図1】を用いて説明する。
【図1】
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  地球の大気は可視光に対して透明であるから、太陽11からの可視光12は大気13を通り抜け地表14に達し、地表14の温度を上昇させる。温度が高くなった地表14は赤外線15を放射する。大気13中の二酸化炭素等の温室効果ガスは赤外線に対して不透明であるから、地表14からの赤外線15を吸収する。大気13中の温室効果ガスは地表に向けて赤外線16を放射し、宇宙18に向けて赤外線17を放射する。温室効果ガスが地表に向けて放射した赤外線16が地表14の温度をさらに上昇させる。

 温室内は温室外よりも温度が高いことは誰でも知っている。温室内の温度が高くなる原理については、上記の温室効果ガスの原理と同じようなことをどこかで習ったような気がする。そのため、これまでは特に疑問に感じなかったのであるが、ふと、温室内の温度が上昇するのは、太陽光で暖まった空気を外に逃がさないことが主原因ではないかと思いついたのである。温室の側壁を取り払って空気が自由に流入流出できるようにすれば、温室内の温度は温室外の温度とほとんど同じになるのではないだろうか。

 参考文献1の「地球温暖化予測がわかる本 スーパーコンピュータの挑戦」は、温室効果ガス原因説肯定派による本である。参考文献1の35頁には、温室効果ガスによる地球温暖化の簡単な説明の後に、温室内の温度上昇について次のように記載されている。
 植物用の温室では、ガラスが太陽からの短波放射(井上注:可視光)にほぼ透明なために、太陽放射が温室内の植物や土壌を暖める。一方温室内の植物や土壌からの長波放射(井上注:赤外線)に対してガラスは、一旦吸収した後、外部に再放出するとともに、一部は内部にも再放出し返す。このため、温室の植物や土壌は、露地に比べ、余分に暖まる。もちろん温室は空気が密閉されている効果もあるが、その点を除いた類似点から、太陽放射と地球放射に対する上記の大気のはたらきを、温室効果と称している。
 空気が密閉されている効果についても記載されているものの、どの程度かは記載されておらず、私の疑問は解消されなかった。そこで、インターネットで検索したところ、福岡国際大学の倉直氏のwebページ「温室効果(greenhouse effect)」(参考文献2)を見つけることができた。このwebページは、実際の温室の専門家によって作成されたものである。

 このwebページの最初の段落によれば、19世紀後半の物理学者のあいだでは、ガラスが3μmまでの放射(太陽光)に対しては透明であり、3μm以上の放射(赤外線)に対しては不透明であることが温室(ガラス室)の温度上昇の理由であるとされていたようである。ところが、上記のwebページの第5段落には次のように記載されている。
 …1909年に英国の物理学者Woodがガラスと,長波長の放射(井上注:赤外線)も透過する石英で温室を作り,実験した。その結果温室内の気温はほとんど差がなかった。…Woodは温室内の気温が外より高いのは,温室の外では空気が自由に流れ,熱が上空に逃げるが,温室ではガラスなどの被覆物で温室が囲まれており,中の空気がよどんでいるため,熱が逃げられないと推定した。…1963年オランダの研究者Busingerが温室のエネルギー収支を計算した。…温室内気温の上昇分の内,温室効果と呼ばれる放射収支の分は約20%で,残りの80%は被覆物が対流伝熱を遮っていることによることを証明した。
 このように、1909年の物理学者Woodによる実験では、ガラスの温室と、赤外線も透過する石英の温室で、温室内の気温はほとんど差がなかったのである。そして、1963年のBusingerによる計算によれば、温室内気温の上昇分の内、温室効果によるのは約20%で、残りの80%は暖まった空気の閉じ込め効果ということになる。温室の温度上昇を【図2】を用いて説明する。
【図2】
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  太陽11からの可視光12は温室23のガラスを通過し、温室内部の植物や土壌24を暖める。暖められた植物や土壌24は赤外線15を放射し、赤外線15は温室23のガラスに吸収され、暖められたガラスは温室内に赤外線16を放射し、温室外に赤外線17を放射する。ここまでは温室効果ガスの原理と同じであるが、温室の場合はこれによる温度上昇は20%である。これに対して、温室23のガラスが対流伝熱29を遮っていること(空気の閉じ込め効果)による温度上昇は80%であり、こちらの方がはるかにに大きい。そうであれば、温室23の側壁を取り払って空気の閉じ込めをやめれば、温室内の温度は低下するのであり、これなら納得できるのである。

 それにもかかわらず、地球温暖化に関して「温室効果」や「温室効果ガス」の用語を使用するのは不適切であると考える。人は誰でも温室内は温室外より温度が高いことを知っており、ほとんどの人は温室内が温度が高いことを実際に経験しているはずである。したがって、地球温暖化の専門家が「温室効果」や「温室効果ガス」の用語を使用すれば、多くの人は自分が知り体験した温室内の温度が高いという事実を連想し、それにより多くの人に、温室効果ガスが地球を温暖化することが真実であると思い込ませてしまうからである。

 例えば、国産牛20%、外国産牛80%を原料とするひき肉を「国産牛ひき肉」と表示して販売しているスーパーがあったとする。外国産牛は国産牛よりも安いから原料費は安くつき、「国産牛ひき肉」と表示して国産牛100%相当の値段で販売すれば、そのスーパーは消費者をだまして不当な利益を得ることになる。温室の温度上昇の原理と20%しか一致しておらず、80%は相違しているのに、「温室効果」や「温室効果ガス」の用語を使い続け、温室効果ガスが地球を温暖化するということが真実であると多くの人々に思い込ませることは、この食品偽装スーパーのやっていることと同じではないだろうか。


3.地球温暖化に最も影響があるのは水蒸気(09.08.29)

 マスメディアの報道によれば、地球温暖化に最も影響がある温室効果ガスは二酸化炭素である。ところが、実際は、地球温暖化に最も影響がある温室効果ガスは水蒸気である。水蒸気(気体)は二酸化炭素以上に地球の温度を上昇させるのである。ただし、水蒸気が水滴や氷の粒になれば雲となり、雲は地球の気温を低下させるように作用する。

 参考文献3の 「地球温暖化 ほぼすべての質問に答えます!」は二酸化炭素原因説肯定派による本である。地球温暖化についての様々な質問に対して、まず簡単に答え、その後に、(より深い話)として、さらに説明する形式を取っている。一般の人に対して、二酸化炭素原因説は正しく、京都議定書も妥当であることを、かなり強引に説得している本のようにみえる。

 ところが、参考文献3の 13頁〜14頁では、「二酸化炭素が温暖化の原因っていう証拠は?」という質問に対して、「きみが納得する証拠っていうのはなんだい? もし、生物や化学の対照実験のような証拠が必要だっていうんだったら、それはむずかしい。」と答えている。そして、(より深い話)には、次のように記載されている。
 「20世紀後半から起きている温暖化は、温室効果ガス、とくに二酸化炭素が主な原因」という議論は、数学の定理のように厳密に証明されたものではなく、科学の議論の大部分と同様、さまざまな現象の原因に関する説明、あるいは仮説であることは確かだ…。
  (中略)
 ただし、ほぼすべての研究者の間でコンセンサス(合意)がある仮説でもある。

 参考文献3によれば、「ほぼすべての研究者の間でコンセンサス(合意)がある」ことが二酸化炭素原因説の根拠である。ところが、参考文献4の「科学者の9割は『地球温暖化』CO犯人説はウソだと知っている」を読むと、ほぼすべての科学者のコンセンサスはないことがわかる。参考文献4の著者は二酸化炭素原因説懐疑派であるだけでなく、地球寒冷化論者でもある。参考文献4の3頁〜4頁には次のように記載されている。
  2008年5月25日から29日にわたり、地球惑星科学連合学会(地球に関する科学者共同体47学会が共催する国内最大の学会)で「地球温暖化の真相」と題するシンポジウムが開催された。その時に、過去50年の地球の温暖化が人為起源なのか、自然起源なのか、さらに21世紀はIPCC(井上注:気候変動に関する政府間パネル)が主張する一方的温暖化なのか、あるいは私が主張する寒冷化なのか、そのアンケートを取ろうとした。…
  (中略)
 シンポジウムで行われたアンケートによれば、「21世紀が一方的温暖化である」と主張する科学者は10人に1人しかいないのである。一般的にはたった1割の科学者が主張することを政治家のような科学の素人が信用するのは異常である。…たった1割に過ぎない科学者の暴走を許してしまった科学者共同体の社会的責任は大きい。
 またそのアンケートで10人のうち2人は「21世紀は寒冷化の時代である」と予測する。…
 そして、21世紀の気候予測について、残りの7人は「わからない」と考えている。

 この参考文献4の184頁によれば、この本の著者は、アンケートに反対した参加者がいたのでアンケート結果は公表しないと約束したが、怒りがこみ上げてきたので個人的な信用を捨てて公表しないどころか本のタイトルにした、ということである。

 参考文献4を読んでみると、参考文献3に記載された「ほぼすべての研究者の間でコンセンサス(合意)がある」は、「ほぼすべての二酸化炭素原因説肯定派の研究者の間でコンセンサス(合意)がある」の意味であることがわかる。これは当然のことであり、二酸化炭素原因説が正しいとする根拠にはなりえない。

 参考文献3の18頁〜19頁には、「二酸化炭素よりも水蒸気や太陽活動のほうが大きいのでは?」という質問に対しては、(より深い話)として、次のように記載されている。
 水蒸気は、確かに最大の温室効果を持つガスだが、濃度も温室効果の大きさも自然のバランスで決まっていて、人間が直接影響を与えることは困難だ。
 一方、急速に濃度が増加していて、全体のバランスを壊そうとしているのが二酸化炭素だ。ただし、二酸化炭素濃度の上昇による温度の上昇が結果として水蒸気濃度の上昇を招くことによって、さらなる温度の上昇につながる。…

 このように、二酸化炭素原因説肯定派でも、「水蒸気は、確かに最大の温室効果を持つガス」であることを認めている。一方、二酸化炭素原因説懐疑派による参考文献4の39頁〜42頁には次のように記載されている。
  水蒸気は最も強力な温室効果ガスであり、その濃度が増えれば、地球の気温を高めるように働く一方で、雲になれば太陽光の反射率を高めて気温を下げるようにも機能する。そのため、水蒸気の影響を定量的に評価することは非常に難しく、雲の影響とともに、今後の地球温暖化を予測するためのシミュレーションのモデルには納得できる形では組み込まれていないのだ。…
  (中略)
 私が勤める東京工業大学では、惑星科学や物性物理学などの専門家が集まり、学際的な総合研究を推進できる新しい研究機構(理学研究流動機構)を新設し、気候変動原理の解明と21世紀の気候予測を目指して過去2年間研究を進めてきた。
 理学研究流動機構の21世紀の気候予測では、温室効果ガスによる温暖化だけでなく、地球の気温に影響を与えると考えられる様々な要素を盛り込んでいる。その要素とは、影響の大きい順番に列挙すると、
 1 太陽の活動度
 2 地球磁場
 3 火山の噴火
 4 ミランコビッチの周期(ミランコビッチ・サイクル)
 5 温室効果ガス
の5つである。…
【図3】
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  【図3】は、参考文献4の68頁に記載された「図1−22 21世紀の地球気候予測」を引用したものである。黒い線が2007年のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の予測である。IPCCが定めたシナリオに対応して複数の曲線が示されているが、2100年には2℃〜4.5℃の温度上昇が予想されている。これに対して、グレーの線が理学研究流動機構による予測である。これから気温が低下し、2035年に最低に落ち込み、その後再び上昇傾向を持つという予測である。参考文献4の著者は、「IPCCの予測が正しいのか、理学研究流動機構の予測が正しいのかは、5〜10年後には解決する問題だ。」(69頁)としている。


4.過去の日本の気温の実測値とシミュレーション結果を対比した図を公表せよ(09.09.05; 09.06)

 現在の地球の平均気温は、参考文献1の37頁によれば15℃、参考文献3の15頁によれば14℃、参考文献5の66頁によれば18℃、参考文献6の22頁によれば14℃である。参考文献1、3、5、6は全て二酸化炭素原因説肯定派による本であるが、驚くことに、現在の地球の平均気温に4℃もの誤差があるのである。

 一方、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次報告書によれば、1906年から2005年の過去100年間で地球の平均気温は0.74℃上昇したということである(参考文献5の49頁〜50頁)。普通の科学者であれば、現在の地球の平均気温に4℃の誤差がある場合、100年間で0.74℃の温度上昇は誤差の範囲として無視するのではないだろうか。

 ところが、二酸化炭素原因説肯定派の科学者は100年間で0.74℃の気温上昇を問題にするのである。そして、2100年には、【図4】(気象庁の「IPCC第4次評価報告書統合報告書政策決定者向け要約」 から引用)に示すように、シナリオ(ピンクを除く)に応じて1.8℃〜4.0℃(予測の幅を含めれば1.1℃〜6.4℃)気温が上昇するというのである。仮にそうだとしても、現在の地球の平均気温の誤差4℃と比較すれば、それほど大きな気温上昇ではないのではないだろうか。
【図4】
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【図5】
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 【図5】参考文献5の口絵6を引用したもので、過去の地球の平均気温の実測値と気候モデル(参考文献6の72頁によれば数万行のフォートランのプログラム)によるシミュレーション結果を対比した図である。横軸は1860年から2000年、縦軸は平均地上気温の変化である。赤線は実測値、黒線は気候モデルによるシミュレーション結果、灰色はばらつきの程度を表している。二酸化炭素原因説肯定派の科学者は、図5のように過去の地球の平均気温の実測値(赤線)と気候モデルによるシミュレーション結果(黒線)が一致するから、同じ気候モデルによる2100年の予測(図4)も信頼できると主張する。

【図6】
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 一方、【図6】(気象庁「気候変動監視レポート2008第1部」から引用)は、日本における年平均気温の経年変化(1898年〜2008年)を示した図である(【図6】の古いバーションは例えば参考文献1の75頁に掲載されている)。棒グラフは日本の年平均気温の平年差、太線(青)は5年移動平均、直線(赤)は長期的傾向を直線として表示したものである。この直線(赤)から、過去100年間で日本の平均気温の上昇は約1.1℃であることがわかる。驚くことに、過去100年間の日本の気温上昇1.1℃の方が、過去100年間の地球全体の気温上昇0.74℃よりも大きいのである。

 当然、日本の研究機関は【図6】の実測値と気候モデルによるシミュレーション結果を対比する図を公表していると思い探したが、見つけることはできなかった。その代わりに見つけたのが【図7】である。
【図7】
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 【図7】参考文献6の 44頁の図1−4を引用したもので、東京の夏(6月〜8月)の平均気温のシミュレーション結果(折れ線)を示す図であり、横軸は1970年〜2060年、縦軸は平均気温である。矢印は平均値の上昇傾向を示すために引かれたものであると考えられる。図の左側1/3は過去分のシミュレーション結果、右側2/3は将来分のシミュレーション結果ということになる。

 【図7】を見て私が驚いたのは、「東京」のシミュレーション結果であることである。東京は大都市であり、ヒートアイランド現象により気温が上昇していることは誰でも知っている。ヒートアイランド現象は、緑地の減少、エアコンや自動車の排熱等により都市部の気温が上昇する現象であり、温室効果ガスによる地球温暖化とは全く別の現象である。そして、気候モデルには、温室効果ガスによる地球温暖化は組み込まれているものの、ヒートアイランド現象は組み込まれていないのである。したがって、気候モデルによる東京の気温のシミュレーション結果は、実測値と比較しても意味がないのである。

 参考文献6の 著者は、コンピュータ・シミュレーションによる地球温暖化の将来予測の専門家である。その専門家が、ヒートアイランド現象による気温の上昇という誰でも知っている事実を忘れてしまったのだろうか。あるいは、自分が扱っている気候モデルにヒートアイランド現象が組み込まれていないことを忘れてしまったのだろうか。それとも、過去分のシミュレーション結果が実測値と一致していないと批判されたときに、東京はヒートアイランド現象があるから一致しなくても問題がないと反論するためなのだろうか。

 ともかく、【図7】のように、東京のシミュレーション結果を出力させることができるのであるから、日本全体の過去分のシミュレーション結果も簡単に出力させることができるはずである。日本の研究機関は【図6】の 日本の実測値と気候モデルによるシミュレーション結果を対比する図を公表すべきである。恐らく、内部ではそのような図は作成済みで、故意に公表しないのだろうと思う。なぜなら、気候モデルには、海洋モデルが組み込まれており、海は熱容量が大きいのでなかなか暖まらないように設計されているからである。

 四方を海で囲まれた日本について、気候モデルを用いてシミュレーションすると、恐らく、地球全体の気温上昇よりも少ない気温上昇のシミュレーション結果になるのではないだろうか。そうすると、【図6】の100年間の1.1℃の気温上昇のうちシミュレーション結果との差は、ヒートアイランド現象によるものであることが、わかってしまうのである。地球全体と比較すれば、日本全体は都市化が進んでいると考えられるからである。

 【図6】の元となった生データの測定地点は、網走、根室、寿都、山形、石巻、伏木、長野、水戸、飯田、銚子、境、浜田、彦根、多度津、宮崎、名瀬、石垣島であり、東京、大阪のような大都市は含まれていない。しかし、このような地点でも、100年前と比較すれば都市化が進んでいるのは明らかである。100年前は道路はほとんど舗装されていなかっただろうし、家は木造で、エアコンは存在せず、自動車もわずかしかなかったはずである。現在では、これらの地点でも、道路はほとんど舗装され、ビルやマンションが建ち、エアコンや自動車は各家に備えられているのである。これらの地点においても、100年前と現在を比較すれば、ヒートアイランド現象で気温は上昇しているはずである。

 【図6】の日本の過去100年間の平均気温の上昇にヒートアイランド現象による気温上昇が含まれているとすると、このような各国のデータを集計した地球全体の気温の実績値もヒートアイランド現象が含まれていることになる。つまり、【図5】の実測値(赤線)はヒートアイランド現象が含まれた実測値ということになる。そうだとすると、ヒートアイランド現象が含まれている実測値(赤線)と、ヒートアイランド現象が組み込まれていない気候モデルによるシミュレーション結果(黒線)が一致したとしても、何の意味もないのである。そのような気候モデルによる2100年の予測も全く信頼できないことになる。

 参考文献6の31頁には、「都市の面積は地球全体から見ると非常に狭いので、都市化の影響は地球の平均気温にはほとんど影響を与えないことが確かめられています。」と記載されている。しかし、それは、1辺100kmの解像度(参考文献6の90頁)で計算しているから、この解像度以下の都市が気候モデルからは見えないだけではないかと思う。1辺1kmの超高解像度で計算できる時代になれば、気候モデルにヒートアイランド現象を追加しなければならないことは明らかである。温度の実測値の測定地点は都市の場合が多いであろうから、そのとき初めて、気候モデルが真実の地球と真実の人間活動の影響をシミュレートすることになると予想する。しかし、1辺1kmの超高解像度は21世紀中には実現しそうもない。

 二酸化炭素原因説肯定派の科学者は、1辺100kmの解像度では見えないヒートアイランド現象を無視し、1辺100kmの解像度では見えにくい雲を軽視し、大気中に均一に分布し解像度にかかわらず見える二酸化炭素の温室効果だけで地球をシミュレートできたと思っているのではないだろうか。

 ヒートアイランド現象は一般の人が十分に実感していることである。雲がなく晴れた日は気温が高く、雲がある日は気温が低いことも一般の人がよく知っている。一般の人が知っている赤外線の影響は、冬の晴れた夜の放射冷却だけである。1辺100kmの解像度で気象現象を見ている二酸化炭素原因説肯定派の科学者は、一般の人が肌で感じる気象現象が見えていないのではないだろうか。

 参考文献1の74頁には、地球全体の実測値について、「大都市が周辺部より暖かい局地気候となるヒートアイランド現象などの補正がなされている」と記載されている。ヒートアイランド現象は気候モデルには組み込まれておらずシミュレーション結果に反映されないから、実測値のほうを補正してシミュレーション結果に合わせるということだろう。

 また、参考文献6の30頁には次のように記載されている。
過去150年ぐらいは、地球の温度は温度計で測られています。ただしこれは世界のすべての地点で測られているわけではありません。人が住んでいない寒いところや密林の中、山の高いところの観測データは少ないので、地球上のすべての地点で正確に測った数字を足してきたものだとはいえないわけです。これに関しては統計的に推定をしたりして出てきた数字だと思ってください。
 驚いたことに、【図5】の実測値(赤線)は実際の生データに基づく平均値ではなく、生データを補正したり生データから推定したりした「実測値」であったのである。二酸化炭素原因説肯定派にとってはこれで大満足かもしれないが、それ以外の人にとっては全ての生データと全ての補正と全ての推定が公表され、それらが全て適切であることが検証されない限り、【図5】の実績値(赤線)を信用することができず、【図4】の2100年の予測も信用できるはずがない。

 二酸化炭素原因説肯定派による参考文献5の62頁〜63頁には、次のように記載されている。
  地球温暖化問題が、政治問題化するにつれて、批判的、あるいは、懐疑的な意見が提出され続けてきました。これらの「人為的な影響により地球温暖化が起きている」という主張を批判する人たちを、一般的に、懐疑派と呼んでいます。反温暖化論者と呼ばないのは、現在の温暖化の理由を示して明確に人間活動の寄与を否定しているわけではなく、「今の人為的な温暖化が正しいのであろうか? こういう可能性もある、あの点が解明されていない、こんな可能性があるかもしれない?」とで言っているだけだからです。
 しかし、懐疑派が「懐疑」しかできないのは、肯定派が都合の良いシミュレーション結果だけを公表し、都合の悪いシミュレーション結果を公表しないからではないだろうか。日本の研究機関は、都合が良かろうが悪かろうが、【図6】の実測値と気候モデルによるシミュレーション結果を対比する図を公表すべきである。

 また、参考文献5(住明正著「さらに進む地球温暖化」)の101頁〜102頁には次のように記載されている。
  モデルの結果の応用や利用の場合には、「モデルの性能はこんなにいいよ」と言わねばならず、モデルの開発の費用を請求するときには、「モデルの性能には、こんな不十分な点があるからもっと投資が必要」と言わねばならないというのが、モデル開発者の抱えるジレンマなのですが、それにもかかわらず、研究者は必死で、モデルの性能の向上に努めているのです。モデル開発に従事する研究者の苦労を理解し、今後も、支援していただきたいと願っています。
  科学者たちが研究成果を競い合っているだけなら、科学者たちがこのような甘えた考えを持っていたとしてもよいかもしれない。しかし、気候モデルによるシミュレーション結果により、各国は温室効果ガスの排出権を割り当てられ、それを達成するために、国や会社や個人が膨大な費用と大変な労力を負担しなければならないのである。それなのに、気候モデルを扱う科学者たちが上記のような甘えた考え方でよいのだろうか。気候モデルを扱う科学者は、その極めて大きな影響力から、高い倫理性が求められるべきである。そのためには、気候モデルを扱う科学者全員に、次の誓約書にサインしてもらうべきでないだろうか。
誓      約      書

(1)研究成果の公表時に述べることと予算要求時に述べることに一貫性を持たせます。
(2)シミュレーション結果は、二酸化炭素原因説に有利でも不利でも、全て公表します。
(3)シミュレーション結果と対比する実測値の生データはそれに対する補正、推定を含めて全て公表します。
(4)気候モデルに用いる方程式およびパラメータの設定値はそれを用いる理由を含めて全て公表します。
  このようにすれば、より真実に近いシミュレーション結果が公表されるのではないだろうか。また、上記の誓約書が誠実に遵守されれば、懐疑派は勢いを失うのではないだろうか。例えば、私の場合、この項で要求する図が公表され、日本の実測値とシミュレーション結果が一致していれば、この項に記載したことを修正しなければならないからである。

 (09.09.06追記)昨日、私は、「日本の研究機関は【図6】の日本の実測値と気候モデルによるシミュレーション結果を対比する図を公表すべきである。恐らく、内部ではそのような図は作成済みで、故意に公表しないのだろうと思う。なぜなら、気候モデルには、海洋モデルが組み込まれており、海は比熱が大きいのでなかなか暖まらないように設計されているからである。」と記載したが、私の予想は当たったようである。

 「解説映像 地球温暖化シミュレーション」というサイトで、「解説映像を見る」、「play」、「再生する」の順でクリックすると、参考文献6の著者が地球温暖化について解説してくれる。見終わってから「目次に戻る」、「地表気温の変化(2)」、「play」の順にクリックすると、世界地図上で1950年〜2100年の気温変化のシミュレーション結果を動画で見ることができる(2回目以降のアクセスの場合は、「解説映像を見る」、「地表気温の変化(2)」、「play」の順)。ここで、日本に注目して見ていると、1950年〜2000年ではほとんど色が変わらず、ヒートアイランド現象が組み込まれていない気候モデルのシミュレーションでは過去の日本の気温はほとんど変化しないことがわかる。

 したがって、過去100年の日本の実測値(【図6】)の気温上昇が大きいのは、ヒートアイランド現象によるのである。そうすると、そのような各国の実測値を集計した【図5】の実測値(赤線)はヒートアイランド現象が含まれた実測値ということになり、ヒートアイランド現象が組み込まれていない気候モデルによるシミュレーション結果(黒線)が一致したとしても何の意味もなく、【図4】の2100年の予測も全く信頼できないことになるのである。

 (09.09.11追記)【図8】参考文献1の73頁の「図5.1 全球年平均の地上気温(偏差で表示)の変動(IPCC)」を引用したものである。
【図8】
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 参考文献1の説明によれば、【図8】はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第3次評価報告書による1861年から2000年までの140年間の地球全体の地上気温の変動を示した図であり、太線は10年平均で平滑化したものである。20世紀(過去100年)の地球全体の気温上昇は0.6±0.2℃であると記載されている。一方、【図9】参考文献1の75頁の「図5.2 20世紀における日本の年平均地上気温の変動(気象庁資料)」を引用したものである。
【図9】
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 参考文献1の説明によれば、【図9】は日本の20世紀における気温の経年変化を表示したものであり、20世紀(過去100年)の日本の気温上昇は1.0℃であると記載されている。【図9】【図6】と同じグラフであり、違うのは、2000年までか、2008年までか、だけである。最新のデータより気温上昇は少ないが、過去100年の日本の気温上昇1.0℃の方が過去100年の地球全体の気温上昇0.6±0.2℃より大きい点は最新のデータと同じである。日本の方が気温上昇が大きいことについて、参考文献1の74頁〜75頁には次のように記載されている。
 日本の気温は、…、20世紀全体で、約1.0℃の気温上昇である。
 これを、全球の地上気温の変動(図5.1(井上注:【図8】))と比較すると、20世紀全体では、日本も世界全体と同じように温暖化がみられるが、世界全体よりかなり大きい。
  これは、気候モデルによる研究からも、また、大陸上のとくに極近くで多い積雪、氷床、さらには海氷などの減少が、太陽放射の反射率を減少させ、中でも海氷減少は大気と海水の熱交換も容易にするなどの効果からも、海洋より大陸上で、また緯度では高緯度ほど、温暖化がより進むという一般的な傾向と一致している。
 上記記載には、過去100年間で地球全体より日本の方が気温上昇が大きいことの理由が書かれているはずであるが、極めてわかりにくい。上記記載から極近くで温暖化がより進むことは理解できる。「地球温暖化シミュレーション」のサイトの「地表気温の変化(2)」の1950年〜2000年を見ても(09.09.06追記参照)、北極圏の気温上昇が大きいことがわかる。北極圏は「高緯度」であり、「高緯度ほど、温暖化がより進むという一般的な傾向」と一致している。

 上記記載を読むと、日本の気温上昇が大きいのは「高緯度ほど、温暖化がより進むという一般的な傾向」によると理解するしかない。日本も赤道と比較すれば「高緯度」ではあるが、「高緯度ほど、温暖化がより進むという一般的な傾向」の「高緯度」は北極圏の意味である。参考文献1の著者は、略歴からみて、我々が現在「地球温暖化シミュレーション」のサイトで見ることができるシミュレーション結果(1950年〜2000年で北極圏では気温が上昇するが日本ではほとんど気温が上昇しない)を、この本の執筆時に知っていたはずである。そうだとすると、参考文献1の著者は、日本の気温上昇が大きいのは「高緯度ほど、温暖化がより進むという一般的な傾向」によるというのは誤りであることを知った上で、上記のように記載したのではないだろうか。

 なぜ、参考文献1の著者は、読者に誤ったことを思い込ませようとしたのだろうか。それは、そのように読者に思い込ませないと、日本の大きな気温上昇はヒートアイランド現象によることが、読者にわかってしまうからではないだろうか。それがわかってしまうと、そのような各国の実測値を集計した【図5】の実測値(赤線)はヒートアイランド現象が含まれた実測値ということになり、ヒートアイランド現象が組み込まれていない気候モデルによるシミュレーション結果(黒線)が一致したとしても何の意味もなく、【図4】の2100年の予測も全く意味がないということになってしまうからである。

 【図5】【図4】が意味がないということになると、多額の予算(税金)を使い気候モデルをスーパーコンピュータで計算している二酸化炭素原因説肯定派の科学者たちは、多額の予算(税金)の無駄遣いをしているということになってしまうのである。もし、二酸化炭素原因説肯定派の科学者たちがこの嫌疑を晴らしたいのであれば、【図6】【図9】の日本の実測値と気候モデルによるシミュレーション結果を対比する図を直ちに公表すべきである。


5.気候モデルによるシミュレーションは予算(税金)の無駄遣い(09.09.24)

 「近藤純正ホームページ」は東北大学名誉教授の近藤純正氏のサイトのトップページである。このサイトの「身近な気象」、「研究の指針」、「所感」には、気象に関する研究成果や解説や講演内容などが多数の掲載されている。その中の「K45.気温観測の補正と正しい地球温暖化量」(参考文献7)には、次のように記載されている。
気象観測資料には、時代による観測の方法や器械の変更による誤差のほか、観測所のごく近傍の風通りの悪化による日だまり効果など、様々な誤差が含まれる。それらを補正して得た正しい地球温暖化量(バックグラウンド温暖化量)は、100年当たり0.67℃/100yである(1881〜2007年の127年間)。
 (中略)
二酸化炭素の増加にともなう地球温暖化とは別に、多くの大・中都市では都市化による気温上昇(熱汚染量)(井上注:ヒートアイランド現象)は、この100年間の地球温暖化量よりも大きい。
  私が地球温暖化の勉強を始めて疑問に思ったのは、100年前と今の気温の実測値を比較して日本の平均気温がその間に1.1℃上昇したとして、その数値にどんな意味があるのかということである。100年間に観測機器や観測方法は変わり、観測地点の環境も激変しているはずだからである。この私が疑問に感じたことを、近藤純正氏は全国の多数の観測所に足を運び解決されているのである。観測方法や器械の変更による誤差や、観測所のごく近傍の風通りの悪化による日だまり効果(近藤純正氏が発見された効果)や、ヒートアイランド効果を補正すると、日本の100年間の平均気温の上昇は0.67℃であるというのが近藤純正氏の結論である。

 【図10】は、【図6】と同じ図であり、気象庁による1898年〜2008年の日本の平均気温である。赤の直線は気象庁が公表する100年間で1.1℃の気温上昇を示す線である。緑の直線は私が追加したもので、近藤純正氏による100年間で0.67℃の気温上昇を示す線である。どちらも上昇しているが、緑の直線は赤の直線より傾斜がかなり緩やかである。
【図10】
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  しかし、テレビの天気予報番組で、気象予報士が「気象庁によれば、日本では過去100年で1.1℃の気温上昇がありました。」と解説するは全く問題ない。なぜなら、視聴者は都市部に住んでいればヒートアイランド現象を肌で感じ、田舎に住んでいる人も日だまり効果を肌で感じているからである。ただし、気象予報士が「これは温室効果ガスによる地球温暖化によるものです。」と解説したら間違いである。「1.1℃のうち0.67℃が温室効果ガスによる地球温暖化によるものと考えられています。」と解説するのが正解である。

 温室効果ガスによる地球温暖化の問題を検討するときには、日本の過去100年の気温上昇は1.1℃ではなく、0.67℃でなければならないのである。なぜなら、温室効果ガスによる地球温暖化には、ヒートアイランド現象も日だまり効果も含まれていないからである。
【図11】
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 【図11】参考文献5の口絵1「気候モデルの格子システム」から引用したものである。地球の大気を多数の格子に分け、それぞれの格子に気温や気圧を割り当て、気候モデルを使って10分先、10分先、10分先…と計算して例えば100年先までシミュレーションを行うのである(参考文献6の76頁)。【図11】を見ると極めて細かい格子のように見えるが、実際には格子の水平方向は1辺100kmである。気候モデルの解像度は1辺100kmであり(参考文献6の90頁)、我々が肌で感じるヒートアイランド現象や日だまり効果は100kmより小さな範囲で生じる現象であるから、気候モデルには組み込まれていないのである。

 もし、遠い将来、1辺1kmの超高解像度が実現すればヒートアイランド現象を組み込まなければならないのは明らかであり、さらに遠い遠い将来、1辺10mの超超超高解像度が実現すれば日だまり効果も組み込まなければならないことは明らかである。そのとき初めて、気候モデルのシミュレーション結果と100年間で1.1℃の気温上昇を対比させることができるのである。

 しかし、現時点では解像度は1辺100kmであるから、気候モデルのシミュレーション結果と対比できるのは、ヒートアイランド現象や日だまり効果を除いた100年間で0.67℃の気温上昇の方である。これは日本の実測値についてであるが、外国の実測値も同じようにヒートアイランド現象や日だまり効果の影響があったとしても不思議ではない。

 海上の気温は船で観測されているので、これまでヒートアイランド現象とは無縁であると考えられてきた。しかし、「4. 温暖化は進んでいるか」(参考文献8)には、「島に比較すれば小さな船舶でも日中はヒートアイランドが形成されるのだ!」「地球温暖化を調べる気温の資料として、海上気象観測の単純な統計値は使えないことになる。船舶が時代と共に大型化してくると、自然の気温上昇がなくても見かけ上、温暖化の傾向が現われることになる。」と記載されており、近藤純正氏は船におけるヒートアイランド現象も発見しておられるのである。

 日だまり効果や船におけるヒートアイランド現象は近藤純正氏が発見されたものであるから、外国や海上の実測値に対してこれらの補正がなされているはずはない。しかし、参考文献1の74頁には、地球全体の実測値について「ヒートアイランド現象などの補正がなされている」と記載されており、参考文献6の30頁には「統計的に推定をしたりして出てきた数字」と記載されているから、通常の都市化によるヒートアイランド現象については補正された実測値が使われている可能性はある。そこで、どの程度補正されているのかを検証する。

 【図12】(A)は【図5】と同じ図で、過去の地球の平均気温の実測値(赤線)と気候モデルによるシミュレーション結果(黒線)を対比した図であり、横軸は1860年〜2000年である。【図12】(B)は【図8】と同じ図であるが、【図12】(A)と縮尺をほぼ一致させている。横軸は1861年〜2000年、棒グラフは地上気温の実測値、太線は10年平均で平滑化したものである。20世紀(100年間)の地球全体の気温上昇は0.6℃であるから(参考文献1の73頁)、これを示す青色の直線を加えた。
【12】
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 100年間で0.6℃気温上昇の直線(青線)と比較すると、【図12】(A)のシミュレーションで使われた実測値(赤線)は、【図12】(B)の実際の実測値から明確に変わるほどには補正されていないようである。【図12】(B)の実測値は、【図10】の日本の実測値(100年間で1.1℃気温上昇)を含んだ地球全体の実測値であるから、【図12】のシミュレーションに使われた実測値(赤線)には、近藤純正氏が調査された中小都市や船におけるヒートアイランド現象や日だまり効果は補正されていないと考えられる。そうだとすると、そのような実測値(【図12】(A)の赤線)に、ヒートアイランド現象や日だまり効果を組み込んでいない気候モデルのシミュレーション結果(【図12】(A)の黒線)を合わせ込んだとしても、何の意味もないことになる。

 次の日食がいつどこで起こるのかは極めて厳密に予測できる。物理法則が明確に解明されているからである。気候モデルによる気候の予測は日食の予測とは全く異る。各研究機関で開発されている気候モデルには多数の方程式と多数のパラメータが組み込まれていると考えられるが、各研究機関で使われている多数の方程式やパラメータは、同じものもあれば異なったものもあるはずである。物理法則が明確に解明されているわけではないのである。そこで、方程式を差し替えたりパラメータをチューニングしたりして、過去分のシミュレーション結果(【図12】(A)の黒線)を実測値(【図12】(A)の赤線)に合わせ込み、過去分が実測値と一致しているから、将来分の予測も信頼できるはずと主張しているだけなのである。参考文献6(江守正多「地球温暖化の予測は『正しい』か?」)の105頁〜108頁には次のように記載されている。
 …モデルの中の不確定な係数(井上注:パラメータ)の値を決める作業を「チューニング」と呼びます。…ひと言でいえば、答えが現実に合うように決めます。ここでの「答え」とは、観測データが得られているさまざま気候状態の変数(井上注:温度等の観測値)のことです。…
  チューニングの結果はだれがやっても同じというふうにはなりません。モデル開発の目的、方針や、実際にはチューニング作業をする人あるいはグループの考え方によって、「答え」のどの部分を優先的に合うようにするかが変わってきます。そして、それぞれの係数の値は、必ずしも一つひとつがピタリピタリとは決まりません。…
 …気候モデルの開発にアートの部分、職人芸的な部分があることを、僕は否定しません。
 そして、参考文献6の123頁〜124頁には次のように記載されている。
 …21世紀の気温上昇量の予測は、同じシナリオで計算してもモデルによって大きなばらつきが出てきます。その割には、20世紀の気温上昇の再現は、モデル間のばらつきがずいぶん小さいように見えます。
 これはおそらく…20世紀の気温上昇量については「答え」がわかっているので、答えが合うようにモデルをチューニングした結果かもしれません。
  結局、気候モデルによる将来の予測が正しいと主張できる根拠は、過去分のシミュレーション結果を実測値にうまく合わせ込むことができたことだけである。しかし、その実測値が中小都市や船におけるヒートアイランド現象や日だまり効果を補正していない実測値であるとすれば、その実測値にヒートアイランド現象や日だまり効果が組み込まれていない気候モデルのシミュレーション結果を合わせ込むのはナンセンスであり、気候モデルによる将来の予測が正しいと主張できる根拠は根底から覆されるのである。

 【図13】は、地球シミュレータセンターのサイトから引用したもので、日本の研究機関が気候モデルの計算に使用しているスーパーコンピュータ(「地球シミュレータ」と名付けられている)を示す図である。地球シミュレータがハードウェアで、気候モデルがソフトウェアである。
【図13】
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 【図13】(A)は地球シミュレータを格納した建物の断面図である。鉄骨構造2階建、広さ65m×50m、高さ17mである。【図13】(B)は内部の写真であり、多数の計算ノードが並べられている。年間維持費は50億円程度のようである(ウィキペディア参照)。価値ある研究のために使用するのであれば、これだけ費用がかかっても問題にはならない。しかし、これまで説明したように、現時点での気候モデルによるシミュレーションは何の意味もなく、多額の予算(税金)の無駄遣いである。

 「無駄な電気は消しましょう。」これがエコの第1歩である。無駄な地球シミュレータの電気を消して、世界中の気象観測所に足を運び、昔からいる職員に話を聞いたり、古い資料や古い写真を調べたり、100年前の船と現在の船の違いを調査したりすべきだろう。無駄な地球シミュレータの電気を消せば、かなりの予算が余るはずである。その中のほんの一部を使えば、近藤純正氏の願いはかなえられるはずである。近藤純正氏は「M44.温暖化の監視が危うい」(参考文献9)で次のように書いておられる。
地球温暖化など気候変動の実態把握と将来予測のために、正しい気象を観測しなければならない。しかし、測候所の無人化にともない、管理不十分となり、気候変動の監視が危うくなってきている。…
…実際に行ってみると、雨量計に茂った雑草が被さっていたり、樹木の枝が伸び観測機器の邪魔になっている所がある。こうした状態になっていても観測機器から送られてくるデータは何らかの数値を示しているが、その数値は信じてよいのだろうか?

 (中略)
こ の数年間、筆者は気象庁(気象研究所、各地の気象台・測候所)の多くの方と議論し対話してきた。気象庁内部にも現状を改革すべきと思っている者も多いが、 組織が大きくて外部からの圧力がなければ改革はできないという。筆者の発言が多少なりともその圧力になればと思っている。
 近藤純正氏が述べられるように、観測所の環境整備を地道に行うとともに、実測値からヒートアイランド現象と日だまり効果を正確に補正しなければ、多額の予算を注ぎ込んで気候モデルでシミュレーションしても何の意味もないのである。


6.二酸化炭素は真犯人?それとも冤罪?(09.10.04; 10.13)

 二酸化炭素濃度の増加により気温が上昇するという気候モデルのシミュレーション結果は至る所(例えばIPCC第4次評価報告書統合報告書政策決定者向け要約の図SPM.4、図SPM.5、図SPM.6)に開示されており、それに怯えて各国は巨額の予算を地球温暖化対策に投入するのである。ところが、気候モデル自体について開示された本を見つけるのは難しい。そのような中で、参考文献6「地球温暖化の予測は『正しい』か? 不確かな未来に科学が挑む」の79頁〜87頁には、極めて不十分ながら、気候モデルの内容についての記載がある。気候モデルで使われている方程式のうち、大気の方程式が、変数を言葉に変えた方程式として次のように記載されている。式番号と強調表示は私がつけたものである。
東西風の時間変化=移流による東西風の変化+空気にかかる東西方向の力…式1
南北風の時間変化=移流による南北風の変化+空気にかかる南北方向の力…式2
0=空気にかかる鉛直方向の気圧傾度力+空気にかかる重力…式3
地表面気圧の時間変化=移流による地表面気圧の変化+風の収束による変化…式4
気温の時間変化=移流による気温の変化+断熱変化+空気の加熱率/空気の比熱…式5
水蒸気量の時間変化=移流による水蒸気の変化+水蒸気の生成率…式6
 この他に、海洋の方程式と、陸面の方程式と、その他の方程式があると記載されているが、これらの方程式の内容は開示されていない。気候モデルは全体では何十個かの方程式からなる連立方程式のようである。

 式1〜式6のなかでは、式5の右辺の最後の項の「空気の加熱率」が最も重要である。なぜなら、この項こそが、二酸化炭素が多くなった場合、気温がどうなるかを最初に決定する部分であるからである。もし、この項が誤っていれば、多額の予算を注ぎ込んで計算しても全く意味がない。

 参考文献6の91頁〜97頁には次のように記載されている。
 …現在のわれわれのもっている科学的な知識には限界があり、気候を決めるしくみのすべてを完璧に方程式で表現することはできません。
 (中略)
 …格子(井上注:【図11】参照)の量では表せないミクロな現象について、その効果のみをマクロな格子の量を使って推定して、マクロな量の方程式に組み込むやりかたを「パラメタ化」…といいます…。
 (中略)
 …大気のエネルギー保存の法則の「加熱率」の項(井上注:式5の最後の項)の中身である、「放射による加熱」と「雲の凝固による加熱」が、パラノタ化が必要な過程の代表例です。
 …ミクロに見ると、大気中を飛び交うさまざまな波長の電磁波が、大気中の気体分子、エアロゾル粒子、雲粒子によって吸収されたり、放出されたり、向きを変えられたりするという現象です。…各格子の大気の温度や成分を使ってパラメタ化してやる必要があります。
 この記載を元に式5を書き換えると次のようになると思う。式5’では、わかりやすくするために気体分子としては二酸化炭素と水蒸気のみを記載している。
東西風の時間変化=移流による東西風の変化+空気にかかる東西方向の力…式1
南北風の時間変化=移流による南北風の変化+空気にかかる南北方向の力…式2
0=空気にかかる鉛直方向の気圧傾度力+空気にかかる重力…式3
地表面気圧の時間変化=移流による地表面気圧の変化+風の収束による変化…式4
気温の時間変化=移流による気温の変化+断熱変化
            +係数1×二酸化炭素濃度係数2×水蒸気濃度
  
          +係数3×エアロゾル粒子濃度係数4×雲粒子濃度…式5’
水蒸気量の時間変化=移流による水蒸気の変化+水蒸気の生成率…式6
 係数1〜係数4がパラメータである。係数1〜係数4の値は実験や理論で決まるものもあれば、職人芸的(参考文献6の108頁)に決めるものもあるのだろう。

 図14は、参考文献1の図1.3(5頁)を引用したもので、大気中の二酸化炭素濃度の実測値を示す図である。規則的に上下しているのは、植物の光合成による二酸化炭素の吸収が季節により変動するからである。【図14】で綾里(日本)のギザギザが最も大きいのは植物による影響が最も大きいからと思う。
【図14】
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 過去の二酸化炭素濃度については、【図14】の実測値を式5’に代入すればよい。水蒸気濃度は季節や気温や気圧や陸上か海上かによって変化するが、水蒸気濃度は式6によって決定されるはずである。アロゾル粒子濃度や雲粒子濃度はわからないから、これらも職人芸的(参考文献6の108頁)に決めるパラメータとして扱われているのではないだろうか。

 上記の大気の方程式において、式5’の右辺で二酸化炭素濃度が増加すると係数1により左辺の気温が上昇し、そうすると式6の右辺の水蒸気の発生率が増加し左辺により水蒸気濃度が増加し、式1や式2の風により式4で地表面の気圧が計算され、地表面の気圧から式3を使って上空の気圧が計算され(参考文献6の83頁)、その気圧により式1や式2の風が計算され、その風にのって水蒸気が他の格子に運ばれ、式1〜式6とは別の連続の式による鉛直風にのって水蒸気が上空の格子に運ばれ(参考文献6の82頁〜83頁)、回り回って、式5’の右辺の水蒸気濃度が増加し係数2により左辺の気温がさらに上昇するという計算を行うのだと思う。実際には、この大気の方程式に加えて、海洋の方程式と陸面の方程式とその他の方程式を含めた何十個かの方程式を回り回ってそれぞれの格子(【図11】参照)の気温と気圧が計算されるのである。風が吹けば桶屋が儲かるような計算である。

  このように、大気の方程式では二酸化炭素濃度が増加すると水蒸気濃度が増加し、水蒸気の温室効果により、さらに気温が上昇するという正のフィードバックが組み込まれている。一方、海洋の方程式では気温が上昇すると海氷が解け太陽からの可視光の反射が減少し、さらに気温が上昇するという正のフィードバックが組み込まれているはずである。気候モデルは、二酸化炭素濃度が少し増加すると、回り回って大きな気温上昇になるようにつくられているのである。

 水蒸気の正のフィードバックと海氷の正のフィードバックに関わるパラメータをチューニングすることにより、シミュレーション結果の気温をプラス方向に合わせることができる。一方、式5’の右辺の「係数3×エアロゾル粒子濃度」をチューニングすることにより、シミュレーション結果の気温をマイナス方向に合わせることができるのである。参考文献5の17頁〜19頁には、1990年前半にシミュレーション結果の方が実測値よりも高くなってしまっていて、人間活動による地球温暖化論は危機に瀕していたが、エアロゾルによる冷却効果を導入して、実測値とシミュレーション結果の矛盾を回避できたことが、嬉しそうに記載されている。パラメータを職人芸的(参考文献6の108頁)にチューニングすることにより、シミュレーション結果の気温をプラス方向にもマイナス方向にも合わせ込むことができるのである。

 二酸化炭素は大気中にほぼ均一に分布するとされているから、地球上のいくつかの地点で濃度を観測していれば、大気のどの部分の二酸化炭素濃度もわかってしまうのである。二酸化炭素だけが大気の至る所の行動を常に監視されているので、地球温暖化の犯人にされているという面もある。仮に別に真犯人がいたとしてもその真犯人の行動がわからないので、二酸化炭素が真犯人にされてしまうのである。参考文献6の37頁〜39頁には次のように記載されている。
 …地球の温度変化にはほかにもさまざまな要因がある可能性があります。…まだわからないことがある中で、「二酸化炭素が原因だ」といっていいかという問題が、じつは残っているのです。
 ただし、このようなまだ充分にわかっていない要因は、定量的な見積もりがありません。あるのは、…「状況証拠」です。…
 … もしほかの要因がもっと理解されてきて、それぞれが地球の温度をどれくらい上げたか下げたかというのわかったとしても、その影響はそう大きくないはずでしょう。なぜならば、実際の気温上昇量は、温室効果ガスの増加によってすでに大部分が説明されてしまっているのですから…。
  他の容疑者については状況証拠しかなく、しかも、実際の気温上昇が二酸化炭素で説明されてしまっているから、二酸化炭素が真犯人に違いないという論法である。しかし、上記の引用文中の「実際の気温上昇量は、温室効果ガスの増加によってすでに大部分が説明されてしまっている」は、多数のパラメータをチューニングして実測値に一致させていることを意味しているに過ぎず、二酸化炭素が冤罪をきせられている可能性も大いにあるのである。

 他の容疑者についての「状況証拠」が、参考文献10の「正しく知る地球温暖化 誤った地球温暖化論に惑わされないために」に多数掲載されている。この本の著者の赤祖父俊一氏は、オーロラや北極圏研究における世界的権威であり、二酸化炭素原因説懐疑派である。以下、参考文献10に記載された様々な「状況証拠」のいくつかを紹介する。
【図15】
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 【図15】参考文献10の図4.1(77頁)を引用したものである。折れ線は地球全体の平均気温、太い曲線は5年平均である。赤祖父俊一氏は1880年〜2000の地球全体の平均気温は【図15】に示すように直線的に上昇しており、その直線的上昇にポジティブとネガティブの変動が乗っているだけであると主張するのである。
【図16】
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 【図16】参考文献10の図4.3(81頁)を引用したものである。【図16】の上の図は、北極海の島で採掘された氷河のコアの解析により、酸素同位体から推定した1725年〜1995年までの気温変化である。【図16】では【図15】の直線を1800年前後まで延ばすことができ、直線的気温上昇は1800頃から始まっていたことがわかる。

 大気中の二酸化炭素の濃度が急激に上昇を始めたのは1946年頃であるから、1800年頃から始まる直線的気温の上昇を二酸化炭素濃度の上昇では説明することはできない。赤祖父俊一氏によれば、100年間の気温上昇は0.5℃であり、IPCCによる0.6℃(第3次報告書のデータ、第4次報告書では0. 74℃)のうち0.5℃は自然変動で、二酸化炭素による100年間の気温上昇は0.1℃である(参考文献10の91頁)。

 参考文献5(住明正著「さらに進む地球温暖化」) の38頁には、「研究成果が優れていれば、紙と鉛筆で世界のリーダーシップを獲得することは可能です。…しかし、…世界の注目を集める道具とその結果を持って打って出るのが大事だというのが実感です。」と記載されており、二酸化炭素原因説肯定派の科学者たちは地球シミュレータ(世界の注目を集める道具)を使い気候モデルを職人芸的(参考文献6(江守正多著「地球温暖化の予測は『正しい』か?」)の108頁)にチューニングして世界に打って出るのである。これに対して、赤祖父俊一氏の手法は、グラフに直線を引くだけであり、正に紙と鉛筆だけの研究である。結論だけでなく、研究手法も正反対なのが面白い。
【図17】
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 【図17】参考文献10の図4.9(87頁)を引用したものである。【図17】は諏訪湖の御神渡り(おみわたり)の日を1450年頃から記録したものである。御神渡りは諏訪湖が凍結した時に氷が盛り上がった部分が線状に生じる現象で、それが生じた日が昔から記録されている。1800年代から現在まで御神渡りの日は直線的に遅くなっている。これは気温自体のデータではないが、諏訪湖周辺の気温が1800年代から現在まで直線的に上昇していると推測することができるだろう。
【図18】
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 【図18】参考文献10の口絵7(説明は103頁)を引用したものである。ヒマラヤのガングオトリ氷河の1780年〜2001年の先端の位置が示されている。これも、1800年頃より気温の上昇が起こっていることを示している。
【図19】
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 【図19】参考文献10の口絵6(説明は93頁)を引用したものである。【図19】は木の年輪から推定した気温の変動を示している。【図19】の上の図はIPCC第3次報告書政策決定者のための要約の図1(b)と同じ図である。この図はホッケー・スティックの図と呼ばれており、下の図はホッケー・スティックの写真である。【図19】の左上には赤線は温度計のデータ(Instrumental data)であることが記載されているが、この赤色で示された気温の急上昇は、一般の人に地球温暖化に対する恐怖心を植え付ける効果を十分に果たしたはずである。

 しかし、【図19】の上の図をみた2人のカナダ人の統計学者が不自然であるとして、この図の著者に基礎となったデータを要求した。ホッケー・スティックの図の著者は出し渋ったため連邦議会上院の命令で出させられた(アメリカでは国民の税金を使って行われた研究資料、結果は全て公開されることになっている)。2人のカナダ人が入手したデータを使って統計学に従って解析したところ、ホッケー・スティックの図は再現できなかったのである。2007年のIPCCの第4次報告書ではこの図は取り下げられている。(参考文献10の92頁〜94頁)
【図20】
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 【図20】参考文献10の図3.2(64頁)を引用したものである。【図20】は他の科学者による木の年輪から推定した気温の変動を示している。この図では、1800年頃からほぼ直線的に気温が上昇しているのがわかる。

 赤祖父俊一氏がホッケー・スティックの図(【図19】)を理解できなかったのは、1000年〜1200年頃の中世の温暖期と1200年〜1800年の小氷河期が示されていなかったからである(94頁)。赤祖父俊一氏は96頁で次のように記載しておられる。
 …IPCCは小氷河期の存在を最初から否定してしまったので、現在の温暖化はホッケー・スティックの図(井上注:【図19】)にしたがって1900年頃から始まるとしてしまった。もし彼らが小氷河期の存在を認めていれば、現在進行している温暖化が1800年頃より直線的に続いていたことがわかったはずである。…現在進行中の温暖化は自然変動が大きく寄与していることが明白であったはずである。
 以上紹介した参考文献10のデータは、状況証拠(間接証拠)というより、二酸化炭素の冤罪を証明する直接証拠ではないだろうか。ただし、真犯人は自然変動であり、真犯人の氏名を特定することはできない。しかし、気象や気候の分野では、これが当たり前のことであるようだ。私は最近、放送大学の「変化する地球環境(’04)」の集中放送授業を視聴した。この番組の講師の先生も、コンピュータによるシミュレーションに懐疑的であり、番組のタイトルどおり、地球環境は変化するものであるというのが、先生が伝えたいことであったように思う。

 一方、地球温暖化が自然変動であっては、絶対に困る人たちもいるようである。参考文献6の16頁には、「地球温暖化というのは、ひと言でいうと、人間活動のせいで地球全体の温度が上がっていく問題です。」と記載されている。そして、この本の著者略歴によれば、「専門は…とくにコンピュータ・シミュレーションによる地球温暖化の将来予測」と記載されている。したがって、この本の著者の専門は、人間活動のせいで地球全体の温度が上がっていくことの将来予測である。地球温暖化が、人間活動のせいではなく、自然変動で生じているとすれば、この本の著者は多額の予算(税金)を使ってコンピュータ・シミュレーションによる将来予測を行うことができなくなってしまうばかりでなく、自分の専門分野自体が消滅し てしまうのである。

 また、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、「政策決定者向け要約」を作成することからみても明らかなように、政治的な組織であり、地球温暖化が、人間活動のせいではなく、自然変動で生じているとすれば、この組織は存続し得ないのである。

 赤祖父俊一氏は、参考文献10の131頁で次のように書いておられる。
… 海洋のコンピュータによるシミュレーションを主としている研究者は各々独自の理論とそれに基づいた方程式、プログラムで結果を出している。ある研究者は2040年の夏には北極海の海氷は消えるという結果を出した。一方、他の理論による研究者は2100年になっても充分氷が残るという結果を出している…。ところがセンセーショナルなニュースを好む報道陣は2040年の研究結果を発表した研究者に殺到して大々的に報道し、2100年になっても充分氷が残るという結果を発表した研究者には見向きもしない。報道関係者に一方的ではないかというと、2100年などという結果は記事にならないとのことである。地球温暖化問題をここまで混乱させた報道の責任は大きい。したがって、温暖化防止団体や一般市民は極めて一方的な結果だけを知らされ、大変であると叫ぶ。地球温暖化情報はこのように極めて一方的である。温暖化防止団体も官僚も、情報はせいぜい新聞記事にしか頼らない。そのような一方的な情報にしたがって、炭酸ガス放出の規制策を作ろうとしたり、国際会議を開く。
 前述の放送大学の先生も、新聞に地球温暖化の記事と共に掲載された写真を示して、これはこの時期この地域の気温が上昇していたからであり、地球規模の温暖化によるものとはいえないと述べておられた。新聞の写真は決して証拠写真ではないのである。

 このような状況は刑事事件で冤罪が発生する状況と酷似しているようにみえる。ウィキペディアの「冤罪」の項には、冤罪の原因として次のように記載されている。
… 捜査機関が、行き過ぎた見込み捜査や政治的意図などから、ある人を犯人に仕立て上げてしまうという類型である。…特に科学的捜査方法が確立される以前には捜査能力の限界から、先入観や思い込みを持った捜査による冤罪が発生する可能性が高かったが、科学的捜査方法が導入されたあとも冤罪がなくなったわけではなく、遺留品や物的証拠からそれにつながる犯人を導き出すのではなく、予め容疑者は設定されており証拠は後から捏造(井上注:【図19】参照)してでも合致させる・容疑者に有利な証拠(井上注:【図15】【図16】【図17】【図18】【図20】参照)は無視するといった違法な手法が採られる事が多々ある。…また、こういった捜査機関の暴走を引き起こす遠因として、着実な捜査よりも速やかな容疑者の逮捕などを求めるマスメディア報道や、そういった誘導に引きずられる国民世論などの問題も指摘されている。
  気候モデルに用いる方程式もパラメータの設定値もそれらを採用する根拠も公開されておらず、シミュレーション結果を合わせ込む実測値の生データもそれに対する補正や推定も公開されていない。気候モデルによるシミュレーション結果は、可視化されていない取り調べにより、自然変動であっては絶対に困る捜査官(科学者)が職人芸的(参考文献6の108頁)にチューニングして作成し、自然変動であっては絶対に困る検察当局(IPCC)が採用した捜査資料に過ぎない。二酸化炭素は冤罪をきせられている可能性が高いのではないだろうか。


7.マスキー法の成功体験を地球温暖化へ適用すると大失敗する(09.10.10; 12.18) <オススメ

 鳩山総理は、国連気候変動サミットで、温室効果ガスを2020年までに90年比25%(05年比30%)削減すると宣言された。これはマニフェストで公約されていたからである。そこで、民主党のマニフェストのPDFファイルをダウンロードして「温暖化」で検索すると、「雇用・経済」の項の7番目と8番目に次のように記載されていることがわかる。
●2020年までに温暖化ガスを25%削減(90年比)するため、排出量取引市場を創設し、地球温暖化対策税の導入を検討します。
●太陽光パネル、環境対応車、省エネ家電などの購入を助成し、温暖化対策と新産業育成を進めます。
  「排出量取引市場」で検索すると、「キャップ&トレード方式による実効ある国内排出量取引市場を創設する。」という記載を発見することができる。キャップ&トレード方式は、次のようなものと考えられる。国は企業に温暖化ガスの排出量(キャップ)を割り当てる。企業は割り当てられた排出量までしか温室効果ガスを排出できない。企業や投資家は排出量の売買(トレード)を行うことができ、排出量を売買する市場が国内排出量取引市場である。(参考文献11「絵でみる排出権ビジネスのしくみ」の52頁〜53頁、148頁〜152頁参照)

 ある国会議員が、テレビで、日本の自動車産業はマスキー法の厳しい規制を乗り越えて現在の繁栄を築いたのだから、地球温暖化で厳しい規制をしても大丈夫と力説しておられた。しかし、マスキー法の成功体験を地球温暖化に適用すると大失敗するはずである。

 なぜなら、マスキー法の時と現在の地球温暖化問題では、少なくとも次の3点で状況が全く異なるからである。第1に、マスキー法ではアメリカで自動車を販売する全ての自動車メーカーに対して同一の基準が適用された。第2に、マスキー法は自動車自体は規制するが、自動車を製造する工場は規制しない。第3に、その当時、日本のメーカーが中国に工場を建てることは考えられなかった。以下、この3点が、現在の地球温暖化問題では全く異なった状況にあることを説明する。

 第1に、地球温暖化の場合は、規制の基準は国によって異なる。鳩山総理は「全ての主要国の参加による意欲的な合意がわが国の約束の前提になる」と演説しておられるが、全ての主要国に対して90年比25%(05年比30%)の温室効果ガスの削減という同一の基準が適用されることはない。中国は排出量はきわめて多いが、人口がきわめて多いため、一人あたりの排出量はそれほど多いわけではない。地方には昔ながらの生活をしている人々が多く住んでいるのであり、それらの人々の生活水準を先進国レベルに引き上げようとすれば排出量は増加せざるを得ないのである。中国は05年比で大幅に削減する努力を行うと主張しているようであるが、義務的規制を受け入れるつもりはない。
【図21】
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 【図21】は10月2日の日本経済新聞朝刊の「CO削減 新日鉄、中国に先進技術」の記事から引用した図である。【図21】によれば、2007年には中国はアメリカを追い越して二酸化炭素排出量世界一になったようである。この図を見せつければ、中国も最終的には義務的規制を受け入れざるを得ないかもしれないが、義務的規制を受け入れたとしても削減率はそれほど大きくはないはずである。そのとき日本も中国の削減率と同じにすると言えるかというと、それは言えないのではないかと思う。EUに合わせて、90年比20%(05年比25%)程度で妥結せざるを得ないのではないだろうか。したがって、日本は厳しい基準で、中国は甘い基準で規制される可能性が高いのである。

 第2に、地球温暖化では、製品だけでなく、その製品を製造する工場も規制される。日本の企業はこれまで省エネ製品を製造してきたのであり、さらに90年比25%(05年比30%)削減の省二酸化炭素製品を開発するのは難しいかもしれないが、何とかがんばればできるかもしれない。しかし、それと共に製造工場も90年比25%(05年比30%)削減をクリアしなければならないというのは、日本の企業(製造業)にとってきわめて厳しい状況である。

 第3に、既に中国と日本を中心とする東アジアの経済統合がなされているのである。「間違いだらけの経済政策」(参考文献12)の7頁〜9頁で、榊原英資氏は次のように述べておられる。
  1995年前後から10年余り、多くの日本企業は、特に財務面、経営ストラテジーの面で大きく変わり、ほとんどの産業が再編成の波に洗われました。ジェームス・アベグレンはこの10年を、「日本経済再設計の10年」と呼んでいます。この再設計の10年の背景には、東アジア経済における中国と日本を中心とする経済統合の進展がありました。
 (中略)
 …東アジアや中国への進出によって日本企業はコストを大きく削減し、製品価格は低下しました。この価格低下は大企業のハイテク製品だけではなく、中堅・中小企業の衣料、食品、雑貨にまで及んでいます。ユニクロ・加ト吉現象とでも呼ぶのでしょうか。
  既に中国と日本を中心とする東アジアの経済統合がなされているのである。したがって、日本の企業は、日常的に行っている経営判断により、規制の厳しい日本ではなく、規制の甘い中国や規制のない他の東アジアの国の工場で、90年比25%(05年比30%)削減の省二酸化炭素製品を生産することになる。そして、日本ブランドでメイドインチャイナの省二酸化炭素製品を日本や他の国に輸出することになるのである。

 マスキー法の時代には東アジアに日本のライバルは存在しなかった。しかし、現在ではライバルだらけである。あえて日本に踏みとどまる決意をした企業は、規制の甘い中国の企業や規制のない他の東アジアの企業と厳しい競争を行いながら、90年比25%(05年比30%)削減の省二化炭素製品を開発し、かつ、工場を90年比25%(05年比30%)削減の省二酸化炭素工場に作り替えなければならないのである。この3重苦を耐えながら日本に踏みとどまろうとする企業は少ないのではないだろうか。

 日本の企業(製造業)は、90年比25%(05年比30%)削減という厳しい規制を、工場を日本から中国や他の東アジアの国に移転することにより、クリアするしかないのである。9月22日の日本経済新聞朝刊の「国内投資凍結の動き」の記事には「25%減ショック」の小見出しの中に「あまりに高い目標を課せられると国内生産が難しくなる」というある会社の会長の言葉が掲載されている。日本の企業経営者としては、日本の工場を維持し日本の雇用を守りたいという気持ちはあるとしても、90年比25%(05年比30%)削減というあまりに厳しい規制では、日本の工場は閉めて、規制の甘い国に工場を移転せざるをえないということだろう。

 それでは、日本から工場を受け入れる中国はどうなるのだろうか。日本企業の工場の中国移転だけによって日本全体の90年比25%(05年比30%)削減を達成するという極端な場合を仮定しても、それによる中国の排出量の増加は05年比7.4%に過ぎない(参考文献13「EDMC/エネルギー・経済統計要覧(2009年版)」の235頁のデータから算出)。これは分母が大きいからで、中国にとって日本企業の工場を受け入れたとしても、排出量の増加率はそれほど大きくないのである。日本企業の工場は中国企業の工場より二酸化炭素の排出量は少ないはずであり、かつ中国の雇用や税収が増加するのであるから、中国はこれを歓迎するはずである。もし、中国が歓迎しないのなら、規制のない他の東アジアの国に工場を移転すればよいのである。

  企業は、すぐには工場を移転させず、国から温暖化ガスの排出量(キャップ)の割り当てを受けてから中国に工場を移転するかもしれない。排出量の割り当てを受けた後、日本の工場を閉めればその分排出量が余るから、それを国内排出量取引市場で売れば工場移転の費用の一部に充当できるからである。一見、ずるいようにみえるが、これを容認しないと、日本経済に対するダメージはさらに大きくなってしまうのである。

 例えば、大変な努力をして05年比40%の削減を行った企業でも、40%の排出量を国内排出量取引市場で売れるわけではない。キャップの05年比30%削減との差の10%の排出量だけしか売ることができないのである。したがって、国内排出量取引市場に売りに出される排出量は少ないはずである。一方、05年比30%削減ができない多くの企業は国内排出量取引市場で排出量を買わなければならないから、市場原理により排出量の価格は暴騰するはずである。

 そうすると、別の市場原理が働く。日本に踏みとどまった製造業の企業は、生産を40%減産することにより排出量を40%削減して、30%との差の10%の排出量を国内排出量取引市場で売った方が利益がでるのであれば、40%減産を行うのである。サービス産業の企業は、店舗を40%減らして10%の排出量を国内排出量取引市場で売って利益を得ようとするだろう。その売りによって排出量の価格は低下するが、それでも排出量の価格はかなり高い価格で安定することになるのではないだろうか。したがって、日本から中国に工場を移転することによって得た余分の排出量を売ることを許し、排出量の価格を低下させた方が、日本に踏みとどまった企業にとっても、日本経済にとってもよいのである。

 国内排出量取引市場には投資家も参加できるはずであるが、投資家からみて、国内排出量取引市場は株式市場とはかなり異なった市場である。株式の場合は、配当とキャピタルゲイン(値上がり益)の両方を期待して投資を行う。これに対して、排出量取引の場合は、配当はないから、キャピタルゲインのみを期待して投資を行うことになる。株式の場合は、企業が成長すれば株価が値上がりし投資家はキャピタルゲインを得ることができる。企業にとって喜ばしいことは株式の投資家にとっても喜ばしいことなのである。

 これに対して、排出量取引の場合は、企業が排出量を大幅に削減できれば排出量の売りが多くなり、価格は値下がりするから、投資家は損することになる。逆に、企業が排出量を削減できなければ排出量の買いが多くなり、価格は値上がりするから、投資家はキャピタルゲインを得ることができる。企業にとって苦しいことが、排出権取引の投資家にとっては喜ばしいことなのである。国内排出量取引市場は、株式市場で空売りを行う投資家が魅力を感じそうな市場である。

 マスメディアの報道によれば、企業経営者は90年比25%(05年比30%)削減を支持していないようにみえる。ところが、実際は、日本企業(製造業)は、工場の移転でこの問題を難なくクリアできるのである。しかも、省二酸化炭素製品の製造は日本企業にとって得意分野であり、その市場も急拡大するだろうから、大きな利益が見込めるのである。日本の企業はマスキー法の成功体験を再現することによって、大成功をおさめる可能性が高いのである。

 一方、マスメディアの報道によれば、国民の多くは90年比25%(05年比30%)削減を支持しているようである。しかし、日本では工場が次々と閉鎖されていくのであるから、国民は失業や不景気に悩まされ、政府も不景気による税収減に悩まされることになる。マスキー法の成功体験を地球温暖化に適用することは、国民や政府にとっては、大失敗である可能性が高いのである。

 企業経営者の認識と政治家や国民の認識が相違するのは、第1に、企業経営者は、工場に規制が課せられることを知っているのに対して、政治家や国民は、マスキー法と同様に製品だけに規制が課せられると考えているからではないだろうか。第2に、企業経営者は、中国と日本を中心とする東アジアの経済統合を当然の前提として考えているのに対して、政治家や国民は、既に中国と日本を中心とする東アジアの経済統合がなされていることを知らないからではないだろうか。

 日本が05年比30%削減しても世界全体では1.4%の削減に過ぎない(参考文献13の235頁のデータから算出)。日本の国民と政府が失業や不景気や税収減に苦しみながら05年比30%削減を達成したとしても、地球温暖化に対してほとんど影響は与えないのである。

 (09.10.16追記)今日の日本経済新聞朝刊の「CO排出量が大幅減」という記事には、「大手製造業が2008年度に国内で排出する二酸化炭素の量が1990年を大きく下回ったことが明らかになった。…昨年の世界同時不況による大幅な減産が最大の要因だ。」と記載されている。関連記事の表によると、自動車(5社)の排出量は07年比17.3%減、90年比39.3%減で、生産量は07年比17.3%減、90年比24.7%減である。もし、90年比25%減のキャップが割り当てられていたとすれば、14.3%の排出量を売ることができる。これなら、国内工場はそのままとして、中国向けの自動車を中国の工場で作ればよい。しかし、07年比30%減のキャップが割り当てられていたとすれば、12.7%の排出量を買うか、さらなる12.7%減産のどちらかを選ばなければならない。何時を基準にするのかは非常に重要である。一方、電気(7社)は排出量が07年度比6.8%減、90年比4.1%増であるから、いずれにしても、工場を中国やその他の東アジアの国に移転するしかないのではないかと思う。

 (09.10.20追記)今日の日本経済新聞朝刊の「本社景気討論会」の記事で、東芝会長の西田厚聡氏は、「設備投資の動きはどうか。」の質問に対して、「今年は前年比ほぼ半減だ。新政権は温暖化ガスの排出量を2020年までに25%減らすという目標を打ち出した。産業界は相当な努力が必要になり、投資活動に影響してくる。新政権の政策の行方次第では、当社が計画している半導体2工場の投資も国内では難しくなる可能性も否めない。海外に移れば技術が流出し、雇用の問題も発生する。」と述べておられる。

 (09.11.04追記)今日の日本経済新聞の「温暖化ガス削減『25%』の行方、『痛み』と『期待』揺れる企業」の記事には、「新日鉄がブラジル、JFEスチールがタイ、住友金属工業がインド。鉄鋼大手は、京都議定書で温暖化ガスの削減義務がない国で製鉄所を建設する計画を始めている。…東レの榊原定征社長は『国内で設備投資が難しくなる』と指摘する。…企業は競争力維持や生き残りに海外移転を視野に入れる。温暖化対策の『痛み』はその背中を押しかねない。」と記載されている。

 一方、そのちょうど裏面の社説「企業は低炭素時代の経営を世界と競え」には、「世界の潮流に日本企業は取り残されはしないだろうか。温暖化ガスの『2020年までに1990年比で25%減』に反発する企業が多い。だが、世界はその先へ進んでいる。」と記載されている。

 表の記事を25%削減懐疑派とすれば、裏の社説は25%削減肯定派である。同じ新聞社が表と裏で正反対のことを書いているのが面白い。正反対になる原因の一つは、座標軸が異なることである。表の記事は日本に座標軸においているから、日本から工場が移転するのを心配しているのである。これに対して裏の社説は日本企業に座標軸をおいているから肯定的なのである。なぜなら、日本企業が25%削減に背中を押されて海外移転すれば、日本企業から世界企業へ脱皮し、次の大きな成長が見込まれるからである。

 もう一つの原因は、時間軸が異なることである。表の記事は、マスキー法の成功体験を知らない現在取材している記者が書いているのに対して、裏の社説は、マスキー法の成功体験の頃に記者として取材した現在の論説委員が当時の成功体験の再現を夢見て書いているのである。1970〜1980年代の日本と現在の日本の様々な状況の相違を考えれば、1970〜1980年代の日本がそのまま再現できるはずはない。座標軸:日本、時間軸:現在、とすれば、現在取材している記者が書いた表の記事の方が真実を伝えているのである。

 (09.12.09追記)今日の日本経済新聞朝刊の「環境立国へ設計図を描け」という記事には、「米国のオバマ大統領はグリーン・ニューディール政策という環境産業政策を打ち出した。…具体的でわかりやすい。」「日本の環境政策には設計図がない。」と記載されている。これは、日本の政策決定者が、マスキー法の成功体験の再現を夢見ていることによる。90年比25%という厳しい規制自体が日本経済を成長させると信じているのである。したがって、困ったことだが、この項のタイトルの「マスキー法の成功体験を地球温暖化へ適用すると大失敗する」が現実のものとなりそうである。

 地球環境産業技術研究機構の「削減目標の国際比較」によれば、各国の削減目標を達成するためのGDP比対策費用は、日本:1.13%、EU:0.08〜0.26%、米国:0.29%、韓国:0.165、中国:0〜0.07%であり、日本の負担が断トツで大きいのである。

 (09.12.18追記)環境省の“「地球温暖化対策の基本法」の制定に向けた意見の募集について”に対して、この項(7.)と12.をコピーして意見を送信した。詳細は12.の追記参照。

 (10.01.08追記)温室効果ガス:日本の排出枠購入、半額の2000億円に 経済危機後に市場価格下落」の記事によれば、「京都議定書では、日本は08〜12年の平均で90年比6%の排出量削減が義務づけられており、うち1・6%に当たる約1億トン分の排出枠を政府が取得する計画。政府は、チェコと購入契約を締結するなど、約9500万トンの取得を決めている。」ということである。4000億円を見込んでいたが、リーマンショック後の不況で2000億円ですんだそうである。

 しかし、2000億円は1.6%分だけであるから、90年比6%(05年比11%)達成のための残りの9.4%はどうするのだろうか? 1.6%が2000億円で計算すると1.2兆円、4000億円で計算すると2.4兆円になるのだが。

 さらに、90年比25%(05年比30%)削減では、1.6%が2000億円で計算すると3.8兆円、4000億円で計算すると7.5兆円になる。「12.二酸化炭素に気温を変動させる力は全く無い」や「15.『首相官邸』に地球温暖化について意見を送信」に記載したように、二酸化炭素は地球温暖化とは無関係であるから、3.8〜7.5兆円の100%完全なムダづかいである。

 ダムや道路がムダづかいだとしても、何らかの効果はある。少なくともお金は日本国内に落ち、日本経済のためになる。これに対して、90年比25%削減は、100%完全なムダづかいであるだけでなく、お金が外国へ行ってしまうのである。

 仮に、二酸化炭素削減により温暖化防止の効果があると仮定したとしても、世界全体では05年比1.4%の削減に過ぎないのであり、ほとんど完全なムダ使いである。


8.第3次と第4次報告書の間に過去の気温が大変動していた!(10.18; 10.26) <オススメ

 【図22】(A)はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第3次報告書における実測値であり、第3次評価報告書第1作業部会報告書政策決定者向け要約の図1(a)を引用したものである。【図22】(B)は第4次報告書における実測値であり、第4次統合報告書政策決定者向け要約の図SPM.1の上の図を引用したものである。
【図22】
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 【図22】(A)において、赤棒グラフは各年の気温、黒の曲線は10年平均値、黒い縦線は信頼区間、縦軸は1961年〜1990年の平均値との差(℃)である。【図22】(B)において、丸印は各年の気温、黒の曲線は10年平均値、青は不確実性の幅、縦軸(左側)は1961年〜1990年の平均値との差(℃)、縦軸(右側)は気温(℃)である。【図22】の(A)は、縦軸と横軸の目盛りが(B)の目盛りに合うように拡大・縮小させた図である[注1]

 【図22】(A)は2000年までの実測値であり、【図22】(B)は2006年までの実測値であるから、この6年間の実測値が追加されるのは当然である。しかし、なぜか、2000年以前の実測値も変わっているように見える。【図22】の(A)第3次と(B)第4次の10年平均値の曲線を比較すると、第4次の1910年頃の急峻なV字型の谷が目につく。ところが第3次を見るとなだらかなU字型の谷である。次に第4次の1941年頃の急峻な逆V字型の山が目につく。ところが第3次を見るとなだらかな上り勾配の後比較的急に下がる非対称の山のように見える。

 そこで、【図22】(A)の黒以外の部分を透明化し、黒を赤色に変えて、【図22】(B)に重ねてみた[注2]。それが【図23】である。見やすいように、【図22】(B)の色を薄くしている。
【図23】
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 【図23】において、赤の曲線は第3次の10年平均値、黒の曲線は第4次の10年平均値である。1960年以降の変動はわずかであるが、1960年以前は大変動していることがわかる。第3次報告書と第4次報告書のわずか6年間に1860年〜1960年の地球の気温が大変動していたのだ!

 もちろん、過去の気温の実測値が大変動するはずはない。この過去の気温の大変動は補正や推定(参考文献1の74頁、参考文献6の30頁参照)を大幅に変えたことによるはずである。それにしても、ものすごい補正や推定の変更である。1910年頃の谷は、なだらかなU字型の谷(赤)が急峻なV字型の谷(黒)に変わり、谷底の位置も移動している。1941年頃の山は、一方がなだらかな非対称的な山(赤)から、急峻な対称的な逆V字型の山(黒)に変わり、頂上の位置も移動している。1870年頃〜1890年頃の山と谷は第3次(赤)に対して第4次(黒)は気温の高い方に移動している。1905年頃〜1960年頃にかけては第3次(赤)に対して第4次(黒)は気温の低い方に移動している。

 例えば、観測機器が変更され、観測機器の特性の違いにより見かけ上の気温が大きく変化する場合、補正や推定を行えば、気温の変化は少なくなるはずである。そうでなければ、補正や推定を行う意味がない。したがって、急峻な谷や山が、補正・推定方法の変更によって、なだらかな谷や山になるのであれば理解できる。ところが、第3次から第4次への変化は、なだらかなU字型の谷が急峻なV字型の谷になったり、なだらかな山が急峻な逆V字型の山になったりしているのであるから、不思議である。しかも、1910年頃の急峻なV字型の谷や1941年頃の急峻な逆V字型の山が、自然現象によるものか、人為的な影響で生じたものなのかは、全く説明されていない。

 第4次報告書後に発行された参考文献6の125頁によれば、第二次世界大戦の終戦の前後で、船による海面温度の観測が米国から英国に変わり、それによる補正がこれまで行われていなかったが、今後その補正が行われ1941年頃の急峻な逆V字型の山はなだらかになるそうである。第3次のなだらかな山が、第4次で急峻な逆V字型の山になり、再びなだらかな山に戻るというのである。

 【図24】は、【図23】に第1次報告書(参考文献14)に記載された実測値(1860年〜1990年)の10年平均値(緑)を重ねたものである[注4]
【図24】
f24
 【図24】をみると、第1次(緑)、第3次(赤)、第4次(黒)で[注5]、 過去の気温が大きく変動しているのがわかる。1875年頃から1890年頃までは、第1次(緑)、第3次(赤)、第4次(黒)の順で気温が上昇している。1905年頃から1940年頃までは、第1次(緑)から一度第3次(赤)へ気温が上昇しその後第4次(黒)へ気温が下降し第1次(緑)と同じ程度になっている。1945年頃から1960年頃は、第1次(緑)から第3次(赤)へ少し気温が上昇しその後第4次(黒)へ大幅に気温が下降している。

 絶え間なく大変動し続ける過去の気温の実測値である。実測値の研究を専門にしている科学者たちにとっては、過去の気温の大変動は当然なことかもしれない。むしろ、変動しなければ自分の研究分野が消滅してしまうのである。しかし、素人の私からみると、過去の気温がこれほど大変動するのは、奇妙なこととしか思えない。

 IPCC第4次統合報告書政策決定者向け要約の2頁には、【図22】(B)の説明として、次のように記載されている。
気候システムの温暖化には疑う余地がない。

 …過去100年間(1906〜2005年)の長期変化傾向の値である100年当たり0.74[0.56〜0.92]℃は、第3次評価報告書で示された1901〜2000年の変化傾向である100年当たり0.6℃[0.4〜0.8℃]よりも大きい(図SPM.1)。
 IPCCは、まず最初に「気候システムの温暖化には疑う余地がない。」と結論を述べ、その後、その根拠を述べている。上記の引用文中の「過去100年間(1906〜2005年)の長期変化傾向の値である100年当たり0.74℃」は、【図22】(B)の1906〜2005年の100年間の気温上昇である。一方、「第3次評価報告書で示された1901〜2000年の変化傾向である100年当たり0.6℃」は、【図22】(A)の1901年〜2000年の100年間の気温上昇である。IPCCはこれを比較して、前者は後者より大きいとしているのである。

 私はかつて大学院生であった時、異なった測定方法で測定したデータを一つのグラフにして教授の前で発表したところ、教授から、「異なった測定方法で測定したデータを単純に比較していけない」と怒られたことがある。IPCCによる【図22】(A)(B)の比較は、私が未熟な大学院生の時に犯した誤りと同じ誤りを犯しているのではないだろうか。【図23】を見ればわかるように、補正・推定方法の変更によって、第3次の実測値と第4次の実測値は全く異なったものに変わってしまっている。これを比較しても意味がないことは明らかである。通常の学問分野であれば、上記の政策決定者向け要約の2頁に記載されたことと同じことを、大学院生が教授の前で発表したとすれば、厳しく怒られるはずである。

 それでは、大学院生が怒られないようにするにはどうすればよいだろう。答えは簡単である。【図22】(B)が最新の補正データなのであるから、【図22】(B)の最新の補正データを使って、1901年〜2000年の100年間の気温上昇を再計算して、1906〜2005年の100年間の気温上昇と比較すればよいのである。【図22】(B)から読み取ったデータで計算すると、1901年〜2000年の100年間の気温上昇は0.65℃であり、1906年〜2005年の100年間の気温上昇は、【図22】(B)から読み取ったデータで計算しても第4次報告書の記載からも0.74℃である[注3]

 第3次報告書の0.6℃に対して今回再計算した0.65℃は0.05℃高い。これは、1905年頃〜1960年頃にかけて第3次(赤)に対して第4次(黒)の気温が低い方に移動したから、つまり100年間の前半の気温が低下するように補正されたからではないかと思う。そして、このことは5年間移動させても変わらないと考えられるから、もし、第3次の実測値に単に新しい5年分の実測値を加えたデータで計算すれば、1901年〜2000年の100年間の気温上昇は第3次報告書のとおり0.6℃で、1906〜2005年の100年間の気温上昇は第4次に記載された0.74℃から0.05℃を引いた0.69℃となるのではないだろうか。

 第3次の実測値をそのまま使えば1906〜2005年の100年間の気温上昇は0.69℃であるのに対して、新たな補正を行った結果、1906〜2005年の100年間の気温上昇は0.74℃と高くなり、しかも、補正前の第3次の1901年〜2000年の100年間の気温上昇0.6℃と比較することによって、気温の上昇傾向をより強く印象づけることに成功したのである。過去の気温の実測値を研究している科学者たちも、補正方法を変更することによって、「地球温暖化」に大いに貢献したことになる。しかし、これは、通常の学問分野では大学院生が教授から厳しく怒られるレベルである。 

 一方、大学院生が上記のように同じ補正データで比較した発表を行えば、教授に怒られずにすみ、修士論文として認められそうである。しかし、これはせいぜい修士論文レベルの研究ではないかと思う。なぜなら、過去の実測値が絶え間なく大変動し続けているのでは、100年当たりの気温の上昇を計算するにしても、気候モデルのパラメータをチューニングして実測値に合わせ込むにしても、真理に到達する保証は全くないからである。

 気候モデルを扱う科学者たちは、第1次、第3次、第4次報告書の作成のために、その都度、絶え間なく大変動し続ける実測値に気候モデルをチューニングして合わせ込んできたのであり、今は次の報告書を目指して、また別の実測値に合わせ込んでいるところだろう。しかし、実測値が絶え間なく大変動し続けているのでは、いくらやっても真理には到達できそうもない。

 参考文献10の69頁で、赤祖父俊一氏は、「IPCCは…多くの炭酸ガス放出量のモデル…によって2100年の予測を行っているが、これは大学における単なる練習問題(アカデミック・エキササイズ)のようなもので国際政策に使うものではない。」と述べておられる。そのとおりではないだろうか。

 (09.10.25追記)上記のように、【図22】(B)から読み取ったデータで計算すると、1901年〜2000年の100年間の気温上昇は0.65℃であり、1906年〜2005年の100年間の気温上昇は0.74℃である。これでも、この5年間で0.09℃と大幅に上昇している。しかし、これは5年間で新しく追加された2001年から2005年が高い気温であったことだけでなく、1910年頃のV字谷に落ち込む前の当時としては高い気温だった1901年〜1905年の気温が100年間から外れたことにもよるのである。1901年〜2005年の105年間の気温上昇を計算すると0.71℃であり、5年間長いこちらの方が気温の上昇は少ないのである。105年間の0.71℃を1.05で割って、100年間の気温上昇に変換すると0.68℃である。これと、1901年〜2000年の気温上昇0.65℃と比べると、5年間で0.03℃しか上昇していないのである。第4次報告書に記載された0.74℃と上記の0.68℃の差0.06℃は1910年頃のV字谷に落ち込む前の5年分が外れた効果である。つまり、100年間の気温上昇が5年間で0.09℃上昇しているが、このうち0.06℃分は1910年頃のV字谷に落ち込む前の当時としては高い気温が外れた効果なのである。新しく追加された5年間の高い気温の効果は0.03℃だけなのである。

 (09.10.26追記)第4次報告書には、1906年〜2005年の100年間の気温上昇は0.74℃と記載されている。しかし、【図22】(B)には2006年のデータも記載されている。そこで、【図22】(B) から読み取ったデータを使って1907年〜2006年の100年間の気温上昇を計算すると、なんと0.76℃になり、1年前より0.02℃も高くなるのである。IPCCは2006年のデータが使えるようになってから再計算を行っていれば、さらに地球温暖化を強く印象づけることができたはずである。しかし、【図22】(B)をみれば2006年のデータ(図の右端の丸印)はその前年の2005年のデータより少し下がっており、しかも10年平均値(黒の曲線)よりも少し下であることがわかる。したがって、1年で0.02℃高くなったのは最近の気温の上昇によるものではない。一方、1906年のデータ(青の範囲(不確実性の幅)の少し上に出ている丸印)は当時としては極めて高い気温であったのであり、これが100年間から外れることにより、100年間の気温上昇が1年で0.02℃も高くなるのである。100年間の気温上昇の直線を描いたとすれば、これまで直線の左端を上に引っ張り上げていた1906年の当時としては極めて高い気温が外れたので、直線の左端が下に下がり、直線の傾きが大きくなったのである。


9.IPCC第4次報告書の要約と原本(09.10.24; 10.25)

 【図25】は、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第4次報告書の原本と思って7350円で購入した本(参考文献16)の表紙のタイトル部分である。タイトルは「IPCC地球温暖化第四次レポート」、サブタイトルは「気候変動2007」である。
【図25】
f25_cb150
 ところが、これはIPCC第4次報告書の要約集であったのである。しかも、この本に記載されている内容は全て、気象庁環境省経済産業省のサイトでpdfファイルで入手できるものである。一方、IPCC第4次報告書の原本はIPCCのサイトで英文のpdfファイルで入手することができる。

 以下に、IPCC第4次報告書の要約と原本のリンク先を示します。

IPCC第4次報告書
 統合報告書
  政策決定者向け要約(日本語英語
  原本(英語のみ)
   Full report
   Appendix
 第1作業部会報告書(自然科学的根拠)
  要約
   政策決定者向け要約(日本語英語
   技術要約(日本語英語
  概要及びよくある質問と回答(原本の各Chapterの冒頭のExecutive Summary及びFAQの日本語訳)
  原本(英語のみ)
   Frequently Asked Questions (extracted from chapters below)
   Chapter 1 Historical Overview of Climate Change Science
   Chapter 2 Changes in Atmospheric Constituents and in Radiative Forcing
   Chapter 3 Observations: Surface and Atmospheric Climate Change
    Supplementary Material: Appendix 3.B. Techniques, Error Estimationand Measurement Systems (including references)
   Chapter 4 Observations: Changes in Snow, Ice and Frozen Ground
   Chapter 5 Observations: Oceanic Climate Change and Sea Level
   Chapter 6 Palaeoclimate
    Supplementary Material: Appendix 6.A. Glossary for Terms Specific to Chapter6
   Chapter 7 Couplings Between Changes in the Climate System and Biogeochemistry
   Chapter 8 Climate Models and their Evaluation
    Supplementary Material: Appendix 8.A. Supplementary Figures andTables
   Chapter 9 Understanding and Attributing Climate Change
    Supplementary Material: Appendices & References
   Chapter 10 Global Climate Projections
    Supplementary Material: Supplementary Details, Tables & Figures
    Figures Showing Individual Model Results for Different ClimateVariables
   Chapter 11 Regional Climate Projections
    Supplementary Material: Appendix 11. Tables, Figures, References
   Annexes: (1)Glossary, (2)Authors, (3)Reviewers, (4)Acronyms
   Index
   Uncertainty Guidance Note for the Fourth Assessment Report
   Errata for the Working Group I Fourth Assessment Report
 第2作業部会報告書(影響・適応・脆弱性)
  要約
   政策決定者向け要約(日本語英語
   技術要約(日本語英語
  原本(英語のみ)
   Chapter 1: Assessment of Observed Changes and Responses in Natural and ManagedSystems - [ Supplementary Material  ]
   Chapter 2: New Assesment Methods and the Characterisation of Future Conditions
   Chapter 3: Fresh Water Resources and their Management
   Chapter 4: Ecosystems, their Properties, Goods and Services
   Chapter 5: Food, Fibre, and Forest Products
   Chapter 6: Coastal Systems and Low-Lying Areas
   Chapter 7: Industry, Settlement and Society
   Chapter 8: Human Health
   Chapter 9: Africa
   Chapter 10: Asia
   Chapter 11: Australia and New Zealand
   Chapter 12: Europe
   Chapter 13: Latin America
   Chapter 14: North America
   Chapter 15: Polar Regions (Arctic and Antarctic)
   Chapter 16: Small Islands
   Chapter 17: Assessment of Adaptation Practices, Options, Constraints and Capacity
   Chapter 18: Inter-Relationships Between Adaptation and Mitigation - [ Supplementary Material ]
   Chapter 19: Assessing Key Vulnerabilities and the Risk from Climate Change
   Chapter 20: Perspectives on Climate Change and Sustainability
   Cross-Chapter Case Studies
   Appendices I-V: Glossary, Contributors, Reviewers, Acronyms, Permissions
   Index
 第3作業部会報告書(気候変動の緩和)
  要約
   政策決定者向け要約(日本語英語
   技術要約(日本語英語
  原本(英語のみ)
   Chapter 1: Introduction
   Chapter 2: Framing Issues
   Chapter 3: Issues related to mitigation in the long-termcontext
   Chapter 4: Energy Supply
   Chapter 5: Transport and its infrastructure
   Chapter 6: Residential and commercial buildings
   Chapter 7: Industry
   Chapter 8: Agriculture
   Chapter 9: Forestry
   Chapter 10: Waste management
   Chapter 11: Mitigation from a cross-sectoral perspective
   Chapter 12: Sustainable Development and mitigation
   Chapter 13: Policies, instruments, and co-operative arrangements
   Annex I: Glossary
   Annex II: Abbrevations, Chemical Symbols
   Annex III: Contributors to the report
   Annex IV:Reviewers of the report
   Annex V: Index
   Errata for the Working Group III contribution to the FourthAssessmentReport

 統合報告書政策決定者向け要約は22頁であり、これを読破するのは難しくない。第1〜第3作業部会報告書政策決定者向け要約も、がんばれば読破できるだろう。しかし、第1〜第3作業部会報告書技術要約は頁数が多く、読破するにはかなりの忍耐が必要である。原本は、頁数が膨大でかつ英語であるから、これを読破するのはほとんど不可能ではないかと思う。とてつもない物量である[注6]。原本を読破した人は世界全体でいったい何人いるのだろう。

 読破するのも困難な文書であるから、これを作成したIPCCは、とてつもないパワーを投入したはずである。参考文献16の287頁によれば、3年の歳月と、130を超える国の450名を超える代表執筆者、800名を超える執筆協力者、2500名を超える専門家の査読を経て公開されたとのことである。とてつもないパワーにより作成された、とてつもない物量のIPCC第4次報告書に、我々はひれ伏し、これに従わなければならないのだろうか。

 しかし、8.で述べたように、統合報告書政策決定者向け要約の最初の図面である【図22】(B)とその説明は、通常の学問分野では、大学院生が教授の前で発表すれば、教授に厳しく怒られるレベルのものである。最も目立つところに記載されたこの問題を何千人もの専門家は気がつかなかったのだろうか。それとも、このようなことは、地球温暖化の分野では特に問題とならない当たり前のことなのだろうか。

 【図24】に示すように、IPCCによる過去の地球の気温は、補正や推定により、絶え間なく変動し続けている。5.で、近藤純正氏が日本全国の多数の観測所に足を運び日本の過去の気温を補正されていることを紹介した。近藤純正氏の補正は、様々な要因による見かけ上の気温の変動を補正して気温の変動を小さくするものであり、これが誰でも常識的に理解できる補正だと思う。これに対して、IPCCの補正や推定は、なだらかな谷や山が急峻な谷や山になり、気温の変動が大きくなるものであり、補正自体が「地球温暖化」に貢献するものである。昔の気温を下げるように補正することにより、いつでも「地球温暖化」を作り出すことができるのである。私には補正や推定によって気温の変動が大きくなるということは理解しがたいことである。

 参考文献6の16頁によれば、「地球温暖化というのは、ひと言でいうと、人間活動のせいで地球全体の温度が上がっていく問題」ということだから、地球温暖化の分野では、「地球温暖化」に貢献する研究であれば何でもOK、「地球温暖化」に貢献しない研究は何でもダメということなのだろう。IPCC第4次報告書は、地球温暖化の名目で、各国の政策決定者に莫大な資金を出させるための膨大な資料ということではないだろうか。


10.IPCCは気温上昇が先で二酸化炭素増加は後を認めていた!(09.11.01; 11.12) <オススメ

 1990年に公表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第1次報告書の第1作業部会報告書(自然科学的根拠)の要約(参考文献14の43頁〜44頁)には、次のように記載されている。
 …16万年に遡る氷床コアの測定により、地球の気温は、二酸化炭素とメタンの大気中の総量と密接に関連して変化したことが分かる(図2−2(井上注:【図26】))。我々には、因果関係の詳細は分からないが、これらの温室効果ガスの濃度変化が、氷期と間氷期の間の地球全休の気温の大きな変動(5〜6度)の理由の、すべてではないが、一部であるということが計算によって示される。
【図26】
f26
 【図26】は、参考文献14の45頁の図2−2を引用したものである。【図26】において、上は氷床コアによる南極の気温、中はメタン濃度、下は二酸化炭素濃度である。横軸は、左端の0が現在、右端の160が16万年前であり、この図では、右から左に時間が進んでいる。気温の低い期間が氷河期であり、13万年前〜12万年前頃の気温の高い期間が最後の間氷期である。もちろん現在も間氷期である。

 【図26】の上と下の図を測定すると、二酸化炭素濃度のピークが13.3万年前、気温のピークが13.0万年前であることがわかる。この図によれば、最後の間氷期では、まず二酸化炭素濃度が増加し、それに約3000年遅れて気温が上昇している。【図26】を見ていると、二酸化炭素が気温上昇の真犯人であることは疑う余地のない事実であるようにみえてくる。

 ところが、2001年に公表されたIPCC第3次報告書では、気温の上昇が先で二酸化炭素の増加は後であることを一応は認めているのである。【図27】は第3次報告書の第1作業部会報告書原本の137頁(39頁/84頁)のFigure2.22(Chapter2)を引用したものである。
【図27】
f27
 【図27】は、第3次報告書時点での南極の氷床コアによるデータである。横軸の右端の0が現在、左の方の400が40万年前である。この図では、左から右へ時間が進む。赤が南極大陸の気温、黒が大気中二酸化炭素濃度、青が大気中メタン濃度である。この図では3つのグラフを重ねているので、全部が一緒に変動しているように見えるが、この図に関して137頁(39頁/84頁)右欄6行〜14行に次のように記載されている。
 Vostok(井上注:南極のボストーク基地)における最後の3つの氷河期の終了(井上注:間氷期の始まり)の詳細な研究から、Fischer et al. (1999)は、COの増加は南極の温暖化の600±400年後に始まったと結論した。しかしながら、COおよび氷の年代決定の大きな不確実性(氷蓄積率の不確実性を考慮すれば1,000年またはそれ以上)を考慮して、Petit et al. (1999)は、氷河期の終了の開始時のCOと南極の温度の時期的関係の兆候を確認するのは時期尚早であると感じている。
  このように第3次報告書では、気温の上昇が先で二酸化炭素の増加が後であることを一応は認めている。しかし、これを明確に認めたのでは、二酸化炭素犯人説が揺らいでしまうと思ったのか、時期尚早であるという見解も記載している。そして、なるべく知られないようにするためか、これを原本にのみ記載し、要約には一切記載していないのである。

 しかし、2007年に公表された第4次報告書では、気温の上昇が先で二酸化炭素の増加は後であることを明確に認めている。【図28】は、第4次報告書の第1作業部会報告書の技術要約の図TS.1(6頁)を引用したものである。
【図28】
f28
 【図28】は、第4次報告書時点での南極の氷床コアによるデータである。一番下の黒は重水素変動(δD)であり、これは南極の気温を示している。その上の青がメタン濃度、その上のグレーが二酸化炭素濃度、その上の緑が一酸化二窒素濃度である。横軸は、右端の0が現在、左の方の600が60万年前である。この図では左から右に時間が進む。陰影は最近の間氷期を示している。メタン(青)と二酸化炭素(グレー)と一酸化二窒素(緑)の右端の縦線は測定器による濃度の急上昇を示しており、縦線の一番上は2000年の値を示している。

 せっかく要約に氷床コアの図が掲載されたが、文章では気温(黒)については何も説明されていない。【図28】は、メタン(青)、二酸化炭素(グレー)、一酸化二窒素(緑)の濃度が過去60万年のいずれの時点と比較しても現在の方が遙かに高いことを説明するために要約に掲載されたようである。文章で説明していない気温(黒)を掲載したのは、【図28】を見た読者が、過去60万年にわたって二酸化炭素濃度の増減により気温が上下したと誤解するのを期待したからかもしれない。

 要約の【図28】は、第1作業部会報告書の原本の第6章のFigure6.3を加工したものである。原本では、二酸化炭素は赤であるが、要約では色をグレーに変更し、最近の急上昇だけを赤で記載している。最近の二酸化炭素の急上昇を赤で印象づけて、恐怖感を盛り上げようとしてしたのかもしれない。

 要約だけではわからないが、第4次報告書の原本では、気温の上昇が先で二酸化炭素の増加は後であることを明確に認めているのである。第1作業部会報告書の原本の第6章の「6.4.1氷河期−間氷期サイクルにおける気候強制力と応答」には次のように記載されている。
…最後の42万年にわたるCOの変動は広範囲にわたって、典型的には数世紀から1000年の差で南極の気温の後を追っている(Mudelsee, 2001)。氷河後退期(完全な氷河期の状態から温暖な間氷期への移行期)の気候強制力と応答の連鎖はよく証拠が残っている。氷河後退期の気温代替物(井上注:重水素変動(δD))とCOの高分解能氷床コアの記録は、南極の気温がCOより数百年前に上昇を始めていることを示している (Monnin et al., 2001; Caillon et al., 2003)。…
  このように、気温の上昇が先で二酸化炭素の増加は後であり、しかも、気温上昇から数百年から1000年遅れて二酸化炭素濃度が上昇しているのである。したがって、氷河期−間氷期サイクルでは、二酸化炭素は少なくとも主犯ではないことが確定したのである。しかしながら、原本にしか記載されていないためか、第3次報告書以降に発行された二酸化炭素原因説肯定派の本にも懐疑派の本にも、IPCCが気温の上昇が先で二酸化炭素の増加は後であることを認めたことは記載されていない。

 2003年に発行された肯定派による参考文献1の88頁には、1990年の第1次報告書の【図26】が引用されていて、この図の説明として次のように記載されている(87頁)。
…図は、気温(a)、メタン濃度(b)、二酸化炭素濃度(c)の3者がかなりよい相関にあることを示している(井上注:(a)〜(c)はこの本の著者が【図26】に加筆した符号)。気温と二酸化炭素との関係については、二酸化炭素の増減が温室効果の増減、したがって、気温の増減につながったとも、気温の増減により、海水中に溶けている二酸化炭素が大気中に放出、あるいは大気中の二酸化炭素が海洋中に吸収され、二酸化炭素の増減につながったとも考えられ、どちらが原因でどちらが結果かは必ずしも自明ではない。
 この本では、第1次報告書の紹介部分以外では、2001年の第3次報告書の図面が引用されているが、【図26】だけは1990年の第1次の引用である。この本の「はじめに」には、この本の著者が第3次報告書の作成に最初から完成までかかわり、第1作業部会の会合にも参加したと記載されている。それでも、第3次の第1作業部会報告書の原本に【図27】が記載されていたことを知らなかったのだろうか。

 2006年に発行された懐疑派による「CO温暖化説は間違っている」(参考文献17)の36頁には、より新しいデータを使った第1次の【図26】と同様な図が引用されていて、その説明として次のように記載されている(34頁)。
 最初に、COが原因と考えるのであれば、まずそのCOの濃度上昇の原因を説明しなければならなくなる。古代では人間が原因となるわけはなく、当然自然現象なのだがCO濃度を上昇させる原因で気温以外に思いつくものは何ひとつない。
 (中略)
 …太陽光を受け取る地球の条件が変わって、その受光量の増加が原因で気温が上昇し、CO濃度の増加はその結果であるとするのが合理的である。
 この本の著者は槌田敦氏であるが、「槌田 敦 VS 日本気象学会」によれば、槌田敦氏は日本気象学会を提訴しておられるようである。詳しいことはわからないが、恐らく最大の争点は次の【図29】参考文献17の41頁の図表2−3を引用)ではないかと思う。
【図29】
f29_150
 【図29】において実線は気温であり、点線は二酸化炭素濃度である。この図によれば、気温より二酸化炭素濃度が1年程度遅れているように見える。気温上昇が先で二酸化炭素増加が後である点では第4次報告書と同じであるが、どれだけ遅れるのかについては大きな開きがある。参考文献17の46頁〜48頁には次のように記載されている。
 最近になって、気象学者の発言が少し変わってきた。温度、CO、メタンなどが同時に変わるように見えるが、実は温度の変化が先行し、その後でCOやメタンの変化がつづくという。…
 日本物理学会誌に投塙した私の論文(2005年7月)を閲読し、これを採用すべきでないと主張した気象学者X氏は、…私の気温上昇が原因であるとする論に対して「CO濃度変動が気温変動に先行することもあれば、その逆もある。…」という。
 …もしも、そのような事実があるのなら、事実を示してからそのような主張をすべきであろう。この点を追求されて、気象学者X氏はその事実を提出できなかった。
 気象学者X氏は、第3次でIPCCが気温上昇が先で二酸化炭素増加は後を一応は認めたことを知っていたのかもしれない。そうだとすれば、現時点では、第4次でIPCCが明確に認めたことも知っているのだろう。これまでは、第1次に記載されていたように、【図26】による二酸化炭素増加が先で気温上昇は後の前例が、二酸化炭素原因説の根拠の一つとして存在していた。しかし、その前例はIPCC自身が第4次で明確に否定したのである。

 (c)2006年で2007年に日本語訳が発行された「不都合な真実」(参考文献18)の著者は肯定派の元アメリカ副大統領アル・ゴア氏である。アル・ゴア氏は2007年にIPCCと共にノーベル平和賞を受賞されている。【図30】は、この本の66頁〜67頁から引用したものである。
【図30】
f30  
 【図30】も 氷床コアのデータであり、灰色は南極の気温(左上の1行目に「灰色の線は、この65万年の間の世界の気温を示す。」と記載されているが、これは誤りである)、青色は二酸化炭素濃度である。横軸は右端の0が現在、左の方の600000が60万年前である(横軸には「400000」が抜け落ちており、横軸の目盛りは正確ではない)。この図では、左から右に時間が進む。二酸化炭素(青)には、現在の濃度と45年後の濃度の予測が赤丸で示されている。【図30】の上の方には次のような記載がある。
…私の小学6年生の時の同級生…がこれを見たら、きっとこう尋ねるに違いない。「これって、ぴったりくっついていたことがあるんじゃないの?」
科学者はこう答えるだろう。「そうとも。ぴったりくっつくんだよ」。
この関係は入り組んでいるが、いちばん大事な点は「大気中の二酸化炭素が多ければ、気温は上がる。太陽からやってくる熱のうち、大気に吸収される割合がふえるから」ということだ。
 ここに登場する科学者は「この関係は入り組んでいるが」と述べているから、第3次報告書の【図27】の説明に気温上昇が先で二酸化炭素増加は後であることが記載されていることを知っているのかもしれない。もし、この科学者が正直に、「この図では60万年分を示しているから、ぴったりくっついているように見えるけどね、実際には、気温が上がってから数百年から1000年遅れて二酸化炭素の濃度が上がっているんだよ。でも、入り組んだ関係があって、やっぱり、二酸化炭素が多ければ、気温が上がるというのが、ちゃんとした科学者の考えなんだよ。」と述べていれば、小学6年生の同級生は「気温の方が二酸化炭素より早いのに、なんで、二酸化炭素が多ければ、気温が上がるの?」と科学者に質問するはずである。

 2008年に発行された懐疑派による参考文献10のの57頁〜58頁には次のように記載されている。
  現在南極の氷を使って発表されている研究段階では、気温が約800〜1300年ほど先行している結果である。すなわち、炭酸ガスの増加によって気温が上昇したのではなく、気温が上昇したために炭酸ガス量が増加したということである。もしこれが確認されれば、たとえ炭酸ガスが温室効果を持っているとしても、炭酸ガスの増加が現在進行している地球温暖化の引き金になったかどうかについては慎重な研究が必要である。
 この本の著者の赤祖父俊一氏は、「もしこれが確認されれば」と述べておられるが、IPCCは、既に2007年の第4次報告書で、気温の上昇が先で二酸化炭素の増加は後であることを明確に認めているのである。

 2008年に発行された懐疑派による「環境問題はなぜウソがまかり通るのか3」(参考文献19)の64頁には第3次報告書の【図27】と同じ図が掲載されていて、その説明として次のように記載されているが(63頁〜64頁)、IPCCが【図27】の説明で気温の上昇が先で二酸化炭素の増加は後であることを一応認めていることは触れられていない。
  二酸化炭素やメタンが地球温暖化をもたらす「原因」であると考えた場合、このグラフを説明することが難しくなる。二酸化炭素が突然どのように地球に降って湧いてきたかを説明しなければならないからだ。10万年に1度くらいの周期で、どうして二酸化炭素やメタンが増えているのだろう。
 以上のように、IPCCは、気温の上昇が先で二酸化炭素の増加は後であることを、第3次で一応、第4次で明確に認めているのであるが、それを原本のみに記載し、要約には記載しなかったためか、ほとんどの人は知らないようである。

 第4次報告書の第1作業部会報告書の第6章の「6.4.1 氷河期−間氷期サイクルにおける気候強制力と応答」には、「温室効果ガス(特にCO)フィードバックは、氷河期から間氷期へのモードの移行に対応する地球全体の放射摂動に大いに貢献した。」と記載されている。しかし、気温の上昇が先で二酸化炭素の増加は後なのあるから、氷河期−間氷期サイクルでは、二酸化炭素は少なくとも主犯ではないことは確定したのである。

 IPCCが主犯として特定したのは、第4次報告書の第1作業部会報告書の第6章のFAQ6.1に記載されているように、ミランコビッチサイクルである。ミランコビッチサイクルにより、まず気温が上昇する。気温が上昇すると、水蒸気のフィードバックや海氷のフィードバックや二酸化炭素のフィードバックが生じたと考えられる。したがって、二酸化炭素はせいぜい、そそのかされてその他の者と一緒に犯行に加わったに過ぎず、しかも、水蒸気や海氷よりも関与は少ないのではないだろうか。

 それなのに、IPCCは、現在の地球温暖化について、主犯は二酸化炭素であり、水蒸気や海氷は主犯にそそのかされたに過ぎないとして、二酸化炭素だけについて立件しているのである。氷河期−間氷期サイクルでは末端の共犯者に過ぎなかった二酸化炭素が、現在の地球温暖化で主犯をつとめるという大それたことができるのだろうか。

 IPCCは、1990年の第1次報告書では、当時の低分解能の氷床コアのデータにより、二酸化炭素が気温上昇の真犯人であるように記載したが、2001年の第3次報告書では気温の上昇が先で二酸化炭素の増加は後であることを一応認め、2007年の第4次報告書では、最新の高分解能の氷床コアのデータにより、気温の上昇が先で二酸化炭素の増加は後であることを明確に認めたのである。それでも、IPCCは現在の地球温暖化の主犯は二酸化炭素であると主張し続けている。二酸化炭素は、強引な検察当局(IPCC)によって、冤罪をきせられている可能性が高いのではないだろうか。

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[脚注]
[注1]次のようにして拡大・縮小させた。pdfファイルの図のイメージをスナップショットツール(カメラのアイコン)でコピーし、パワーポイントに貼り付ける。パワーポイントのガイドを動かして1900年と2000年の位置を測定し(0.1mm単位で測定できる)、100年当たりの長さを算出する。もう一つの図について同じことを行い、比をとって拡大・縮小率を算出する。拡大・縮小したい図にポインタを置き、右クリックして「オブジェクトの書式設定」を選択し、タブ「サイズ」を選択する。「縦横比を固定する」のチェックをはずし、幅の倍率を拡大・縮小率に合わせて入力し、OKをクリックすると、横軸の目盛りを合わせることができる。同様に縦軸の目盛りを合わせる。

[注2]背景の透明化等は、フリーソフト「JTrim」を使って次のように行った。pdfファイルの透明化したい図のイメージをスナップショットツール(カメラのアイコン)でコピーし、JTrimに貼り付ける(もし貼り付けられない場合は、Windowsの「画面のプロパティ」の「設定」で「画面の色」のビットや「画面の解像度」を下げる)。「塗りつぶし」を選択し、スポイトで白の部分をクリックし、塗りつぶす色を白に設定する。許容範囲を調節し消える色の範囲を指定する。赤棒グラフの位置をクリックして、白で塗りつぶす。「RGBの度合い」を選択して色を変更する。「イメージ」「透過色設定」を順にクリックし、スポイトで白の部分をクリックすると白の部分が透明化される。gifファイルを保存する(gifでないと透明化できない)。色を薄くするのは、Jtrimで「明るさ」を調整して行った。JTrimを作成・配布してくれている方に感謝します。

[注3]【図22】(B)からのデータの読み取りと計算は次のように行った。パワーポイント上で、図を移動させ、図の0℃の位置をルーラーの0位置に合わせる。縦のガイドを測定する年の丸印に合わせ、その丸印に横のガイドを合わせて位置を読み取り、読み取った位置データをエクセルに入力する。これを各年について行う。縦の目盛り位置から求めた変換式を用いて、位置データから気温データを得る。100年間のデータにエクセルのLINEST関数を適用すると、100年当たりの気温の上昇が得られる。

[注4]第1次報告書(参考文献14)の74頁の図2−12には、全て黒で、各年の棒グラフと平均値の曲線が記載されている。明記はされていないが、曲線は10年平均値であると思う。棒グラフをペイントの消しゴムで消した後、[注1][注2]と同様なことを行った。第3次、第4次では平年値が1961年〜1990年の平均値であるのに対して、第1次では1951年〜1980年の平均値であるので、どこを一致させればよいのか迷ったが、第3次、第4次では1960以降が比較的一致しているので、第1次もその範囲がなるべく一致するように合わせた。図22(B)から読み取ったデータで1951年〜1980年の平均値を計算すると−0.09℃であり、緑の横線(第1次の平年値)は黒と赤の0℃(第3次、第4次の平年値)から0.09℃程度低いので、これでよいのではないかと思う。

[注5]第2次報告書(参考文献15)には、残念ながら、気温の実測値は記載されていない。

[注6]第4次報告書の原本のpdfファイルで表示される頁数をエクセルに入力して合計してみた。統合報告書は52頁、第1作業部会のChapter1〜11は848頁、第2作業部会のChapter1〜20は765頁、第3作業部会のChapter1〜13は714頁、合計で2379頁である。これにはSupplementary Material等は含んでいない。英文の統合報告書政策決定者向け要約は22頁、政策決定者向け要約の合計は80頁、技術要約の合計は200頁、要約全体の合計は280頁である。したがって、原本は、統合報告書政策決定者向け要約の108倍、政策決定者向け要約合計の30倍、要約全体の8.5倍の頁数である。原本に対して、統合報告書政策決定者向け要約は0.9%、政策決定者向け要約合計は3%、要約全体は12%の頁数である。日本語の要約集である参考文献16の頁数は翻訳者がオリジナルで書いた部分を除いて285頁であり、英文の要約全体の頁数とほぼ同じである。したがって、日本語の要約と英文の原本の比率は、上記の英文の要約と英文の原本の比率とほぼ同じである。



[参考文献](かっこ内は著者等についてのコメント)

 参考文献1 近藤洋輝「地球温暖化予測がわかる本 スーパーコンピュータの挑戦」平成15年8月8日初版発行、平成16年7月8日再版発行、成山堂書店 (二酸化炭素原因説肯定派。(財)気象業務支援センター専任講師。(財)地球科学技術総合推進機構地球温暖化研究開発センター長、地球フロンティア研究システム/ モデル統合化領域特任研究員。昭和42年東京大学理学部物理学科卒業。東京大学理学系大学院をへて気象庁入省。予報部電子計算室数値予報班を皮切りに、米国イリノイ大学客員研究員、気象大学校講師、気象研究所台風研究部主任研究官、予報研究部室長を歴任後、世界気象機関(WMO)上級科学官に派遣される。帰国後、気象研究所気候研究部長などを歴任。この間、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)及び世界気象機関(WMO)気候委員会の日本政府代表、国 内の関係委員会委員なども務める。平成14年気象庁退官。)

参考文献2 倉直「温室効果(greenhouse effect)」 <トップページ:施設園芸読本> (福岡国際大学)

 参考文献3 明日香壽川「地球温暖化 ほぼすべての質問に答えます!」2009年6月5日第1刷発行、岩波書店 (二酸化炭素原因説肯定派。懐疑派バスターズのメンバー東北大学東北アジア研究センター教授(環境科学研究科教授兼任)。専門は環境科学論)

 参考文献4 丸山茂徳「科学者の9割は『地球温暖化』CO犯人説はウソだと知っている」2008年8月23日第1刷発行、宝島社 (二酸化炭素原因説懐疑派。地球寒冷化論者。東京工業大学大学院理工学研究科教授。マントルの対流運動に関する新理論、紫綬褒章受賞)

 参考文献5 住明正「さらに進む地球温暖化」2007年6月27日第1刷発行、(株)ウエッジ (二酸化炭素原因説肯定派。東京サステイナビリティ学連携研究機構地球持続戦略研究イニシアティブ統括ディレクター・教授。日本気象学会山本賞、藤原賞受賞)

 参考文献6 江守正多「地球温暖化の予測は『正しい』か? 不確かな未来に科学が挑む」2008年11月20日第1版第1刷発行、(株)化学同人 (二酸化炭素原因説肯定派。懐疑派バスターズのメンバー国立環境研究所地球環境研究センター温暖化リスク評価研究室長、海洋研究開発機構地球環境フロンティア研究センターグループリーダならびに東京大学気象システム研究センター客員准教授を兼務、専門はコンピュータ・シミュレーションによる地球温暖化の将来予測)

 参考文献7 近藤純正「K45.気温観測の補正と正しい地球温暖化量」<トップページ:近藤純正ホームページ> (東北大学名誉教授、専門分野=気象学>大気境界層物理学>熱収支・水収支論)

 参考文献8 近藤純正「4. 温暖化は進んでいるか 」<トップページ:近藤純正ホームページ> (参考文献7と同じ)

 参考文献9 近藤純正「M44.温暖化の監視が危うい」<トップページ:近藤純正ホームページ> (参考文献7と同じ)

  参考文献10 赤祖父俊一「正しく知る地球温暖化 誤った地球温暖化論に惑わされないために」2008年7月7日発行、(株)誠文堂新光社 (二酸化炭素原因説懐疑派。1986年から1999年までアラスカ大学地球物理研究所所長、2000年から2007年までアラスカ大学国際北極圏研究センター所長を努める。オーロラをはじめ、地球電磁気学や北極圏研究における世界的権威。)

 参考文献11 三菱UFJ信託銀行(株)「絵でみる 排出権ビジネスのしくみ」2009年6月10日初版第1刷発行、日本能率協会マネジメントセンター

 参考文献12 榊原英資「間違いだらけの経済政策」2008年11月10日1刷発行、日本経済新聞出版社 (早稲田大学教授。大蔵省国際金融局長、財務官を歴任。)

 参考文献13 (財)日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット編「EDMC/エネルギー・経済統計要覧(2009年版)」2009年2月26日第1版第1刷発行、(財)省エネルギーセンター

 参考文献14 霞ヶ関地球温暖化問題研究会編訳「IPCC地球温暖化レポート」平成3年3月10日発行、中央法規出版(株) (IPCC第1次報告書要約集(日本語訳))

 参考文献15 環境庁地球環境部監修「IPCC地球温暖化第二次レポート」平成8年7月20日発行、中央法規出版(株) (IPCC第2次報告書要約集(日本語訳))

 参考文献16 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)編、文部科学省・経済産業省・気象庁・環境省翻訳「IPCC地球温暖化第四次レポート 気候変動2007」2009年8月30日発行、中央法規出版(株) (IPCC第4次報告書要約集(日本語訳))

 参考文献17 槌田敦「CO温暖化説は間違っている」2006年2月20日初版発行、2008年8月11日3版発行、星雲社 (二酸化炭素原因説懐疑派。94年から名城大学経済学部教授(環境経済学)。05年から高千穂大学非常勤講師。)

 参考文献18 アル・ゴア著、枝廣淳子訳「不都合な真実」2007年1月5日第1刷発行、(c)2006、(株)ランダムハウス講談社 (二酸化炭素原因説肯定派。元アメリカ副大統領。2007年IPCCと共にノーベル平和賞受賞。)

 参考文献19 武田邦彦「環境問題はなぜウソがまかり通るのか3」2008年10月17日初版発行、(株)洋泉社 (二酸化炭素原因説懐疑派。中部大学総合工学所教授。内閣府原子力安全委員会専門委員。文部科学省科学技術審議会専門委員。)






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